皮脂抑制成分の解説と成分一覧
皮脂抑制成分の定義
皮脂抑制成分とは、皮脂の分泌を抑制する成分のことをいいます[1]。
皮脂の構造と役割
皮脂とは、以下の皮膚の最外層である角質層の構造図および皮脂の流れ図をみてもらえるとわかりやすいと思いますが、
狭義には皮脂腺で合成された脂質が毛包を通って皮膚表面に分泌される脂肪のことをいい、主にスクワレン、ワックス(ロウ)、脂肪酸系物質(トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、遊離脂肪酸)(∗1)で構成されています[2a][3a]。
∗1 遊離脂肪酸は、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸などです。
また、表皮細胞(角化細胞)は分化の過程においてコレステロール、コレステロールエステルなどの表皮脂質を産生し、この表皮脂質と皮脂腺由来の皮脂が皮膚表面で混ざったものを皮表脂質といいます[2b][3b]。
このような背景から皮表脂質の組成は、ヒトによって含有量が異なり、また同じヒトであっても日によって変動がありますが、
由来 | 成分 | 含量範囲(%) |
---|---|---|
表皮細胞 | コレステロールエステル | 1.5 - 2.6 |
コレステロール | 1.2 - 2.3 | |
皮脂腺 | スクワレン | 10.1 - 13.9 |
ワックス | 22.6 - 29.5 | |
トリグリセリド | 19.5 - 49.4 | |
ジグリセリド | 2.3 - 4.3 | |
遊離脂肪酸 | 7.9 - 39.0 |
このように報告されており[4]、皮脂腺由来の脂肪が約90%を占めることから、広義には皮表脂質も皮脂とよばれています。
皮表脂質は、皮膚表面で汗と混合(乳化)して薄い脂肪の膜をつくり、皮表脂質膜(皮脂膜)を形成することで、
- 皮膚や毛髪にうるおいやなめらかさを付与する
- 外界の刺激から皮膚を保護
- 弱酸性を示し外部の影響などによってアルカリ性となった皮膚を元のpH値に戻す緩衝作用
- 有害な細菌の増殖を抑制
このような生理的役割を担っています[5]。
一方で、皮脂の分泌が過剰な場合は、脂性肌という主観的な認識に結びつき、肌のテカリやベタつきといった皮脂由来の直接的な肌の悩みだけでなく、皮膚表面の洗浄作用が低下し、ほこりや雑菌が付着、繁殖しやすくなり、脂漏性湿疹、ざ瘡(ニキビ)発症の原因となります[2c][6]。
さらに、過剰な皮脂は毛包周辺の角層細胞とともに角栓を形成し、毛穴の開大を招いたり、皮膚表面上の皮脂が紫外線により酸化し、この過酸化脂質が角層細胞にダメージを与え、バリア機能を低下させるなどの悪影響をもたらすことが知られています。
このような背景から、過剰な皮脂を抑制することは、皮膚を健常に保つ上で重要であると考えられます。
皮脂抑制アプローチ
化粧品において皮脂抑制成分とは、過剰な皮脂の分泌を抑制する成分であり、実際の皮脂抑制作用としては、
- 皮脂腺の脂質合成低下
主にこのように作用する成分が報告されており、この効果を有することで過剰な皮脂の抑制にアプローチします。
医薬部外品皮脂抑制有効成分一覧
皮脂抑制成分には、厚生労働省に医薬部外品として皮脂抑制効果と安全性が認められた皮脂抑制有効成分があり、それらの成分を医薬部外品の配合範囲内で配合し、認可されたものは医薬部外品の薬用化粧品として販売されます。
ただし、必ずしも医薬部外品に承認された皮脂抑制有効成分を配合した薬用化粧品のほうが承認されていない皮脂抑制成分配合化粧品よりも効果が高いというわけではなく、薬用化粧品はあくまでも国によって皮脂抑制効果が認められる配合範囲量を含有した製品であるということであり、一方で化粧品は濃度や効果が製造・販売会社に委ねられているということです。
以下に現時点までの医薬部外品に承認された皮脂抑制有効成分をまとめました(∗2)。
∗2 医薬部外品表示名称の()内は愛称です。
医薬部外品表示名 | 承認年 | 皮脂抑制作用点 |
---|---|---|
ライスパワーNo.6 米エキスNo.6 (ライスパワーエキスNo.6) | 2015 | 皮脂腺の脂質合成低下 |
参考文献
- ⌃近 亮(2003)「皮脂分泌抑制剤」化粧品事典,683.
- ⌃abc朝田 康夫(2002)「皮脂腺の機能と構造」美容皮膚科学事典,38-45.
- ⌃ab朝田 康夫(2002)「皮表脂質の組成とその由来」美容皮膚科学事典,45-48.
- ⌃D.T. Downing, et al(1969)「Variability in the Chemical Composition of Human Skin Surface Lipids」Journal of Investigative Dermatology(53)(5),322-327. DOI:10.1038/jid.1969.157.
- ⌃松尾 聿朗・犬飼 則子(1988)「皮表脂質の生理的役割」油化学(37)(10),827-831. DOI:10.5650/jos1956.37.827.
- ⌃D.T. Downing, et al(1986)「Essential fatty acids and acne」Journal of the American Academy of Dermatology,(14)(2)221-225. DOI:10.1016/S0190-9622(86)70025-X.
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