グルタミンの基本情報・配合目的・安全性

グルタミン

化粧品表示名 グルタミン
INCI名 Glutamine
配合目的 保湿ヘアコンディショニング など

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表される、アミノ基(-NH2とカルボキシ基(-COOH)をもち側鎖にアミドをもつ双性イオン化合物(∗1)であり、中性アミノ酸の酢酸アミノ酸アミドに分類されるアミノ酸(∗2)です[1a][2a]

∗1 双性イオン化合物とは、両性イオン化合物とも呼び、一つの分子内にプラス電荷とマイナス電荷の両方を持ち、全体としては中性イオンを示す化合物を指します。グルタミンは電荷が全体として0となる(中性を示す)ときのpH(等電点)が5.65であることから[2b]、溶液のpHが5.65以下なら陽イオンに、5.65以上なら陰イオンとなります。

∗2 一般にアミノ基(-NH2)とカルボキシ基(-COOH)の両方の官能基をもつ有機化合物をアミノ酸と呼びます。塩基性を示すアミノ基と酸性を示すカルボキシ基の割合によって中性アミノ酸、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸に分類され、グルタミンは中性アミノ酸に分類されます。

グルタミン

1.2. 分布

グルタミンは、自然界において遊離の形で、またタンパク質の構成成分として広く生物に存在しており、植物においてはとくにカボチャやヒマワリに多く含まれ、ヒトにおいては体内で生合成されています[2c][3a]

1.3. 化粧品以外の主な用途

グルタミンの化粧品以外の主な用途としては、

分野 用途
食品 独特の甘みとうま味をもつことから味の改善に用いられたり、アミノ酸バランス強化目的で用いられています[3b]
医薬品 ムコ多糖体代謝賦活や胃粘膜上皮修復目的の治療薬として胃潰瘍や十二指腸潰瘍に用いられるほか[4]、賦形目的の医薬品添加剤として経口剤に用いられています[5]

これらの用途が報告されています。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 角層水分量増加による保湿作用
  • ヘアコンディショニング作用

主にこれらの目的でスキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、シート&マスク製品、アウトバストリートメント製品、シャンプー製品、ヘアトリートメント製品、メイクアップ製品、クレンジング製品、洗顔料、洗顔石鹸など様々な製品に汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 角層水分量増加による保湿作用

角層水分量増加による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割および角質細胞におけるアミノ酸の役割について解説します。

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、

角質層の構造

水分を保持する働きもつ天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造になっており、この構造が保持されることによって外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています[6][7]

また、角質層において水分を保持する働きをもつ物質は、天然保湿因子(NMF:natural Moisturizing Factor)とよばれる低分子の水溶性物質であり、天然保湿因子は以下の表のように、

成分 含量(%)
アミノ酸 40.0
ピロリドンカルボン酸(PCA) 12.0
乳酸 12.0
尿素 7.0
アンモニア、尿酸、グルコサミン、クレアチン 1.5
ナトリウム(Na⁺) 5.0
カリウム(K⁺) 4.0
カルシウム(Ca²⁺) 1.5
マグネシウム(Mg²⁺) 1.5
リン酸(PO₄³⁻) 0.5
塩化物(Cl⁻) 6.0
クエン酸、ギ酸 0.5
糖、有機酸、ペプチド、未確認物質 8.5

アミノ酸、有機酸、塩などの集合体として存在しています[8]

この天然保湿因子において約40%を占めるアミノ酸組成は、以下の表のように、

アミノ酸の種類 含量(%)
プロリン 5.6
アスパラギン + アスパラギン酸 0.8
トレオニン 0.4
セリン 19.7
グルタミン + グルタミン酸 2.3
グリシン 14.7
アラニン 10.4
バリン 3.4
メチオニン 0.2
イソロイシン 0.5
ロイシン 1.5
チロシン 0.8
フェニルアラニン 0.7
リシン 1.1
ヒスチジン 1.4
アルギニン 10.3

16種類のアミノ酸で構成されており[9]、これらアミノ酸の大部分は、以下の図のように、

天然保湿因子の産生メカニズム

表皮顆粒層に存在しているケラトヒアリン(∗3)が角質細胞に変化していく過程でフィラグリンと呼ばれるタンパク質となり、このフィラグリンがブレオマイシン水解酵素(bleomycin hydrorase)によって完全分解されることで産生されることが報告されています[10][11]

