メチルパラベンの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | メチルパラベン |
---|---|
医薬部外品表示名 | パラオキシ安息香酸メチル |
部外品表示簡略名 | メチルパラベン、パラベン |
INCI名 | Methylparaben |
配合目的 | 防腐 |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表される、パラ位(∗1)にフェノール性ヒドロキシ基(-OH)をもつパラヒドロキシ安息香酸のメチルエステルです[1][2]。
∗1 パラ位(para)とは、芳香族炭化水素上の水素以外の置換基を1とした場合の4つ目の位置を指します。以下のメチルパラベンの化学式でみた場合は、環の右にカルボキシ基(-COOH)をもち、このカルボキシ基(-COOH)を1とした場合に隣接した右上または下を相対的に2(オルト:ortho-:o-)、左上または下を3(メタ:meta:m-)、左を4(パラ:para:p-)とし、安息香酸のパラ位にヒドロキシ基(-OH)をもつことからパラヒドロキシ安息香酸(p-ヒドロキシ安息香酸)となります。化学分野においては4つ目にヒドロキシ基をもつことからそのまま4-ヒドロキシ安息香酸とも命名されています。
1.2. 歴史
パラベンは、1924年に強酸性のpH領域でしか効果を示さないサリチル酸や安息香酸に代わる抗菌剤として報告されたことをきっかけに様々なアルキル基(∗2)を結合しエステル化されてきた中で、広いpHで効果があること、様々な微生物に対して相対的に活性であること、使用量に対してコストが低いこと、毒性が低いことなどから1934年にスイス薬局方に、1947年に米国薬局方にメチルパラベンが認可され、現在において化粧品用防腐剤のうち最も安全な部類に属すると考えられています[3a]。
∗2 アルキル基とは、炭素(C)と水素(H)から成る脂肪族飽和化合物であるアルカン(alkane)から水素(H)をひとつとった残りの炭化水素基のことをいい、エチル基、メチル基、プロピル基などがあります。パラヒドロキシ安息香酸にメチル基を結合したエステルはパラヒドロキシ安息香酸メチル(メチルパラベン)です。
1.3. 化粧品以外の主な用途
メチルパラベンの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
---|---|
医薬品 | 安定・安定化、防腐、保存目的の医薬品添加剤として経口剤、各種注射、外用剤、眼科用剤、耳鼻科用剤、口中用剤などに用いられています[4]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 防腐
主にこれらの目的で、スキンケア製品、ハンド&ボディケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、シート&マスク製品、日焼け止め製品、洗顔料、シャンプー製品、コンディショナー製品、クレンジング製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、頭皮ケア製品、ボディソープ製品、ヘアカラー製品、ヘアスタイリング製品、ネイル製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 防腐
防腐に関しては、メチルパラベンなどパラオキシ安息香酸エステルは、様々な微生物に対して相対的に抗菌活性をもちますが、一般に細菌よりも真菌に対する抗菌性に優れ、その作用は静菌的であることが明らかにされています[5]。
1990年にアメリカのMallincrodtによって報告されたパラベン類の抗菌活性検証によると、
– in vitro : 抗菌活性試験 –
大豆寒天培地を用いて化粧品の腐敗でよく見受けられる様々なカビ、酵母および細菌に対する各パラオキシ安息香酸エステルのMIC(minimum inhibitory concentration:最小発育阻止濃度)を検討したところ、以下の表のように(∗3)、
∗3 MICの単位であるppm(parts per million)は100万分の1の意味であり、1ppm = 0.0001%です。
微生物 | MIC(ppm) | |||
---|---|---|---|---|
メチル | エチル | プロピル | ブチル | |
枯草菌 (グラム陽性桿菌) |
2,000 | 1,000 | 500 | 250 |
黄色ブドウ球菌 (グラム陽性球菌) |
2,000 | 1,000 | 500 | 125 |
表皮ブドウ球菌 (グラム陽性球菌) |
2,000 | 1,000 | 500 | 250 |
大腸菌 (グラム陰性桿菌) |
2,000 | 1,000 | 500 | 500 |
肺炎桿菌 (グラム陰性桿菌) |
1,000 | 500 | 500 | 250 |
チフス菌 (グラム陰性桿菌) |
1,000 | 1,000 | 500 | 250 |
腸内細菌 (グラム陰性桿菌) |
1,000 | 500 | 250 | 125 |
セラチア (グラム陰性桿菌) |
1,000 | 1,000 | 500 | 500 |
緑膿菌 (グラム陰性桿菌) |
4,000 | > 2,000 | > 1,000 | > 1,000 |
カンジダ (酵母) |
1,000 | 500 | 250 | 125 |
