ベンザルコニウムクロリドの基本情報・配合目的・安全性
「R(置換基)」には、カプリル、ラウリル、ミリスチル、セチル基の混合物が結合します。
化粧品表示名 | ベンザルコニウムクロリド |
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医薬部外品表示名 | 塩化ベンザルコニウム、塩化ベンザルコニウム液 |
部外品表示簡略名 | ベンザルコニウムクロリド、ベンザルコニウム塩化物、ベンザルコニウム塩化物液 |
INCI名 | Benzalkonium Chloride |
配合目的 | 防腐、殺菌、消臭 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表される、置換基(R)に炭素数8-18(C8-C18)の一部またはすべてのアルキル基をもつ(∗1)塩化アルキルベンジルジメチルアンモニウムの混合物であり、第四級アンモニウム塩型に分類される陽イオン界面活性剤(カチオン界面活性剤)です[1a][2][3a]。
∗1 主なアルキル基は、ラウリル基(C12H25-)とミリスチル基(C14H29-)です[3b]。
1.2. 化粧品以外の主な用途
ベンザルコニウムクロリドの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
---|---|
医薬品 | 濃度0.2%で医療施設における医療従事者の手指消毒として用いられています[4]。また安定・安定化、緩衝、懸濁・懸濁化、等張化、乳化、防腐、保存目的の医薬品添加剤として各種注射、外用剤、眼科用剤、耳鼻科用剤、口中用剤などに用いられています[5]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 防腐
- 殺菌作用
- 皮膚常在菌増殖抑制による汗臭抑制作用
主にこれらの目的で、ポイントメイクリムーバー製品、デオドラント製品、制汗剤、ボディソープ製品、ハンドケア製品、シャンプー製品、スキンケア製品、ボディケア製品、マスク製品などに使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 防腐
防腐に関しては、ベンザルコニウムクロリドはpH4.0-10.0(最適pH6.0-8.0)の幅広い領域において非常に高い抗菌活性をもつ比較的毒性の低い水溶性防腐・殺菌剤であり、医薬品分野においては点眼薬の防腐剤として、化粧品分野においても各種製品の防腐剤として古くから用いられています[6a][7a][8]。
1990年にドイツのHoechst AGによって報告されたベンザルコニウムクロリドの抗菌活性検証によると、
– in vitro : 抗菌活性試験 –
寒天培地を用いて化粧品の腐敗でよく見受けられる様々なカビ、酵母および細菌に対するベンザルコニウムクロリドのMIC(minimum inhibitory concentration:最小発育阻止濃度)を24時間時点で検討したところ、以下の表のように、
微生物 | MIC(μg/mL)[24時間時点] |
---|---|
緑膿菌(グラム陰性桿菌) Pseudomonas aeruginosa |
10 – 100 |
大腸菌(グラム陰性桿菌) Escherichia coli |
10 |
黄色ブドウ球菌(グラム陽性球菌) Staphylococcus aureus |
4 – 10 |
カンジダ(酵母) Candida albicans |
10 |
コウジカビ(カビ) Aspergillus brasiliensis |
100 – 200 |
ベンザルコニウムクロリドは細菌(グラム陰性菌、グラム陽性菌)および真菌(酵母、カビ)に対して幅広く優れた抗菌活性を示し、とくに細菌に対して非常に優れた抗菌活性を示した。
このような検証結果が明らかにされており[7b]、ベンザルコニウムクロリドに非常に優れた防腐作用が認められています。
2.2. 殺菌作用
殺菌作用に関しては、ベンザルコニウムクロリドは一般に手指消毒剤として広く知られている比較的毒性の低い殺菌剤であり[1b]、医薬部外品(薬用化粧品)においてハンドケア製品に使用されています[6b]。
1990年にドイツのHoechst AGによって報告されたベンザルコニウムクロリドの抗菌活性検証によると、
– in vitro : 抗菌活性試験 –
寒天培地を用いて皮膚に存在する細菌や酵母に対するベンザルコニウムクロリドのMIC(minimum inhibitory concentration:最小発育阻止濃度)を5分時点で検討したところ、以下のグラフのように、
微生物 | MIC(μg/mL)[5分時点] |
---|---|
緑膿菌(グラム陰性桿菌) Pseudomonas aeruginosa |
200 |
大腸菌(グラム陰性桿菌) Escherichia coli |
80 |
黄色ブドウ球菌(グラム陽性球菌) Staphylococcus aureus |
50 |
カンジダ(酵母) Candida albicans |
160 |
ベンザルコニウムクロリドは細菌(グラム陰性菌、グラム陽性菌)および酵母に対して幅広く優れた殺菌活性を示し、とくに細菌に対して非常に優れた殺菌活性を示した。
このような検証結果が明らかにされており[7c]、ベンザルコニウムクロリドに殺菌作用が認められています。
2.3. 皮膚常在菌増殖抑制による汗臭抑制作用
皮膚常在菌増殖抑制による汗臭抑制作用に関しては、まず前提知識として汗臭発生のメカニズムについて解説します。
以下の体毛の構造図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
ヒトの汗腺には、生まれた時からほぼ全身に分布するエクリン汗腺と思春期に身体の特定部位(∗2)に限って発達するアポクリン汗腺の2種類があり、一般に汗といえばエクリン汗腺から出る汗のことをいいます[9][10]。
∗2 アポクリン汗腺は、腋の下、乳暈(にゅううん)、臍(へそ)、外陰部、肛門周囲のみに存在します。
汗自体には強いにおいはありませんが、エクリン腺、アポクリン腺より分泌される有機化合物や皮脂腺より分泌される皮脂が汗と混ざり、それらが皮膚常在菌によって分解される結果として臭気を帯びることが知られています[11][12a]。
