ライスパワーNo.6(米エキスNo.6)の基本情報・配合目的・安全性
医薬部外品表示名 | ライスパワーNo.6、米エキスNo.6 |
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愛称 | ライスパワーエキスNo.6 |
配合目的 | 皮脂抑制 |
ライスパワーNo.6は、勇心酒造の申請によって2015年に医薬部外品の皮脂分泌抑制の有効成分として厚生労働省に承認された成分です。
ライスパワーNo.6は、「米エキスNo.6」と表示されることもあり、これらは同一成分です。
1. 基本情報
1.1. 定義
白米から得られるエキスを複数の乳酸菌・酵母・麹菌といった微生物で発酵・熟成することにより得られる米発酵抽出物(植物エキス)です[1a]。
2. 医薬部外品(薬用化粧品)としての配合目的
- 皮脂腺の脂質合成低下による皮脂抑制作用
主にこれらの目的で、スキンケア製品などに使用されています。
以下は、医薬部外品(薬用化粧品)として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 皮脂腺の脂質合成低下による皮脂抑制作用
皮脂腺の脂質合成低下による皮脂抑制作用に関しては、まず前提知識として皮脂の構造と役割について解説します。
皮脂とは、以下の皮膚の最外層である角質層の構造図および皮脂の流れ図をみてもらえるとわかりやすいと思いますが、
狭義には皮脂腺で合成された脂質が毛包を通って皮膚表面に分泌される脂肪のことをいい、主にスクワレン、ワックス(ロウ)、脂肪酸系物質(トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、遊離脂肪酸)(∗1)で構成されています[2a][3a]。
∗1 遊離脂肪酸は、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸などです。
また、表皮細胞(角化細胞)は分化の過程においてコレステロール、コレステロールエステルなどの表皮脂質を産生し、この表皮脂質と皮脂腺由来の皮脂が皮膚表面で混ざったものを皮表脂質といいます[2b][3b]。
このような背景から皮表脂質の組成は、ヒトによって含有量が異なり、また同じヒトであっても日によって変動がありますが、
由来 | 成分 | 含量範囲(%) |
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表皮細胞 | コレステロールエステル | 1.5 – 2.6 |
コレステロール | 1.2 – 2.3 | |
皮脂腺 | スクワレン | 10.1 – 13.9 |
ワックス | 22.6 – 29.5 | |
トリグリセリド | 19.5 – 49.4 | |
ジグリセリド | 2.3 – 4.3 | |
遊離脂肪酸 | 7.9 – 39.0 |
このように報告されており[4]、皮脂腺由来の脂肪が約90%を占めることから、広義には皮表脂質も皮脂とよばれています。
皮表脂質は、皮膚表面で汗と混合(乳化)して薄い脂肪の膜をつくり、皮表脂質膜(皮脂膜)を形成することで、
- 皮膚や毛髪にうるおいやなめらかさを付与する
- 外界の刺激から皮膚を保護
- 弱酸性を示し外部の影響などによってアルカリ性となった皮膚を元のpH値に戻す緩衝作用
- 有害な細菌の増殖を抑制
このような生理的役割を担っています[5]。
一方で、皮脂の分泌が過剰な場合は、脂性肌という主観的な認識に結びつき、肌のテカリやベタつきといった皮脂由来の直接的な肌の悩みだけでなく、皮膚表面の洗浄作用が低下し、ほこりや雑菌が付着、繁殖しやすくなり、脂漏性湿疹、ざ瘡(ニキビ)発症の原因となります[2c][6]。
さらに、過剰な皮脂は毛包周辺の角層細胞とともに角栓を形成し、毛穴の開大を招いたり、皮膚表面上の皮脂が紫外線により酸化し、この過酸化脂質が角層細胞にダメージを与え、バリア機能を低下させるなどの悪影響をもたらすことが知られています。
このような背景から、過剰な皮脂を抑制することは、皮膚を健常に保つ上で重要であると考えられます。
2017年に勇心酒造によって報告されたライスパワーNo.6の皮脂腺に対する影響検証およびヒト皮膚皮脂に対する有用性検証によると、
– in vitro : 皮脂腺の脂質合成抑制作用 –
皮脂腺培養細胞にライスパワーNo.6を添加し、皮脂腺脂質合成量を測定したところ、以下のグラフのように、
ライスパワーNo.6は、皮脂腺の脂質合成量を有意(p<0.01)に減少させることがわかった。
– ヒト使用試験 –
健常な皮膚を有する24名の被検者にライスパワーNo.6配合製剤を1日2回7日にわたって連用し、1,3,5および7日および塗布中止8日後まで脂取紙で皮脂を吸着させて皮脂採取量を測定したところ、以下のグラフのように、
ライスパワーNo.6配合製剤は、1日目から有意(p<0.05)に皮脂を抑制し、7日目ではさらに有意(p<0.01)に皮脂を抑制することが確認された。
また、ライスパワーNo.6配合製剤を顔面の片側に塗布し、残りの片側に未配合製剤を塗布するハーフフェイス法によって皮脂量の増減率を算出したところ、以下のグラフのように、
ライスパワーNo.6配合製剤は、未配合製剤と比較して有意(p<0.01)に皮脂分泌の抑制効果を示した。
このような検証結果が明らかにされており[7]、ライスパワーNo.6に皮脂腺の脂質合成低下による皮脂抑制作用が認められています。
ライスパワーNo.6の皮脂抑制作用は、皮脂腺細胞にのみ作用し、皮膚の他の細胞たとえば角層の細胞間脂質の合成などには影響をおよぼさないことが確認されているほか、男性ホルモンに依存しないことも確認されています[1b]。
3. 安全性評価
- 2015年に医薬部外品有効成分に承認
- 5年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、医薬部外品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
3.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
詳細な安全性試験データがみあたりませんが、医薬部外品有効成分に承認されていることから、皮膚刺激性および皮膚感作性については問題はないと考えられます。
また、5年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がないこともライスパワーNo.6の安全性を裏付けていると考えられます。
3.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
4. 参考文献
- ⌃ab松野 孝祐, 他(2019)「各種機能性を有する米発酵エキスの研究開発」化学と生物(57)(2),129-133. DOI:10.1271/kagakutoseibutsu.57.129.
- ⌃abc朝田 康夫(2002)「皮脂腺の機能と構造」美容皮膚科学事典,38-45.
- ⌃ab朝田 康夫(2002)「皮表脂質の組成とその由来」美容皮膚科学事典,45-48.
- ⌃D.T. Downing, et al(1969)「Variability in the Chemical Composition of Human Skin Surface Lipids」Journal of Investigative Dermatology(53)(5),322-327. DOI:10.1038/jid.1969.157.
- ⌃松尾 聿朗・犬飼 則子(1988)「皮表脂質の生理的役割」油化学(37)(10),827-831. DOI:10.5650/jos1956.37.827.
- ⌃D.T. Downing, et al(1986)「Essential fatty acids and acne」Journal of the American Academy of Dermatology,(14)(2)221-225. DOI:10.1016/S0190-9622(86)70025-X.
- ⌃勇心酒造株式会社(2017)「日本初!「皮脂分泌を抑制する」効能の医薬部外品 勇心酒造株式会社が製造販売承認を取得 皮脂腺に直接働きかける新規有効成分ライスパワーNo.6を開発」, 2018年3月18日アクセス.