ペンチレングリコールの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ペンチレングリコール |
---|---|
医薬部外品表示名 | 1,2-ペンタンジオール、ペンチレングリコール |
INCI名 | Pentylene Glycol |
配合目的 | 防腐補助、溶剤 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表される二価アルコール(多価アルコール)(∗1)かつ1,2-グリコール(1,2-ジオール)(∗2)です[1a]。
∗1 2個以上のヒドロキシ基(-OH)が結合したアルコールを多価アルコールといい(n個結合したものはn価アルコールともよばれる)、ペンチレングリコールは2個のヒドロキシ基(-OH)が結合した二価アルコールです。
∗2 グリコール(glycol)とは、2つの炭素原子(C)に1個ずつヒドロキシ基(-OH)をもつ二価アルコールのことです。「2」をギリシャ語で「ジ(di)」とよび、2個のヒドロキシ基(-OH)をもつアルコールであるため、「ジオール(diol)」ともいいます。1,2-グリコール(1,2-ジオール)とは、1つ目と2つ目の炭素原子(C)にヒドロキシ基(-OH)をもつグリコール(ジオール)のことをいいます。
2. 化粧品としての配合目的
- 防腐補助
- 溶剤
主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、マスク製品、日焼け止め製品、洗顔料、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、ボディソープ製品、アウトバストリートメント製品、頭皮ケア製品、まつ毛美容液、ネイル製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 防腐補助
防腐補助に関しては、ペンチレングリコールは濃度2-4%で細菌(グラム陰性菌、グラム陽性菌)および真菌(カビ、酵母)に対して抗菌活性を示すことが知られていますが[2a]、抗菌力の強さにともなって皮膚刺激や感作の懸念が高まることから、防腐剤の配合量を低減する目的で主に他の防腐・防腐助剤と組み合わせて様々な製品に用いられています[3][4a][5]。
2012年に御木本製薬によって報告されたペンチレングリコールの抗菌活性検証によると、
– in vitro : 保存性効力試験 –
抗菌性原料の強さを表すMIC(minimum inhibitory concentration:最小発育阻止濃度)を基準とし、化粧品に汎用される8種類の抗菌性原料の抗菌性を法定5菌種である下記5菌種を用いて検討した。
- 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus:Sa)
- 緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa:Pa)
- 大腸菌(Escherichia coli:Ec)
- カンジダ(candida albicans:Ca)
- コウジカビ(aspergillus brasiliensis:Ab)
滅菌容器に20gの試料を入れ、1mLあたり10⁷-10⁸個に調整した微生物懸濁液0.2mLを接種・混合し、1週間おきに一部を取り出し、MICを基準として生菌数を測定したところ、以下の表(∗3)のように、
∗3 表のSa,Pa,Ec,CaおよびAbは菌の英語表記の略語です。またMICは最小発育阻止濃度であるため、数字が小さい(濃度が低い)ほど抗菌力が高いことを意味します。
抗菌剤 | MIC:最小発育阻止濃度(%) | ||||
---|---|---|---|---|---|
Sa | Pa | Ec | Ca | Ab | |
メチルパラベン | 0.2 | 0.225 | 0.125 | 0.1 | 0.1 |
フェノキシエタノール | 0.75 | 0.75 | 0.5 | 0.5 | 0.4 |
BG | 16 | 8 | 10 | 14 | 18 |
ペンチレングリコール | 4 | 2 | 2 | 3 | 3 |
エタノール | 9 | 5 | 5 | 7 | 5 |
DPG | 22.5 | 8 | 12 | 16 | 22.5 |
1,2-ヘキサンジオール | 2.5 | 1 | 1 | 1.5 | 1.5 |
カプリリルグリコール | 0.35 | >0.5 | 0.125 | 0.175 | 0.175 |
ペンチレングリコールは、同じ1,2-グリコールであるカプリリルグリコールや1,2-ヘキサンジオールほどではないもののすべての菌種に抗菌性を示した。
このような検証結果が明らかにされており[2b]、この試験条件下において濃度2-4%のペンチレングリコールに抗菌作用が認められています。
また、2006年にマンダムによって報告された1,2-グリコールの抗菌力比較によると、
– in vitro : 保存性効力試験 –
1,2-グリコールのMIC(minimum inhibitory concentration:最小発育阻止濃度)を法定5菌種のうち下記4菌種を用いて平板希釈法で測定したところ、以下の表のように、
- 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus:Sa)
- 緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa:Pa)
