メチルクロロイソチアゾリノンの基本情報・配合目的・安全性

メチルクロロイソチアゾリノン

化粧品表示名 メチルクロロイソチアゾリノン
医薬部外品表示名 メチルクロロイソチアゾリノン・メチルイソチアゾリノン液(∗1)
INCI名 Methylchloroisothiazolinone
配合目的 防腐

∗1 メチルクロロイソチアゾリノン(methylchloroisothiazolinone)は、製造工程における副産物であるメチルイソチアゾリノン(methylisothiazolinone)と併用され、医薬部外品(薬用化粧品)に併用される場合は医薬部外品表示名として「メチルクロロイソチアゾリノン・メチルイソチアゾリノン液」と表示されます。

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表される複素環式化合物(∗2)であり、イソチアゾリノン(isothiazolinone)の誘導体です[1][2]

∗2 複素環式化合物とは、炭素(C)以外の原子を環の構成元素に持つ有機化合物であり、メチルクロロイソチアゾリノンの場合は環の中に炭素(C)の他に窒素(N)と硫黄(S)を含む複素環式化合物です。

メチルクロロイソチアゾリノン

1.2. 歴史および規制状況

殺菌剤として水銀化合物を使用することへの懸念が高まる中で、1960年代にイソチアゾリノン類が広域に抗菌活性を有しかつ有機薬品によって不活性化されないことが発見されたことをきっかけに、1980年代にはメチルクロロイソチアゾリノン・メチルイソチアゾリノン混合液を活性成分とする化粧品・トイレタリー用防腐剤が開発されました[3]

メチルクロロイソチアゾリノン・メチルイソチアゾリノン混合液は、近年まで米国、ヨーロッパを中心に汎用されていましたが、2014年9月に欧州委員会(European Commission)は2016年7月15日からメチルクロロイソチアゾリノン・メチルイソチアゾリノン混合液をリーブオン製品(∗3)では使用禁止、リンスオフ製品(∗4)では15ppm(0.0015%)以下へ変更という委員会規則を発行しました[4]

∗3 リーブオン製品とは、スキンケア製品やメイク製品など付けっ放しの製品のことです。
∗4 リンスオフ製品とは、シャンプーやボディソープなどの洗い流し系製品のことです。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 防腐

主にこれらの目的で、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、ボディソープ製品、洗顔料、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品などに使用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 防腐

防腐に関しては、メチルクロロイソチアゾリノンはメチルイソチアゾリノンとの併用で幅広い範囲の細菌(グラム陰性菌、グラム陽性菌)および真菌(カビ、酵母)に強い抗菌活性を示すイソチアゾリノン系防腐剤として知られています[5a]

1990年にアメリカのRohm and Haasによって報告されたメチルイソチアゾリノン・メチルクロロイソチアゾリノン混合液の抗菌活性検証によると、

– in vitro : 抗菌活性試験 –

寒天培地を用いて化粧品の腐敗でよく見受けられる様々なカビ、酵母および細菌に対するメチルイソチアゾリノン・メチルクロロイソチアゾリノン混合液のMIC(minimum inhibitory concentration:最小発育阻止濃度)を検討したところ、以下の表のように(∗5)

∗5 MICの単位であるppm(parts per million)は100万分の1の意味であり、1ppm = 0.0001%です。

微生物 MIC
% ppm
緑膿菌(グラム陰性桿菌)
Pseudomonas aeruginosa
0.030 300
大腸菌(グラム陰性桿菌)
Escherichia coli
0.030 300
黄色ブドウ球菌(グラム陽性球菌)
Staphylococcus aureus
0.015 150
枯草菌(グラム陽性桿菌)
Bacillus subtilis
0.015 150
カンジダ(酵母)
Candida albicans
0.030 300
コウジカビ(カビ)
Aspergillus brasiliensis
0.060 600

メチルイソチアゾリノン・メチルクロロイソチアゾリノン混合液は、細菌(グラム陽性菌、グラム陰性菌)、カビ、酵母など広範囲に高い抗菌活性を示した。

このような検証結果が明らかにされており[5b]、メチルイソチアゾリノン・メチルクロロイソチアゾリノン混合液に防腐作用が認められています。

3. 配合製品数および配合量範囲

メチルクロロイソチアゾリノン・メチルイソチアゾリノン液は、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。

