ナイアシンアミドの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ナイアシンアミド |
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医薬部外品表示名 | ニコチン酸アミド、ナイアシンアミド |
愛称 | D-メラノ、リンクルナイアシン |
INCI名 | Niacinamide |
配合目的 | バリア機能修復、美白、抗シワ など |
医薬部外品表示名「ニコチン酸アミド」は、P&Gの申請によって2007年に医薬部外品美白有効成分として厚生労働省に承認された、一般に「D-メラノ」とよばれる成分です。
医薬部外品表示名「ナイアシンアミド」は、コーセーの申請によって2017年(推定)に医薬部外品シワ改善有効成分として厚生労働省に承認された、一般に「リンクルナイアシン」とよばれる成分です。
有効成分以外で医薬部外品に表示される場合は「ニコチン酸アミド」が表示されます。
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるニコチン酸(∗1)(C6H5NO2)のアミド(∗2)です[1]。
∗1 ニコチン酸は、ニコチンを酸化して得られることから命名されたビタミンB3とも称されるカルボン酸ですが、有害物質であるニコチンと混同されるのを避けるために、現在は「ニコチン酸ビタミン(Nicotinic Acid vitamin)」の大文字部分「NIcotinic ACid vitamIN」を組み合わせてナイアシン(niacin)の略称が一般に用いられています。
∗2 アミドとは、オキソ酸とアンモニア(NH3)あるいは1級、2級アミンが脱水縮合した構造をもつものを指し、ニコチン酸アミドにおいてはニコチン酸(C5H4NCOOH)のカルボキシ基(-COOH)がアミド基(-CONH2)に置換された化合物です。オキソ酸とは何らかの原子にヒドロキシ基(-OH)とオキソ基(=O)が結合しており、かつ、そのヒドロキシ基がプロトン(H+)を供与しうる化合物を指します。
1.2. 物性・性状
ナイアシンアミドの物性・性状は、
状態 | 溶解性 |
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針状結晶 | 水、エタノールに易溶 |
このように報告されています[2a]。
1.3. 分布
ナイアシンアミドは、動植物界にニコチン酸とともに広く存在しています[2b]。
1.4. 生体における働き
ナイアシンアミドは、生体においてナイアシンアミドのままの形で、あるいは様々な脱水素酵素の補酵素であるNAD(Nicotinamide adenine dinucleotide)やNADP(Nicotinamide adenine dinucleotide phosphate)中に存在しており、酸化還元反応に関与していることが知られています[3][4]。
NADは、細胞内のエネルギー伝達物質であるATPの産生に密接に関与しており、以下のATP産生メカニズム図をみてもらうとわかるように、
細胞内においては、グルコースが輸送されることにより「解糖系」「クエン酸回路」「電子伝達」とよばれる分解過程のそれぞれで生体のエネルギー伝達物質であるATP(adenosine tri-phosphate:アデノシン三リン酸)が産生されますが、この中で特にクエン酸回路において、
8段階の反応の中で酸化型補酵素であるNAD+がそれぞれ3分子の還元型であるNADHとなる触媒の働きを担っており、還元されたNADHは電子伝達系に供給されます[5]。
また、これらの分解過程で産生されたATPは、筋肉の収縮やタンパク質など高分子物質の生合成などエネルギー依存的な生体反応過程に使用されています[6]。
1.5. 化粧品以外の主な用途
ナイアシンアミドの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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食品 | 栄養強化(ナイアシン強化)目的または加工食肉の色調保持目的で用いられています[7]。 |
医薬品 | ニコチン酸欠乏症や口角炎、口内炎、接触皮膚炎、湿疹、光線過敏性皮膚炎、メニエール症候群、末梢循環障害、耳鳴などのうちニコチン酸の欠乏または代謝障害が関与する場合におけるビタミン製剤(ニコチン酸補給製剤)として用いられるほか[8]、安定・安定化、等張化、溶解補助目的の医薬品添加剤として経口剤、各種注射、外用剤、耳鼻科用剤吸入剤に用いられています[9]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品および医薬部外品としての配合目的
