ライスパワーNo.11(米エキスNo.11)の基本情報・配合目的・安全性
医薬部外品表示名 | ライスパワーNo.11、米エキスNo.11 |
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愛称 | ライスパワーエキスNo.11 |
配合目的 | バリア機能修復 |
ライスパワーNo.11は、勇心酒造の申請によって2001年に医薬部外品の皮膚水分保持能改善の有効成分として厚生労働省に承認された成分です。
ライスパワーNo.11は、「米エキスNo.11」と表示されることもあり、これらは同一成分です。
1. 基本情報
1.1. 定義
白米から得られるエキスを複数の乳酸菌・酵母・麹菌といった微生物で発酵・熟成することにより得られる米発酵抽出物(植物エキス)です[1a]。
2. 医薬部外品(薬用化粧品)としての配合目的
- セラミド合成促進によるバリア機能修復作用
主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディケア製品などに使用されています。
以下は、医薬部外品(薬用化粧品)として配合される目的に対する根拠です。
2.1. セラミド合成促進によるバリア機能修復作用
セラミド合成促進によるバリア機能修復作用に関しては、まず前提知識として角質層における細胞間脂質の構造、セラミドの役割およびセラミド産生のメカニズムについて解説します。
以下の表皮最外層である角質層の構造をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
角質層は天然保湿因子を含む角質細胞と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、細胞間脂質は主に、
細胞間脂質構成成分 | 割合(%) |
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セラミド | 50 |
遊離脂肪酸 | 20 |
コレステロール | 15 |
コレステロールエステル | 10 |
糖脂質 | 5 |
このような脂質組成で構成されており[2]、その約50%をセラミドが占めています。
これら細胞間脂質は以下の図のように、
疎水層(脂質)と親水層(水分)を繰り返すラメラ構造を形成していることが大きな特徴であり、脂質が結合水(∗1)を挟み込むことで水分を保持し、角質細胞間に層状のラメラ液晶構造を形成することでバリア機能を発揮すると考えられており、このバリア機能は、皮膚内の過剰な水分蒸散の抑制および一定の水分保持、外的刺激から皮膚を防御するといった重要な役割を担っています。
∗1 結合水とは、たんぱく質分子や親液コロイド粒子などの成分物質と強く結合している水分であり、純粋な水であれば0℃で凍るところ、角層中の水のうち33%は-40℃まで冷却しても凍らないのは、角層内に存在する水のうち約⅓が結合水であることに由来しています[3]。
次に、表皮におけるセラミド生成(合成)プロセスに関しては、以下の表皮におけるセラミド産生プロセス図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
セラミドの前駆体かつスフィンゴ糖脂質の一種であるグルコシルセラミドも表皮で産生され、角質層において分解酵素であるβ-グルコセレブロシダーゼを介してセラミドに分化されることが知られており[4]、またスフィンゴミエリンからもセラミドが合成されることが明らかにされています[5]。
一方で、皮膚が乾燥寒冷下に長時間曝露されるような外的要因やアトピー性皮膚炎のような内的要因により乾皮症(ドライスキン)が生じた場合は、角質層の機能低下により、角質層の水分保持能の低下およびバリア機能低下による経表皮水分蒸散量(transepidermal water loss:TEWL)の上昇が起こり[6]、その結果として角質細胞や細胞間脂質が規則的に並ばなくなり、そこに生じた隙間からさらに水分が蒸散し、バリア機能・保湿能が低下していくことが知られています[7]。
このような背景から、バリア機能が低下している場合においてセラミドの産生を促進することは、バリア機能の改善、ひいてはドライスキンの改善や皮膚の健常性を維持するために重要なアプローチのひとつであると考えられます。
1999年に徳島大学医学部皮膚科によって報告された皮膚セラミドに対するライスパワーNo.11の影響検証によると、
– ex vivo : セラミド合成促進作用 –
人工的に荒れ肌にした10名の被検者のセラミドを含む細胞間脂質を抽出し、その荒れ肌部位にライスパワーNo.11および水を1週間塗布し、再び抽出した細胞間脂質からセラミド量を測定したところ、以下のグラフのように、
ライスパワーNo.11の塗布は、基剤のみと比較して人工荒れ肌のセラミド量を有意(p<0.01)に増大させたことがわかった。
このような検証結果が明らかにされており[8]、ライスパワーNo.11にセラミド合成促進作用が認められています。
次に、2013年にコーセーによって報告されたライスパワーNo.11の連用による角層水分量への影響検証によると、
– ヒト使用試験 –
7名の被検者の半顔にライスパワーNo.11配合美容液を、残りの半顔に未配合美容液を1日2回4週間にわたって連用してもらい、塗布1,2および4週間後に電気伝導度によるコンダクタンスにて角層水分量を測定したところ、以下のグラフのように、
ライスパワーNo.11配合美容液塗布部位は、未配合美容液塗布部位と比較して角層水分量が有意(2週間後:p<0.01、4週間後:p<0.05)に上昇した。
即時的な水分量の増加ではなく、連用により水分量が増加したことは、角層の水分保持能自体が改善した結果と考えられた。
このような検証結果が明らかにされており[1b]、ライスパワーNo.11に角層水分量増加によるバリア機能修復作用が認められています。
ライスパワーNo.11の効果は、セラミド合成促進作用が認められていること、連用による角層水分保持能改善の結果として角層水分量が上昇することから、即時的な水分量増加による保湿作用ではなく、角層の細胞間脂質が改善した結果としてのバリア機能修復作用であると考えられます。
3. 安全性評価
- 2001年に医薬部外品有効成分に承認
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、医薬部外品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
3.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
徳島文理大学および健康保険鳴門病院皮膚科の臨床データ[9]によると、
- [ヒト試験] 40名の被検者に100%ライスパワーNo.11を72時間パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激はみられず、この試験物質は皮膚刺激剤ではなかった
- [ヒト試験] 40名の被検者に40%ライスパワーNo.11を含むクリームを72時間パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激はみられず、この試験製剤は皮膚刺激剤ではなかった
- [動物試験] モルモットにライスパワーNo.11を対象に皮膚感作性試験を実施したところ、この試験物質は皮膚感作剤ではなかった
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
また、医薬部外品有効成分に承認されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がないこともライスパワーNo.11の安全性を裏付けていると考えられます。
3.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
4. 参考文献
- ⌃ab上原 静香(2013)「ライスパワーエキスの水分保持能改善効果と製品への応用」Fragrance Journal(41)(12),28-32.
- ⌃芋川 玄爾(1995)「皮膚角質細胞間脂質の構造と機能」油化学(44)(10),751-766. DOI:10.5650/jos1956.44.751.
- ⌃G. Imokawa, et al(1991)「Stratum corneum lipids serve as a bound-water modulator」Journal of Investigative Dermatology(96)(6),845-851. PMID:2045673.
- ⌃杉山 義宣(2008)「皮膚の機能制御とスキンケア」化学と生物(46)(2),135-141. DOI:10.1271/kagakutoseibutsu.46.135.
- ⌃内田 良一・北村 伸夫(1998)「表皮角質層のセラミド:その特徴と代謝調節」ファルマシア(34)(8),783-787. DOI:10.14894/faruawpsj.34.8_783.
- ⌃石田 賢哉(2004)「光学活性セラミドの開発と機能」オレオサイエンス(4)(3),105-116. DOI:10.5650/oleoscience.4.105.
- ⌃朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
- ⌃入野 和生(2014)「作用機序と有効成分の解明」アトピーに朗報!,120-126.
- ⌃入野 和生(2014)「基礎・臨床試験で確かな手応え」アトピーに朗報!,103-111.