プロピルパラベンの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | プロピルパラベン |
---|---|
医薬部外品表示名 | パラオキシ安息香酸プロピル |
部外品表示簡略名 | プロピルパラベン、パラベン |
INCI名 | Propylparaben |
配合目的 | 防腐 |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表される、パラ位(∗1)にフェノール性ヒドロキシ基(-OH)をもつパラヒドロキシ安息香酸とプロパノールのエステルです[1][2]。
∗1 パラ位(para)とは、芳香族炭化水素上の水素以外の置換基を1とした場合の4つ目の位置を指します。以下のプロピルパラベンの化学式でみた場合は、環の右にカルボキシ基(-COOH)をもち、このカルボキシ基(-COOH)を1とした場合に隣接した右上または下を相対的に2(オルト:ortho-:o-)、左上または下を3(メタ:meta:m-)、左を4(パラ:para:p-)とし、安息香酸のパラ位にヒドロキシ基(-OH)をもつことからパラヒドロキシ安息香酸(p-ヒドロキシ安息香酸)となります。化学分野においては4つ目にヒドロキシ基をもつことからそのまま4-ヒドロキシ安息香酸とも命名されています。
1.2. 歴史
パラベンは、1924年に強酸性のpH領域でしか効果を示さないサリチル酸や安息香酸に代わる抗菌剤として報告されたことをきっかけに様々なアルキル基(∗2)を結合しエステル化されてきた中で、広いpHで効果があること、様々な微生物に対して相対的に活性であること、使用量に対してコストが低いこと、毒性が低いことなどから1934年にスイス薬局方にメチルパラベンが、1947年に米国薬局方にメチルパラベンおよびプロピルパラベンが認可され、現在において化粧品用防腐剤のうち最も安全な部類に属すると考えられています[3a]。
∗2 アルキル基とは、炭素(C)と水素(H)から成る脂肪族飽和化合物であるアルカン(alkane)から水素(H)をひとつとった残りの炭化水素基のことをいい、エチル基、メチル基、プロピル基などがあります。パラヒドロキシ安息香酸にプロピル基を結合したエステルはパラヒドロキシ安息香酸プロピル(プロピルパラベン)です。
1.3. 化粧品以外の主な用途
プロピルパラベンの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
---|---|
食品 | 水に溶けないためエタノールなどに溶かして保存料として用いられています[4]。 |
医薬品 | 安定・安定化、防腐、保存目的の医薬品添加剤として経口剤、各種注射、外用剤、眼科用剤、耳鼻科用剤、口中用剤などに用いられています[5]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 防腐
主にこれらの目的で、スキンケア製品、ハンド&ボディケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、洗顔料、シャンプー製品、コンディショナー製品、クレンジング製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、頭皮ケア製品、ボディソープ製品、ヘアスタイリング製品、ネイル製品、香水など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 防腐
防腐に関しては、プロピルパラベンなどパラオキシ安息香酸エステルは、様々な微生物に対して相対的に抗菌活性をもちますが、一般に細菌よりも真菌に対する抗菌性に優れ、その作用は静菌的であることが明らかにされています[6]。
1990年にアメリカのMallincrodtによって報告されたパラベン類の抗菌活性検証によると、
– in vitro : 抗菌活性試験 –
大豆寒天培地を用いて化粧品の腐敗でよく見受けられる様々なカビ、酵母および細菌に対する各パラオキシ安息香酸エステルのMIC(minimum inhibitory concentration:最小発育阻止濃度)を検討したところ、以下の表のように(∗3)、
∗3 MICの単位であるppm(parts per million)は100万分の1の意味であり、1ppm = 0.0001%です。
微生物 | MIC(ppm) | |||
---|---|---|---|---|
メチル | エチル | プロピル | ブチル | |
枯草菌 (グラム陽性桿菌) |
2,000 | 1,000 | 500 | 250 |
黄色ブドウ球菌 (グラム陽性球菌) |
2,000 | 1,000 | 500 | 125 |
表皮ブドウ球菌 (グラム陽性球菌) |
2,000 | 1,000 | 500 | 250 |
大腸菌 (グラム陰性桿菌) |
2,000 | 1,000 | 500 | 500 |
肺炎桿菌 (グラム陰性桿菌) |
1,000 | 500 | 500 | 250 |
チフス菌 (グラム陰性桿菌) |
1,000 | 1,000 | 500 | 250 |
腸内細菌 (グラム陰性桿菌) |
1,000 | 500 | 250 | 125 |
セラチア (グラム陰性桿菌) |
1,000 | 1,000 | 500 | 500 |
緑膿菌 (グラム陰性桿菌) |
4,000 | > 2,000 | > 1,000 | > 1,000 |
カンジダ (酵母) |
1,000 | 500 | 250 | 125 |
出芽酵母 (酵母) |