- セラミド合成促進によるバリア機能修復作用
- メラノソーム移送阻害による美白作用
- 抗シワ作用
主にこれらの目的で、スキンケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、マスク製品、ボディケア製品、ハンドケア製品、洗顔料、クレンジング製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品および医薬部外品(薬用化粧品)として配合される目的に対する根拠です。
2.1. セラミド合成促進によるバリア機能修復作用
セラミド合成促進によるバリア機能修復作用に関しては、まず前提知識として角質層における細胞間脂質の構造、セラミドの役割およびセラミド産生のメカニズムについて解説します。
以下の表皮最外層である角質層の構造をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
角質層は天然保湿因子を含む角質細胞と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、細胞間脂質は主に、
細胞間脂質構成成分 | 割合(%) |
---|---|
セラミド | 50 |
遊離脂肪酸 | 20 |
コレステロール | 15 |
コレステロールエステル | 10 |
糖脂質 | 5 |
このような脂質組成で構成されており[10]、その約50%をセラミドが占めています。
これら細胞間脂質は以下の図のように、
疎水層(脂質)と親水層(水分)を繰り返すラメラ構造を形成していることが大きな特徴であり、脂質が結合水(∗3)を挟み込むことで水分を保持し、角質細胞間に層状のラメラ液晶構造を形成することでバリア機能を発揮すると考えられており、このバリア機能は、皮膚内の過剰な水分蒸散の抑制および一定の水分保持、外的刺激から皮膚を防御するといった重要な役割を担っています。
∗3 結合水とは、たんぱく質分子や親液コロイド粒子などの成分物質と強く結合している水分であり、純粋な水であれば0℃で凍るところ、角層中の水のうち33%は-40℃まで冷却しても凍らないのは、角層内に存在する水のうち約⅓が結合水であることに由来しています[11]。
次に、表皮におけるセラミド生成(合成)プロセスに関しては、以下の表皮におけるセラミド産生プロセス図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
セラミドの前駆体かつスフィンゴ糖脂質の一種であるグルコシルセラミドも表皮で産生され、角質層において分解酵素であるβ-グルコセレブロシダーゼを介してセラミドに分化されることが知られており[12]、またスフィンゴミエリンからもセラミドが合成されることが明らかにされています[13]。
一方で、皮膚が乾燥寒冷下に長時間曝露されるような外的要因やアトピー性皮膚炎のような内的要因により乾皮症(ドライスキン)が生じた場合は、角質層の機能低下により、角質層の水分保持能の低下およびバリア機能低下による経表皮水分蒸散量(transepidermal water loss:TEWL)の上昇が起こり[14]、その結果として角質細胞や細胞間脂質が規則的に並ばなくなり、そこに生じた隙間からさらに水分が蒸散し、バリア機能・保湿能が低下していくことが知られています[15]。
このような背景から、バリア機能が低下している場合においてセラミドの産生を促進することは、バリア機能の改善、ひいてはドライスキンの改善や皮膚の健常性を維持するために重要なアプローチのひとつであると考えられます。
1999年に鐘紡基礎科学研究所によって報告されたナイアシンアミドの細胞間脂質に対する影響検証およびヒト皮膚バリア機能における有用性検証によると、
– in vitro : セラミド合成促進作用 –
ヒト正常培養ケラチノサイトに各濃度のナイアシンアミドを添加し、セラミド合成合成を14C-セリンのセラミドへの取り込みで測定したところ、以下のグラフのように、
濃度1μM以上のナイアシンアミドの添加は、有意(p<0.01)にセラミドの合成を高めた。
– in vitro : 脂肪酸・コレステロール合成促進作用 –