出芽酵母 (酵母) |
1,000 | 500 | 125 | 32 |
コウジカビ (カビ) |
1,000 | 500 | 250 | 125 |
アオカビ (カビ) |
500 | 250 | 125 | 63 |
白癬菌 (カビ) |
250 | 125 | 63 | 32 |
パラベン類は、広範囲に極めて高い抗菌活性を示し、一般に細菌よりも酵母やカビに対して効果的であり、またグラム陰性菌よりもグラム陽性菌に対してより効果的であることがわかった。
また、生育阻害のためには室温で水に溶けるよりも多くの量を必要とするため、緑膿菌に対し特に効果がないことがわかった。
このような検証結果が明らかにされており[3b]、メチルパラベンに防腐作用が認められています。
パラベンの抗菌活性は、ブチルパラベンまでは化学構造的にアルキル側鎖が長くなるに従って増大するため、抗菌活性の強さは、
ブチル > プロピル > エチル > メチル
となりますが、同時にアルキル側鎖が長くなるほど水に溶けにくくなるため、実際の使用においては以下のように、
メチル > エチル > プロピル > ブチル
メチルパラベンが最も汎用されています。
また、パラベンは他の防腐剤および防腐作用を有する成分と組み合わせて使用されることも多く、その理由として以下のように、
- 活性のスペクトル増大
- より低濃度の防腐成分の使用によって毒性学的なリスクの減少
- 単一の防腐剤に対する耐性菌の出現防止
- 相加的または相乗的な活性
これらのいずれかまたは複数の効果を意図して処方するためです。
3. 配合製品数および配合量範囲
パラオキシ安息香酸メチルは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。
種類 | 配合量 | その他 |
---|---|---|
薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 | 1.0 | パラオキシ安息香酸及びそのエステルとして合計。この項のパラオキシ安息香酸エステルとは、パラオキシ安息酸イソブチル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸ロピル及びパラオキシ安息香酸メチルに限る。 |
育毛剤 | 1.0 | |
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 | 1.0 | |
薬用口唇類 | 1.0 | |
薬用歯みがき類 | 1.0 | |
浴用剤 | 1.0 | |
染毛剤 | 1.0 | |
パーマネント・ウェーブ用剤 | 1.0 |
また、メチルパラベンは配合制限成分リスト(ポジティブリスト)収載成分であり、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。
種類 | 最大配合量(g/100g) |
---|---|
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの | パラオキシ安息香酸エステル及びそのナトリウム塩の合計量として1.0。 |
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの | |
粘膜に使用されることがある化粧品 |
化粧品に対する実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2003-2006年および2016-2019年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗4)。
∗4 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
国内における配合量に関しては、2003年に国立医薬品食品衛生研究所によって報告された化粧水中のパラベン量の調査によると、
このような調査結果が明らかにされており[6]、メチルパラベンの配合量は、他のパラベンやフェノキシエタノールを併用した相乗効果によって、平均として0.097%、最大でも0.2%ほどに抑えられていることがわかります。
また2009年に東京農業大学大学院農学研究科および東京食品技術研究所によって報告された口紅中のパラベン量の調査によると、
このような調査結果が明らかにされており[7]、メチルパラベンの配合量は、他のパラベンやフェノキシエタノールを併用した相乗効果によって、平均として0.068%、最大でも0.261%に抑えられていることがわかります。
4. 安全性評価
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 50年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし-わずか
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(メチルパラベンのみ):ほとんどなし
- 皮膚感作性(パラベンミックス – 皮膚炎または皮膚感作経験を有する場合):まれに皮膚感作を引き起こす可能性あり
- 光感作性:ほとんどなし
- 経皮吸収・代謝・排泄:表皮でパラヒドロキシ安息香酸に代謝され尿排泄される
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
