フェノキシエタノールの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | フェノキシエタノール |
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医薬部外品表示名 | フェノキシエタノール |
INCI名 | Phenoxyethanol |
配合目的 | 防腐 |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表される、フェノール(∗1)のヒドロキシ基(-OH)に二価アルコール(∗2)であるエチレングリコール(ethylene glycol)のヒドロキシ基(-OH)の片方がエーテル結合した芳香族エーテルアルコールです[1][2]。
∗1 フェノールは、広義には芳香環にヒドロキシ基(-OH)が結合した化合物全般を指し、狭義にはフェノール類のうちもっとも単純な化合物であるヒドロキシベンゼン(hydroxybenzene)、つまりベンゼンの水素原子の一つがヒドロキシル基(-OH)に置換された化合物を指します。
∗2 一価アルコールとは一分子中に1個のヒドロキシ基(-OH)をもつアルコールのことです。多価アルコールとは一分子中に2個以上のヒドロキシ基(-OH)をもつアルコールのことであり、ヒドロキシ基がn個結合したものはn価アルコールともよばれます。エチレングリコール(ethylene glycol)は2個のヒドロキシ基(-OH)をもつ二価アルコールです。
フェノキシエタノールは、名称に「エタノール」が含まれますが、一般に「アルコール」とよばれる酩酊成分であるエタノールとは異なります(∗3)。
∗3 一般的にアルコールと呼ばれる成分ではないため、アルコールにアレルギーを有する場合でも使用でき、アルコールフリーと記載された製品にも配合されます。
1.2. 分布
フェノキシエタノールは、自然界においては綿花地帯の近辺に見出される空中浮遊物質として[3]、また日本茶の一種である玉露の揮発成分として存在が報告されています[4]。
1.3. 歴史
フェノキシエタノールは、1950年代にヨーロッパで導入され、主にグラム陰性菌によるペニシリン製剤の菌汚染防止、ワクチンや臨床検査で使用する試薬・溶剤の防腐など医薬品に用いられてきた経緯があり、一時期は高度な技術から生まれた防腐剤に置き換えられて需要が低下していましたが、近年は米国をはじめ多くの国でより無難で安全性の高い防腐剤に置き換えることに関心が高まっており、フェノキシエタノールと他の防腐剤を組み合わせる手段が汎用されています[5a]。
1.4. 化粧品以外の主な用途
フェノキシエタノールの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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医薬品 | 防腐、保存目的の医薬品添加剤として外用剤、各種注射に用いられています[6]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 防腐
主にこれらの目的で、スキンケア製品、ハンド&ボディケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、シート&マスク製品、日焼け止め製品、洗顔料、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、頭皮ケア製品、ボディソープ製品、まつ毛美容液、ヘアスタイリング製品、入浴剤、香水など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 防腐
防腐に関しては、フェノキシエタノールはグラム陰性桿菌、カビに対して優れた抗菌効果をもつ防腐剤であり、一般に防腐目的でパラベンをはじめとする他の防腐剤と併用して用いられるほか[7]、パラベン不使用(パラベンフリー)をコンセプトにした製品に用いられています[8]。
1990年にアメリカのEmery Industriesによって報告されたフェノキシエタノールの抗菌活性検証によると、
– in vitro : 抗菌活性試験 –
寒天培地を用いて化粧フェノキシエタノールのMIC(minimum inhibitory concentration:最小発育阻止濃度)を検討したところ、以下の表のように(∗4)、
∗4 MICの単位であるppm(parts per million)は100万分の1の意味であり、1ppm = 0.0001%です。
微生物 | MIC | |
---|---|---|
% | ppm | |
緑膿菌(グラム陰性桿菌) Pseudomonas aeruginosa |
0.32 | 3200 |
大腸菌(グラム陰性桿菌) Escherichia coli |
0.36 | 3600 |
黄色ブドウ球菌(グラム陽性球菌) Staphylococcus aureus |
0.85 | 8500 |
カンジダ(酵母) Candida albicans |
0.54 | 5400 |
コウジカビ(カビ) Aspergillus brasiliensis |
0.33 | 3300 |
フェノキシエタノールは、広い範囲の抗菌活性を有しとくにグラム陰性菌である緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)やコウジカビ(Aspergillus brasiliensis)に対して高い抗菌活性をもち、一方でグラム陽性菌に対しては低い活性を示した。
このような検証結果が明らかにされており[5b]、フェノキシエタノールに防腐作用が認められています。
3. 配合製品数および配合量範囲
フェノキシエタノールは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。
種類 | 配合量 |
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薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 | 1.0 |
育毛剤 | 1.0 |
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 | 1.0 |
薬用口唇類 | 1.0 |
薬用歯みがき類 | 1.0 |
浴用剤 | 1.0 |
染毛剤 | 1.0 |
パーマネント・ウェーブ用剤 | 配合上限なし |
また、フェノキシエタノールは配合制限成分リスト(ポジティブリスト)収載成分であり、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。
種類 | 最大配合量(g/100g) |
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粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの | 1.0 |
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの | 1.0 |
粘膜に使用されることがある化粧品 | 1.0 |
化粧品に対する実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1987年および2006年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
国内における配合量に関しては、2003年に国立医薬品食品衛生研究所によって報告された化粧水中のパラベンおよびフェノキシエタノールの配合量調査によると、
このような調査結果が明らかにされており[9]、フェノキシエタノールの配合量は、他のパラベンを併用した相乗効果によって平均として0.266%、最大で1.043%ほどに抑えられていることがわかります。
