安息香酸Naの基本情報・配合目的・安全性

安息香酸Na

化粧品表示名 安息香酸Na
医薬部外品表示名 安息香酸ナトリウム
部外品表示簡略名 安息香酸Na、安息香酸塩
INCI名 Sodium Benzoate
配合目的 防腐

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表される安息香酸のナトリウム塩です[1][2]

安息香酸Na

1.2. 化粧品以外の主な用途

安息香酸Naの化粧品以外の主な用途としては、

分野 用途
食品 保存料として清涼飲料水、シロップ、醤油、マーガリン、キャビアなど使用基準で認められている食品に用いられています[3a]
医薬品 安定・安定化、可溶・可溶化、緩衝、防腐、保存、溶解補助目的の医薬品添加剤として経口剤、各種注射、外用剤、口中用剤、眼科用剤などに用いられています[4]

これらの用途が報告されています。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 防腐

主にこれらの目的で、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、メイクアップ製品、洗顔料、クレンジング製品、ボディソープ製品、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、シート&マスク製品など様々な製品に汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 防腐

防腐に関しては、安息香酸Naは食品・飲料の保存剤としても承認されている水溶性の防腐剤であり[3b]、酸性域のみで静菌性(pH5.5付近で最大の効果)を示しアルカリ性には不活性であることから、主にシャンプー製品など洗浄系製品を中心に汎用されています[5][6][7]

大阪市立衛生研究所によって報告された安息香酸Naの抗菌活性検証によると、

– in vitro : 抗菌活性試験 –

寒天培地を用いて化粧品の腐敗でよく見受けられる様々なカビ、酵母および細菌に対する安息香酸NaのMIC(minimum inhibitory concentration:最小発育阻止濃度)を検討し、代表的な化粧品の防腐剤であるメチルパラベンと比較したところ、以下の表のように、

微生物 MIC(%)
メチルパラベン 安息香酸Na
枯草菌
(グラム陽性桿菌)
0.15 >0.12
黄色ブドウ球菌
(グラム陽性球菌)
0.15 >0.12
コウジカビ
(カビ)
0.075 >0.12
チゴサッカロミセス
(酵母)
0.075 >0.12

安息香酸Naは、メチルパラベンと比較してグラム陽性菌に対しては高い抗菌活性を、カビや酵母に対しては低い抗菌活性を示した。

このような検証結果が明らかにされており[8]、安息香酸Naに防腐作用が認められています。

3. 配合製品数および配合量範囲

安息香酸ナトリウムは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。

種類 配合量
薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 1.0
育毛剤 1.0
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 1.0
薬用口唇類 1.0
薬用歯みがき類 1.0
浴用剤 1.0
染毛剤 1.0
パーマネント・ウェーブ用剤 1.0

また、安息香酸Naは配合制限成分リスト(ポジティブリスト)収載成分であり、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。

種類 最大配合量(g/100g)
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの 安息香酸塩類の合計量として1.0。
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの
粘膜に使用されることがある化粧品

化粧品に対する実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2010-2011年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗1)

∗1 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

安息香酸Naの配合製品数と配合量の調査(2010-2011年)

4. 安全性評価

安息香酸Naの現時点での安全性は、

  • 食品添加物の指定添加物リストに収載
  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 40年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:濃度0.2%以下においてほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし-わずか
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 皮膚感作性(皮膚炎を有する場合):まれに皮膚感作を引き起こす可能性あり
  • 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
  • 光感作性:ほとんどなし
  • 経皮吸収・代謝・排泄:経皮吸収後に尿排泄される

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

ただし、皮膚炎を有する場合または皮膚感作経験がある場合は、まれに皮膚感作を引き起こす可能性があるので注意が必要です。

以下は、この結論にいたった根拠です。

試験データには安息香酸のものもありますが、安息香酸と安息香酸Naはほぼ同じ物性であり、安息香酸のデータが安息香酸Naのデータとして適用できると考えられることから、安息香酸Naの試験データがないものは安息香酸のデータで代用しています。

4.1. 皮膚刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9a]によると、

  • [ヒト試験] 12名の被検者に0.2%安息香酸を含むファンデーションを1週間のうち3回、24時間閉塞パッチ適用し、試験部位をパッチ除去後すぐおよび24時間後に皮膚刺激性を評価したところ、皮膚反応は観察されなかった(Biosearch Inc,1992)
  • [ヒト試験] 24名の被検者に0.2%安息香酸を含むファンデーションを45日にわたって1日2回パッチ適用し、皮膚刺激性を15,21および35日目に看護師によって評価したところ、皮膚刺激指数はすべて0であった(Education and Research Foundation Inc,1992)

– ニキビを有する場合 –

  • [ヒト試験] 軽度-中程度のニキビを有する24名の患者に0.2%安息香酸を含むファンデーションを45日にわたって1日2回パッチ適用し、ニキビの病変および刺激性を0,3,7,10,28および45日目に皮膚科医によって評価したところ、ニキビの有無による病変の有意な変化は観察されず、皮膚刺激指数はすべて0であった。被験者の主観的なログには、時折乾燥またはかゆみが発生することが記録されていた(Education and Research Foundation Inc,1992)

このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に濃度0.2%以下において皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

4.2. 眼刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[10]によると、

  • [動物試験] ウサギの片眼に安息香酸Na(濃度不明)を適用したところ、わずかな眼刺激があった(OECD SIDS,2001)

このように記載されており、試験データをみるかぎりわずかな眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-わずかな眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