ただし、皮膚炎を有する場合または皮膚感作経験がある場合は、まれにアレルギー性接触性皮膚感作を引き起こす可能性があるので注意が必要です。
また、パラベンは持続的な体内浸透によりレベルは低いものの組織にパラベンの定常状態(∗5)をもたらす可能性が明らかにされていますが、現時点でこのパラベンの定常状態によって健康への有害な影響を示すヒトを対象とした十分な裏付けのある研究データはなく、化粧品配合量および通常使用下において一般に安全性に問題のない成分であると報告されています(これからヒト試験データが報告されていくと推測されるため、みつかりしだい追補または再編集します)。
∗5 定常状態とは、運動の形態が時間的に変化しない状態のことであり、たとえば自然界において小川は上流などで雨が降らない限り、時間とともに川の流れの速度や流量が変わることはなく一定であり、この意味で定常状態にあるといえます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[8a][9a]によると、
- [ヒト試験] 20名の被検者に0.8%メチルパラベンを含む製剤を対象に24時間単回刺激性試験を実施したところ、皮膚刺激の兆候はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
- [ヒト試験] 20名の被検者に0.8%メチルパラベンを含む製剤を対象に24時間単回刺激性試験を実施したところ、皮膚刺激の兆候はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
- [ヒト試験] 50名の被検者に0.2%メチルパラベンを含むヘアドレッシングを対象に5日間の累積刺激性試験を閉塞パッチにて実施したところ、累積刺激の報告はなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1981)
- [ヒト試験] 12名の被検者に0.2%メチルパラベンを含むクリームを対象に21日間の累積刺激性試験を閉塞パッチにて実施したところ、累積刺激スコア(0-630)は0.83であり、本質的に非刺激性と結論付けられた(Hill Top Research Inc,1979)
- [ヒト試験] 13名の被検者に0.2%メチルパラベンを含むクリームを対象に21日間の累積刺激性試験を閉塞パッチにて実施したところ、累積刺激スコア(0-630)は31であり、本質的に非刺激性と結論付けられた(Hill Top Research Inc,1981)
- [ヒト試験] 11名の被検者に0.2%メチルパラベンを含むクリームを対象に21日間の累積刺激性試験を閉塞パッチにて実施したところ、累積刺激スコア(0-630)は72であり、わずかな皮膚刺激性を示した(Hill Top Research Inc,1978)
- [ヒト試験] 9名の被検者に0.2%メチルパラベンを含むクリームを対象に21日間の累積刺激性試験を閉塞パッチにて実施したところ、累積刺激スコア(0-630)は0であり、本質的に非刺激性と結論付けられた(Hill Top Research Inc,1979)
- [ヒト試験] 13名の被検者に0.2%メチルパラベンを含むローションを対象に21日間の累積刺激性試験を閉塞パッチにて実施したところ、累積刺激スコア(0-630)は141であり、わずかな皮膚刺激性を示した(Hill Top Research Inc,1978)
- [ヒト試験] 57名の被検者に0.2%メチルパラベンを含むアイメイク製品を対象に4週間使用試験を実施したところ、非刺激性であった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1979)
- [ヒト試験] 45,000名以上の被検者に防腐剤濃度のパラベンを含む1,363の製剤を対象に皮膚累積刺激性試験を実施したところ、パラベンは典型的な使用条件において刺激剤であることが示されず、皮膚刺激スコアは相関していなかった(R.M. Walters et al,2015)
このように記載されており、試験データをみるかぎり非刺激-わずかな皮膚刺激が報告されているため、一般に皮膚刺激性は非刺激-わずかな皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[8b]によると、
- [ヒト試験] 100名の被検者に0.1-0.3%濃度範囲のメチルパラベン水溶液をヒトの片眼に点眼したところ、中程度の充血、わずかな流涙およびわずかな灼熱感を生じたが、すべての症状は1分以内に消失した。これらの結果から眼刺激性なしと結論付けられた(M. Simonelli,1939)
このように記載されており、試験データをみるかぎり眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
4.3. 皮膚感作性(アレルギー性)
4.3.1. メチルパラベンのみ
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[8c]によると、
– 健常皮膚を有する場合 –
- [ヒト試験] 103名の被検者に0.8%メチルパラベンを含むファンデーションを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、11名の被検者に一過性の皮膚刺激がみられたが、皮膚感作性は認められなかった(Research Testing Laboratories,1979)
