サリチル酸の基本情報・配合目的・安全性

サリチル酸

化粧品成分表示名称 サリチル酸
医薬部外品表示名称 サリチル酸
配合目的 防腐 など

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表される、ベンゼン環のオルト位(∗1)にヒドロキシ基(-OH)をもつ芳香族カルボン酸(∗2)かつβ-ヒドロキシ酸(∗3)です[1][2]

∗1 オルト位(ortho)とは、芳香族炭化水素上の水素以外の置換基を1とした場合の2つ目の位置を指します。以下のサリチル酸の化学式でみた場合は、環の右にカルボキシ基(-COOH)をもち、カルボキシ基(-COOH)を1とした場合に隣接した右上または下を相対的に2(オルト:ortho-:o-)、左上または下を3(メタ:meta:m-)、左を4(パラ:para:p-)とし、安息香酸のオルト位にヒドロキシ基(-OH)をもつことからオルトヒドロキシ安息香酸(o-ヒドロキシ安息香酸)となります。化学分野においては2つ目にヒドロキシ基をもつことからそのまま2-ヒドロキシ安息香酸とも命名されています。

∗2 カルボン酸(carboxylic acid)とは、少なくとも1個のカルボキシ基(−COOH)を有する有機酸であり、分子中に芳香環であるベンゼン環をもちベンゼン環にカルボキシ基(−COOH)が直接結合した有機化合物を芳香族カルボン酸といいます。ベンゼン環を含む化合物はよい香りをもつものが多かったことから芳香族の名で呼ばれるようになりましたが、必ずしも芳香性を有しているわけではありません。

∗3 「ヒドロキシ酸(hydroxy acid)」は、1分子中にカルボキシ基(-COOH)とヒドロキシ基(-OH)をもつ有機化合物の総称であり、「ヒドロキシカルボン酸(hydroxy carboxylic acid)」、「オキシ酸(oxy-acid)」ともいいます[3]

サリチル酸

1.2. 歴史

サリチル酸は、植物にエステルなどの形で存在し、1853年にセイヨウナツユキソウ(学名:Filipendula ulmaria)から単離され、合成法を確立した1885年以降に鎮痛剤として利用されはじめ、現在においても鎮痛剤として汎用されています[4a]

ただし、サリチル酸の構造や薬効が解明される以前、古くは紀元前400年頃にギリシャの医師であるヒポクラテスによってヤナギの樹皮を噛むことで痛みや熱が和らぐ鎮痛効果が、紀元後の中国ではヤナギの小枝で歯間をこすることによる歯痛の治療効果が伝えられており、これらヤナギの鎮痛作用は1829年にヤナギの樹皮から単離されたサリシン(salicin)(∗4)によるものであり、人類は経験的に紀元前からサリチル酸を利用してきたと考えられています[4b]

∗4 サリシン(salicin)は服用することでサリチル酸に分解されます。

1.3. 化粧品以外の主な用途

サリチル酸の化粧品以外の主な用途としては、

分野 用途
医薬品 濃度50%の場合は角質軟化溶解作用目的で疣贅(いぼ)などの治療薬として、濃度5%-10%の場合は角質軟化作用目的で角化症などの治療薬として用いられ[5a]、微量の場合は防腐、保存目的の医薬品添加剤として経口剤、外用剤に用いられています[6]

これらの用途が報告されています。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 防腐

主にこれらの目的で、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ化粧品、化粧下地製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、ボディソープ製品、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、ヘアカラー製品、香水、入浴剤など様々な製品に汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 防腐

防腐に関しては、サリチル酸は酸性領域(最適pH4.0-6.0)において静菌(生育抑制)活性をもつ防腐剤として知られており、濃度0.025%-0.2%の範囲で使用されています[7][8a]

1990年にドイツのHoechst AGによって報告されたサリチル酸の抗菌活性検証によると、

– in vitro : 抗菌活性試験 –

寒天培地を用いて化粧品の腐敗でよく見受けられる様々なカビ、酵母および細菌に対するサリチル酸のMIC(minimum inhibitory concentration:最小発育阻止濃度)をpH3.2で検討したところ、以下のグラフのように、

微生物 MIC(μg/mL) [pH3.2]
緑膿菌(グラム陰性桿菌)
Pseudomonas aeruginosa
2,500
大腸菌(グラム陰性桿菌)
Escherichia coli
1,250
黄色ブドウ球菌(グラム陽性球菌)
Staphylococcus aureus
1,250
カンジダ(酵母)
Candida albicans
2,500
コウジカビ(カビ)
Aspergillus brasiliensis
2,500

サリチル酸は細菌(グラム陰性菌、グラム陽性菌)および真菌(酵母、カビ)に対してある程度の抗菌活性を示した。

このような検証結果が明らかにされていますが[8b]、サリチル酸はpHによって抗菌活性が大きく変化すること、また最適pHは4.0-6.0であることが知られています。

