シロキクラゲ多糖体の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | シロキクラゲ多糖体 |
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医薬部外品表示名 | シロキクラゲ多糖体 |
INCI名 | Tremella Fuciformis Polysaccharide |
配合目的 | 保湿、感触改良、起泡補助 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
シロキクラゲ科担子菌シロキクラゲ(学名:Tremella fuciformis 英名:Snow fungus)の子実体(∗1)から水、エタノール、BG、またはこれらの混液で抽出して得られる、化学構造的にマンノースがα1,3結合で9個連なった主鎖に対して、側鎖にD-フコース、D-キシロース、D-グルクロン酸が1:4:3の構成比で結合した構造の繰り返し単位を代表的構造とした複合多糖体です[1][2a][3a]。
∗1 子実体とは、菌類において胞子が形成される部分が集合して塊状となったものであり、大型でよく目立つ子実体はいわゆる「キノコ」と呼ばれます。
1.2. 物性
シロキクラゲ多糖体は、分子量80万-100万の酸性複合多糖体であり、水によく溶け、高い水分保持能と粘性をもち、水溶液の感触は類似の酸性多糖であるヒアルロン酸と比較して塗布時のベタつきや乾燥時のつっぱり感の少なさを特徴としています[2b][3b]。
1.3. 分布と歴史
シロキクラゲ(白木耳)は、日本をはじめとするアジア温帯地域の広葉樹の枯れ木に分布しており、中国では3000年前から王宮料理に利用され、現在でも家庭料理からデザートまで広く一般に普及しています[3c]。
1.4. 化粧品以外の主な用途
シロキクラゲの子実体(生薬名:銀耳)の化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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食品 | 中国では四大食用キノコ「四珍」のうちのひとつとして宮廷料理や薬膳料理に用いられてきた歴史があり、美容薬膳としては「氷糖銀耳湯」が有名です[2c]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 皮表水分保持による保湿作用
- ベタつき感およびつっぱり感軽減による感触改良
- 泡質改善および泡持続性増強
主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、シート&マスク製品、洗顔料、クレンジング製品、ボディソープ製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、メイクアップ製品、化粧下地製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 皮表水分保持による保湿作用
皮表水分保持による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割について解説します。
直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、
水分を保持する働きもつ天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造になっており、この構造が保持されることによって外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています[4][5]。
また、角質層内の主な水分は、天然保湿因子(NMF)の分子に結合している結合水と水(液体)の形態をした自由水の2種類の状態で存在しており、以下の表のように、
角質層内の水の種類 | 定義 | |
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結合水 | 一次結合水 | 角質層の構成分子と強固に結合し、硬く乾燥しきった角質層の中にも存在する水です。 |
二次結合水 | 角質層の構成分子と非常に速やかに結合するものの、乾燥した状態でゆっくりと解離するような比較的弱い結合をしている水の分子のことをいい、温度や湿度など外部環境によって比較的容易に結合と解離を繰り返す可逆的な水です。 | |
自由水 | 二次結合水の容量を超えて角質層が水を含んだ場合に液体の形で角質層内に存在する水であり、この量が一定量を超えると過水和となり、浸軟した(ふやけた)状態が観察されます。 |
角質層の柔軟性は、水分量10-20%の間で自然な柔軟性を示す一方で、水分量が10%以下になると角層のひび割れ、肌荒れが生じると考えられており、種々の原因により角質層の保湿機能が低下することによって水分量が低下すると、皮膚表面が乾燥して亀裂、落屑、鱗屑などを生じるようになることから、角層に含まれる水分量が皮膚表面の性状を決定する大きな要因として知られています[6b]。
