ラフィノースの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ラフィノース |
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INCI名 | Raffinose |
配合目的 | バリア機能修復 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるガラクトース、グルコース、フルクトース分子が1個ずつグリコシド結合した三糖(非還元性三糖)(∗1)です[1][2a]。
∗1 三糖とは、3分子の単糖が2つのグリコシド結合で繋がったオリゴ糖のことをいいます。
1.2. 物性・性状
ラフィノースの物性・性状は、
状態 | 柱状晶 |
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溶解性 | 水に易溶、エタノールに不溶 |
このように報告されています[3]。
1.3. 分布
ラフィノースは、植物界において高等植物に広く存在し、とくにビート(甜菜)、サトウキビ、ハチミツ、キャベツ、じゃがいも、ブドウ、各種麦類、トウモロコシ、多くのマメ科植物の種子などに存在しています[2b]。
1.4. 化粧品以外の主な用途
ラフィノースの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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食品 | ビフィズス菌増殖作用があることから、腸内細菌叢の割合を変化させる整腸目的の特定保険用食品として認可および利用されています[4]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- ラメラ液晶構造の形成促進によるバリア機能修復作用
主にこれらの目的で、スキンケア製品、日焼け止め製品、ボディケア製品、ハンドケア製品、マスク製品、洗顔石鹸、洗顔料など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. ラメラ液晶構造の形成促進によるバリア機能修復作用
ラメラ液晶構造の形成促進によるバリア機能修復作用に関しては、まず前提知識として角質層における細胞間脂質の構造について解説します。
以下の表皮最外層である角質層の構造をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
角質層は天然保湿因子を含む角質細胞と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、細胞間脂質は主に、
細胞間脂質構成成分 | 割合(%) |
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セラミド | 50 |
遊離脂肪酸 | 20 |
コレステロール | 15 |
コレステロールエステル | 10 |
糖脂質 | 5 |
このような脂質組成で構成されており[5]、その約50%をセラミドが占めています。
これら細胞間脂質は以下の図のように、
疎水層(脂質)と親水層(水分)を繰り返すラメラ液晶構造を形成していることが大きな特徴であり、脂質が結合水(∗2)を挟み込むことで水分を保持し、角質細胞間に層状のラメラ液晶構造を形成することでバリア機能を発揮すると考えられており、このバリア機能は、皮膚内の過剰な水分蒸散の抑制および一定の水分保持、外的刺激から皮膚を防御するといった重要な役割を担っています。
∗2 結合水とは、たんぱく質分子や親液コロイド粒子などの成分物質と強く結合している水分であり、純粋な水であれば0℃で凍るところ、角層中の水のうち33%は-40℃まで冷却しても凍らないのは、角層内に存在する水のうち約⅓が結合水であることに由来しています[6]。
このような背景から、バリア機能が低下している場合においてラメラ液晶構造の形成を促進することは、バリア機能の改善、ひいてはドライスキンの改善や皮膚の健常性を維持するために重要なアプローチのひとつであると考えられます。
2005年にファンケル総合研究所によって報告されたラフィノースのラメラ液晶構造に対する影響検証およびヒト皮膚バリア機能における有用性検証によると、
– in vitro : ラメラ構造の形成促進作用 –
角層細胞間脂質の主要構成成分を混合することで人工的な細胞間脂質を形成し、人工細胞間脂質の形成過程において水または糖質の水溶液(糖質と水の重量比 1:69)を添加した。
評価としては、水または糖質の水溶液を添加したときのラメラ液晶構造の形成状態を、偏光顕微鏡を用いてマルターゼクロス形成部分の総面積を算出し、10箇所の平均を求め、糖質を添加しないコントロールに対する面積増加率をラメラ液晶構造形成促進率として実施したところ、以下の表のように、
分類 | 名称 | ラメラ構造 形成促進率(%) |
---|---|---|
ブランク | なし(水) | – |
単糖 | リボース | -15.7 |
グルコース | 40.7 | |
二糖 | スクロース | 4.4 |
メリビオース | 28.9 | |
三糖 | ラフィノース | 58.8 |
マルトトリオース | 8.8 |
ラフィノースのラメラ液晶構造形成促進率は、58.8%とグルコースの40%と同様に高いことが確認された。
またスクロース、マルトトリオースは形成促進効果をほとんど示さず、一方でリボースは負の値を示し、ラメラ液晶構造の形成を阻害した。
ラメラ液晶構造における水分は、細胞間脂質の親水基に挟まれている部分に存在し、その水分の存在はラメラ液晶構造の安定化にも寄与していますが、糖質の親水的な性質がラメラ液晶構造形成過程において親水部分に寄与し、構造の安定化を補助している可能性が考えられた。
– ヒト使用試験 –
被検者の上腕内側部に0.3%ラフィノース配合化粧水およびラフィノース未配合化粧水を1日2回6日間にわたって塗布し、2日おきに10日目まで角層水分量を、3および6日目に経表皮水分蒸散量()を、6日目に角層ラメラ液晶率をそれぞれ評価したところ、以下のグラフのように、
角層水分量については、使用前と比較して使用3および6日後までは有意な増加を認めたものの、未配合化粧水と比較した場合に有意差は認めなかった。
しかし、使用を中止した7日目から10日においては角層水分量はいずれも減少したが、未配合化粧水と比較してラフィノース配合化粧水塗布部位はその減少量が有意(p<0.05)に低かった。
経表皮水分量については、使用前と比較して使用3および6日後で有意(p<0.05)な減少を認めた。
ラメラ液晶率については、使用6日後でラフィノース配合化粧水は未配合化粧水と比較して有意(p=0.01)に高かった。
この結果は、ラフィノースが角層細胞間脂質のラメラ液晶を構成する脂質二分子膜の安定な形成に寄与したことが示唆され、角層水分量の持続的効果および経表皮水分蒸散量の減少といった角層バリア機能の向上に関係していると考えられた。
このような検証結果が明らかにされており[7]、ラフィノースにラメラ液晶構造の形成促進によるバリア機能修復作用が認められています。
3. 安全性評価
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
3.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
3.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
4. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ラフィノース」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,1067.
- ⌃ab名倉 泰三(1998)「ラフィノース」オリゴ糖の新知識,307-319.
- ⌃大木 道則, 他(1989)「ラフィノース」化学大辞典,2447.
- ⌃鴨井 久一・清信 浩一(1998)「ラフィノースが生体に及ぼす作用について -免疫担当細胞に与える影響-」Fragrance Journal(26)(7),57-62.
- ⌃芋川 玄爾(1995)「皮膚角質細胞間脂質の構造と機能」油化学(44)(10),751-766. DOI:10.5650/jos1956.44.751.
- ⌃G. Imokawa, et al(1991)「Stratum corneum lipids serve as a bound-water modulator」Journal of Investigative Dermatology(96)(6),845-851. PMID:2045673.
- ⌃櫻井哲人・坂谷 志織(2005)「ラフィノースのバリア機能改善効果」Fragrance Journal(33)(10),57-63.