ソルビン酸の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ソルビン酸 |
---|---|
医薬部外品表示名 | ソルビン酸 |
INCI名 | Sorbic Acid |
配合目的 | 防腐 |
1. 基本情報
1.1. 定義
1.2. 分布
ソルビン酸は、自然界において全国に普通に分布し北海道や東北地方では街路樹や公園樹としてよく植えられているナナカマド(学名:Sorbus commixta)の未成熟果汁中に存在しています[2b][3a]。
1.3. 化粧品以外の主な用途
ソルビン酸の化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
---|---|
食品 | 保存料として食品に用いられています[3b]。 |
医薬品 | 防腐、保存目的の医薬品添加剤として経口剤、外用剤、眼科用剤、口中用剤などに用いられています[4]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 防腐
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、マスク製品、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、ボディソープ製品、ネイル製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 防腐
防腐に関しては、ソルビン酸は食品の保存剤としても承認されている油溶性の防腐剤であり、強くはないものの酸性域のみでカビ、酵母、好気性菌に対して広い抗菌スペクトルを示すことが知られています[3c][5]。
1990年にドイツのHoechst AGによって報告されたソルビン酸の抗菌活性検証によると、
– in vitro : 抗菌活性試験 –
寒天培地を用いて化粧品の腐敗でよく見受けられる様々なカビ、酵母および細菌に対するソルビン酸のMIC(minimum inhibitory concentration:最小発育阻止濃度)をpH6.0で検討したところ、以下の表のように、
微生物 | MIC(μg/mL) [pH6.0] |
---|---|
緑膿菌(グラム陰性桿菌) Pseudomonas aeruginosa |
100 – 300 |
大腸菌(グラム陰性桿菌) Escherichia coli |
50 – 100 |
黄色ブドウ球菌(グラム陽性球菌) Staphylococcus aureus |
50 – 100 |
カンジダ(酵母) Candida albicans |
25 – 50 |
コウジカビ(カビ) Aspergillus brasiliensis |
200 – 500 |
ソルビン酸は酵母に対して高い静菌活性を示し、細菌(グラム陰性菌、グラム陽性菌)に対する活性は弱い傾向がみられた。
このような検証結果が明らかにされており[6]、ソルビン酸に防腐作用が認められています。
3. 配合製品数および配合量範囲
ソルビン酸は、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。
種類 | 配合量 | その他 |
---|---|---|
薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 | 0.5 | すべてのソルビン酸塩をソルビン酸に換算して、ソルビン酸として合計。 |
育毛剤 | 0.5 | |
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 | 0.5 | |
薬用口唇類 | 0.5 | |
薬用歯みがき類 | 0.5 | |
浴用剤 | 0.5 | |
染毛剤 | 0.5 | ソルビン酸及びソルビン酸カリウムの合計 |
パーマネント・ウェーブ用剤 | 0.5 |
また、ソルビン酸は配合制限成分リスト(ポジティブリスト)収載成分であり、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。
種類 | 最大配合量(g/100g) |
---|---|
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの | ソルビン酸およびその塩類の合計量として0.5 |
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの | |
粘膜に使用されることがある化粧品 |
化粧品に対する実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1988年および2005-2006年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
4. 安全性評価
- 食品添加物の指定添加物リストに収載
- 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし-最小限
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 経皮吸収・代謝・排泄:経皮吸収後に水と二酸化炭素に酸化され、残りは尿排泄される
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[7a]によると、
- [ヒト試験] 102名の被検者に0.1%ソルビン酸を含むアイメイクアップリムーバーをパッチテストしたところ、この成否ィンは非刺激および非感作剤であった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1981)
- [ヒト試験] 54名の被検者に0.1%ソルビン酸を含むアイメイクアップリムーバーを4週間使用してもらったところ、いずれの被検者も皮膚刺激を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1981)
- [ヒト試験] 86名の被検者に0.5%ソルビン酸水溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、この試験物質は最小限の皮膚刺激を示したが、接触性皮膚感作反応は示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1982)
- [ヒト試験] 52名の被検者に0.2%ソルビン酸を含む製剤を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、この試験物質は最小限の皮膚刺激を示したが、アレルギー性皮膚感作反応は示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1979)
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激は非刺激-最小限の皮膚刺激が報告されていますが、共通して皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性は非刺激-最小限の皮膚刺激を引き起こす可能性があり、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[7b]によると、
- [動物試験] 3匹のウサギの片眼に1%,5%および10%ソルビン酸水溶液(pH不明)を点眼し、Draize法に基づいて1,2および24時間後に眼刺激性を評価したところ、眼刺激スコアは濃度1%,5%,10%で最大110のうちそれぞれ0.7,0.7,2であり、この試験物質は眼刺激剤ではなかった(Bourrinet,1975)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に0.1%ソルビン酸を含むアイメイクアップリムーバーを点眼し、Draize法に基づいて眼刺激性を評価したところ、眼刺激スコアは0であり、この試験物質は眼刺激剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
4.3. 経皮吸収および体内挙動(代謝、排泄)
体内挙動に関しては、ソルビン酸は生体内に吸収され、不飽和脂肪酸であることから通常の脂肪酸と同様に最終的に二酸化炭素と水に酸化され、残りはソルビン酸のまま、またはごく一部(0.05-0.5%)がムコン酸として尿排泄されることが明らかにされています[7c]。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ソルビン酸」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,625.
- ⌃ab大木 道則, 他(1989)「ソルビン酸」化学大辞典,1319.
- ⌃abc樋口 彰, 他(2019)「ソルビン酸」食品添加物事典 新訂第二版,209-210.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「ソルビン酸」医薬品添加物事典2021,364-365.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(2006)「殺菌・防腐剤」新化粧品原料ハンドブックⅠ,458-470.
- ⌃K.H. Wallhausser(1990)「香粧品工業で使用されている防腐剤」香粧品 医薬品 防腐・殺菌剤の科学,501-565.
- ⌃abcR. Elder(1988)「Final Report on the Safety Assessment of Sorbic Acid and Potassium Sorbate」Journal of the American College of Toxicology(7)(6),837-880. DOI:10.3109/10915818809078711.