スイゼンジノリ多糖体の基本情報・配合目的・安全性

スイゼンジノリ多糖体

化粧品表示名称 スイゼンジノリ多糖体
化粧品国際的表示名称(INCI名) Aphanothece Sacrum Polysaccharides
慣用名称 サクラン
配合目的 保湿増粘 など

1. 基本情報

1.1. 定義

クロオコッカス科藍藻(∗1)スイゼンジノリ(学名:Aphanothece Sacrum)から単離した多糖体画分であり、以下の化学式で表されるグルコースマンノース、ガラクトースなどの六炭糖とデオキシ糖であるラムノース、フコース、五炭糖であるキシロースなどを含む6種の中性糖(∗2)にウロン酸および硫酸化ムラミン酸を含む構造の繰り返し単位を代表的構造とした硫酸化複合多糖体かつ微生物系水溶性高分子です[1][2][3a]

∗1 藍藻(ラン藻)は、地球上で初めて光合成を行い大気中に莫大な量の酸素をもたらした、酸素発生を伴う光合成(酸素発生型光合成)を行う細菌の一群またはそれに属する生物であり、藍色細菌(シアノバクテリア:cyanobacteria)とも呼ばれます。細菌の中には他にも光合成を行うグループが存在しますが、酸素発生型光合成を行う細菌は藍藻のみです。

∗2 単糖とは、それ以上加水分解できない糖のことをいい、単糖の中で6個の炭素原子をもつものを六炭糖(ヘキソース:Hexose)、5個の炭素原子をもつものを五炭糖(ペントース:Pentose)、ヒドロキシ基(-OH)の1つが還元されて水素原子に置き換わった糖のことをデオキシ糖(Deoxy sugar)といいます。

スイゼンジノリ多糖体

1.2. 物性

スイゼンジノリ多糖体は、平均分子量1,000万以上の水溶性複合多糖体であり、1%水溶液ではヒアルロン酸Naの80倍、キサンタンガムの4倍のシュードプラスチック性(∗3)を有した粘性を示し、また塩を加えると二重らせん構造を形成し見かけの分子量が増大することによる粘度の増加を特徴としています[4a]

∗3 シュードプラスチック性とは、加える力を強くすることで粘度が低下する特性のことで、たとえばシュードプラスチック性を有するマヨネーズは、保管している状態(力が加わっていない状態)では液が動かず、チューブを押す(力を加える)と粘度が低下して液が絞り出されます。また口に入れると咀嚼による力が加えられるので、口の中では粘度を感じにくくなります。

保水性については、ヒアルロン酸Naが自重の約1,200倍の水を保持するのに対して、スイゼンジノリ多糖体は自重の約6,100倍の水を、また生理食塩水ではヒアルロン酸Naが自重の約240倍の水を保持するのに対してスイゼンジノリ多糖体は自重の約2,400倍も保水することが明らかにされており、水をはじめ生理食塩水やイオン水に対しても高い保水性を有していることも特徴のひとつです[4b]

1.3. 分布と歴史

スイゼンジノリ(水前寺海苔)は、日本固有の藍藻であり、江戸時代から細川藩(熊本)では「清水苔」、秋月藩(福岡)では「寿泉水苔」の名称で幕府への献上品として大切に保護・育成され、高級郷土料理の素材として珍重されてきた歴史があります[5a]

ただし、湧き水のような清澄な水環境でしか生育できないという特異な生態と分布が非常に限られることから、発生地のひとつである熊本市出水神社境内が1924年に天然記念物に指定されており、近年では都市化にともなう開発や湧き水の減少などにより激減し、現在は熊本県のほかに福岡県朝倉市の黄金川で養殖されています[5b][6]

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 皮表水分保持による保湿作用
  • 親水性増粘

主にこれらの目的で、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、洗顔料、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、メイクアップ化粧品、マスク製品、日焼け止め製品などに使用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 皮表水分保持による保湿作用

皮表水分保持による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割について解説します。

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、

角質層の構造

水分を保持する働きもつ天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造になっており、この構造が保持されることによって外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています[7][8]

また、角質層内の主な水分は、天然保湿因子(NMF)の分子に結合している結合水と水(液体)の形態をした自由水の2種類の状態で存在しており、以下の表のように、

角質層内の水の種類 定義
結合水 一次結合水 角質層の構成分子と強固に結合し、硬く乾燥しきった角質層の中にも存在する水です。
二次結合水 角質層の構成分子と非常に速やかに結合するものの、乾燥した状態でゆっくりと解離するような比較的弱い結合をしている水の分子のことをいい、温度や湿度など外部環境によって比較的容易に結合と解離を繰り返す可逆的な水です。
自由水 二次結合水の容量を超えて角質層が水を含んだ場合に液体の形で角質層内に存在する水であり、この量が一定量を超えると過水和となり、浸軟した(ふやけた)状態が観察されます。

それぞれこのような特徴を有しています[9a][10]

角質層の柔軟性は、水分量10-20%の間で自然な柔軟性を示す一方で、水分量が10%以下になると角層のひび割れ、肌荒れが生じると考えられており、種々の原因により角質層の保湿機能が低下することによって水分量が低下すると、皮膚表面が乾燥して亀裂、落屑、鱗屑などを生じるようになることから、角層に含まれる水分量が皮膚表面の性状を決定する大きな要因として知られています[9b]