- [ヒト試験] 198名の被検者に0.8%メチルパラベンを含むチークを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、10名の被検者に一過性の軽度から中程度の皮膚刺激がみられたが、皮膚感作性は認められなかった(Research Testing Laboratories,1979)
- [ヒト試験] 103名の被検者に0.2%メチルパラベンを含むハンドローションを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、3名の被検者に一過性の皮膚刺激がみられたが、皮膚感作性は認められなかった(Testkit Laboratories,1978)
- [ヒト試験] 91名の被検者に0.2%メチルパラベンを含むボディスクラブを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、2名の被検者に誘導期間において疑わしい皮膚皮膚反応がみられたが、ほかに皮膚刺激および皮膚感作の兆候は認められなかった(Testkit Laboratories,1979)
- [ヒト試験] 205名の被検者に0.2%メチルパラベンを含むハンドクリームを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、皮膚感作性は認められなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1979)
- [ヒト試験] 108名の被検者に0.2%メチルパラベンを含む製剤を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、皮膚刺激および皮膚感作性は認められなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1979)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
また、大阪府立羽曳野病院皮膚科の試験データ[10]によると、
– 以前に皮膚感作または皮膚炎を経験している場合 –
- [個別事例] 10年前より鼻炎および結膜炎による既往歴があり、一般皮内検査においてはハウスダスト、スギ花粉および猫毛に陽性反応を有する女性(47歳)は、1989年7月より化粧品を顔に塗るとかゆみのある紅斑ができ、化粧品を変えても、ベビーローションを使用してもかゆくなり、シャンプーでも頭がかゆくなるといった症状から1990年6月に初診をうけた。化粧品、シャンプーなどで閉塞パッチテストを実施したところ、メチルパラベンで陽性反応が示された。同時に含まれていたエチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベンは陰性であった。さらに交差反応を調べるためにパラベン、サリチル酸およびアセチルサリチル酸についてもパッチテストを実施したが陰性であった。これらの結果からメチルパラベン単独による接触蕁麻疹と診断した
このように記載されており、個別事例のみですがアレルギーに過敏な皮膚を有する場合においてメチルパラベン単体での接触皮膚感作が1例報告されています。
4.3.2. 数種類のパラベン(∗6)
∗6 数種類のパラベンとは、種類は不明ですが複数のパラベンの混合物です。
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[8d]によると、
– 健常皮膚を有する場合 –
- [ヒト試験] 30名の被検者に5%パラベンを含む軟膏をパッチテストしたところ、いずれの被検者においても皮膚感作反応はみられなかった(W.F. Schorr,1966)
- [ヒト試験] 260名の被検者に5%パラベンを含む軟膏をパッチテストしたところ、いずれの被検者においても皮膚感作反応はみられなかった(W.F. Schorr,1968)
- [ヒト試験] 160名の被検者に1%パラベンを含む軟膏をパッチテストしたところ、いずれの被検者においても皮膚感作反応はみられなかった(H.J. Cramer,1963)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚感作なしと報告されているため、健常な皮膚を有する場合において一般に複数のパラベンの皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.3.3. パラベンミックス(∗7)
∗7 パラベンミックスとは、24種類のジャパニーズスタンダードアレルゲンのひとつに指定されているパラベンの混合物であり、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、ベンジルパラベンで構成されています[11]。
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[8e]によると、
– 以前に皮膚感作または皮膚炎を経験している場合 –
- [ヒト試験] 2,061名の被検者に15%パラベンミックスを含む軟膏をパッチテストしたところ、44名(2.1%)の被検者に感作反応が示された(North American Contact Dermatitis Group,1972)