培養ケラチノサイトに10μMナイアシンアミドを添加し、細胞間脂質構成成分であるセラミド、脂肪酸およびコレステロールの合成を14C-酢酸の各脂質への取り込みで測定したところ、以下のグラフのように、
10μMナイアシンアミドの添加は、セラミドだけでなく脂肪酸およびコレステロールの合成も有意(p<0.01)に促進することがわかった。
– ヒト使用試験 –
冬期に肌荒れを有している被検者の左右の脛(すね)にそれぞれ2%ナイアシンアミドを含む基剤または基剤のみを4週間連用し、連用後に経皮水分蒸散量(TEWL)、皮膚表面の水分量および角質細胞間脂質量の変化を測定したところ、以下のグラフのように、
ナイアシンアミドを塗布した部位は、基剤のみを塗布した部位と比較して有意(p<0.01)に低い水分蒸散量を示し、また皮膚表面の水分量も増加傾向(p<0.05)を示した。
また、角質細胞間脂質量においては、セラミドと脂肪酸では角層の存在量が有意(セラミド:p<0.05、脂肪酸:p<0.1)に増加し、コレステロールでも同様に増加傾向を示した。
ナイアシンアミド塗布部位で経皮水分蒸散量が低下したのは、角層のセラミドなどの脂質量が増加したころが要因となることが示唆された。
このような検証結果が明らかにされており[16a]、ナイアシンアミドにセラミド合成促進によるバリア機能修復作用が認められています。
ナイアシンアミドのセラミド合成促進のメカニズムは、表皮におけるセラミド産生プロセスにおけるセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(serine palmitoyltransferase)の活性化に起因することが明らかにされています[16b]。
2.2. メラノソーム移送阻害による美白作用
メラノソーム移送阻害による美白作用に関しては、まず前提知識としてメラニン色素生合成メカニズムおよび合成メラニンの表皮への移送について解説します。
以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
皮膚が紫外線に曝露されると、細胞や組織内では様々な活性酸素が発生するとともに、様々なメラノサイト活性化因子(情報伝達物質)がケラチノサイトから分泌され、これらが直接またはメラノサイト側で発現するメラノサイト活性化因子受容体を介して、メラノサイトの増殖やメラノサイトでのメラニン生合成を促進させることが知られています[17a][18][19a]。
また、メラノサイト内でのメラニン生合成は、メラニンを貯蔵する細胞小器官であるメラノソームで行われ、生合成経路としてはアミノ酸の一種かつ出発物質であるチロシンに酸化酵素であるチロシナーゼが働きかけることでドーパに変換され、さらにドーパにも働きかけることでドーパキノンへと変換されます[17b][19b]。
ドーパキノンは、システイン存在下の経路では黄色-赤色のフェオメラニン(pheomelanin)へ、それ以外はチロシナーゼ関連タンパク質2(tyrosinaserelated protein-2:TRP-2)やチロシナーゼ関連タンパク質1(tyrosinaserelated protein-1:TRP-1)の働きかけにより茶褐色-黒色のユウメラニン(eumelanin)へと変換(酸化・重合)されることが明らかにされています[17c][19c]。
そして、毎日生成されるメラニン色素は、メラノソーム内で増えていき、一定量に達すると樹枝状に伸びているデンドライト(メラノサイトの突起)を通して、周辺の表皮細胞に送り込まれ、ターンオーバーとともに皮膚表面に押し上げられ、最終的には角片とともに垢となって落屑(排泄)されるというサイクルを繰り返します[17d]。
正常な皮膚においてはメラニンの排泄と生成のバランスが保持される一方で、紫外線の曝露、加齢、ホルモンバランスの乱れ、皮膚の炎症などによりメラニン色素の生成と排泄の代謝サイクルが崩れると、その結果としてメラニン色素が過剰に表皮内に蓄積されてしまい、色素沈着が起こることが知られています[17e]。
このような背景から、合成されたメラニンのデンドライトの移送を抑制することは、色素沈着の抑制において重要なアプローチのひとつであると考えられています。
2005年にP&GFE神戸テクニカルセンターによって報告されたニコチン酸アミド(D-メラノ)のメラニンに対する影響検証およびヒト皮膚色素沈着における有用性検証によると、
– in vitro : メラノソーム移送抑制作用 –
培養ヒトメラノサイトおよびヒトケラチノサイトを染色し、各濃度のニコチン酸アミドと7日間共培養した後にケラチノサイトへのメラノソーム移送量を定量評価したところ、以下のグラフのように、