このような背景から、汗臭発生部位において皮膚常在菌の増殖を抑制することは汗臭抑制の重要なアプローチのひとつであると考えられています。
ベンザルコニウムクロリドは、皮膚常在菌など細菌の発育・活動を抑制し、直接的に体臭を防止する殺菌剤として古くからデオドラント製品、制汗剤、ボディソープ製品、頭皮ケア製品などに使用されています[12b][13]。
3. 配合製品数および配合量範囲
塩化ベンザルコニウムは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。
種類 | 配合量 | その他 |
---|---|---|
薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 | 3.0 | 塩化ベンザルコニウム及び塩化ベンザルコニウム液を塩化ベンザルコニウムに換算して、塩化ベンザルコニウムとして合計 |
育毛剤 | 0.05 | |
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 | 0.05 | |
薬用口唇類 | 0.05 | |
薬用歯みがき類 | 0.01 | |
浴用剤 | 0.05 | |
染毛剤 | 3.0 | 塩化ベンザルコニウム、塩化ベンザルコニウム液及びベンザルコニウム塩化物を塩化ベンザルコウムに換算して、塩化ベンザルコニウムの合計 |
パーマネント・ウェーブ用剤 | 3.0 |
また、ベンザルコニウムクロリドは配合制限成分リスト(ポジティブリスト)収載成分であり、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。
種類 | 最大配合量(g/100g) |
---|---|
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの | 上限なし |
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの | 0.05 |
粘膜に使用されることがある化粧品 | 0.05 |
化粧品に対する実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1989年および2006年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
4. 安全性評価
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:濃度0.1%以下においてほとんどなし-最小限
- 眼刺激性:濃度0.1%以下においてほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):濃度0.13%以下においてほとんどなし
- 皮膚感作性(皮膚炎を有する場合):濃度0.1%以下においてごくまれに皮膚感作を引き起こす可能性あり
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
ただし、皮膚炎を有する場合はごくまれに皮膚感作を引き起こす可能性があるため注意が必要であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewおよび神奈川県衛生看護専門学校附属病院の安全性データ[14a][15]によると、
– 健常皮膚を有する場合 –
- [ヒト試験] 200名の被検者に0.5%ベンザルコニウムクロリド水溶液を48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去24時間後に皮膚刺激性を0-6のスケールで評価したところ、平均刺激スコアは3(紅斑)であった(R. Holst et al,1975)
- [ヒト試験] 10名の被検者に0.1%ベンザルコニウムクロリドを含むクリーム0.2mLを対象に21日間累積刺激性試験を実施し、累積刺激スコアを0-630のスケールで評価したところ、累積刺激スコアは20であり、本質的に累積刺激剤はないと解釈された(Hill Top Research Inc,1981)
- [ヒト試験] 皮膚炎を有さない(1例のみ尋常性乾癬の既往歴あり)30名の被検者に0.1%ベンザルコニウムクロリド水溶液を4週間にわたって1日あたり4-9回使用してもらい、皮膚刺激性を評価したところ、29名は安全性上問題ないと判断され、1名は開始1週間目にかすかな紅斑を生じたが、試験期間中に強い皮膚刺激および荒れを発症した例はなかった(神奈川県衛生看護専門学校附属病院,1990)
– 皮膚炎を有する場合 –
- [ヒト試験] 様々な皮膚病を有する55名の患者に0.1%,0.5%,1.0%および2.0%ベンザルコニウムクロリド水溶液を48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、0.5%濃度以上において重度の膿疱性および/または水疱性反応が26例報告された(J.E. Wahlberg,1985)
このように記載されており、試験データをみるかぎり濃度0.1%以下において非刺激-最小限の皮膚刺激が報告されているため、一般に皮膚刺激性は非刺激-最小限の皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[14b]によると、
- [ヒト試験] 51名の被検者の片眼に0.02%ベンザルコニウムクロリド食塩水を、他方の眼には生理食塩水を点眼し、眼刺激性について尋ねたところ、14名が0.02%ベンザルコニウムクロリド食塩水で処理した眼に刺激を感じ、14名のうち10名は生理食塩水で処理した眼にも刺激を感じた。臨床的にはベンザルコニウムクロリド溶液で処理した1名の被検者にわずかな結膜充血がみられるのみであった(R. Barkman et al,1969)
- [ヒト試験] 10名の被検者の片眼にベンザルコニウムクロリド(0.1mg/mL)を含む点眼液1滴を1日2回2週間にわたって点眼したところ、治療期間中に角膜内皮の損傷は認められなかった(H.I. Alanko,1983)
このように記載されており、試験データをみるかぎり濃度0.1%以下において眼刺激なしと報告されているため、一般に濃度0.1%以下において眼刺激性はほとんどないと考えられます。