2.2. 効果・作用についての補足 -角質剥離作用について –

サリチル酸は、比較的軽度なニキビ(尋常性ざ瘡)の治療薬として100年以上の実績をもち、濃度0.5%-3%で炎症性皮疹の治療を早め、さらに高濃度で使用すると面皰の形成を防ぐ作用があります[9]

このような背景から医薬品分野においては、濃度5%-10%の場合は角質軟化作用目的で角化症などの治療薬として、濃度50%の場合は角質軟化溶解作用目的で疣贅(いぼ)などの治療薬として用いられ[5b]、尋常性痤瘡治療ガイドライン2017においても炎症性皮疹や面皰のケミカルピーリング剤のひとつとしてサリチル酸が推奨されていることなどから、サリチル酸は角質剥離剤・角質溶解剤として知られています[10]

一方で、化粧品および医薬部外品においてサリチル酸は、配合上限が0.2%に定められていることから、一般に角質軟化・角質剥離作用は発揮せず、防腐作用としての効果にとどまると考えられます。

3. 配合製品数および配合量範囲

サリチル酸は、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。

種類 配合量 その他
薬用石けんシャンプーリンス等除毛剤 0.2 すべてのサリチル酸、その塩及びその誘導体をサリチル酸に換算して、サリチル酸として合計
育毛剤 0.2
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 0.2
薬用口唇類 0.2
薬用歯みがき類 0.2
浴用剤 0.2
染毛剤 0.2
パーマネント・ウェーブ用剤 0.2

また、サリチル酸はポジティブリストであり、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。

種類 最大配合量(g/100g)
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの 0.2
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの 0.2
粘膜に使用されることがある化粧品 0.2

化粧品に対する実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1998-2000年および2018-2019年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗5)

∗5 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

サリチル酸の配合比較調査(1998-2000年および2018-2019年)

4. 安全性評価

サリチル酸の現時点での安全性は、

  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 40年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:濃度0.2%以下において皮膚刺激なし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):濃度0.2%以下においてほとんどなし
  • 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
  • 光感作性:ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

4.1. 皮膚刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[11a]によると、

  • [ヒト試験] 27人の被検者(男性15人、女性12人)に2%サリチル酸を含むゲルを対象に2週間累積刺激性試験を閉塞パッチにて実施(48時間パッチを週3回)したところ、累積刺激スコアは14.5であり、最小限の累積刺激を生じたと結論づけた(Harrison Research Laboratories Inc,1993)
  • [ヒト試験] 27人の被検者に1.5%サリチル酸(pH2.75)を含むフェイスクリームを対象に21日間累積刺激性試験を実施したところ、試験物質はわずかな累積刺激性に分類された(TKL Research Inc,1998)
  • [ヒト試験] 27人の被検者に1.5%サリチル酸(pH2.78)を含むフェイシャルクリームおよび0.02%サリチル酸(pH3.5)を含むスキンケアローションを対象に累積刺激性試験を実施した。1.5%サリチル酸(pH2.78)を含むフェイシャルクリームはそれぞれ閉塞パッチおよび半閉塞パッチにて適用したところ、閉塞パッチ適用した1.5%サリチル酸を含むクリームは合計累積刺激スコア125.0および正規化刺激スコア45.7であり、半閉塞パッチ適用した1.5%サリチル酸を含むクリームは、合計累積刺激スコア45.0および正規化刺激スコア16.5であった。両方の試験条件下でこのクリームは有意な刺激を生じないと結論づけられた。0.02%サリチル酸を含むローションは半閉塞パッチ適用したところ、合計累積刺激スコア50.0および正規化刺激スコア18.3であり、有意な刺激を生じないと結論づけられた(TKL Research Inc,1998)
  • [ヒト試験] 上記の同じ手順で28人の被検者を用いて1.5%サリチル酸(pH2.78)を含むフェイスクリームを対象に累積刺激性試験を閉塞および半閉塞パッチ実施したところ、閉塞パッチを適用した場合の合計累積刺激スコアは381.0および正規化刺激スコア132.0であり、わずかに刺激性があると判断された。半閉塞パッチを適用した場合の合計累積刺激スコアは69.0および正規化刺激スコア23.9であり、有意な刺激を生じないと判断された(TKL Research Inc,1998)

このように記載されており、試験データをみるかぎり非刺激-わずかな累積刺激が報告されていますが、これらは共通して濃度1.5%以上で実施された試験データです。

国内においては配合上限0.2%に定められており、40年以上の使用実績の中で重大な皮膚刺激の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

4.2. 眼刺激性

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。

4.3. 皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[11b]によると、

– 健常皮膚を有する場合 –

  • [ヒト試験] 99人の被検者に2%サリチル酸を含むクリームを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施したところ、いずれの被検者も皮膚反応を示さなかった(TKL Research Inc,1993)
  • [ヒト試験] 50人の被検者に2%サリチル酸を含む保湿剤を対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施したところ、いずれの被検者も皮膚感作反応を示さなかった(TKL Research Inc,1993)
  • [ヒト試験] 193人の被検者に2%サリチル酸を含むゲル0.2gを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を閉塞パッチにて実施したところ、誘導期間において5人の被検者に最小限の紅斑が観察され、チャレンジ期間においては7人の被検者に最小限の反応が観察されたが、この試験物質は皮膚感作剤ではないと結論付けられた(HRL,1993)
  • [ヒト試験] 198人の被検者に2%%サリチル酸を含むゲルを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施したところ、誘導期間において2人の被検者は最小限の反応を示し、チャレンジ期間では5人の被検者が最小限の反応を示したが、2%サリチル酸を含むゲルは皮膚感作剤ではないと結論付けられた(HRL,1997)

