ヤグルマギク花エキスの基本情報・配合目的・安全性

ヤグルマギク花エキス

化粧品表示名 ヤグルマギク花エキス(改正表示名称)
ヤグルマギクエキス(旧称)
医薬部外品表示名 ヤグルマギクエキス
INCI名 Centaurea Cyanus Flower Extract
配合目的 収れん抗老化むくみ緩和 など

1. 基本情報

1.1. 定義

キク科植物ヤグルマギク(学名:Centaurea cyanus 英名:cornflower)の花からエタノールPGBG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物植物エキスです[1a][2]

1.2. 分布と歴史

ヤグルマギク(矢車菊)は、ヨーロッパを原産とし、もとは麦畑に多い雑草でしたが現在では農業の強化や除草剤の過剰使用により雑草としては絶滅の危機に瀕していますが、紫、白、桃色など様々な花の色を咲かせる品種改良品が園芸用として栽培されており、現在は北米やオーストラリアをはじめ多くの地域で庭の観賞用植物として帰化しています[3a][4]

1.3. 成分組成

ヤグルマギク花エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、

分類 成分名称
有機酸 コハク酸クエン酸
フラボノイド アントシアニン
フラボノイド フラボン アピゲニン

これらの成分で構成されていることが報告されています[3b][5a]

1.4. 化粧品以外の主な用途

ヤグルマギクの花の化粧品以外の主な用途としては、

分野 用途
メディカルハーブ 頭花に含まれる多糖類が抗炎症特性を有していることから軽度の眼の炎症に用いられています[6]

これらの用途が報告されています。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 収れん作用
  • リンパ管内皮細胞増殖促進による抗老化作用
  • リンパ管内皮細胞増殖促進によるむくみ緩和作用

主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、シート&マスク製品、メイクアップ製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、洗顔料、クレンジング製品、ボディソープ製品、ポイントメイクリムーバー製品など様々な製品に汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 収れん作用

収れん作用に関しては、ヤグルマギク花エキスは有機酸であるコハク酸クエン酸の含有率が高く[3c][5b]、皮膚のタンパク質を収縮させることによる収れん作用を有していることから[1b][7][8]、肌の引き締めや化粧崩れ防止目的でスキンケア製品、ボディケア製品、メイクアップ製品、化粧下地、洗顔料、クレンジング製品などに用いられています。

ただし、収れん作用におけるヒト試験データがみあたらないため、みつかりしだい追補します。

2.2. リンパ管内皮細胞増殖促進による抗老化作用

リンパ管内皮細胞増殖促進による抗老化作用に関しては、まず前提知識として皮膚におけるリンパ管の機能について解説します。

皮膚におけるリンパ管は、以下の皮膚の構造図をみるとわかりやすいと思いますが、

皮膚における血管およびリンパ管の分布

血管とともに真皮に存在し、主に、

  • 血液中の栄養分を皮膚組織に輸送し、また皮膚組織から老廃物を受け取り血液に送り込む
  • 余分な組織液、タンパク質、脂肪、細胞などを回収(吸収)することにより細胞環境を保つ
  • 免疫系により細菌などを排除する

これらの役割を果たしています[9][10]

一方で、顔面など紫外線に照射される部位ではリンパ管数の減少にともないシワの形成が増加することが報告されており、光老化にリンパ管が関与していることが示唆されています[11a]

このような背景から、リンパ管の内皮細胞の増殖を促進しリンパ管の機能を活性化することは、光老化によるシワの抑制において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

2013年に一丸ファルコスによって報告されたヤグルマギク花エキスのリンパ管およびヒト皮膚への影響検証によると、

– in vitro試験 : リンパ管内皮細胞増殖作用 –

増殖因子を添加した培地に正常ヒト皮膚微小リンパ管内皮細胞を播種し、最終濃度1%ヤグルマギク花エキスを加えて培養した後にリンパ管内皮細胞の増殖率(%)を、ヤグルマギク花エキスの代わりに溶媒である50%BG溶液を添加した場合を100として比較したところ、以下のグラフのように、