このような背景から、肌荒れやバリア機能の低下やなどによって角層の水分量が低下している場合に、皮膚表面に水分を含んだ膜を形成し、皮膚の水分蒸散を防止することは、皮膚の乾燥、ひび割れ、肌荒れの予防や改善において重要なアプローチのひとつであると考えられています。
2005年に日本精化によって報告されたシロキクラゲ多糖体の保水性およびヒト皮膚への影響検証によると、
– 保水性試験 –
試料0.2gを精製水100gに分散・膨潤し2時間後にろ紙で10分間自然ろ過し、ろ紙上の残存重量から保水量を算出したところ、以下のグラフのように、
シロキクラゲ多糖体は、自重の約500重量倍の保水量を示し、保水力が高いことで知られるヒアルロン酸Naと比較しても同等以上であった。
– ヒト使用試験 –
5名の被検者の前腕内側にシロキクラゲ多糖体およびヒアルロン酸Na各0.2%水溶液を1日2回、4週間にわたって塗布し、2週間おきに角層コンダクタンス(∗2)を測定することで肌状態の変化を評価したところ、以下のグラフのように、
∗2 コンダクタンスとは、電気を流した場合の抵抗(電気伝導度:電気の流れやすさ)を表し、水分量が多いと電気が流れやすくなり、コンダクタンス値が高値になることから、物質における水分量を調べる方法としてコンダクタンスを経時的に測定する方法が定着しています。
シロキクラゲ多糖体の塗布により、角層水分保持能の指標であるコンダクタンス積分値は大きく上昇し、シロキクラゲ多糖体が保湿性および角層水分保持能を向上させることが認められた。
また、皮膚バリア機能の指標である水分蒸散定数も経時的に低下していることから、シロキクラゲ多糖体は皮膚バリアー性の面からも肌状態を改善させていると考えられた。
このような試験結果が明らかにされており[2d]、シロキクラゲ多糖体に皮表水分保持による保湿作用が認められています。
2.2. ベタつき感およびつっぱり感軽減による感触改良
ベタつき感およびつっぱり感軽減による感触改良に関しては、高分子系保湿成分であるヒアルロン酸Naや増粘剤であるキサンタンガムなどはベタつき感や乾燥時につっぱり感が現れることが知られていますが、これらにシロキクラゲ多糖体を混合することでベタつき感やつっぱり感が大幅に軽減することが明らかにされています[8a]。
このような背景から、ヒアルロン酸Naやキサンタンガムにシロキクラゲ多糖体が併用されている場合は、保湿かつ感触改良目的で使用されている可能性が考えられます。
2.3. 泡質改善および泡持続性増強
泡質改善および泡持続性増強に関しては、シロキクラゲ多糖体は配合量0.01%で洗浄剤の泡質をキメ細かくし、密度感を向上させ、泡立ちや泡持続性に優れた泡になることが報告されています[8b]。
3. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 15年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
3.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
日本精化の安全性データ[2e]によると、
- [ヒト試験] 45名の被検者にシロキクラゲ多糖体を24時間単一パッチ適用したところ、いずれの被検者においても陰性であった
- シロキクラゲ多糖体を対象に14日間連続皮膚累積刺激性試験を実施した結果、この試験物質は皮膚累積刺激を示さなかった
- シロキクラゲ多糖体の皮膚感作性試験(M&K法)の結果、この試験物質は陰性であった
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
3.2. 眼刺激性
日本精化の安全性データ[2f]によると、
- シロキクラゲ多糖体の眼刺激性試験の結果、この試験物質は眼刺激性を生じなかった
このように記載されており、試験データをみるかぎり、眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
4. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「シロキクラゲ多糖体」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,525.
- ⌃abcdef大橋 幸浩・山本 やす子(2005)「シロキクラゲ多糖体」Fragrance Journal(33)(3),45-50.
- ⌃abcオリザ油化株式会社(2008)「白キクラゲ多糖体」技術資料.
- ⌃朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「水」新化粧品原料ハンドブックⅠ,487-502.
- ⌃武村 俊之(1992)「保湿製剤の効用:角層の保湿機構」ファルマシア(28)(1),61-65. DOI:10.14894/faruawpsj.28.1_61.
- ⌃ab橋本 明宏, 他(2012)「シロキクラゲ多糖体の化粧品への応用」Fragrance Journal(40)(4),74-76.