ニコチン酸アミドは濃度依存的にメラノソームの移送を抑制することが示された。
また、メラノサイト・ケラチノサイト共培養モデルに10μMニコチン酸アミドを3日間添加し、添加終了から3日間のメラノソーム移送量を測定したところ、終了直後は14%の移送抑制効果がみられたが、終了3日後には移送量はほぼ回復したことから、この抑制作用は可逆的であることが示された。
– ヒト使用試験 –
顔面に中程度の色素斑(雀卵斑、肝斑、老人性色素斑、炎症後の色素沈着)を有する39名の女性被検者の半顔に5%ニコチン酸アミドを含む保湿剤および保湿剤のみをそれぞれ8週間使用してもらい、0,4および8週目に色素斑の面積の変化を定量評価したところ、以下のグラフのように、
5%ニコチン酸アミドを含む保湿剤の適用は、保湿剤のみと比較して有意(4週目:p<0.05、8週目:p<0.01)に色素斑を減少させることが確認された。
次に、顔面を十分日焼けした120名の女性被検者にSPF15日焼け止め成分配合保湿剤およびSPF15日焼け止め成分と2%ニコチン酸アミド配合保湿剤を8週間にわたって塗布し、塗布前(0週目)の皮膚明度(L∗値)(∗4)を基準として4,6および8週目のL∗値の変化を測定し、保湿剤のみのものと比較したところ、以下のグラフのように、
∗4 L*値は見た目の色の濃さや色相を表す単位であり、数値が高いほど明るいことを示します。
ニコチン酸アミド配合保湿剤の塗布は、皮膚色を明るくすることが示され、その効果は日焼け止め成分と併用することにより相乗効果を示した。
このような検証結果が明らかにされており[20a]、ナイアシンアミドにメラノソーム移送阻害による色素沈着抑制作用が認められています。
また、ナイアシンアミドは紫外線防御成分と併用することにより紫外線によって誘発される皮膚色素沈着抑制の相乗効果を発揮することが報告されています[20b]。
2.3. 抗シワ作用
抗シワ作用に関しては、まず前提知識として真皮の構造および真皮におけるコラーゲンの構造と役割について解説します。
真皮については以下の真皮構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
表皮を下から支える真皮を構成する成分としては、細胞成分と線維性組織を形成する間質成分(細胞外マトリックス成分)に二分され、以下の表のように、
分類 | 構成成分 | |
---|---|---|
間質成分 | 膠原線維 | コラーゲン |
弾性繊維 | エラスチン | |
基質 | 糖タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン | |
細胞成分 | 線維芽細胞 |
主成分である間質成分は、大部分がコラーゲンからなる膠原線維とエラスチンからなる弾性繊維、およびこれらの間を埋める基質で占められており、細胞成分としてはこれらを産生する線維芽細胞がその間に散在しています[21a][22]。
コラーゲンは、以下の図のように、
3本のペプチド鎖が3重らせん構造を成しており、各ペプチド鎖はアミノ酸組成として、
(グリシン – アミノ酸X – アミノ酸Y)n
3個ごとにグリシンを含む繰り返し構造をもち、アミノ酸Xとアミノ酸Yにはプロリンおよびヒドロキシプロリンが約21%を、アラニンが約11%を占めることが知られています[23][24][25][26]。
間質成分の大部分を占めるコラーゲンはⅠ型コラーゲン(80-85%)とⅢ型コラーゲン(10-15%)が一定の割合で会合(∗5)することによって構成された膠質状繊維であり[27]、Ⅰ型コラーゲンは皮膚や骨に最も豊富に存在し、強靭性や弾力をもたせたり、組織の構造を支える働きが、Ⅲ型コラーゲンは細い繊維からなり、しなやかさや柔軟性をもたらす働きがあり、それぞれ皮膚のハリを支えています[21b][28]。
∗5 会合とは、同種の分子またはイオンが比較的弱い力で数個結合し、一つの分子またはイオンのようにふるまうことをいいます。
また、細胞成分として線維芽細胞(fibroblast)は、真皮に分散しており、コラーゲン繊維や弾性繊維、ムコ多糖を産生する細胞であることから、必要に応じて線維芽細胞が活発に働きこれらの物質が順調につくられていることが、皮膚の張りや弾力を維持する上で重要です[21c]。
一方で、紫外線を浴びる頻度に比例して、間質成分への影響が大きくなり、シワの形成促進、色素沈着の増加など老化現象が徐々に進行することが知られています[29]。