種類 配合量
薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 0.1
育毛剤 配合不可
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 配合不可
薬用口唇類 配合不可
薬用歯みがき類 配合不可
浴用剤 配合不可
染毛剤 配合不可
パーマネント・ウェーブ用剤 配合不可

また、メチルクロロイソチアゾリノン・メチルイソチアゾリノン液は配合制限成分リスト(ポジティブリスト)収載成分であり、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。

種類 最大配合量(g/100g)
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの 0.1
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの 配合不可
粘膜に使用されることがある化粧品 配合不可

化粧品に対する実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2019年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗6)

∗6 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

メチルクロロイソチアゾリノン・メチルイソチアゾリノン液の配合調査(2019年)

4. 安全性評価

メチルクロロイソチアゾリノンの現時点での安全性は、メチルクロロイソチアゾリノン・メチルイソチアゾリノン液として、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 30年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:濃度0.01%以下においてほとんどなし
  • 眼刺激性:濃度0.0056%以下においてほとんどなし
  • 皮膚感作性(アレルギー性):濃度0.0015%以下においてほとんどなし
  • 光毒性(光刺激性):濃度0.0015%以下においてほとんどなし
  • 光感作性:濃度0.0015%以下においてほとんどなし

このような結果となっており、濃度0.0015%以下および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

ただし、メチルクロロイソチアゾリノンに敏感な皮膚を有する場合やすでにメチルクロロイソチアゾリノンにアレルギーを有する場合は、メチルクロロイソチアゾリノンを含む製品を避ける必要があると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

メチルクロロイソチアゾリノンの安全性評価については、メチルイソチアゾリノンやメチルクロロイソチアゾリノンといった長い化学名称が複数回にわたって記載されることで閲覧性が著しく低下するため、それぞれ、

  • メチルイソチアゾリノン(methylisothiazolinone):MI
  • メチルクロロイソチアゾリノン(methylchloroisothiazolinone):MCI
  • メチルクロロイソチアゾリノン・メチルイソチアゾリノン液:MI/MCI混合液

このように省略して記載しています。

また、メチルクロロイソチアゾリノンはメチルイソチアゾリノンとの組み合わせで用いられることから、安全性評価の対象となる試験データはメチルクロロイソチアゾリノン・メチルイソチアゾリノン液のものとなります。

4.1. 皮膚刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[6a]によると、

  • [ヒト試験] 13名の被検者に0.001%,0.0015%,0.0025%および0.005%MI/MCI混合液水溶液0.2mLを対象に21日間累積刺激性試験を実施したところ、いずれの被検者においても累積皮膚刺激の兆候は観察されなかった(H.I. Maibach,1985)
  • [ヒト試験] 12名の被検者に0.01%,0.02%および0.03%MI/MCI混合液水溶液0.2mLを対象に21日間累積刺激性試験を実施したところ、濃度0.01%では累積皮膚刺激の兆候は観察されなかったが、濃度0.02%および0.03%においてそれぞれ4名の被検者に軽度の累積刺激が観察された(H.I. Maibach,1985)
  • [ヒト試験] 14名の被検者に0.0025%,0.005%および0.01%MI/MCI混合液水溶液0.2mLを対象に21日間累積刺激性試験を実施したところ、いずれの被検者も累積皮膚刺激の兆候は観察されなかった(H.I. Maibach,1985)
  • [ヒト試験] 80名の被検者に0.01%MI/MCI混合液を含むヘア&スキン製剤を対象にパッチテストを実施したところ、いずれの被検者も皮膚刺激の兆候は観察されなかった(H I Maibach,1980)

このように記載されており、試験データをみるかぎり濃度0.01%以下において共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に濃度0.01%以下において皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

4.2. 眼刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[6b]によると、

  • [動物試験] 6匹のウサギの片眼の結膜嚢に0.0056%MI/MCI混合液水溶液0.1mLを15分ごとに2時間にわたって点滴し、この手順を週5日4週間にわたって繰り返したところ、軽度の結膜炎が観察されたが、この試験物質は眼刺激性剤ではないと結論づけられた(Rohm and Haas Company,1984)