∗3 ケラトヒアリンの主要な構成成分は、分子量300-1,000kDaの巨大な不溶性タンパク質であるプロフィラグリンであり、プロフィラグリンは終末角化の際にフィラグリンに分解されます。

アミノ酸は、天然保湿因子(NMF)の主要成分であることから皮膚の潤いを保つ目的でスキンケア製品に用いられていますが、一方で水溶性低分子の両性イオン化合物であり、一般的に電荷を有した物質は皮膚や生体膜を透過しにくく、その透過率は電荷を持たない物質と比較して1/1000といわれています[12]

1996年に味の素とカリフォルニア大学医学部皮膚科によって報告されたアミノ酸のヒト皮膚での経皮吸収挙動の検証によると、

– in vitro:皮膚透過試験 –

ヒト皮膚(角質層、表皮および真皮の一部を含む)上に1%濃度生理食塩水(pH7.4)となるように調製した5種類の水溶性アミノ酸(L-リシン、グリシン、グルタミン酸Na、プロリンおよびトレオニン)溶液をのせ、2-4時間ごとに皮膚透過挙動を評価したところ、以下のグラフのように、

ヒト皮膚角質層に対するアミノ酸の透過性比較

いずれのアミノ酸も経皮吸収にタイムラグがみられ、またアミノ酸によって透過量が異なることがわかった。

次に、ヒト皮膚の角質層を擦って剥いだ肌荒れモデル上に同様のアミノ酸溶液をのせ、2-4時間ごとに皮膚透過挙動を評価したところ、以下のグラフのように、

ヒト擦過皮膚(荒れ肌モデル)に対するアミノ酸の透過性比較

いずれのアミノ酸も経皮吸収のラグタイムが短縮され、また蓄積量も増大した。

この試験結果から、角質層はアミノ酸の経皮吸収に対して最大のバリアとなっていることが明らかとなった。

このような検証結果が明らかにされており[13]、これら水溶性アミノ酸は健常皮膚においては経時的に穏やかな経皮吸収性が、バリア機能が低下した皮膚においては健常な皮膚と比較して優れた経皮吸収性が認められています。

健常な皮膚においては、角質層がバリアの役割を果たしているため、グリシンは経皮吸収されにくく、また経皮吸収に時間がかかることから即時的な保湿効果はほとんどないと考えられますが、一方で40時間ジワジワと少しずつ経皮吸収されることが明らかにされていることから、持続性のある穏やかな保湿剤として機能すると考えられます。

また、肌荒れや皮膚炎などを有するバリア機能が低下した皮膚においては、角質層を有した健常な皮膚と比較して格段に高い経皮吸収性を示したことから、優れた水分保持剤になり得ると考えられます。

アミノ酸が角質層に経皮吸収されにくいメカニズムは、アミノ酸がイオン性物質であることによる角質層の水和(∗4)が重要な要因であり[14]、経皮吸収のラグタイムが長い理由は、アミノ酸と表皮との間の水素結合や静電気的相互作用によるものであると考えられています[15]

∗4 水和(hydration)とは、ある化学種へ水分子が付加する現象であり、イオン性化合物や水素結合性化合物が水に溶解し、静電相互作用や水素結合することによって起こります。

2.2. ヘアコンディショニング作用

ヘアコンディショニング作用に関しては、まず前提知識として毛髪の構造とアミノ酸組成について解説します。

ヒト毛髪は、硫黄(元素記号:S)を含む(∗5)、アミノ酸の結合によってできた繊維状タンパク質である硬ケラチン(ハードケラチン)で構成されており[16]、そのアミノ酸組成(∗6)は以下の表のように、

∗5 硫黄原子は、主にアミノ酸の一種であるシスチン残基中にジスルフィド結合として存在し、タンパク分子間あるいは分子内に架橋を形成しています。

∗6 このアミノ酸組成は硬ケラチン(毛髪)を構成するアミノ酸組成であり、皮膚における天然保湿因子といった遊離アミノ酸とは異なります。

アミノ酸の種類 含量(%)
プロリン 4.3 – 9.6
アスパラギン + アスパラギン酸 3.9 – 7.7
トレオニン 7.0 – 8.5
セリン 7.4 – 10.6
グルタミン + グルタミン酸 13.6 – 14.2
グリシン 4.1 – 4.2
アラニン 2.8
バリン 5.5 – 5.9
シスチン 16.6 – 18.0
メチオニン 0.7 – 1.0
イソロイシン 4.7 – 4.8
ロイシン 6.4 – 8.3
チロシン 2.2 – 3.0
トリプトファン 0.4 – 1.3
フェニルアラニン 2.4 – 3.6
リシン 1.9 – 3.1
ヒスチジン 0.6 – 1.2
アルギニン 8.9 – 10.8