コラーゲンにおいては、UVA曝露によりコラーゲン合成能の減少が報告されており[30]、このような長期紫外線暴露後の細胞外マトリックス成分の産生・分解系バランスの崩れが光老化の原因であると考えられています[31]。
このような背景から、紫外線曝露によって合成量が減少するコラーゲンの合成を促進することは、紫外線曝露による光老化の抑制に重要であると考えられます。
2008年に近畿大学医学部皮膚科および京都大学大学院医学研究科によって報告されたナイアシンアミドのヒト皮膚シワにおける有用性検証によると、
– ヒト使用試験 –
目の周りに細かいシワを有する28名の日本人被検者(31-49歳、平均39.4歳)の半顔に4%ナイアシンアミド配合O/W型保湿剤を、残りの半顔にナイアシンアミド未配合O/W型保湿剤を、二重盲検法に基づいて8週間にわたって塗布してもらった。
4週目および8週目に日本化粧品工業連合会のガイドラインに基づいて、2名の研究者による観察と写真の組み合わせ、「著効」「有効」「やや有効」「不変」「悪化」の5段階で評価したところ、以下の表のように、
試料 | 週 | 著効 | 有効 | やや有効 | 不変 | 悪化 |
---|---|---|---|---|---|---|
ナイアシンアミド | 4 | 2 | 10 | 12 | 2 | 0 |
8 | 4 | 14 | 9 | 1 | 0 | |
保湿剤のみ | 4 | 0 | 0 | 8 | 18 | 0 |
8 | 0 | 0 | 10 | 18 | 0 |
4%ナイアシンアミド配合保湿剤の塗布は、8週目において28名のうち18名に中程度以上のシワ改善効果を示した。
この結果は、ナイアシンアミドがシワ改善効果を有することを示していますが、基剤がナイアシンアミドの浸透性を向上させるなどいくらか寄与した可能性も考えられます。
このような検証結果が明らかにされており[32]、ナイアシンアミドに抗シワ作用が認められています。
ナイアシンアミドの抗シワ作用のメカニズムは、現時点では明確にされていませんが、in vitro試験においてコラーゲン合成量が減少した培養ヒト線維芽細胞へのナイアシンアミドの添加によりコラーゲン合成量の有意な増加が報告されていることから[33]、コラーゲンの合成促進にある程度の特異性があり、この作用が寄与している可能性が考えられます。
また、その他ナイアシンアミドが有する細胞賦活性など複合的な作用メカニズムである可能性も考えられるため、新しい試験データなど作用メカニズムが明らかになりしだい追補・再編集します。
3. 混合原料としての配合目的
ナイアシンアミドは混合原料が開発されており、ナイアシンアミドと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | LACTIL |
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構成成分 | 水、乳酸Na、PCA-Na、グリシン、フルクトース、尿素、ナイアシンアミド、イノシトール、安息香酸Na、乳酸 |
特徴 | 皮膚のNMFをモデル化した保湿剤 |
原料名 | Bicowhite |
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構成成分 | 水、レシチン、リゾレシチン、乳酸桿菌発酵液、ナイアシンアミド、3-O-エチルアスコルビン酸、アゼロイルジグリシンK、ビサボロール、フィチン酸、トコフェロール、シトステロール、スクワレン |
特徴 | 美白に関与する5つの有効成分としてフィチン酸、ビタミンC誘導体、ナイアシンアミド、ビサボロール、アゼライン酸誘導体を内包した皮膚浸透カプセル剤 |
原料名 | BeauPlex VH |
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構成成分 | パントテン酸Ca、ナイアシンアミド、アスコルビルリン酸Na、酢酸トコフェロール、ピリドキシンHCl、マルトデキストリン、オクテニルコハク酸デンプンNa、シリカ |
特徴 | ビタミンC、E、B3、B5、B6を一体化した水溶性ビタミン原料 |
原料名 | Asebiol |
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構成成分 | 水、ピリドキシンHCl、ナイアシンアミド、グリセリン、パンテノール、加水分解酵母タンパク、トレオニン、アラントイン、ビオチン、フェノキシエタノール、ソルビン酸K、リン酸2Na、クエン酸 |
