ナギイカダ根エキスの基本情報・配合目的・安全性

ナギイカダ根エキス

化粧品成分表示名称 ナギイカダ根エキス(改正表示名称)
ブッチャーブルーム根エキス(旧称)
医薬部外品表示名称 ブッチャーブルームエキス
配合目的 角質剥離 など

1. 基本情報

1.1. 定義

キジカクシ科植物(∗1)ナギイカダ(学名:Ruscus aculeatus 英名:butcher’s broom)の根からエタノールPGで抽出して得られる抽出物植物エキスです[1][2]

∗1 1980年代に用いられていた分類体系であるクロンキスト体系では「ユリ科」に分類されていましたが、それ以降の進展にともなって2009年に公表された分子系統学による被子植物の新しい分類体系であるAPG体系第3版では「キジカクシ科」に分類されています。

1.2. 分布と歴史

ナギイカダ(梛筏)は、地中海沿岸を原産とし、ヨーロッパでは古くからナギイカダの根を泌尿器疾患や便秘などの治療に用いてきた歴史があり、現在はユーラシア大陸およびアフリカ北部の一部の地域に自生しているほか、景観植物としても栽培されています[3a][4]

1.3. 成分組成

ナギイカダ根エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、

分類 成分名称
テルペノイド ステロイドサポニン ルスコゲニン
ステロイド ネオルスコゲニン

これらの成分で構成されていることが報告されており[3b]、ルスコゲニン(ruscogenin)およびネオルスコゲニン(neoruscogenin)には抗炎症作用があることが明らかにされています[3c][5][6]

1.4. 化粧品以外の主な用途

ナギイカダの根の化粧品以外の主な用途としては、

分野 用途
メディカルハーブ 軽度の静脈循環障害に関連する脚の不快感や重さの症状を緩和する目的で用いられます[7]

これらの用途が報告されています。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • カテプシンD産生促進による角質剥離作用

主にこれらの目的で、スキンケア化粧品、メイクアップ化粧品などに使用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. カテプシンD産生促進による角質剥離作用

カテプシンD産生促進による角質剥離作用に関しては、まず前提知識として表皮の新陳代謝メカニズムおよびカテプシンDについて解説します。

以下の皮膚の最外層である表皮構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

表皮細胞の新陳代謝(ターンオーバー)の仕組み

表皮細胞は、角化細胞(ケラチノサイト)とも呼ばれ、表皮最下層である基底層で生成された一個の角化細胞は、その次につくられた、より新しい角化細胞によって皮膚表面に向かい押し上げられていき、各層を移動していく中で有棘細胞、顆粒細胞と分化し、最後にはケラチンから成る角質細胞となります[8a]

角質細胞は、以下の角質細胞間接着の構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

角質細胞間接着の構造図

角質層に存在するデスモソームであるコルネオデスモソーム(corneodesmosome)によって細胞間を結合・接着されており、角層上層へ押し上げられていくにしたがって角層上層で活性化するタンパク質分解酵素であるセリンプロテアーゼ(∗2)やアスパラギン酸プロテアーゼであるカテプシンDによってコルネオデスモソームが分解され、最終的に角片(∗3)として剥がれ落ちます[8b][9][10][11][12][13]

∗2 セリンプロテアーゼとしては、トリプシン様酵素とキモトリプシン様酵素の2種類が同定されていますが[14]、ここではまとめてセリンプロテアーゼとしています。

∗3 角片とは、体表部分でいえば垢、頭皮でいえばフケを指します。

この表皮の新陳代謝は一般的に「ターンオーバー(turnover)」と呼ばれ、正常なターンオーバーによって皮膚は新鮮さおよび健常性を保持しています[15]

一方で、加齢、肌荒れなどの影響によってターンオーバーに遅延が生じると、剥がれ落ちるべき角質細胞が残ったままの状態となり、次第に角質層の異常堆積(∗4)が起こり、ターンオーバーのサイクルが狂いはじめることが知られています[16a]

∗4 堆積とは、幾重にも積み重なることをいいます。

ターンオーバーのサイクルが狂いはじめ角質層に異常堆積が起こると、以下の皮膚の表面(皮表)の構造をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

皮表の構造

角層が生理的範囲を超えて肥厚し、部分的に皮膚が硬くなり、皮丘と皮溝の高低差が増し、キメが粗くなる過角化(角質肥厚:ハイパーケラトーシス)と呼ばれる症状が現れます[16b][17]

また、皮膚の色を直接左右するメラニンは、通常、角化とともに角層へ押し上げられ、最終的には角質細胞の落屑によって皮膚から排泄されますが、ターンオーバーが遅延し表皮内に長期間滞留するとシミやくすみの原因となることが報告されています[18][19]

このような背景から、カテプシンDの産生を促進することは、角質細胞の剥離・落屑正常化、ひいては皮膚の健常性を保つためのアプローチのひとつであると考えられています。

2001年に花王によって報告されたナギイカダ根エキスのカテプシンDおよびヒト皮膚における影響検証によると、

– in vitro試験 : カテプシンD産生促進作用 –

正常ヒト表皮細胞を0.1%および1.0%ナギイカダ根エキスで処理し、培地中に遊離する層板顆粒由来タンパク質分解酵素であるカテプシンDを検出し、その量をエキスを含まない対照と比較したところ、以下のグラフのように、