ヤグルマギク花エキスのリンパ管内皮細胞増殖作用

ヤグルマギク花エキスは、非常に強いリンパ管内皮細胞増殖作用を有することが確認された。

– in vitro試験 : リンパ管腔形成促進作用 –

ゲルを添加した24穴プレートに、増殖因子含有培地を用いて正常ヒト皮膚微小リンパ管内皮細胞を播種し、各ウェルにヤグルマギク花エキス溶液を4μL添加し培養した。

細胞を染色し管腔形成を観察し、ヤグルマギク花エキスの代わりに溶媒である50%BG溶液を添加した場合を100として比較したところ、以下のグラフのように、

ヤグルマギク花エキスのリンパ管腔形成促進作用

ヤグルマギク花エキスは、非常に強いリンパ管腔形成促進作用を有することが確認された。

– ヒト使用試験 –

肌のシワで悩む10名の女性被検者(20-50歳)に5%ヤグルマギク花エキス配合乳液を、また対照としてヤグルマギク花エキス未配合乳液をそれぞれ1日2回(朝夕)2ヶ月にわたって顔面に塗布してもらった。

2ヶ月後に「有効:シワが改善された」「やや有効:シワがやや改善された」「無効:使用前と変化なし」の3段階の基準で評価したところ、以下の表のように、

試料 肌のシワに対する評価(人数)
有効 やや有効 無効
ヤグルマギク花エキス配合乳液 2 8 0
乳液のみ(対照) 0 3 7

5%ヤグルマギク花エキス配合乳液の塗布は、未配合乳液と比較して肌のシワに対して改善効果を示すことが確認された。

また、同様の試験において2ヶ月後に「有効:肌のくすみが改善された」「やや有効:肌のくすみがやや改善された」「無効:使用前と変化なし」の3段階の基準で評価したところ、以下の表のように、

試料 肌のくすみに対する評価(人数)
有効 やや有効 無効
ヤグルマギク花エキス配合乳液 2 7 1
乳液のみ(対照) 0 2 8

5%ヤグルマギク花エキス配合乳液の塗布は、未配合乳液と比較して肌のくすみに対して改善効果を示すことが確認された。

このような試験結果が明らかにされており[12a]、ヤグルマギク花エキスにリンパ管内皮細胞増殖促進による抗老化作用が認められています。

2.3. リンパ管内皮細胞増殖促進によるむくみ緩和作用

リンパ管内皮細胞増殖促進によるむくみ緩和作用に関しては、まず前提知識としてむくみの定義およびリンパ管とむくみの関係について解説します。

なお、リンパ管の機能とリンパ管に対するヤグルマギク花エキスの影響についてはリンパ管内皮細胞増殖促進による抗老化作用で解説しているため、こちらでは省略します。

むくみは、医学的には浮腫(edema)と呼ばれており、細胞周囲で血管外かつリンパ管外の組織の隙間に生理的な代謝能を超えて過剰な水分が貯留した状態と定義されています[13a]

また、むくみには健康なヒトが日常生活の中で普通に体験する「健康なむくみ」と、ある疾患のときによくみられる症状のひとつとしての「病気のむくみ」があり[13b]、ここで「むくみ」と記載する場合は「健康なむくみ」のことを指します。

リンパ管とむくみの関係については、むくみが起こるメカニズムとしてリンパ管の機能低下により組織液が滞留しむくみが起こることが知られており、また健康であっても長時間同じ姿勢で過ごしているとむくみが起こることが知られています[11b][14]

このような背景から、リンパ管の内皮細胞の増殖を促進しリンパ管の機能を活性化することは、むくみの減少・改善において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

2013年に一丸ファルコスによって報告されたヤグルマギク花エキスのリンパ管およびむくみへの影響検証によると、

– ヒト使用試験 –

普段からむくみで悩む10名の女性被検者(20-50歳)の右ふくらはぎに5%ヤグルマギク花エキス配合乳液を、また対照として左ふくらはぎにヤグルマギク花エキス未配合乳液をそれぞれ1日2回(朝夕)2ヶ月にわたって塗布してもらった。

使用2ヶ月後に左右ふくらはぎの最大周囲長を朝夕2回測定し、朝夕のふくらはぎ最大周囲長の差をむくみ量としてその平均値を算出し、2ヶ月間使用した後のむくみ量として比較したところ、以下の表のように、

被験者 むくみ量(cm) 被験者 むくみ量(cm)
比較例(左) 処方例(右) 比較例(左) 処方例(右)
1 0.3 0.2 6 0.2 -0.1
2 0.2 0.1 7 0.5 0.2
3 0.4 -0.2 8 0.3 0.1
4 0.5 0.1 9 0.4 0.0
5 0.1 -0.1 10 0.3 0.1