このような背景から、肌荒れやバリア機能の低下やなどによって角層の水分量が低下している場合に、皮膚表面に水分を含んだ膜を形成し、皮膚の水分蒸散を防止することは、皮膚の乾燥、ひび割れ、肌荒れの予防や改善において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

2008年に北陸先端科学技術大学院大学材料科学研究科、大阪大学大学院薬学研究科および大阪大学大学院工学研究科バイオテクノロジー学科によって報告されたスイゼンジノリ多糖体の保水性検証によると、

– 保水性試験 –

0.8μmのポアサイズのろ紙の上にスイゼンジノリ多糖体およびヒアルロン酸の乾燥物を乗せ、ろ紙を通り抜けて滴り落ちるまで水および生理食塩水を加えて観察する改良型ティーパック法を用いて保水性を評価したところ、以下の表のように、

試料 保水力(mL g-1
純水 生理食塩水
スイゼンジノリ多糖体 6100 2400
ヒアルロン酸 1200 240

スイゼンジノリ多糖体は、純水を自重の約6,100倍、生理食塩水を自重の約2,400倍も保水することがわかった。

このような試験結果が明らかにされており[11]、スイゼンジノリ多糖体に保水性が認められています。

次に、2018年に北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科によって報告されたスイゼンジノリ多糖体の経表皮水分蒸散量への影響検証によると、

– ヒト使用試験 –

乾燥肌を自覚する10人の女性被検者(35-60歳)の皮膚に0.2%スイゼンジノリ多糖体溶液を塗布し、0.2%ヒアルロン酸溶液を塗布した場合と経表皮水分蒸散量(transepidermal water loss:TEWL)を比較した。

その結果、0.2%スイゼンジノリ多糖体溶液の塗布により約20%の水分蒸散抑制効果を示した。

このような試験結果が明らかにされており[3b]、スイゼンジノリ多糖体に皮表水分保持による保湿作用が認められています。

2.2. 親水性増粘

親水性増粘に関しては、スイゼンジノリ多糖体は1%水溶液でシュードプラスチック性を有した高い粘性を示し、また塩を加えた場合においても二重らせん構造を形成し見かけの分子量が増大することによって粘性が増すといった特徴から、粘度を調整し粘度あるいは製品の安定性を保つ目的で様々な製品に使用されています[4c]

3. 安全性評価

スイゼンジノリ多糖体の現時点での安全性は、

  • 10年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:濃度0.25%以下においてほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

3.1. 皮膚刺激性

熊本大学大学院薬学研究科の安全性データ[12]によると、

  • [in vitro試験] ヒト角化細胞(HaCaT細胞)を用いて0.001%,0.01%,0.1%および0.25%の各濃度のスイゼンジノリ多糖体溶液の細胞毒性を評価したところ、0.25%濃度までは無視できる程度であった

このように記載されており、試験データをみるかぎり濃度0.25%以下において皮膚刺激なしと報告されているため、一般に濃度0.25%以下において皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

3.2. 眼刺激性

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。

3.3. 皮膚感作性(アレルギー性)

高研の安全性データ[13]によると、

  • [ヒト試験] 被検者にスイゼンジノリ多糖体を対象にパッチテストを実施したところ、この試験物質は陰性であった

このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

4. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「スイゼンジノリ多糖体」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,530.
  2. Nlandu Roger Ngatu, et al(2015)「Sacran, a new sulfated glycosaminoglycan-like polysaccharide from river alga Aphanothece sacrum (Suringar) Okada alleviates hemorrhoid syndrome: Case report」Annals of Phytomedicine(4)(2),49-51.
  3. ab金子 達雄・岡島 麻衣子(2018)「究極のエコマイクロリアクタが生産する超液晶性多糖類」YAKUGAKU ZASSHI(138)(4),489-496. DOI:10.1248/yakushi.17-00201-1.
  4. abc岡島 麻衣子・Ngatu ROGER(2015)「スイゼンジノリ由来新規多糖類“サクラン”の材料化と今後の応用」化学と生物(53)(8),553-558. DOI:10.1271/kagakutoseibutsu.53.553.
  5. ab内平 倫義, 他(2013)「黄金川における,日本固有種ラン藻・スイゼンジノリの増殖と機能性」東海大学紀要 農学部(32),7-11.
  6. 岡島 麻衣子(2009)「日本固有種ラン藻由来「超巨大分子」の構造物性」化学と生物(47)(5),309-311. DOI:10.1271/kagakutoseibutsu.47.309.
  7. 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
  8. 田村 健夫・廣田 博(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
  9. ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「水」新化粧品原料ハンドブックⅠ,487-502.
  10. 武村 俊之(1992)「保湿製剤の効用:角層の保湿機構」ファルマシア(28)(1),61-65. DOI:10.14894/faruawpsj.28.1_61.
  11. Maiko K. Okajima, et al(2008)「Supergiant Ampholytic Sugar Chains with Imbalanced Charge Ratio Form Saline Ultra-absorbent Hydrogels」Macromolecules(41)(12),4061-4064. DOI:10.1021/ma800307w.
  12. K. Motoyama, et al(2016)「Anti-inflammatory Effects of Novel Polysaccharide Sacran Extracted from Cyanobacterium Aphanothece sacrum in Various Inflammatory Animal Models」Biological and Pharmaceutical Bulletin(39)(7),1172-1178. DOI:10.1248/bpb.b16-00208.
  13. 株式会社高研(-)「サクラン」技術資料.

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