このように記載されており、試験データをみるかぎり濃度0.0056%において眼刺激なしと報告されているため、一般に濃度0.0056%以下において眼刺激性はほとんどないと考えられます。

4.3. 皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[6c]によると、

– 健常皮膚を有する場合 –

  • [ヒト試験] 96名の被検者に0.005%および0.01%MI/MCI混合液水溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、50ppm濃度では皮膚感作の兆候は観察されなかったが、100ppm濃度で再チャレンジパッチを実施した52名のうち1名の被検者に曖昧な反応が観察された(H.I. Maibach,1980)
  • [ヒト試験] 1,450名の被検者に0.0002%-0.005%MI/MCI混合液水溶液0.3または0.5mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、濃度0.00125%未満では皮膚刺激および皮膚感作の兆候はみられなかった。3名の被検者は遅延感作性を示唆する反応がみられたため(0.00125%で1名、0.002%で2名)、再度チャレンジパッチを適用したところ、決定的な結果は得られなかった。しかしながら、それらの感作の兆候は濃度0.01%にて再びチャレンジパッチを適用すると確認された(J.E. Weaver et al,1985)
  • [ヒト試験] 18名の被検者に0.0025%MI/MCI混合液水溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者も皮膚刺激は観察されなかったが、1名の被検者に感作反応が認められたため、この被検者に6週間後再度チャレンジパッチを適用したところ、陽性反応を示した(Rohm and Haas Company,1984)
  • [ヒト試験] 9名の被検者群にそれぞれ0.0005%,0.001%,0.0015%,0.0025%,0.005%および0.01%MI/MCI混合液水溶液を48時間閉塞パッチ適用し、処理された部位を49,96および168時間後に評価したところ、いずれの被検者も濃度0.0015%以下においては皮膚反応を示さなかった。しかし、濃度0.0025%,0.005%および0.01%はそれぞれ1,6および9名が皮膚感作を示した。配合範囲を超える濃度ではヒトにおいて皮膚感作を引き起こすと結論づけられた(J.E. Weaver et al,1985)

– 皮膚炎を有する場合 –

  • [ヒト試験] 国際接触皮膚炎研究グループおよび北米接触皮膚炎グループは、化粧品およびトイレタリーにおけるMI/MCI混合液の使用に関する感作性リスクを評価するために、7,000名以上の患者に0.01%MI/MCI混合液水溶液をパッチ試験したところ、陽性反応の発生率は41名(0.58%)であった(A.C. Degroot et al,1985)
  • [ヒト試験] 顔に接触皮膚炎を有する98名の患者に0.01%MI/MCI混合液を閉塞パッチ適用し、試験部位を48および72時間後に検査したところ、98名のうち6名に陽性反応がみられた。これら6名の患者のいずれも自身の化粧品またはトイレタリー製品に対して皮膚反応を示さなかったが、それは化粧品のMI/MCI混合液の濃度が低すぎたために感作反応を誘発しないことを示唆した(A. Tosti et al,1986)
  • [ヒト試験] 接触性皮膚炎を有する1,511名の患者に0.01%MI/MCI混合液をパッチテストしたところ、13名(0.8%)が陽性反応を示した。13名のうち8名は2週間後に同様のテストを実施したところ、8名すべての被検者が陽性反応を示した。皮膚感作の程度を調査するために、最初に陽性反応を示した13名のうち11名(再テストした8名含む)にあらためて0.00077%-0.00155%MI/MCI混合液を含む様々な化粧品を対象にパッチテストしたところ、いずれの患者も皮膚反応を示さなかった(N. Hjorth et al,1986)
  • [ヒト試験] 0.01%MI/MCI混合液を用いたパッチテストで陽性反応が認められた18名の被検者に0.0004%-0.0006%MI/MCI混合液を含む液体石鹸、シャンプー、ヘアコンディショナー、液体柔軟剤、入浴剤のうち少なくとも1つの製品を1日1回使用してもらったところ、これらの製品でのアレルギー性皮膚炎反応の兆候はなかった。これらの洗浄系製品はすぐに水で希釈されてはるかに低い濃度一時的に使用され、実際のMI/MCI混合液の適用となると約0.0001%相当であることから、MI/MCI混合液にアレルギーのある消費者でさえ、これらの製品の使用で皮膚炎を誘発するリスクは極めてわずかであることが示唆された(J.E. Weaver et al,1985)
  • [ヒト試験] 420名の患者に0.01%MI/MCI混合液をパッチテストしたところ、23名(5.5%)が陽性反応を示した。この23名のうち12名の患者に0.0007%,0.0015%,0.0025%,0.005%および0.01%MI/MCI混合液をパッチテストしたところ、濃度0.0025%以下において皮膚反応は減少した。しかしながら、濃度0.0007%においても2名の患者にわずかな皮膚反応が観察された(F. Pasche et al,1989)