特徴 | 皮脂の産生に関与する酵素である5α-リダクターゼを阻害することにより頭皮の皮脂量を調整するビタミンおよびアミノ酸の複合体 |
原料名 | Trichogen VEG |
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構成成分 | 水、アルギニン、アセチルチロシン、PEG-12ジメチコン、パントテン酸Ca、グルコン酸亜鉛、ナイアシンアミド、オルニチンHCl、ポリクオタニウム-11、シトルリン、加水分解ダイズタンパク、グルコサミンHCl、アルクチウムマジュス根エキス、オタネニンジン根エキス、ビオチン、フェノキシエタノール、コハク酸2Na |
特徴 | 髪の強度を改善し、抜け毛を減らして頭皮の状態の改善にアプローチする、抜け毛予防のための最適化された複合体 |
原料名 | Uniprosyn PS-18 |
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構成成分 | 加水分解カラスムギタンパク、ナイアシンアミド、アデノシン三リン酸、BG |
特徴 | 角層バリア機能を高める活性成分の複合体 |
原料名 | Collrepair DG |
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構成成分 | 水、ナイアシンアミド、グリセリン、カプリリルグリコール、キサンタンガム、タンジン葉エキス |
特徴 | 脱糖化と抗糖化の両方に効果を発揮するタンジン葉エキスとナイアシンアミドの複合体 |
原料名 | Cytobiol Lumin-Eye |
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構成成分 | セイヨウトネリコ樹皮エキス、シラントリオール、ナイアシンアミド、BG、水 |
特徴 | 血行促進、支持組織の再構築作用を有し、クマや目袋の改善にアプローチするシナジーコンプレックス |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2001年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
5. 安全性評価
- 食品添加物の指定添加物リストに収載
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 2007年に医薬部外品有効成分に承認
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし-わずか
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
- 光感作性:ほとんどなし
- アクネ菌増殖性:ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品および医薬部外品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[34a]によると、
- [ヒト試験] 100名の被検者にナイアシンアミドを含む水中油型エマルションを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を半閉塞および閉塞パッチにて別々に実施したところ、いずれの被検者にも皮膚刺激および皮膚感作の兆候はなかった(Procter&Gamble,1998;1999)
- [ヒト試験] 32名の被検者に3%ナイアシンアミドを含むクリームを23時間パッチ適用し、パッチ除去後に新しいパッチを再び適用し、パッチ除去1時間(最初のパッチ適用から48時間)および25時間(最初のパッチ適用から72時間)後に処置部位の皮膚刺激性を評価したところ、この試験製剤は陰性対照よりもわずかに紅斑を生じた(Unilever,1998)
- [ヒト試験] 22名の被検者に1%ナイアシンアミドを含むスキンケアクリームを対象に21日間連用による皮膚累積刺激性試験を実施したところ、この試験製剤は皮膚累積刺激剤ではなかった(Unilever,1998)
- [ヒト試験] 23名の被検者に5%ナイアシンアミド水溶液を対象に21日間連用による皮膚累積刺激性試験を実施したところ、この試験製剤は皮膚累積刺激剤ではなかった(Unilever,1998)
- [ヒト試験] 25名の被検者に2および5%ナイアシンアミドを含む保湿クリームおよびクリームのみを対象に半閉塞パッチおよび閉塞パッチにて21日間累積皮膚刺激性試験を実施したところ、ナイアシンアミドの有無の間に刺激性の有意差はみられなかった(Procter&Gamble,1998;1999)