4.3. 皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9b]によると、

  • [ヒト試験] 75名の被検者に0.2%安息香酸を含むファンデーションを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの期間においても皮膚反応はなかった(Biosearch Inc,1992)
  • [ヒト試験] 25名のボランティアに2%安息香酸を含む軟膏を対象にMaximization皮膚感作試験を実施したところ、皮膚反応は観察されなかった(Kligman,1977;Opdyke,1979)

– 皮膚炎を有する場合 –

  • [ヒト試験] 以前に過酸化ベンゾイルで陽性反応を示した10名の被検者に5%安息香酸を含む軟膏を対象にMaximization皮膚感作試験を実施したところ、感作反応は誘発されなかった(Leyden and Kligman,1977)
  • [ヒト試験] アレルギ-性接触性皮膚炎の可能性を有する5,202名の患者(537名は化粧品において刺激またはアレルギーの既往歴あり)に安息香酸を対象にパッチテストしたところ、34名(0.7%)に感作反応が認められた。化粧品アレルギーを有する155名の中では1名のみ感作反応が認められた(Broeckx,1987)

このように記載されており、試験データをみるかぎり健常な皮膚を有する場合において共通して皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

皮膚炎を有する場合または過去にアレルギーの既往歴がある場合はまれに皮膚感作が報告されていることから、皮膚感作性はまれに皮膚感作を引き起こす可能性があると考えられます。

4.4. 光毒性(光刺激性)および光感作性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9c]によると、

  • [ヒト試験] 77名の被検者に0.1%安息香酸を含む製剤を対象に光感作試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの期間においても光感作反応はなかった(Biosearch Inc,1991)
  • [ヒト試験] 10名の被検者に0.2%安息香酸を含むファンデーションを対象に光感作試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの期間においてもUVAおよびUVBに対する光毒性はなかった(Biosearch Inc,1992)
  • [ヒト試験] 30名の被検者に0.2%安息香酸を含むファンデーションを対象に光感作試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの期間においても光感作反応はなかった(Biosearch Inc,1992)

このように記載されており、試験データをみるかぎり光刺激および光感作なしと報告されていることから、一般に光毒性(光刺激性)および光感作性はほとんどないと考えられます。

4.5. 経皮吸収および体内挙動(代謝、排泄)

体内挙動に関しては、経口摂取による安息香酸および安息香酸Naは肝臓でグリシンと結合して馬尿酸となり、用量の75%-100%が6時間以内に尿中に排泄され、残りの用量は2-3日以内に排泄されると報告されています[9d]

経皮吸収性においては、以下のように、

  • ワセリン中に安息香酸を塗布したところ、用量の60.5%が吸収された(Bronaugh and Franz,1986)
  • 24時間内の尿中の安息香酸排泄量を定量化し、身体領域の2ヶ所に安息香酸を塗布した後、ある部位をテープで剥離し角質層中の安息香酸の量を測定したところ、尿からの定量値はテープ剥離から推定された予測値と同等であった(Rougier et al,1986)
  • 経皮吸収に対する加齢の影響を検討するために、22-40歳グループと41-64歳グループに分け、2つのグループの前腕に安息香酸を含むアセトンを24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に塗布部位を洗浄する手順を7日目まで続けた。7日間の尿排泄を分析したところ、22-40歳グループでは、適用量の36.2±4.6%が経皮吸収されたことを示し、一方で41-64歳グループでは、適用量の19.5±1.6%が経皮吸収されたことを示した。その差は統計的に有意であった(Roskos et al,1989)

このように報告されており[9e]、また安息香酸と安息香酸Naの生体内変換は同等であることが実証されているため[9f][11]、安息香酸Naは経皮吸収された後に尿排泄されることが認められています。

5. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「安息香酸Na」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,169.
  2. 大木 道則, 他(1989)「安息香酸ナトリウム」化学大辞典,132.
  3. ab樋口 彰, 他(2019)「安息香酸ナトリウム」食品添加物事典 新訂第二版,33.
  4. 日本医薬品添加剤協会(2021)「安息香酸ナトリウム」医薬品添加物事典2021,43-44.
  5. 浅賀 良雄(2021)「シャンプー類」Q&A122 化粧品の微生物試験ガイドブック 製品編 – 防腐設計,製造工程管理から出荷検査,クレーム対策まで – ,103-108.
  6. 日光ケミカルズ株式会社(2006)「殺菌・防腐剤」新化粧品原料ハンドブックⅠ,458-470.
  7. 五十嵐 良明, 他(2010)「化粧品中の防腐剤の分析:サリチル酸,安息香酸ナトリウム,デヒドロ酢酸ナトリウム,ソルビン酸カリウム,フェノキシエタノール及びパラベン類」国立医薬品食品衛生研究所報告(128),85-90.
  8. 大阪化成株式会社(-)「イソプロピルメチルフェノール」技術資料.
  9. abcdefB. Nair(2001)「Final Report on the Safety Assessment of Benzyl Alcohol, Benzoic Acid, and Sodium Benzoate」International Journal of Toxicology(20)(3_Suppl),23-50. DOI:10.1080/10915810152630729.
  10. W. Johnson, et al(2017)「Safety Assessment of Benzyl Alcohol,Benzoic Acid and its Salts, and Benzyl Benzoate」International Journal of Toxicology(36)(3_Suppl),5S-30S. DOI:10.1177/1091581817728996.
  11. K. Kubota & T. Ishizaki(1991)「Dose-dependent pharmacokinetics of benzoic acid following oral administration of sodium benzoate to humans」European Journal of Clinical Pharmacology(41)(4),363–368. DOI:10.1007/bf00314969.

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