アルカリゲネス産生多糖体の基本情報・配合目的・安全性

アルカリゲネス産生多糖体

化粧品表示名称 アルカリゲネス産生多糖体
医薬部外品表示名称 アルカリゲネス産生多糖体
化粧品国際的表示名称(INCI名) Alcaligenes Polysaccharides
配合目的 保湿増粘乳化安定化、乳化 など

1. 基本情報

1.1. 定義

アルカリゲネス属菌アルカリゲネス・レータス(学名:Alcaligenes latus)を培養して得られる産生粘質物であり、以下の化学式で表される2個のグルコース、グルクロン酸、ラムノースを主鎖とし側鎖に1個のフコースが結合した構造の繰り返し単位(図左)と、マンノースとフコースが結合した構造の繰り返し単位(図右)を約7:1で含む(∗1)複合多糖混合物かつ微生物系水溶性高分子です[1][2a]

∗1 図右は、左からD-グルコース→D-グルクロン酸→D-グルコース→L-ラムノースを主鎖とし、側鎖としてD-グルコースにL-フコースが結合した構造です。図左は、D-マンノース(左)にL-フコース(右)が結合した構造です。

アルカリゲネス産生多糖体

1.2. 物性

アルカリゲネス産生多糖体は、水によく溶け、自重の約1,000倍の水を吸収する吸湿性と高いチキソトロピー性を有した粘性を特徴としています[3a]

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 皮表水分保持による保湿作用
  • 親水性増粘
  • 乳化安定化
  • 三相乳化法による乳化

主にこれらの目的で、スキンケア化粧品、メイクアップ化粧品、化粧下地製品、マスク製品、日焼け止め製品、クレンジング製品などに使用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 皮表水分保持による保湿作用

皮表水分保持による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割について解説します。

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、

角質層の構造

水分を保持する働きもつ天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造になっており、この構造が保持されることによって外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています[4][5]

また、角質層内の主な水分は、天然保湿因子(NMF)の分子に結合している結合水と水(液体)の形態をした自由水の2種類の状態で存在しており、以下の表のように、

角質層内の水の種類 定義
結合水 一次結合水 角質層の構成分子と強固に結合し、硬く乾燥しきった角質層の中にも存在する水です。
二次結合水 角質層の構成分子と非常に速やかに結合するものの、乾燥した状態でゆっくりと解離するような比較的弱い結合をしている水の分子のことをいい、温度や湿度など外部環境によって比較的容易に結合と解離を繰り返す可逆的な水です。
自由水 二次結合水の容量を超えて角質層が水を含んだ場合に液体の形で角質層内に存在する水であり、この量が一定量を超えると過水和となり、浸軟した(ふやけた)状態が観察されます。

それぞれこのような特徴を有しています[6a][7]

角質層の柔軟性は、水分量10-20%の間で自然な柔軟性を示す一方で、水分量が10%以下になると角層のひび割れ、肌荒れが生じると考えられており、種々の原因により角質層の保湿機能が低下することによって水分量が低下すると、皮膚表面が乾燥して亀裂、落屑、鱗屑などを生じるようになることから、角層に含まれる水分量が皮膚表面の性状を決定する大きな要因として知られています[6b]

このような背景から、肌荒れやバリア機能の低下やなどによって角層の水分量が低下している場合に、皮膚表面に水分を含んだ膜を形成し、皮膚の水分蒸散を防止することは、皮膚の乾燥、ひび割れ、肌荒れの予防や改善において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

1999年にカネボウによって報告されたアルカリゲネス産生多糖体の吸湿性および保水性検証によると、

– 吸湿性試験 –

温度25℃、相対湿度33%および84%に調整したデシケーターに各乾燥試料1gを放置し、2,4,8,24,32および48時間後に重量を測定し吸湿性を算出したところ、以下のグラフのように、

アルカリゲネス産生多糖体の吸湿性(25℃,相対湿度33%)

アルカリゲネス産生多糖体の吸湿性(25℃,相対湿度84%)

アルカリゲネス産生多糖体は、高湿度環境下では吸湿性が低く、低湿度環境下では比較的吸湿性が高いことがわかった。

– 保水性試験 –

温度25℃、相対湿度38%および18%に調整したデシケーター中の各乾燥試料1gに0.1gの純粋を添加し、2,4,8,24,32および48時間後に重量を測定し保水性を算出したところ、以下のグラフのように、

アルカリゲネス産生多糖体の保水性(25℃,相対湿度38%)

アルカリゲネス産生多糖体の保水性(25℃,相対湿度18%)

アルカリゲネス産生多糖体は、低湿度下において高い保水性を示した。

このような試験結果が明らかにされており[3b]、アルカリゲネス産生多糖体に皮表水分保持による保湿作用が認められています。

2.2. 親水性増粘

親水性増粘に関しては、アルカリゲネス産生多糖体は濃度依存的に粘性を示し、pHや温度変化による粘度変化はほとんどなく、高いシュードプラスチック性(∗2)を示すといった特徴から、粘度を調整し粘度あるいは製品の安定性を保つ目的で様々な製品に使用されています[3c]