1,000 | 500 | 125 | 32 |
コウジカビ (カビ) |
1,000 | 500 | 250 | 125 |
アオカビ (カビ) |
500 | 250 | 125 | 63 |
白癬菌 (カビ) |
250 | 125 | 63 | 32 |
パラベン類は、広範囲に極めて高い抗菌活性を示し、一般に細菌よりも酵母やカビに対して効果的であり、またグラム陰性菌よりもグラム陽性菌に対してより効果的であることがわかった。
また、生育阻害のためには室温で水に溶けるよりも多くの量を必要とするため、緑膿菌に対し特に効果がないことがわかった。
このような検証結果が明らかにされており[3b]、プロピルパラベンに防腐作用が認められています。
パラベンの抗菌活性は、ブチルパラベンまでは化学構造的にアルキル側鎖が長くなるに従って増大するため、抗菌活性の強さは、
ブチル > プロピル > エチル > メチル
となりますが、同時にアルキル側鎖が長くなるほど水に溶けにくくなるため、実際の使用においては以下のように、
メチル > エチル > プロピル > ブチル
メチルパラベンが最も汎用されています。
また、パラベンは他の防腐剤および防腐作用を有する成分と組み合わせて使用されることも多く、その理由として以下のように、
- 活性のスペクトル増大
- より低濃度の防腐成分の使用によって毒性学的なリスクの減少
- 単一の防腐剤に対する耐性菌の出現防止
- 相加的または相乗的な活性
これらのいずれかまたは複数の効果を意図して処方するためです。
3. 配合製品数および配合量範囲
パラオキシ安息香酸プロピルは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。
種類 | 配合量 | その他 |
---|---|---|
薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 | 1.0 | パラオキシ安息香酸及びそのエステルとして合計。この項のパラオキシ安息香酸エステルとは、パラオキシ安息酸イソブチル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸ロピル及びパラオキシ安息香酸メチルに限る。 |
育毛剤 | 1.0 | |
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 | 1.0 | |
薬用口唇類 | 1.0 | |
薬用歯みがき類 | 1.0 | |
浴用剤 | 1.0 | |
染毛剤 | 1.0 | |
パーマネント・ウェーブ用剤 | 1.0 |
また、プロピルパラベンは配合制限成分リスト(ポジティブリスト)収載成分であり、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。
種類 | 最大配合量(g/100g) |
---|---|
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの | パラオキシ安息香酸エステル及びそのナトリウム塩の合計量として1.0。 |
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの | |
粘膜に使用されることがある化粧品 |
化粧品に対する実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2003-2006年および2016-2019年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗4)。
∗4 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
国内における配合量に関しては、2003年に国立医薬品食品衛生研究所によって報告された化粧水中のパラベン量の調査によると、
このような調査結果が明らかにされており[7]、プロピルパラベンの配合量は、他のパラベンやフェノキシエタノールを併用した相乗効果によって、平均として0.015%、最大でも0.040%ほどに抑えられていることがわかります。
また2009年に東京農業大学大学院農学研究科および東京食品技術研究所によって報告された口紅中のパラベン量の調査によると、
このような調査結果が明らかにされており[8]、プロピルパラベンの配合量は、他のパラベンやフェノキシエタノールを併用した相乗効果によって、平均として0.086%、最大でも0.285%に抑えられていることがわかります。
4. 安全性評価
- 食品添加物の指定添加物リストに収載
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 50年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし-わずか
- 眼刺激性:ほとんどなし-わずか
- 皮膚感作性(メチルパラベンのみ):ほとんどなし
- 皮膚感作性(パラベンミックス – 皮膚炎または皮膚感作経験を有する場合):まれに皮膚感作を引き起こす可能性あり
- 光感作性:ほとんどなし
- 経皮吸収・代謝・排泄:表皮でパラヒドロキシ安息香酸に代謝され尿排泄される
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
ただし、皮膚炎を有する場合または皮膚感作経験がある場合は、まれにアレルギー性接触性皮膚感作を引き起こす可能性があるので注意が必要です。