- 大腸菌(Escherichia coli:Ec)
- コウジカビ(aspergillus brasiliensis:Ab)
1,2-グリコール | 炭素数 | MIC:最小発育阻止濃度(%) | |||
---|---|---|---|---|---|
Sa | Pa | Ec | Ab | ||
ペンチレングリコール (1.2-ペンタンジオール) |
5 | 6.4 | 3.2 | 3.2 | 3.2 |
1,2-ヘキサンジオール | 6 | 1.6 | 1.6 | 1.6 | 1.6 |
カプリリルグリコール (1.2-オクタンジオール) |
8 | 0.4 | 0.4 | 0.4 | 0.2 |
ペンチレングリコールは、カプリリルグリコールの10分の1、1,2-ヘキサンジオールの8分の1ほどの抗菌性であることがわかった。
このような検証結果が明らかにされており[6]、1,2-グリコールの抗菌性は炭素数が多い、つまりアルキル基が大きいものほど高くなると考えられます。
2.2. 溶剤
溶剤に関しては、ペンチレングリコールは水や極性エステル油に溶解することから、主に植物エキス原料や香料を溶かし込む防腐を兼ねた溶剤として広く用いられています[1b][4b]。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2010-2011年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗4)。
∗4 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:濃度0.112%以下においてほとんどなし
- 眼刺激性:濃度3%においてわずか
- 皮膚感作性(アレルギー性):濃度0.112%以下においてほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[7a]によると、
- [ヒト試験] 101名の被検者に0.112%ペンチレングリコールを含むファンデーションを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、この製品は皮膚刺激および皮膚感作の兆候を示さなかった(Consumer Product Testing Company,2010)
– 個別事例 –
- [個別事例] アトピーでない68歳の女性がペンチレングリコールを含むアイクリームを使用した後、顔に皮膚炎を発症したため、この製品のパッチテストを実施したところ陽性であった。次に製品の個別成分のパッチテストを実施したところ、0.5%および5%ペンチレングリコール水溶液に対して陽性を示した。29名の被検者に0.5%および5%ペンチレングリコール水溶液のパッチテストを実施したところ、いずれの被検者も陰性であった(C.G. Mortz et al,2009)
このように記載されており、試験データをみるかぎり個別事例を除いて皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、濃度0.112%以下において一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[7b]によると、
- [in vitro試験] NRR法、HET-CAM法およびREC-Assayの3種類の試験を用いて3%ペンチレングリコールを含むゲルセラムの眼刺激性を評価したところ、この試験製剤はわずかな眼刺激剤であると予測された(International Research and Development Center,2010)
このように記載されており、試験データをみるかぎりわずかな眼刺激が報告されているため、一般に濃度3%において眼刺激性はわずかな眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
5. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「ペンチレングリコール」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,886-887.
- ⌃ab谷口 康将・野村 重雄(2012)「最小発育阻止濃度(MIC)を基準とした予測式からの化粧品の保存効力の予測」日本化粧品技術者会誌(46)(4),295-300. DOI:10.5107/sccj.46.295.
- ⌃浅賀 良雄(2019)「化粧品の防腐技術」Q&A181 化粧品の微生物試験ガイドブック – 防腐設計,製造工程管理から出荷検査,クレーム対策まで – ,1-27.
- ⌃abEvonik Dr. Straetmans GmbH(2019)「dermosoft Pentiol eco」Technical Data Sheet.
- ⌃Gerhard Schmaus, et al(2006)「化粧品処方中の防腐剤量を減少する」Fragrance Journal(34)(4),47-52.
- ⌃苔口 由貴, 他(2006)「ペンチレングリコールの抗菌特性」Fragrance Journal(34)(4),68-73.
- ⌃abW. Johnson, et al(2012)「Safety Assessment of 1,2-Glycols as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(31)(5_suppl),147S-168S. DOI:10.1177/1091581812460409.