また2009年に東京農業大学大学院農学研究科および東京食品技術研究所によって報告された口紅中のパラベンおよびフェノキシエタノールの配合量調査によると、
このような調査結果が明らかにされており[10]、フェノキシエタノールの配合量は、他のパラベンを併用した相乗効果によって平均として0.260%、最大でも0.550%に抑えられていることがわかります。
4. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし-わずか
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[11a]によると、
- [ヒト試験] 51名の被検者に10%フェノキシエタノールを含むミネラルオイル0.3mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、誘導期間において2名の被検者はほとんど知覚できない反応を示したが、いずれの場合も次のパッチ適用までに反応は消失しており、また試験期間において他に皮膚反応はなく、皮膚刺激および皮膚感作の兆候はみられなかった(Hill Top Research Inc,1984)
- [ヒト試験] 2,736名の患者に1%フェノキシエタノールを含む軟膏を用いたパッチ試験を実施したところ、適用から2日および4日目で皮膚刺激および皮膚感作反応の兆候はみられなかった(C.R. LOVELL et al,1984)
- [ヒト試験] 130名の患者に1%,5%および10%フェノキシエタノールを含むワセリンを用いたパッチ試験を実施したところ、皮膚刺激および皮膚感作反応の兆候はみられなかった(C.R. LOVELL et al,1984)
- [ヒト試験] 138名の被検者の背中に10%フェノキシエタノールを含む軟膏を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、皮膚反応は観察されなかった(W.A. Henke et al,1975)
– 皮膚炎を有する場合:個別事例 –
- [個別事例] 小児湿疹の病歴や6ヶ月以上の手湿疹の病歴を有する患者に石けんの代わりに1%フェノキシエタノールを含む水性クリームを使用してもらったところ、症状が悪化したため、水性クリームの個々の成分をパッチテストしたところ、フェノキシエタノールに対して陽性反応を示した。アレルギー性接触皮膚炎を有する患者に対して1%フェノキシエタノールを有する水性クリームはまれに有害な反応を引き起こす可能性があると結論付けられた(C.R. LOVELL et al,1984)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
ただし、皮膚炎を有する場合に1例の皮膚感作反応の症例が報告されているため、皮膚炎を有する場合はごくまれに皮膚感作を引き起こす可能性があると考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[11b]によると、
- [動物試験] 3匹のウサギの片眼の結膜嚢に2.2%フェノキシエタノール水溶液0.1mLを滴下し、Draize法に基づいて滴下19,43および66時間後に眼刺激性を評価したところ、いずれのウサギにおいても刺激の影響は認められなかった(Hill Top Research Inc,1981)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼の結膜嚢に2.2%フェノキシエタノール水溶液0.1mLを点眼し、Draize法に基づいて点眼23,51および72時間後に眼刺激性を評価したところ、72時間で1匹のウサギにわずかな結膜後半が観察されたが、ほかに影響はまったく観察されず、2.2%フェノキシエタノール水溶液は眼刺激剤ではないと結論付けられた(Hill Top Research Inc,1981)
このように記載されており、試験データをみるかぎり濃度2.2%において共通して眼刺激なしと報告されているため、一般に濃度2.2%以下において眼刺激性はほとんどないと考えられます。
4.3. 光毒性(光刺激性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[11c]によると、
- [ヒト試験] 28名の被検者にフェノキシエタノール0.3mLをパッチ適用し、24時間後にパッチを除去しUVA(16-20mJ/c㎡)を照射した。照射1,24,48および72時間後に照射部位の光刺激性を評価したところ、5名の被検者は照射1時間後に軽度の反応を示し、3名の被検者は照射24時間後で軽度の反応を、1名の被検者は1および24時間で軽度の反応を示したが、それぞれその後反応は消失した。照射部位において軽度の紅斑が偶発的に観察されたが、非照射部位においても軽度の紅斑は観察されたため、これらの反応は有意とみなされず、この試験条件下において光刺激なしと結論づけられた(Hill Top Research Inc,1984)
このように記載されており、試験データをみるかぎり光刺激なしと報告されているため、一般に光毒性(光刺激性)はほとんどないと考えられます。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「フェノキシエタノール」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,834-835.
- ⌃大木 道則, 他(1989)「2-フェノキシエタノール」化学大辞典,1967.
- ⌃P.A. Hedin(1976)「Seasonal variation in the emission of volatiles by cotton plants growing in the field」Environmental Entomology(5)(6),1234-1238. DOI:10.1093/ee/5.6.1234.
- ⌃K. Yamaguchi & T. Shibamoto(1981)「Volatile constituents of green tea, Gyokuro (Camellia sinensis L. var Yabukita)」Journal of Agricultural and Food Chemistry(29)(2),366–370. DOI:10.1021/jf00104a035.
- ⌃abA.L. Hall(1990)「香粧品に許容できるフェノキシエタノール」香粧品 医薬品 防腐・殺菌剤の科学,63-88.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「フェノキシエタノール」医薬品添加物事典2021,511.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(2006)「殺菌・防腐剤」新化粧品原料ハンドブックⅠ,458-470.
- ⌃浅賀 良雄(2019)「化粧品の防腐技術」Q&A181 化粧品の微生物試験ガイドブック – 防腐設計,製造工程管理から出荷検査,クレーム対策まで – ,1-27.
- ⌃徳永 裕司, 他(2003)「市販化粧水中のフェノキシエタノールおよびパラベン類の分析法に関する研究」Bulletin of National Institute of Health Sciences(121),25-29.
- ⌃高畑 薫, 他(2009)「市販口紅中のパラベン類およびフェノキシエタノール含有量とその摂取量の推定」日本食生活学会誌(20)(2),143-150. DOI:10.2740/jisdh.20.143.
- ⌃abcJ.K. Poudrier(1990)「Final Report on the Safety Assessment of Phenoxyethanol」International Journal of Toxicology(9)(2),259-277. DOI:10.3109/10915819009078737.