また、パラベンは持続的な体内浸透によりレベルは低いものの組織にパラベンの定常状態(∗5)をもたらす可能性が明らかにされていますが、現時点でこのパラベンの定常状態によって健康への有害な影響を示すヒトを対象とした十分な裏付けのある研究データはなく、化粧品配合量および通常使用下において一般に安全性に問題のない成分であると報告されています(これからヒト試験データが報告されていくと推測されるため、みつかりしだい追補または再編集します)。
∗5 定常状態とは、運動の形態が時間的に変化しない状態のことであり、たとえば自然界において小川は上流などで雨が降らない限り、時間とともに川の流れの速度や流量が変わることはなく一定であり、この意味で定常状態にあるといえます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9a][10a]によると、
- [ヒト試験] 20名の被検者に0.3%プロピルパラベンを含む製剤を対象に24時間単回皮膚刺激性試験を実施し、PII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)を0.0-4.0のスケールで評価したところ、PIIは0.10であり、2名の被検者に最小限の皮膚刺激が観察された(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1977)
- [ヒト試験] 13名の被検者に0.3%プロピルパラベンを含むフェイスマスクを対象に21日間の累積刺激性試験を閉塞パッチにて実施したところ、累積刺激スコア(0-520)は50であり、この試験物質はわずかな累積刺激性が示された(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1977)
- [ヒト試験] 9名の被検者に0.2%プロピルパラベンを含むクリームを対象に21日間の累積刺激性試験を閉塞パッチにて実施したところ、累積刺激スコア(0-630)は0であり、この試験物質は本質的に非刺激剤だと結論付けられた(Hill Top Research Inc,1979)
- [ヒト試験] 45,000名以上の被検者に防腐剤濃度のパラベンを含む1,363の製剤を対象に皮膚累積刺激性試験を実施したところ、パラベンは典型的な使用条件において刺激剤であることが示されず、皮膚刺激スコアは相関していなかった(R.M. Walters et al,2015)
このように記載されており、試験データをみるかぎり非刺激-わずかな皮膚刺激が報告されているため、一般に皮膚刺激性は非刺激-わずかな皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9b]によると、
- [動物試験] 多くのウサギに0.1%-0.8%濃度範囲のメチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベンおよび/またはブチルパラベンを含む製品を点眼し、眼刺激性を評価したところ、ほとんどの製品で眼刺激の兆候はなく、いくつかの製品において最小限-わずかな眼刺激がみられた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980;1981)
このように記載されており、試験データをみるかぎり非刺激-わずかな眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-わずかな眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
4.3. 皮膚感作性(アレルギー性)
4.3.1. プロピルパラベンのみ
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9c]によると、
– 健常皮膚を有する場合 –
- [ヒト試験] 99名の被検者に0.3%プロピルパラベンを含む保湿フェイシャルマスクを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、ほとんどの被検者に一過性の最小限の皮膚刺激がみられたが、皮膚感作性は認められなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1976)
- [ヒト試験] 108名の被検者に0.3%プロピルパラベンを含むゲルを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、皮膚刺激および皮膚感作性は認められなかった(Hill Top Research Inc,1976)
- [ヒト試験] 94名の被検者に0.3%プロピルパラベンを含むマスカラを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、わずかな皮膚刺激がみられたが、皮膚感作性は認められなかった(Hill Top Research Inc,1977)
- [ヒト試験] 56名の被検者に0.2%プロピルパラベンを含むフェイスクリームを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、1名の被検者に一過性の皮膚刺激がみられたが、いずれの被検者においても皮膚感作性は認められなかった(Food and Drug Research Labs,1978)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
また、山形市立病院済生館皮膚科の試験データ[11]によると、
– 皮膚炎を有している場合 –