このように記載されており、試験データをみるかぎり健常な皮膚および皮膚炎を有する皮膚のどちらでも0.0015%以下において共通して皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚状態に関わらず0.0015%以下において皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

MI/MCI混合液は皮膚感作が懸念される成分ですが、2019年時点でリーブオン製品において濃度0.00075%以下、リンスオフ製品において濃度0.0015%以下であれば安全に問題がないと結論づけられています[7]

ヨーロッパでは2016年7月以降リーブオン製品への使用が禁止されている影響もあり、リンスオフ製品に限定して使用されますが、国内においてはリーブオン製品への使用は禁止されておらず、少ないもののリーブオン製品への配合例もみられます。

4.4. 光毒性(光刺激性)および光感作性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[6d]によると、

  • [ヒト試験] 27名の被検者に0.0015%MI/MCI混合液を対象に光感作試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチ下で実施したところ、誘導期間に一過性のわずかな刺激反応がみられたが、感作を示す反応は観察されなかったため、この条件下では光感作の兆候はなかったと結論づけた(Rohm and Haas Company,1984)
  • [ヒト試験] 25名の被検者に0.0015%MI/MCI混合液を含む製剤を24時間単一閉塞パッチ適用し、パッチ除去後にUVAライトを10cm(4400kW/c㎡)の距離で15分間照射し、パッチ除去24および48時間後および7日後に評価したところ、4名の被検者に一過性の非特異的な紅斑がみられたが、これらは光刺激反応ではないとみなされ、この条件下でこの試験物質は光刺激剤はないと結論付けられた(Rohm and Haas Company,1984)

このように記載されており、試験データをみるかぎり濃度0.0015%以下において光刺激および光感作なしと報告されているため、一般に濃度0.0015%以下において光毒性(光刺激性)および光感作性はほとんどないと考えられます。

5. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「メチルクロロイソチアゾリノン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,984.
  2. “Pubchem”(2021)「5-Chloro-2-methyl-4-isothiazolin-3-one」,2021年7月23日アクセス.
  3. ロームアンドハースジャパン株式会社(2004)ネオロン950」技術資料.
  4. “EUR-Lex”(2014)「COMMISSION REGULATION (EU) No 1003/2014」Official Journal of the European Union(1003). ELI:2014/1003/oj.
  5. abAndrew B. Law, et al(1990)「メチルクロロイソチアゾリノン・メチルイソチアゾリノン」香粧品 医薬品 防腐・殺菌剤の科学,105-116.
  6. abcdR.L. Elder(1992)「Final Report on the Safety Assessment of Methylisothiazolinone and Methylchloroisothiazolinone」Journal of the American College of Toxicology(11)(1),75-128. DOI:10.3109/10915819209141993.
  7. C.L. Burnett(2019)「Amended Safety Assessment of Methylchloroisothiazolinone and Methylisothiazolinone as Used in Cosmetics(∗7)」, 2021年7月23日アクセス.
    ∗7 PCPCのアカウントをもっていない場合はCIRをクリックし、表示されたページ中のアルファベットをどれかひとつクリックすれば、あとはアカウントなしでも上記レポートをクリックしてダウンロードが可能になります。

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