イソ酪酸酢酸スクロースの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | イソ酪酸酢酸スクロース |
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医薬部外品表示名 | ショ糖酢酸イソ酪酸エステル |
INCI名 | Sucrose Acetate Isobutyrate |
配合目的 | 可塑 |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるスクロースのヒドロキシ基(-OH)に酢酸およびイソ酪酸のカルボキシ基(-COOH)を脱水縮合(∗1)したエステルです[1a]。
∗1 脱水縮合とは、分子と分子から水(H2O)が離脱することにより分子と分子が結合する反応のことをいいます。脂肪酸とアルコールのエステルにおいては、脂肪酸(R-COOH)のカルボキシ基(-COOH)の「OH」とアルコール(R-OH)のヒドロキシ基(-OH)の「H」が分離し、これらが結合して水分子(H2O)として離脱する一方で、残ったカルボキシ基の「CO」とヒドロキシ基の「O」が結合してエステル結合(-COO-)が形成されます。
1.2. 物性・性状
イソ酪酸酢酸スクロースの物性・性状は(∗2)、
∗2 屈折とは光の速度が変化して進行方向が変わる現象のことで、屈折率は「空気中の光の伝播速度/物質中の光の伝播速度」で表されます。光の伝播速度は物質により異なり、また同一の物質でも波長により異なるため屈折率も異なりますが、化粧品において重要なのは空気の屈折率を1とした場合の屈折率差が高い界面ほど反射率が大きいということであり、平滑性をもつ表面であれば光沢が高く、ツヤがでます(屈折率の例として水は1.33、エタノールは1.36、パラフィンは1.48)。
状態 | 液体 |
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屈折率 | 1.454 |
このように報告されています[2]。
1.3. 化粧品以外の主な用途
イソ酪酸酢酸スクロースの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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食品 | 香料などの比重を調整して香料に濁りを与える目的の比重調整剤として用いられています[3]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 可塑
主にこれらの目的で、ネイル製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 可塑
可塑に関しては、イソ酪酸酢酸スクロースは皮膜に適度な柔軟性や屈曲性を付与し耐久性や加工性を向上させる目的でマニキュア製品やネイルコート製品に汎用されています[1b][4][5]。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2016年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗3)。
∗3 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 食品添加物の指定添加物リストに収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし-わずか
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[5a]によると、
- [ヒト試験] 203名の被検者に20%イソ酪酸酢酸スクロースを含むアセトンを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、誘導期間において3名の被検者に軽度の紅斑がみられ、チャレンジ期間において1名の被検者に適用から48時間で軽度の紅斑が報告されたが、臨床的に意味のある皮膚反応とはみなされず、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではないと結論付けられた(European Chemical Agency,2015)
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[5b]によると、
- [動物試験] 3匹のウサギの両眼に50%イソ酪酸酢酸スクロースを含むコーンオイル0.1mLを点眼し、片眼は洗浄し、残りの片眼は洗浄せず、OECD405テストガイドラインに基づいて点眼72時間後まで眼刺激性を評価したところ、1時間ですべての非洗眼の結膜に中程度の紅斑が認められ、24時間後で2匹の非洗眼にわずかな紅斑が認められました。48時間で2匹の非洗眼は正常に回復し、72時間ですべての非洗眼は回復した。すべての洗眼は24時間で正常であった。この試験物質はわずかな眼刺激剤であると結論付けられた(European Chemical Agency,2015)
このように記載されており、試験データをみるかぎりわずかな眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-わずかな眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
5. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「イソ酪酸酢酸スクロース」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,198-199.
- ⌃Eastman Chemical Company(2014)「Eastman Sustane SAIB (Sucrose Acetate Isobutyrate), Food Grade, Kosher」Product Data Sheet.
- ⌃樋口 彰, 他(2019)「ショ糖酢酸イソ酪酸エステル」食品添加物事典 新訂第二版,190.
- ⌃薬科学大辞典編集委員会(2013)「可塑剤」薬科学大辞典 第5版,294.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「可塑剤」香粧品科学 理論と実際 第4版,439.
- ⌃abL.N. Scott, et al(2021)「Safety Assessment of Saccharide Esters as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(40)(2_suppl),52S-116S. DOI:10.1177/10915818211016378.