– 皮膚炎を有する場合 –

  • [ヒト試験] 1979年-1983年の間に標準パッチテストを実施した中で5%サリチル酸を含むワセリンをパッチした9,701人のうち11人に(偽)陽性反応が観察された。これら11人の患者に0.5%,1%,2%および5%サリチル酸を対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施したところ、サリチル酸塩に対して即時型過敏症の経験を有する1人の患者は1%-5%サリチル酸に陽性反応を示した(Goh and Ng,1986)

このように記載されており、試験データをみるかぎり健常皮膚を有する場合は共通して皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

皮膚炎を有する場合に陽性反応が1例報告されていますが、この例は濃度1%-5%において陽性反応を示しており、濃度0.5%以下では陰性であったことから、化粧品配合量および通常使用下において一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

4.4. 光毒性(光刺激性)および光感作性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[11c]によると、

  • [ヒト試験] 10人の被検者(男性5人、女性5人)の背中3ヶ所のうち2%サリチル酸を含むクリーム0.2gを2ヶ所に残りの1ヶ所は陰性対照としてサリチル酸未配合軟膏をそれぞれ24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後クリームを適用した1ヶ所にUVA(20J/c㎡)を照射し、もう1ヶ所は未照射陰性対照とした。照射24および48時間後に光毒性を評価したところ、光毒性は観察されず、この試験物質は検出可能な光毒性の可能性を示さないと結論づけた(Ivy Laboratories,1993)
  • [ヒト試験] 10人の被検者の両腕に2%サリチル酸を含むゲルを24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後片腕にUVAライト(0.22J/c㎡/min)を15cmの距離で15分間照射し、照射24および48時間後に光毒性を評価したところ、照射による皮膚反応は観察されず、この試験物質は光毒性ではなかった(HRL Inc,1993)
  • [ヒト試験] 25人の被検者(男性8人、女性17人)に2%サリチル酸を含むクリームを対象に光感作試験をともなうHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を閉塞パッチにて実施したところ、試験期間を通じて光感作反応は認められず、この試験物質は光感作性を示さないと結論づけた(Ivy Laboratories,1993)
  • [ヒト試験] 28人の被検者に2%サリチル酸を含むゲルを対象に光感作試験をともなうHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施したところ、この試験物質は接触性光感作および接触性皮膚感作を誘発しないと結論づけた(HRL,1997)

このように記載されており、試験データをみるかぎり光刺激および光感作なしと報告されていることから、一般に光毒性(光刺激性)および光感作性はほとんどないと考えられます。

5. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「サリチル酸」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,445.
  2. 大木 道則, 他(1989)「サリチル酸」化学大辞典,858-859.
  3. 大木 道則, 他(1989)「ヒドロキシ酸」化学大辞典,1886.
  4. ab安田 美智子・仲下 英雄(2005)「サリチル酸からアスピリンへ」植物の生長調節(40)(1),39-43. DOI:10.18978/jscrp.40.1_39.
  5. ab浦部 晶夫, 他(2021)「サリチル酸」今日の治療薬2021:解説と便覧,1105.
  6. 日本医薬品添加剤協会(2021)「サリチル酸」医薬品添加物事典2021,260-261.
  7. 日光ケミカルズ株式会社(1977)「酸類」ハンドブック – 化粧品・製剤原料 – 改訂版,644-650.
  8. abK.H. Wallhausser(1990)「香粧品工業で使用されている防腐剤」香粧品 医薬品 防腐・殺菌剤の科学,501-565.
  9. 光井 武夫(2001)「にきび用薬剤」新化粧品学,173-175.
  10. 林 伸和, 他(2017)「尋常性痤瘡治療ガイドライン2017」日本皮膚科学会雑誌(127)(6),1261-1302. DOI:10.14924/dermatol.127.1261.
  11. abcM.Z. Fiume(2003)「Safety Assessment of Salicylic Acid, Butyloctyl Salicylate, Calcium Salicylate, C12–15 Alkyl Salicylate, Capryloyl Salicylic Acid, Hexyldodecyl Salicylate, Isocetyl Salicylate, Isodecyl Salicylate, Magnesium Salicylate, MEA-Salicylate, Ethylhexyl Salicylate, Potassium Salicylate, Methyl Salicylate, Myristyl Salicylate, Sodium Salicylate, TEA-Salicylate, and Tridecyl Salicylate」International Journal of Toxicology(22)(3_Suppl),1-108. DOI:10.1177/1091581803022S303.

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