エチルヘキシルグリセリンの基本情報・配合目的・安全性

エチルヘキシルグリセリン

化粧品表示名 エチルヘキシルグリセリン
医薬部外品表示名 グリセリンモノ2-エチルヘキシルエーテル
部外品表示簡略名 グリセリンエチルヘキシルエーテル、グリセリルエチルヘキシルエーテル
INCI名 Ethylhexylglycerin
配合目的 防腐補助消臭 など

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表されるグリセリンのヒドロキシ基(-OH)に2-エチルヘキサノール(∗1)が結合したグリセリルアルキルエーテル(グリセリン誘導体)です[1][2a]

∗1 2-エチルヘキサノールは、炭素数8(C8)の高級アルコールの一種であり、2-エチルヘキシルアルコールともよばれます。

エチルヘキシルグリセリン

1.2. 物性

エチルヘキシルグリセリンは、構造的に安定であり、pHや温度の変化を受けにくく、エタノールや多価アルコール類をはじめ各種油性成分とも高い相溶性を示すことを特徴としています[3a]

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 防腐補助
  • 腋臭菌増殖抑制による腋臭抑制作用

主にこれらの目的で、スキンケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、シート&マスク製品、ボディ&ハンドケア製品、日焼け止め製品、洗顔料、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、ボディソープ製品、デオドラント製品、ヘアスタイリング製品、ヘアカラー製品、フレグランス製品など様々な製品に汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 防腐補助

防腐補助に関しては、エチルヘキシルグリセリンはグラム陰性菌には作用しないものの、グラム陽性菌や真菌(カビ、酵母)に対して静菌活性を示すことが知られており、防腐剤の配合量を低減する目的で様々な製品に使用されています[3b]

2006年に成和化成によって報告されたエチルヘキシルグリセリンの抗菌活性検証によると、

– in vitro : 保存性効力試験 –

抗菌性原料の強さを表すMIC(minimum inhibitory concentration:最小発育阻止濃度)を基準とし、化粧品に汎用される防腐剤および防腐助剤の抗菌性を法定5菌種である下記5菌種を用いて検討した。

  • 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus:Sa)
  • 緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa:Pa)
  • 大腸菌(Escherichia coli:Ec)
  • カンジダ(candida albicans:Ca)
  • コウジカビ(aspergillus brasiliensis:Ab)

滅菌容器に20gの試料を入れ、1mLあたり10⁷-10⁸個に調整した微生物懸濁液0.2mLを接種・混合し、1週間おきに一部を取り出し、生菌数をMICを基準として測定したところ、以下の表(∗2)のように、

∗2 表のSa,Pa,Ec,CaおよびAbは菌の英語表記の略語です。またMICは最小発育阻止濃度であるため、数字が小さいほど抗菌力が高いことを意味し、MICの単位であるppm(parts per million)は100万分の1の意味で、1ppm = 0.0001%です。

抗菌剤 MIC(ppm)
Ec Pa Sa Ca Ab
エチルヘキシルグリセリン >2,500 >2,500 1,300 1,300 1,300
メチルパラベン 1,300 2,600 2,600 2,000 1,000
フェノキシエタノール 3,600 3,200 8,500 5,400 3,300
ペンチレングリコール 25,000 15,000 40,000 25,000 20,000
1,2-ヘキサンジオール 10,000 10,000 15,000 10,000 10,000
カプリリルグリコール 1,300 5,000 2,500 1,300 1,300

エチルヘキシルグリセリンは、黄色ブドウ球菌やカンジダ酵母、黒色コウジカビなどに対してはそれぞれ1,500ppm以下で特異的な抗菌力を示した。

一方で、大腸菌や緑膿菌などのグラム陰性菌に対しては抗菌力を示さなかった。

このような検証結果が明らかにされており[3c]、この試験条件下においてエチルヘキシルグリセリンにグラム陽性菌や真菌類に対して抗菌作用が認められています。

2.2. 腋臭菌増殖抑制による腋臭抑制作用

腋臭菌増殖抑制による腋臭抑制作用に関しては、まず前提知識として腋臭発生のメカニズムについて解説します。

以下の体毛の構造図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

体毛の構造図

ヒトの汗腺には、生まれた時からほぼ全身に分布するエクリン汗腺と思春期に身体の特定部位(∗3)に限って発達するアポクリン汗腺の2種類があり、一般に汗といえばエクリン汗腺から出る汗臭を有する汗のことを指します[4a][5a]

∗3 アポクリン汗腺は、主に腋窩(えきか:腋のくぼんだ部位)、乳房、乳暈(にゅううん:乳輪)、外陰、会陰(えいん:狭義では外陰部と肛門の間を指し、広義では左右の大腿と臀部で囲まれる骨盤の出口全体を指す)、肛門周囲などに存在します。