- [ヒト試験] 1,862名の被検者に15%パラベンミックスを含む軟膏をパッチテストしたところ、40名(2.1%)の被検者に感作反応が示された(North American Contact Dermatitis Group,1979-1980)
- [ヒト試験] 5,799名の被検者に14%パラベンミックスをパッチテストしたところ、66名(1.13%)の被検者に感作反応が示された(N. Hjorth,1962)
- [ヒト試験] 4,097名の被検者に15%パラベンミックスを含む軟膏を24時間Chamber適用したところ、14名(0.3%)の被検者に感作反応が示された(M. Hannuksela,1976)
- [ヒト試験] 192名の被検者に15%パラベンミックスを48時間Chamber適用したところ、7名(3.6%)の被検者に感作反応が示された(J.E. Fraki,1979)
- [ヒト試験] 1,312名の被検者に15%パラベンミックスを含むパラフィンを48時間パッチテストしたところ、31名(2.3%)の被検者に感作反応が示された(J.E. Fraki,1979)
このように記載されており、試験データをみるかぎり平均して約2%の被検者に皮膚感作の兆候が報告されているため、皮膚感作および皮膚炎を有するまたは過去に有していた経験がある場合において一般に接触性皮膚感作反応を引き起こす可能性があると考えられます。
パラベンミックスは、日本においては2020年時点で標準アレルゲンとして指定されていますが、米国では1940年から蓄積されたアレルギー試験データからアレルギー性接触感作の頻度が低く、現在使用されている濃度範囲において何十年も感作率が維持されていることから、2019年に非アレルゲンに指定されています[12a]。
4.4. 光感作性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[8f]によると、
- [ヒト試験] 102名の被検者に0.2%メチルパラベンおよび0.1%プロピルパラベンを含むアイメイクアップを対象に光感作性試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、光感作性は認められなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
- [ヒト試験] 53名の被検者に0.2%メチルパラベンおよび0.1%プロピルパラベンを含むローションを対象に光感作性試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、光感作性は認められなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
- [ヒト試験] 53名の被検者に0.2%メチルパラベンおよび0.1%プロピルパラベンを含むローションを対象に光感作性試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、光感作性は認められなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して光感作なしと報告されているため、一般的に光感作性はほとんどないと考えられます。
4.5. 経皮吸収および体内挙動(代謝、排泄)
パラベンは、バリア機能の影響を強く受け、健常な皮膚においては最小限が体内に浸透しますが、表皮に存在する酵素であるカルボキシルエステラーゼによってパラヒドロキシ安息香酸に加水分解され、尿中に急速に排泄されることが明らかにされており、また1984年-2008年の試験データによるとパラベンはヒト組織に有意な程度までは蓄積しないと結論づけられています[8g][9b]。
一方で、理論的にパラベン含有製品の連用やパラベン含有医薬品または食品の定期的な摂取などによる持続的な体内浸透が、レベルが低いとはいえヒト組織にパラベンの定常状態(∗5)をもたらす可能性があり、近年の研究においてはヒト組織にパラベンの存在が確認されています[9c][12b]。
∗5 定常状態とは、運動の形態が時間的に変化しない状態のことであり、たとえば自然界において小川は上流などで雨が降らない限り、時間とともに川の流れの速度や流量が変わることはなく一定であり、この意味で定常状態にあるといえます。
パラベンのヒト組織定常状態が皮膚に及ぼす影響については、現時点で十分な裏付けのある有意または示唆的なヒトに対する研究データがないことから、化粧品における配合量制限などにも変更はなく、2020年時点で配合制限範囲において安全に使用できると結論付けられています。
ただし、同時にヒト組織定常状態の皮膚に及ぼす影響がないことが、十分な裏付けのあるデータで示されているわけではないので、今後はヒト組織に存在するパラベンの生物学的影響に関する研究報告が増えてくると推測されます。
パラベンがヒト組織に存在する場合の健康に及ぼす影響に関しては、説得力のある研究データが報告された場合に追補または再編集します。
4.6. 安全性についての補足
2005年8月25日に、メチルパラベンが紫外線によって皮膚細胞死亡率および老化の原因となる脂質過酸化物を増加させることが朝日新聞に以下のように記載されました[13]。
ファンデーションなど化粧品の防腐剤として広く使われているメチルパラベンには、紫外線があたると皮膚細胞の老化を進める作用があることが、京都府立医科大生体安全医学講座(吉川敏一教授)の研究でわかった。