- [個別事例] 慢性湿疹を有する女性(17歳)は、1987年4月に手、肘、前腕、頸部などに瘙痒性皮疹が出現し、手湿疹および慢性湿疹として軟膏剤の外用をはじめたが、11月になり同軟膏を外用するたびに痒くなると訴えた。1987年11月に使用している軟膏およびパラベンを含まない軟膏の各成分についてオープンテストを実施したところ、健常皮膚面ではすべて陰性であったのに対して、湿疹皮膚面では瘙痒と膨疹が数ヶ所に認められ、陽性とした。5ヶ月後に同様のテストを実施したところ、膨疹はみられず瘙痒のみが訴えられた。成分別のテストでは湿疹面においてプロピルパラベン塗布部に瘙痒があり、メチルパラベンと基剤には反応がなかったことから接触蕁麻疹の原因はプロピルパラベンと推定された
このように記載されており、個別事例のみですがアレルギー性皮膚炎を有する場合においてプロピルパラベン単体での接触皮膚感作が1例報告されています。
4.3.2. 数種類のパラベン(∗6)
∗6 数種類のパラベンとは、種類は不明ですが複数のパラベンの混合物です。
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9d]によると、
– 健常皮膚を有する場合 –
- [ヒト試験] 30名の被検者に5%パラベンを含む軟膏をパッチテストしたところ、いずれの被検者においても皮膚感作反応はみられなかった(W.F. Schorr,1966)
- [ヒト試験] 260名の被検者に5%パラベンを含む軟膏をパッチテストしたところ、いずれの被検者においても皮膚感作反応はみられなかった(W.F. Schorr,1968)
- [ヒト試験] 160名の被検者に1%パラベンを含む軟膏をパッチテストしたところ、いずれの被検者においても皮膚感作反応はみられなかった(H.J. Cramer,1963)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚感作なしと報告されているため、健常な皮膚を有する場合において一般に複数のパラベンの皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.3.3. パラベンミックス(∗7)
∗7 パラベンミックスとは、24種類のジャパニーズスタンダードアレルゲンのひとつに指定されているパラベンの混合物であり、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、ベンジルパラベンで構成されています[12]。
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9e]によると、
– 以前に皮膚感作または皮膚炎を経験している場合 –
- [ヒト試験] 2,061名の被検者に15%パラベンミックスを含む軟膏をパッチテストしたところ、44名(2.1%)の被検者に感作反応が示された(North American Contact Dermatitis Group,1972)
- [ヒト試験] 1,862名の被検者に15%パラベンミックスを含む軟膏をパッチテストしたところ、40名(2.1%)の被検者に感作反応が示された(North American Contact Dermatitis Group,1979-1980)
- [ヒト試験] 5,799名の被検者に14%パラベンミックスをパッチテストしたところ、66名(1.13%)の被検者に感作反応が示された(N. Hjorth,1962)
- [ヒト試験] 4,097名の被検者に15%パラベンミックスを含む軟膏を24時間Chamber適用したところ、14名(0.3%)の被検者に感作反応が示された(M. Hannuksela,1976)
- [ヒト試験] 192名の被検者に15%パラベンミックスを48時間Chamber適用したところ、7名(3.6%)の被検者に感作反応が示された(J.E. Fraki,1979)
- [ヒト試験] 1,312名の被検者に15%パラベンミックスを含むパラフィンを48時間パッチテストしたところ、31名(2.3%)の被検者に感作反応が示された(J.E. Fraki,1979)
このように記載されており、試験データをみるかぎり平均して約2%の被検者に皮膚感作の兆候が報告されているため、皮膚感作および皮膚炎を有するまたは過去に有していた経験がある場合において一般に接触性皮膚感作反応を引き起こす可能性があると考えられます。
パラベンミックスは、日本においては2020年時点で標準アレルゲンとして指定されていますが、米国では1940年から蓄積されたアレルギー試験データからアレルギー性接触感作の頻度が低く、現在使用されている濃度範囲において何十年も感作率が維持されていることから、2019年に非アレルゲンに指定されています[13a]。
4.4. 光感作性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9f]によると、
- [ヒト試験] 102名の被検者に0.1%プロピルパラベンおよび0.2%メチルパラベンを含むアイメイクアップを対象に光感作性試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、この試験製剤に光感作は認められなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
- [ヒト試験] 53名の被検者に0.1%プロピルパラベンおよび0.2%メチルパラベンを含むローションを対象に光感作性試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、この試験製剤に光感作は認められなかった(Research Testing Laboratories,1978)