18種類のアミノ酸で構成されています[17]

毛髪におけるアミノ酸としては、硬ケラチンを構成するアミノ酸だけでなく、親水性物質として遊離アミノ酸の存在も報告されていますが[18]、現時点で遊離アミノ酸の組成や役割に関する情報はみつけられていないため、みつけしだい追補します。

アミノ酸は、天然保湿因子(NMF)の主要成分であることから毛髪の潤いを保つ目的で毛髪を対象とした化粧品に用いられており[1b]、主に毛髪の天然保湿因子(NMF)構成をモデルとした混合原料として用いられています。

ただし、ヒト毛髪における使用試験データがみあたらないため、みつかりしだい追補します。

3. 配合製品数および配合量範囲

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2012年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗7)

∗7 表の中の製品タイプのリーブオン製品というのは付けっ放し製品という意味で、主にスキンケア製品やメイクアップ製品などを指し、リンスオフ製品というのは洗浄系製品を指します。

グルタミンの配合製品数と配合量の調査結果(2012年)

4. 安全性評価

グルタミンの現時点での安全性は、

  • 食品添加物の既存添加物リストに収載
  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 1980年代からの使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

日本薬局方に収載されており、30年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

4.2. 眼刺激性

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

5. 参考文献

  1. ab日本化粧品工業連合会(2013)「グルタミン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,376.
  2. abc大木 道則, 他(1989)「グルタミン」化学大辞典,650.
  3. ab樋口 彰, 他(2019)「L-グルタミン」食品添加物事典 新訂第二版,121.
  4. 浦部 晶夫, 他(2021)「L-グルタミン」今日の治療薬2021:解説と便覧,785.
  5. 日本医薬品添加剤協会(2021)「L-グルタミン」医薬品添加物事典2021,192-193.
  6. 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
  7. 田村 健夫・廣田 博(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
  8. 武村 俊之(1992)「保湿製剤の効用:角層の保湿機構」ファルマシア(28)(1),61-65. DOI:10.14894/faruawpsj.28.1_61.
  9. I. Horii, et al(1983)「Histidine-rich protein as a possible origin of free amino acids of stratum corneum」Current Problems in Dermatology(11),301-315. DOI:10.1159/000408684.
  10. M. Watanabe, et al(1991)「Functional analyses of the superficial stratum corneum in atopic xerosis」Archives of Dermatology(127)(11),1689-1692. DOI:10.1001/archderm.1991.01680100089010.
  11. T. Tezuka, et al(1994)「Terminal differentiation of facial epidermis of the aged: immunohistochemical studies」Dermatology(188)(1),21-24. DOI:10.1159/000247079.
  12. J. Swarbrick, et al(1984)「Drug Permeation Through Human Skin Ⅱ: Permeability of Ionizable Compounds」Journal of Pharmaceutical Sciences(73)(10),1352–1355. DOI:10.1002/jps.2600731006.
  13. 川崎 由明, 他(1996)「In vitroによるアミノ酸のヒト皮膚での経皮吸収挙動の解析」日本化粧品技術者会誌(30)(1),55-61. DOI:10.5107/sccj.30.55.
  14. M. Sznitowska, et al(1993)「In vitro permeation of human skin by multipolar ions」International Journal of Pharmaceutics(99)(1),43-49. DOI:10.1016/0378-5173(93)90321-6.
  15. L. Wearley, et al(1990)「A Numerical Approach to Study the Effect of Binding on the Iontophoretic Transport of a Series of Amino Acids」Journal of Pharmaceutical Sciences(79)(11),992–998. DOI:10.1002/jps.2600791110.
  16. 新井 幸三(2003)「羊毛および毛髪ケラチンの構造と物理化学的性質」最新の毛髪科学,59-72.
  17. 内藤 幸雄・本間 意富(1985)「毛髪の科学」繊維学会誌(41)(4),120-126. DOI:10.2115/fiber.41.4_P120.
  18. 根本 利之, 他(1976)「毛髪の損傷に関する研究」日本化粧品技術者会会誌(10)(1-2),10-21. DOI:10.5107/sccj1976.10.10.

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