イソ酪酸酢酸スクロースとは…成分効果と毒性を解説

可塑
イソ酪酸酢酸スクロース
[化粧品成分表示名称]
・イソ酪酸酢酸スクロース

[医薬部外品表示名称]
・ショ糖酢酸イソ酪酸エステル

化学構造的に炭素数2の短鎖脂肪酸である酢酸と炭素数4の短鎖脂肪酸であるイソ酪酸を疎水基(親油基)とし、二糖(∗1)の一種であり8個のヒドロキシ基(水酸基:-OH)をもつスクロースを親水基としたモノエステル(∗2)であり、分子量846.9のショ糖脂肪酸エステルです(文献2:2019)

∗1 二糖は糖の一種であり、単糖が2個グリコシド結合した二量体です。複数の分子結合がまとまって機能する複合体を多量体といい、二糖の場合、2個の単糖がまとまって(結合して)機能しているため二量体として働きます。

∗2 モノエステルとは分子内に1基のエステル結合をもつエステルであり、通常はギリシャ語で「1」を意味する「モノ(mono)」が省略され「エステル結合」や「エステル」とだけ記載されます。2基のエステル結合の場合はギリシャ語で「2」を意味する「ジ(di)」をつけてジエステルと記載されます。

ショ糖脂肪酸エステルは、一般にスクロースに炭素数12以上の長鎖脂肪酸(高級脂肪酸)を結合したエステルであり、これらは乳化剤として広く知られています。

一方でイソ酪酸酢酸スクロースは、スクロースに炭素数2と炭素数4の短鎖脂肪酸(低級脂肪酸)を結合したエステルであり、化学構造的にはショ糖脂肪酸エステルといえますが、乳化力がなく乳化剤ではないことから、狭義には高級脂肪酸系のみを「ショ糖脂肪酸エステル」、低級脂肪酸であるイソ酪酸酢酸スクロースは「ショ糖酢酸イソ酪酸エステル」と分けて分類しています。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、ネイル製品などに汎用されています。

可塑

ネイルエナメル皮膜の可塑(かそ)に関しては、まず前提知識として可塑性および可塑剤について解説します。

可塑性とは、粘土のように自由自在に形を整えることのできる物性のことであり、可塑剤とは樹脂などの皮膜にひびなどが入らないよう適度な柔軟性と弾力を付与し耐久性を向上する添加物の総称です(文献3:1990)

イソ酪酸酢酸スクロースは、ネイルエナメル皮膜の可塑剤としてマニキュア、ネイルエナメル、ネイルカラー、ネイルコートなどネイル製品に汎用されています(文献4:2020)

実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の2016年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

イソ酪酸酢酸スクロースの配合製品数と配合量の調査結果(2016年)

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イソ酪酸酢酸スクロースの安全性(刺激性・アレルギー)について

イソ酪酸酢酸スクロースの現時点での安全性は、

  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし-わずか
  • 眼刺激性:ほとんどなし-わずか
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2016)によると、

  • [ヒト試験] 203人の被検者に20%イソ酪酸酢酸スクロースを含むアセトンを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施したところ、誘導期間において3人の被検者に軽度の紅斑が観察され、チャレンジ期間において1人の被検者に適用から48時間で軽度の紅斑が報告されたが、臨床的に意味のある皮膚反応とはみなされず、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(European Chemical Agency,2016)
  • [動物試験] モルモットの剃毛した皮膚に20%イソ酪酸酢酸スクロースを含むアセトン5-20mLを24時間ガーゼパッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激を評価したところ、一過性のわずかな皮膚刺激が観察された(WJ Krasavage et al,1973)
  • [動物試験] モルモットの剃毛した皮膚にイソ酪酸酢酸スクロース(濃度不明)を誘導期間において5日間で3回以上適用し、3週間の休息期間を設けた後にチャレンジ期間において右肩に試験物質を適用し、1週間後に左肩に適用したところ、遅延反応の増加の兆候はなかった(WJ Krasavage et al,1973)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2016)によると、

  • [動物試験] 3匹のウサギのすべての結膜嚢に50%イソ酪酸酢酸スクロースを含むコーンオイル0.1mLを点眼し、それぞれ片眼は洗浄し、残りの片眼は洗浄せず、OECDテストガイドライン405に基づいて72時間まで眼刺激性を評価したところ、1時間ですべての非洗眼の結膜に中等の紅斑が認められ、24時間後で2匹の非洗眼にわずかな紅斑が認められました。48時間で2匹の非洗眼は正常に回復し、72時間ですべての非洗眼は回復した。すべての洗眼は24時間で正常であった。イソ酪酸酢酸スクロースはウサギの眼に対してわずかに刺激性であると結論付けられた(European Chemical Agency,2016)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、わずかな刺激が報告されているため、眼刺激性は非刺激-わずかな刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

∗∗∗

イソ酪酸酢酸スクロースは可塑剤にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:可塑剤

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文献一覧:

  1. Cosmetic Ingredient Review(2016)「Safety Assessment of Saccharide Esters as Used in Cosmetics」Final Report.
  2. “Pubchem”(2019)「Sucrose acetate isobutyrate」, <https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Sucrose-acetate-isobutyrate> 2019年10月27日アクセス.
  3. 田村 健夫, 他(1990)「可塑剤」香粧品科学 理論と実際 第4版,439.
  4. 宇山 侊男, 他(2020)「イソ酪酸酢酸スクロース」化粧品成分ガイド 第7版,235.

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