ナギイカダ根エキスのカテプシンD産生促進作用

ナギイカダ根エキスは、表皮細胞のカテプシンDの産生を促進することが示された。

– ヒト使用試験 –

ヒト腕皮膚(人数不明)に蛍光試薬であるダンシルクロライド溶液を1日間貼付した後に0%-10%まで各濃度のナギイカダ根エキスを9日間塗布してもらった。

塗布部における蛍光の強さを目視により判定し「+++:強い蛍光が全体に認められる」「++:蛍光が全体に認められる」「+:弱い蛍光が認められる」「±:微かな蛍光が認められる」「-:蛍光が認められない」の5段階で評価したところ、以下の表のように、

試料 濃度(%)
0 1 5 10
ナギイカダ根エキス +++ ++ + +

ナギイカダ根エキスの塗布により、濃度依存的に角質層ダンシルクロライドによる蛍光の消退が認められ、角質層の剥離が促進されることが確認された。

このような試験結果が明らかにされており[20]、ナギイカダ根エキスにカテプシンD産生促進による角質剥離作用が認められています。

3. 混合原料としての配合目的

ナギイカダ根エキスは、他の植物エキスとあらかじめ混合された混合原料があり、ナギイカダ根エキスと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 CobioPhytonic
構成成分 PG、ヘスペリジンメチルカルコン、ゼニアオイ花エキスセイヨウトチノキ種子エキスハマメリス葉エキスナギイカダ根エキスアルニカ花エキス
特徴 血流促進作用、充血除去など血液循環改善効果と抗アレルギー、鎮静、浮腫抑制など抗炎症効果を有する植物エキスを組み合わせて設計することで目の下のクマの軽減にアプローチするビオフラボノイドと5種の植物抽出物の混合原料

4. 安全性評価

ナギイカダ根エキスの現時点での安全性は、

  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

医薬部外品原料規格2006に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

4.2. 眼刺激性

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

5. 参考文献

  1. ab日本化粧品工業連合会(2013)「ナギイカダ根エキス」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,722.
  2. 日本化粧品工業連合会(2008)医薬部外品の成分表示名称リスト.
  3. abcG. Engels(2010)「Butcher’s Broom」HerbalGram(85),1-4.
  4. K. Abascal, et al(2002)「Butcher’s Broom: Herb’s Potentials Too-Often Swept Under the Rug」Alternative and Complementary Therapies(8)(3),177-185. DOI:10.1089/107628002760091038.
  5. Ya-Lin Huang, et al(2008)「Possible Mechanism of the Anti-inflammatory Activity of Ruscogenin: Role of Intercellular Adhesion Molecule-1 and Nuclear Factor-κB」Journal of Pharmacological Sciences(108)(2),198-205. DOI:10.1254/jphs.08083FP.
  6. G. Balica, et al(2013)「Anti-inflammatory effect of the crude steroidal saponin from the rhizomes of Ruscus aculeatus L. (Ruscaceae) in two rat models of acute inflammation」Journal of Food Agriculture and Environment(11)(3&4),106-108.
  7. European Medicines Agency(2018)「Assessment report on Ruscus aculeatus L. rhizoma」EMA/HMPC/188805/2017.
  8. ab朝田 康夫(2002)「表皮を構成する細胞は」美容皮膚科学事典,18.
  9. 清水 宏(2018)「角化」あたらしい皮膚科学 第3版,8-10.
  10. A. Lundstrom & T. Egelrud(1988)「Cell shedding from human plantar skin in vitro: evidence of its dependence on endogenous proteolysis」Journal of Investigative Dermatology(91)(4),340-343. PMID:3049831.
  11. T. Egelrud & A. Lundstrom(1990)「The dependence of detergent-induced cell dissociation in non-palmo-plantar stratum corneum on endogenous proteolysis」Journal of Investigative Dermatology(95)(4),340-343. PMID:1698889.
  12. Horikoshi, et al(1999)「Role of endogenous cathepsin D-like and chymotrypsin-like proteolysis in human epidermal desquamation」British Journal of Dermatology(141)(3),453-459. DOI:10.1046/j.1365-2133.1999.03038.x.
  13. C. Caubet, et al(2004)「Degradation of Corneodesmosome Proteins by Two Serine Proteases of the Kallikrein Family, SCTE/KLK5/hK5 and SCCE/KLK7/hK7」Journal of Investigative Dermatology(125)(5),1235-1244. DOI:10.1111/j.0022-202X.2004.22512.x.
  14. 小山 純一, 他(1999)「角層の接着, 剥離の機構とスキンケアに対する役割」日本化粧品技術者会誌(33)(1),16-26. DOI:10.5107/sccj.33.16.
  15. 朝田 康夫(2002)「角質層のメカニズム」美容皮膚科学事典,22-28.
  16. ab朝田 康夫(2002)「異常角化現象とは」美容皮膚科学事典,134-135.
  17. 清水 宏(2018)「過角化(角質増殖/角質肥厚/角質増生)」あたらしい皮膚科学 第3版,41-42.
  18. 金田 泰雄(1996)「くすみとは何か その原因と定義をめぐって」Fragrance Journal(24)(2),9-16.
  19. 福安 健司・田中 浩(1996)「冬期におけるくすみとその対策」Fragrance Journal(24)(2),25-30.
  20. 花王株式会社(2001)「ニキビ予防治療剤」特開2001-322943.

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