∗2 シュードプラスチック性とは、加える力を強くすることで粘度が低下する特性のことで、たとえばシュードプラスチック性を有するマヨネーズは、保管している状態(力が加わっていない状態)では液が動かず、チューブを押す(力を加える)と粘度が低下して液が絞り出されます。また口に入れると咀嚼による力が加えられるので、口の中では粘度を感じにくくなります。

2.3. 乳化安定化

乳化安定化に関しては、アルカリゲネス産生多糖体は単粒子と繊維状の集合体が共存しており、単粒子では油滴表面に付着し油滴の合一(∗3)を阻害し、繊維状では網目を形成し油滴を網目に取り込むことで分散状態を保つことから、製品の乳化安定化目的で使用されています[2b]

∗3 合一とは、エマルションが崩壊し乳化粒子が互いに連結してより大きな粒子になる現象のことをいい、乳化粒子が合一し大粒子化がすすむと液滴が油と水の2相に分離します。

2.4. 三相乳化法による乳化

三相乳化法による乳化に関しては、まず前提知識として乳化と三層乳化の違いについて解説します。

乳化とは、互いに溶け合わない2種(∗4)の一方が細粒となり他の液体中に均一に分散されることであり、乳化の結果できた乳化物をエマルション(emulsion)といいます[8a]

∗4 一般には水性物質と油性物質の2種を指します。

ただし、水性と油性の物質を混ぜ合わせるだけでは時間がたつと再び分離してしまうため、乳化を安定させるためには一般に乳化作用をもつ界面活性剤を添加し、

非イオン界面活性剤の構造図

界面活性剤の親水基に水性物質を、新油基に油性物質をなじませることで界面活性剤が接着剤のような役割を果たし乳化が安定することが知られています。

そして、乳化の結果として生成された分散系溶液をエマルションといい、基本的な化粧品用エマルションとして、以下の図のように、

エマルションの基本構造

水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散している水中油滴型(O/W型:Oil in Water type)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散している油中水滴型(W/O型:Water in Oil type)があります[8b]

身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。

一方で三層乳化法による乳化とは、界面活性剤を使用せず、水にも油剤にも溶解しない親水性ナノ粒子を分子間引力(ファンデルワールス力)で油滴表面に付着固定させることによって、油滴表面の疎水性を親水性に変換させるという乳化方法であり[9a]、生成されるのはO/W型エマルションとなります。

界面活性剤による乳化と三層乳化法による乳化の主な違いは、

  界面活性剤による乳化 三層乳化法による乳化
模式図 界面活性剤による乳化 三層乳化法による乳化
乳化剤の性質 水または油に溶解する物質 水にも油にも溶解しない物質
作用機序 界面活性剤分子の吸着 親水性ナノ粒子の付着
安定化機構 界面張力の低下 分子間引力

このようになります[9b][10]

アルカリゲネス産生多糖体は、単粒子として用いた場合、単粒子が油滴の表面に付着し、分子間引力によって付着が保持され、その結果として油性成分の合一を阻害することで乳化(分散)状態が保たれることから、乳化目的で界面活性剤フリーをコンセプトとした製品、日焼け止め製品、ファンデーション、クレンジング製品などに使用されています[2c]

3. 配合量範囲

アルカリゲネス産生多糖体は、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。

種類 配合量
薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 配合不可
育毛剤 配合不可
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 0.02
薬用口唇類 配合不可
薬用歯みがき類 配合不可
浴用剤 配合不可

4. 安全性評価

アルカリゲネス産生多糖体の現時点での安全性は、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

4.2. 眼刺激性

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。

5. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「アルカリゲネス産生多糖体」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,156.
  2. abc野畑 靖浩(2016)「アルカリゲネス産生多糖体 アルカシーラン」グリーンバイオケミストリーの最前線<普及版>,83-90.
  3. abc石畠 さおり(1999)「微生物産生吸水性バイオポリマーの化粧品原料としての有用性」Fragrance Journal(27)(7),83-90.
  4. 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
  5. 田村 健夫・廣田 博(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
  6. ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「水」新化粧品原料ハンドブックⅠ,487-502.
  7. 武村 俊之(1992)「保湿製剤の効用:角層の保湿機構」ファルマシア(28)(1),61-65. DOI:10.14894/faruawpsj.28.1_61.
  8. ab田村 健夫・廣田 博(2001)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
  9. 田嶋 和夫・今井 洋子(2016)「三相乳化法:通常の界面活性剤によらない乳化技術」日本化粧品技術者会誌(50)(4),283-293. DOI:10.5107/sccj.50.283.
  10. 神奈川大学(2006)「乳化分散剤及びこれを用いた乳化分散方法並びに乳化物」特開2006-239666.

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