4.3. 皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[14c]によると、
– 健常皮膚を有する場合 –
- [ヒト試験] 101名の被検者に0.1%ベンザルコニウムクロリドを含むクリーム0.1mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、試験期間中に有意な皮膚反応は観察されず、このクリームは皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではないと結論付けられた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1982)
- [ヒト試験] 130名の被検者に0.1%ベンザルコニウムクロリドを対象にパッチテストを実施したところ、いずれの被検者も感作反応は示さなかった(C.R. Lovell et al,1981)
- [ヒト試験] 150名の被検者に0.13%ベンザルコニウムクロリドを含む保湿クリームを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、試験期間中に陽性反応は観察されなかった。また同様の手順および同濃度のベンザルコニウムクロリドを含む保湿クリームで155名の被検者に適用した場合も陽性反応を誘発しなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1986)
– 皮膚炎を有する場合 –
- [ヒト試験] 湿疹を有する2,806名の患者に0.1%ベンザルコニウムクロリドを含む軟膏を対象にパッチテストを実施し、ICDRG(International Contact Dermatitis Research Group:国際接触皮膚炎研究グループ)の基準に基づいて48および96時間後に皮膚反応を評価したところ、66名(2.13%)がベンザルコニウムクロリドに感作性を示した(J.M. Camarasa,1979)
- [ヒト試験] 接触皮膚炎を有する5名の患者に0.1%および0.01%ベンザルコニウムクロリドを対象にパッチテストしたところ、濃度0.1%においてすべての患者は+または++の陽性反応を示し、濃度0.01%において2名の患者は+の陽性反応を示した(C.R. Lovell,1981)
- [ヒト試験] 接触性皮膚炎を有する110名の被検者に0.1%ベンザルコニウムクロリドを対象にパッチテストを実施したところ、1名の患者に陽性反応がみられた(C.R. Lovell,1981)
このように記載されており、試験データをみるかぎり健常皮膚を有する場合は共通して皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
皮膚炎を有する場合は濃度0.1%-0.01%において陽性反応がいくつか報告されていますが、低濃度であるほど皮膚感作率が下がっている傾向が示されており、化粧品および医薬部外品(薬用化粧品)におけるリーブオン製品(∗3)の配合上限は0.05%であることから、皮膚感作を引き起こす可能性は低いと考えられます。
∗3 リーブオン製品とは、スキンケア製品やメイク製品など付けっ放しの製品のことです。
5. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「ベンザルコニウムクロリド」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,880-881.
- ⌃大木 道則, 他(1989)「ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロリド」化学大辞典,2171.
- ⌃ab有機合成化学協会(1985)「ベンジルドデシルジメチルアンモニウムクロリド」有機化合物辞典,937.
- ⌃浦部 晶夫, 他(2021)「ベンザルコニウム塩化物」今日の治療薬2021:解説と便覧,163-164.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「ベンザルコニウム塩化物」医薬品添加物事典2021,543-544.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(1977)「カチオン界面活性剤」ハンドブック – 化粧品・製剤原料 – 改訂版,673-678.
- ⌃abcK.H. Wallhausser(1990)「香粧品工業で使用されている防腐剤」香粧品 医薬品 防腐・殺菌剤の科学,501-565.
- ⌃佐治 守, 他(2003)「点眼液の防腐剤としての塩化ベンザルコニウムの抗菌力についての検討」医療薬学(29)(3),341-345. DOI:10.5649/jjphcs.29.341.
- ⌃朝田 康夫(2002)「アポクリン汗腺(体臭となって匂う汗)とは」美容皮膚科学事典,61-63.
- ⌃清水 宏(2018)「汗腺」あたらしい皮膚科学 第3版,25-26.
- ⌃神田 不二宏, 他(1989)「汗臭成分の解明及びその新規消臭剤の開発」日本化粧品技術者会誌(23)(3),217-224. DOI:10.5107/sccj.23.217.
- ⌃ab福井 寛(2010)「化粧品におけるにおい・香り」におい・かおり環境学会誌(41)(2),110-118. DOI:10.2171/jao.41.110.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「制汗・脱臭剤」香粧品科学 理論と実際 第4版,511-514.
- ⌃abcW. Johnson(1989)「Final Report on the Safety Assessment of Benzal konium Chloride」Journal of the American College of Toxicology(8)(4),589-625. DOI:10.3109/10915818909010524.
- ⌃高橋 孝行, 他(1990)「殺菌消毒剤・ND-2(塩化ベンザルコニウム製剤)の有効性, 安全性および有用性の検討について」環境感染(5)(2),21-29. DOI:10.11550/jsei1986.5.2_21.