5%ヤグルマギク花エキス配合乳液の塗布は、未配合乳液と比較して有意にむくみ量が小さく、むくみ改善効果を示すことが確認された。

このような試験結果が明らかにされており[12b]、ヤグルマギク花エキスにリンパ管内皮細胞増殖促進によるむくみ緩和作用が認められています。

3. 混合原料としての配合目的

ヤグルマギク花エキスは、他の植物エキスとあらかじめ混合された混合原料があり、ヤグルマギク花エキスと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 ファルコレックス BX44
構成成分 BGローマカミツレ花エキストウキンセンカ花エキスヤグルマギク花エキスカミツレ花エキスセイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキスフユボダイジュ花エキス
特徴 角質層水分量増加および経表皮水分蒸散抑制による保湿作用、ヒスタミン遊離抑制による抗アレルギー作用、活性酸素消去による抗酸化作用など多角的に荒れ肌にアプローチする6種の植物抽出液

4. 安全性評価

ヤグルマギク花エキスの現時点での安全性は、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

4.1. 皮膚刺激性

一丸ファルコスの安全性試験データ[15]によると、

  • [動物試験] 3匹のモルモットの剪毛した背部に乾燥固形分濃度1%ヤグルマギク花エキス水溶液0.03mLを塗布し、塗布24,48および72時間後に一次刺激性を評価したところ、いずれのモルモットも紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚一次刺激性に関して問題がないものと判断された
  • [動物試験] 3匹のモルモットの剪毛した側腹部に乾燥固形分濃度2%ヤグルマギク花エキス水溶液0.03mLを1日1回週5回、2週にわたって塗布し、各塗布日および最終塗布日の翌日に皮膚刺激性を評価したところ、いずれのモルモットも2週間にわたって紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚累積刺激性に関して問題がないものと判断された

このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

4.2. 眼刺激性

安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

4.3. 皮膚感作性(アレルギー性)

医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

5. 参考文献

  1. ab日本化粧品工業連合会(2013)「ヤグルマギク花エキス」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,1003.
  2. 日本化粧品工業連合会(2008)医薬部外品の成分表示名称リスト.
  3. abジャパンハーブソサエティー(2018)「コーンフラワー」ハーブのすべてがわかる事典,81.
  4. “Wikipedia”(-)「Centaurea cyanus」,2021年5月2日アクセス.
  5. abL. Lockowandt, et al(2019)「Chemical features and bioactivities of cornflower (Centaurea cyanus L.) capitula: The blue flowers and the unexplored non-edible part」Industrial Crops and Products(128),496-503. DOI:10.1016/j.indcrop.2018.11.059.
  6. N. Garbacki, et al(1999)「Anti-inflammatory and immunological effects of Centaurea cyanus flower-heads」Journal of Ethnopharmacology(68)(1-3),235-241. DOI:10.1016/S0378-8741(99)00112-9.
  7. 鈴木 一成(2012)「ヤグルマギク花エキス」化粧品成分用語事典2012,345.
  8. 宇山 侊男, 他(2020)「ヤグルマギク花エキス」化粧品成分ガイド 第7版,149.
  9. 朝田 康夫(2002)「リンパとは何か」美容皮膚科学事典,69-72.
  10. M.H. Witte, et al(2001)「Lymphangiogenesis and lymphangiodysplasia: From molecular to clinical lymphology」Microscopy Reswarch & Technique(55)(2),122-145. DOI:10.1002/jemt.1163.
  11. abK. Kajiya & M. Detmar(2006)「An Important Role of Lymphatic Vessels in the Control of UVB-Induced Edema Formation and Inflammation」Journal of Investigative Dermatology(126)(4),920-922. DOI:10.1038/sj.jid.5700126.
  12. ab一丸ファルコス株式会社(2013)「リンパ管腔形成促進剤」特開2013-060405.
  13. ab大橋 俊夫(2007)「むくみの生理学」日本生理学会雑誌(69)(3),102-107.
  14. 菊谷 光代(2019)「リンパ浮腫を知る」日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌(23)(4),394-405. DOI:10.32201/jpnwocm.23.4_394.
  15. 一丸ファルコス株式会社(2006)「ファゴサイトーシス抑制剤」特開2006-124355.

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