このように記載されており、試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[34b]によると、
- [動物試験] ウサギの片眼に15%および25%ナイアシンアミド水溶液を点眼し、点眼後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は急性の眼刺激剤ではないと結論付けられた(Procter&Gamble,1997)
- [動物試験] 6匹のウサギ2群の片眼に1%ナイアシンアミドを含むクリーム0.1mLを適用し、適用24および48時間後に眼刺激性を評価したところ、1匹のウサギにわずかな結膜反応がみられたが、この反応は24時間以内に消失し、残りの5匹に反応はみられなかった。もう一方の6匹群では3匹にわずかな結膜反応がみられたが、これらの反応は48時間以内に消失した。この試験条件下において第1のクリームはウサギの眼に実施的に非刺激剤であり、第2のクリームはわずかな刺激剤であった(Unilever,1998)
このように記載されており、試験データをみるかぎり、非刺激-わずかな眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-わずかな眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
5.3. 光毒性(光刺激性)および光感作性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[34c]によると、
- [ヒト試験] 12名の被検者の2箇所に2%ナイアシンアミドを含むリップスティックを24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に1箇所の試験部位にUVAライトを(20J/c㎡)照射し、照射の24および48時間後に光刺激性を評価したところ、この試験製剤は光刺激剤ではないと結論づけられた(Procter&Gamble,2000)
- [ヒト試験] 25名の被検者に5%ナイアシンアミドを含むファンデーションを対象に光感作試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験製剤は光感作剤ではないと結論付けられた(Procter&Gamble,1999)
このように記載されており、試験データをみるかぎり、光刺激および光感作なしと報告されているため、一般に光毒性(光刺激性)および光感作性はほとんどないと考えられます。
5.4. アクネ菌増殖性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[34d]によると、
- [ヒト試験] ニキビができやすい13名の被検者の背中に2%ナイアシンアミドを含む保湿剤を4週間にわたって閉塞パッチ適用し、パッチ除去後にアクネ菌増殖性を評価したところ、コメドスコアは未適用部位よりも有意に低く、コメドの増加はみられなかったため、この試験製剤はアクネ菌増殖性を有さないと考えられた(Procter&Gamble,2001)
このように記載されており、試験データをみるかぎり、アクネ菌増殖なしと報告されているため、一般にアクネ菌増殖性はほとんどないと考えられます。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ナイアシンアミド」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,720.
- ⌃ab大木 道則, 他(1989)「ニコチンアミド」化学大辞典,1667.
- ⌃直井 嘉威(1991)「ニコチン酸」有機合成化学協会誌(49)(6),592-593. DOI:10.5059/yukigoseikyokaishi.49.592.
- ⌃浅越 博雅(1970)「皮膚内ニコチン酸に関する実験的研究」日本皮膚科学会雑誌(80)(5),273-296. DOI:10.14924/dermatol.80.273.
- ⌃二井 將光(2017)「植物から動物へ。糖を変換してATPエネルギー生産」生命を支えるATPエネルギー メカニズムから医療への応用まで,31-68.
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