- [ヒト試験] 53名の被検者に0.1%プロピルパラベンおよび0.2%メチルパラベンを含むローションを対象に光感作性試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、この試験製剤に光感作は認められなかった(Research Testing Laboratories,1978)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して光感作なしと報告されているため、一般に光感作性はほとんどないと考えられます。
4.5. 経皮吸収および体内挙動(代謝、排泄)
パラベンは、バリア機能の影響を強く受け、健常な皮膚においては最小限が体内に浸透しますが、表皮に存在する酵素であるカルボキシルエステラーゼによってパラヒドロキシ安息香酸に加水分解され、尿中に急速に排泄されることが明らかにされており、また1984年-2008年の試験データによるとパラベンはヒト組織に有意な程度までは蓄積しないと結論づけられています[9g][10b]。
一方で、理論的にパラベン含有製品の連用やパラベン含有医薬品または食品の定期的な摂取などによる持続的な体内浸透が、レベルが低いとはいえヒト組織にパラベンの定常状態(∗7)をもたらす可能性があり、近年の研究においてはヒト組織にパラベンの存在が確認されています[10c][13b]。
∗7 定常状態とは、運動の形態が時間的に変化しない状態のことであり、たとえば自然界において小川は上流などで雨が降らない限り、時間とともに川の流れの速度や流量が変わることはなく一定であり、この意味で定常状態にあるといえます。
パラベンのヒト組織定常状態が皮膚に及ぼす影響については、現時点で十分な裏付けのある有意または示唆的なヒトに対する研究データがないことから、化粧品における配合量制限などにも変更はなく、2020年時点で配合制限範囲において安全に使用できると結論付けられています。
ただし、同時にヒト組織定常状態の皮膚に及ぼす影響がないことが、十分な裏付けのあるデータで示されているわけではないので、今後はヒト組織に存在するパラベンの生物学的影響に関する研究報告が増えてくると推測されます。
パラベンがヒト組織に存在する場合の健康に及ぼす影響に関しては、説得力のある研究データが報告された場合に追補または再編集します。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「プロピルパラベン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,856-857.
- ⌃有機合成化学協会(1985)「4-ヒドロキシ安息香酸プロピル」有機化合物辞典,749.
- ⌃abT E Haag & D.F. Loncrini(1990)「パラオキシ安息香酸のエステル」香粧品 医薬品 防腐・殺菌剤の科学,49-62.
- ⌃樋口 彰, 他(2019)「パラオキシ安息香酸プロピル」食品添加物事典 新訂第二版,273.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「パラオキシ安息香酸プロピル」医薬品添加物事典2021,470-471.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(1977)「酸類」ハンドブック – 化粧品・製剤原料 – 改訂版,644-650.
- ⌃徳永 裕司, 他(2003)「市販化粧水中のフェノキシエタノールおよびパラベン類の分析法に関する研究」Bulletin of National Institute of Health Sciences(121),25-29.
- ⌃高畑 薫, 他(2009)「市販口紅中のパラベン類およびフェノキシエタノール含有量とその摂取量の推定」日本食生活学会誌(20)(2),143-150. DOI:10.2740/jisdh.20.143.
- ⌃abcdefgR.L. Elder(1984)「Final Report on the Safety Assessment of Methylparaben, Ethylparaben, Propylparaben, and Butylparaben」Journal of the American College of Toxicology(3)(5),147-209. DOI:10.3109/10915818409021274.
- ⌃abcP. Cherian, et al(2020)「Amended Safety Assessment of Parabens as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(39)(1_suppl),5S-97S. DOI:10.1177/1091581820925001.
- ⌃角田 孝彦(1989)「ステロイド軟膏による接触蕁麻疹」皮膚(31)(3),354-357. DOI:10.11340/skinresearch1959.31.354.
- ⌃高山 かおる, 他(2020)「接触皮膚炎診療ガイドライン2020」日本皮膚科学会誌(130)(4),523-567. DOI:10.14924/dermatol.130.523.
- ⌃abA.F. Fransway, et al(2019)「Paraben Toxicology」 Dermatitis(30)(1),32-45. DOI:10.1097/der.0000000000000428.