一方で、アポクリン汗腺が存在する腋の下などから出る分泌物は、それ自体は無臭であるものの、以下の表をみるとわかるように、

成分 構成比(%)
腺分泌物 皮表脂質(∗4)
アポクリン 皮脂
コレステロール 76.2 3.4 8.9
コレステロールエステル 0.9 8.8
ワックスエステル 3.6 21.8 21.2
スクワレン 0.2 19.0 13.4
グリセリド
脂肪酸類
19.2 55.9 47.4
脂質 20μg/μL 60μg/μ㎡
タンパク質 90μg/μL

∗4 皮表脂質とは、表皮細胞(角化細胞)の分化過程で産生されるコレステロール、コレステロールエステルなどの表皮脂質と皮脂腺由来の皮脂が皮膚表面で混ざったもののことをいいます。

かなりの量のコレステロールと、ステロイド硫酸塩やタンパク質を含んでおり、これらの物質が腋窩の常在菌の多くを占めるコリネバクテリウム属菌(学名:Corynebacterium)などによって分解されることで、腋臭を発生させることが明らかにされています[4b][5b][6]

このような背景から、腋臭菌の原因菌であるコリネバクテリウム属菌の増殖を抑制することは、腋臭の予防・防止において重要なアプローチのひとつであると考えられます。

2006年に成和化成によって報告されたエチルヘキシルグリセリンの腋臭菌に対する抗菌性および消臭性検証によると、

– in vitro : 抗菌性試験 –

腋窩常在菌に対するエチルヘキシルグリセリンの抗菌性を検討するために、抗菌性原料の強さを表すMIC(minimum inhibitory concentration:最小発育阻止濃度)を基準として生菌数を測定したところ、以下の表のように、

腋窩の常在菌 MIC(ppm)
表皮ブドウ球菌(グラム陽性球菌)
Staphylococcus epidermidis
1,000
ミクロコッカス・ルテウス(グラム陽性球菌)
Micrococcus luteus
1,000
腋臭菌(グラム陽性桿菌)
Corynebacterium aquaticum
500
腋臭菌(グラム陽性桿菌)
Corynebacterium flavescens
1,000
腋臭菌(グラム陽性桿菌)
Corynebacterium sp.
1,000
腋臭菌(グラム陽性桿菌)
Corynebacterium callunae
1,000
腋臭菌(グラム陽性桿菌)
Corynebacterium nephredii
250

エチルヘキシルグリセリンは、腋臭菌に対して優れた静菌作用を有していることが確認された。

– 嗅覚試験 –

20名の被検者を対象に嗅覚試験を実施するにあたって試験開始10日前より脇下の洗浄に抗菌剤および香料を含まない石鹸のみ使用してもらい、また試験期間中被検部位に化粧品を使用せず、無香料の石鹸については1日1回の使用とした。

各被検者に0.1%トリクロサン(最も汎用性のある消臭成分)を含むアルコール水溶液、0.3%エチルヘキシルグリセリンを含むアルコール水溶液および消臭成分未配合アルコール水溶液を1日朝夕2回5日間使用してもらった。

腋臭の消臭効果については、初回塗布時の16時間後および24時間後、塗布10回目(5日目)の6時間後に3名のテスターが被検者の腋臭を嗅ぐことにより、「0:においなし」「1:非常に弱いにおい」「2:弱いにおい」「3:中程度のにおい」「4:強いにおい」「5:非常に強いにおい」の6段階評価にて判定を行い、消臭率(%)を「100-(100 × X/Y)」で算出したところ、以下の表のように、

X:デオドラント剤塗布時の評点の相乗平均
Y:試験開始時の評点の相乗平均

試料 消臭率(%)
初回塗布
16時間後
初回塗布
24時間後
塗布10回目
6時間後
トリクロサン 28.92 21.48 22.75
エチルヘキシルグリセリン 33.58 21.42 19.81
アルコール水溶液 12.75 9.18 14.96

0.3%エチルヘキシルグリセリンを含むアルコール水溶液は、0.1%トリクロサンを含むアルコール水溶液と同等のデオドラント効果が期待できることが確認された。

また、試験内容は省略するが、希釈試験によって0.3%エチルヘキシルグリセリンを含むアルコール水溶液を12.5%に希釈した場合に、腋臭原因菌に対して静菌作用を示し、かつ皮膚常在菌に抗菌効果を示さないことがわかった。

このような検証結果が明らかにされており[3d]、この試験条件下においてエチルヘキシルグリセリンに腋臭菌増殖抑制による腋臭抑制作用が認められています。

3. 配合製品数および配合量範囲

グリセリンモノ2-エチルヘキシルエーテルは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。

種類 配合量
薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 上限なし
育毛剤 上限なし
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 上限なし
薬用口唇類 1
薬用歯みがき類 配合不可
浴用剤 配合不可