メチルパラベンは抗菌作用が高い一方、皮膚に対する刺激が低いことから、パウダー類や化粧水、乳液など化粧品では最も一般的に使われている防腐剤。紫外線カットのための製品にも含まれている。単体での安全性は確認されているが、同講座は、実際に使われる状況での影響を調べた。
実験では、皮膚細胞(ケラチノサイト)に、通常の使用方法で皮膚が吸収する濃度のメチルパラベンを添加し、夏の日中の平均的な紫外線量(30mJ/c㎡)をあてた。
細胞の死亡率は、添加しない場合の約6%に対し、添加した方は約19%。紫外線によって酸化した細胞内に発生し、老化の元凶となる「脂質過酸化物」の量は約3倍だった。
吉川氏は、メチルパラベンが紫外線を浴びると、シワやシミなどにつながる皮膚の老化を進めることが確認できたとして「メチルパラベン入りの化粧品をつけたら、強い直射日光は避けた方がいいのではないか」と話している。
朝日新聞(2005年8月25日)より引用
この記事に対して、2005年8月29日に日本化粧品工業連合会は以下のようにコメントしています。
(平成17年8月25日付朝日新聞朝刊に掲載された「メチルパラベン」に関する記事について)
「化粧品業界の現状認識について」メチルパラベンは、化粧品をはじめ、食品・医薬品等の安全で優れた防腐剤として、日本や欧米諸国で長い間使用されてきております。
また、米国及び欧州の化粧品成分の評価機関でも、その化粧品への使用について、安全性上問題ないことが確認されております(∗)。
今回紹介された試験結果は、化粧品の実際の使用とは異なる条件で行われたものであり、メチルパラベンを配合した化粧品をヒトの皮膚に使用し紫外線を浴びた場合に、皮膚の老化が起きるということに直接結びつくものとは考えておりません。
したがいまして、メチルパラベンを配合した化粧品をこれまで同様に安心してご使用していただけるものと考えます。今後も、引続き化粧品の安全性確保に万全を期すために努めてまいります。
(∗)今回行われた試験は、皮膚の一部を構成する表皮の細胞だけを用いた試験であり、 ヒトの皮膚そのものを用いたものではなく、また、紫外線照射装置を使用した試験と考えられます。
メチルパラベンは太陽光中の紫外線をほとんど吸収しないことが知られており、米国評価機関の評価では、メチルパラベンに紫外線を照射しても皮膚に対する刺激に影響力を及ぼさないことも明らかにされております。
日本化粧品工業連合会ホームページより引用(現在削除)
また2005年9月に上野製薬は以下のようにコメントしています[14]。
メチルパラベンと紫外線の作用に関する最近の朝日新聞報道について
2005年8月25日付けの朝日新聞朝刊に掲載された記事の内容には明らかに正確性・妥当性を欠く部分がありました。
記事には、「メチルパラベンと紫外線が作用してシミやシワにつながる皮膚の老化が確認」とされていましたが、実験を行った京都府立医科大学生体安全医学講座の担当助教授に当社が確認したところ、同助教授から、「そのようなことは言っていないと思う。特にシミの場合、関連性はない。」「紫外線量 30mJ/c㎡ は文献を参考にしたが、新聞記載のように夏の日中の平均的な紫外線量とは言っていない。」との回答を得ました。
また、今回の実験は in vitro、いわゆる試験管内(今回はシャーレ内)の培養細胞での実験であります。メチルパラベンの溶液に24時間浸漬して細胞内部にメチルパラベンを取り込ませた後、細胞に直接UVB(275-375nm)を照射した実験を行っていますが、実際には皮膚の表面部分に角質層の保護膜があり、化粧品はこの角質層の上にとどまり、微量含まれるメチルパラベンも速やかに代謝されます。
また、表皮(顆粒層)は紫外線を散乱し、内部の細胞を保護することから、今回の実験は化粧品の実際の使用とは全く異なる条件で行われたものです。
更に、メチルパラベンは、生体内では代謝され体外に排泄されるということなどは考慮されておらず、シワに関してin vitroの実験結果が直ちに生体への影響があるかのような表現は読者に誤解を与えていると考えます。
メチルパラベンは70年以上の長期にわたり最も安全な化粧品及び食品の防かび剤として世界で広く使用されています。日本の厚生省を始めとして、米国の FDA (食品医薬局)、欧州の食品医薬局でその使用が認められており、多くのin vivoテスト(急性毒性試験、亜急性毒性試験、慢性毒性試験、がん原性試験、生殖発生毒性試験、吸収分布代謝排泄試験、皮膚刺激性試験、皮膚光感作性試験)でその安全性が確認されております。
特に米国においてメチルパラベンは最も安全な物質として考えられる GRAS物質 (Generally Recognized As Safe)に指定されています。
上野製薬ホームページより引用(現在削除)
これらのコメントが示すとおり、メチルパラベンに紫外線を照射しても皮膚には影響を及ぼさず、定められた配合範囲内において通常使用下で安全に使用できると考えられます。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「メチルパラベン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,986-987.
- ⌃有機合成化学協会(1985)「4-ヒドロキシ安息香酸メチル」有機化合物辞典,749.
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