化粧品に対する実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2011年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗5)

∗5 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

エチルヘキシルグリセリンの配合製品数と配合量の調査結果(2011年)

4. 安全性評価

エチルヘキシルグリセリンの現時点での安全性は、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし-軽度
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
  • 光感作性:ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[2b]によると、

  • [ヒト試験] 600名の被検者に0.4975%エチルヘキシルグリセリンを含むフェイシャルクリームを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Orentreich Research Corporation,2005)
  • [ヒト試験] 105名の被検者に0.4%エチルヘキシルグリセリンを含むファンデーションを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Product Investigations Inc,2007)
  • [ヒト試験] 115名の被検者に0.5%エチルヘキシルグリセリンを含むリキッドアイライナー0.2gを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Consumer Product Testing Company,2008)
  • [ヒト試験] 108名の被検者に0.995%エチルヘキシルグリセリンを含むメイクアップ製剤100μLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Product lnvesigations Inc,2008)
  • [ヒト試験] 108名の被検者に0.6965%エチルヘキシルグリセリンを含むボディローション100μLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Clinical Research Laboratories Inc,2008)

– 個別事例 –

  • [個別事例] 57歳の女性はエチルヘキシルグリセリンを含むフェイシャルクリームを使用した後、まぶたにかゆみを伴う紅斑および浮腫が生じたことから10%エチルヘキシルグリセリンを含む軟膏のパッチテストを実施したところ、陽性(+)であった。対照として5名の患者にも同様のパッチテストを実施したところ、いずれの患者も陰性であった(G. Linsen et al,2002)
  • [個別事例] 68歳の女性はエチルヘキシルグリセリンを含むクリームを使用した後、顔面皮膚炎を発症した。48時間閉塞パッチ試験を実施し、3および7日目に皮膚反応を評価したところ、5%エチルヘキシルグリセリンを含む軟膏に対して陽性反応を示した。対照として25名の患者にも同様のパッチテストを実施したところ、いずれの患者も陰性であった(C.G. Mortz et al,2009)

このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

4.2. 眼刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[2c]によると、

  • [動物試験] 3匹のウサギの片眼に5%エチルヘキシルグリセリン水溶液0.1mLを点眼し、OECD405テストガイドラインに基づいて21日目まで眼刺激性を評価したところ、1時間で刺激スコア3のうち1の結膜紅斑を引き起こしたが、それらは24時間以内に完全に消失し、虹彩や角膜に刺激の兆候はなかった。この結果から5%エチルヘキシルグリセリン水溶液は軽度の眼刺激剤に分類された(Schiilke Mayr GmbH,2010)

このように記載されており、試験データをみるかぎり濃度5%で軽度の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は軽度の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

4.3. 光毒性(光刺激性)および光感作性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[2d]によると、

  • [動物試験] モルモットの脇腹に濃度25-100%エチルヘキシルグリセリン溶液を適用した後、UVAライト(20j/c㎡)を照射し、反対側の脇腹は各濃度の溶液を適用した後に照射はせず陰性対照とし、光刺激性を評価したところ、この試験物質は光刺激の兆候を示さなかった(Schiilke Mayr GmbH,2010)
  • [動物試験] モルモットの皮膚に未希釈のエチルヘキシルグリセリンを適用した後にUVAおよびUVBライトを照射する手順を14日間で5回行い、その後にチャレンジパッチを実施したところ、いずれのモルモットも皮膚反応を示さなかった。この結果からこの試験物質は光感作剤ではないと結論付けられた(Schiilke Mayr GmbH,2010)

このように記載されており、試験データをみるかぎり光刺激および光感作なしと報告されているため、一般に光毒性(光刺激性)および光感作性はほとんどないと考えられます。

5. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「エチルヘキシルグリセリン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,227.
  2. abcdW. Johnson, et al(2013)「Safety Assessment of Alkyl Glyceryl Ethers as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(32)(5_suppl),5S-21S. DOI:10.1177/1091581813497766.
  3. abcd永尾 聖司(2006)「オクトキシグリセリン(Ethylhexylglycerin)の抗菌力と特性」Fragrance Journal(34)(4),39-46.
  4. ab朝田 康夫(2002)「アポクリン汗腺(体臭となって匂う汗)とは」美容皮膚科学事典,61-63.
  5. ab清水 宏(2018)「汗腺」あたらしい皮膚科学 第3版,25-26.
  6. カール ラーデン, 他(1995)「ヒト腋窩の細菌学:液臭との関係」制汗剤とデオドラント,317-326.

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