クエン酸の基本情報・配合目的・安全性

クエン酸

化粧品表示名 クエン酸
医薬部外品表示名 クエン酸
INCI名 Citric Acid
配合目的 pH調整・pH緩衝収れん など

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表される有機酸です[1a][2a]

クエン酸

1.2. 分布

クエン酸は、自然界においてダイダイ、レモン、夏ミカンなどの柑橘類、またウメの実など多くの植物の種子、果実、花などに含まれています[3]

1.3. 生体におけるクエン酸の働き

以下の生体におけるATP産生メカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

細胞のATP産生メカニズム

生体のエネルギー伝達物質であるATP(adenosine tri-phosphate:アデノシン三リン酸)は、細胞内に入った単糖の一種であるグルコースが分解され、「解糖系」「クエン酸回路」「電子伝達」とよばれる分解過程でそれぞれ産生されることが知られています[4a]

このATP産生メカニズムの中でクエン酸回路は、以下のクエン酸回路のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

クエン酸回路のメカニズム

解糖系の産物であるピルビン酸がアセチルCoAに変換されることでこれを回路に取り込み、8段階の反応の中で電子伝達体である3分子のNADH(Nicotinamide adenine dinucleotide)と1分子のFADH2(flavin adenine dinucleotide)を生成します[4b]

これら電子伝達体は、電子伝達系に供給されて生物に使いやすい形のエネルギーに変換されます[4c]

クエン酸はこのクエン酸回路の中で中間体として存在しており、生体において重要な役割を担っています[2b]

1.4. 化粧品以外の主な用途

クエン酸の化粧品以外の主な用途としては、

分野 用途
食品 さわやかな強い酸味をもつ酸味料として果汁、清涼飲料水、菓子類、乳製品などに汎用されており、そのほかpH調整剤として清涼飲料水などに用いられています[2c][5]
医薬品 安定・安定化、可溶・可溶化、緩衝、矯味、コーティング、発泡、pH調整、賦形、崩壊・崩壊補助、溶解補助、抗酸化目的の医薬品添加剤として経口剤、各種注射、外用剤、眼科用剤、耳鼻科用剤、口中用剤などに用いられています[6]

これらの用途が報告されています。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 酸性によるpH調整・pH緩衝
  • 収れん作用

主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、シート&マスク製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、ボディソープ製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、ピーリング製品、デオドラント製品、ネイル製品など様々な製品に汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 酸性によるpH調整・PH緩衝

酸性によるpH調整・pH緩衝に関しては、まず前提知識としてpHと皮膚との関係およびpH緩衝について解説します。

pH(ペーハー:ピーエッチ)とは、水素イオン指数ともいい、水溶液中の水素イオン濃度(H⁺の量)を表す指数であり、0-14までの数値で表され、7を中性とし、7より低いとき酸性を示し、数値が低くなるほど強酸性を意味し、また7より大きいときアルカリ性を示し、数値が高くなるほど強アルカリ性を意味します[7][8a]

pH調整図

皮膚のpHとは、皮膚表面を薄く覆っている皮表脂質膜(皮脂膜)のpHのことを指し、皮表脂質膜は皮脂の中に存在する遊離脂肪酸や汗に含まれている乳酸やアミノ酸の影響でpH4.5-6.0の弱酸性を示し、一般にこの範囲であれば正常であると考えられ、一方でpHが4.5-6.0の範囲から離れるほど肌への刺激が強くなっていくことが知られています[8b]

次に、緩衝溶液とは外からの作用に対してその影響を和らげようとする性質をもつ溶液のことをいいますが、pH緩衝溶液とは酸とその塩、あるいは塩基とその塩の混合液を用いることによって、その溶液にある程度の酸または塩基(アルカリ)の添加あるいは除去または希釈にかかわらずほぼ一定のpHを維持する、pH緩衝能を有した溶液のことをいいます[9][10][11]

たとえば人間の皮膚は弱酸性であり、入浴などで中性に傾いたとしてもすぐに弱酸性に保たれますが、これは緩衝作用が働いているためです。

多くの化粧品製剤には、pHが変動してしまうと効果を発揮しなくなる成分や品質の安定性が保てなくなる成分などが含まれており、クエン酸は弱酸を示す有機酸であることから、製品自体のpH調整や製品に化粧品原料を配合する際に中和するpH調整剤として使用されています[1b][12]

また、製品の内容物がpH変動要因である大気中の物質に触れたり、人体の細菌類に触れても品質(pH)を一定に保つ代表的なpH緩衝剤として酸性を示すクエン酸とその塩であるクエン酸Naが汎用されています[13]

2.2. 収れん作用

収れん作用に関しては、クエン酸は弱酸性を示し、処方として酸性に寄せることで化学的に緩和な収れん作用を発揮するため、収れん性化粧水などに使用されます[14]

3. 混合原料としての配合目的

クエン酸は混合原料が開発されており、クエン酸と以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 Natural AHA Complex Liquid
構成成分 クエン酸酒石酸乳酸グリセリン
特徴 ピーリング作用があり、皮膚を滑らかにするα-ヒドロキシ酸混合物

4. 配合製品数および配合量範囲

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2011年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗1)

∗1 表の中の製品タイプのリーブオン製品というのは付けっ放し製品という意味で、主にスキンケア製品やメイクアップ製品などを指し、リンスオフ製品というのは洗浄系製品を指します。

クエン酸の配合製品数および配合量の調査結果(2011年)

5. 安全性評価

クエン酸の現時点での安全性は、

  • 食品添加物の指定添加物リストに収載
  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 40年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚刺激性(皮膚炎を有する場合):ほとんどなし
  • スティンギング:5%濃度以上かつpH5以下において可能性あり
  • 眼刺激性:10%濃度以下においてほとんどなし-最小限
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 皮膚感作性(皮膚炎を有する場合):まれに皮膚反応を引き起こす可能性あり

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

5.1. 皮膚刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ[15a]によると、

– 健常皮膚を有する場合 –

  • [ヒト試験] 被検者の擦過した前腕にクエン酸、酢酸、アコニット酸、酒石酸、アスコルビン酸それぞれ0.1-0.2mLを5分適用し、スティンギング反応(刺すような刺激)および一次刺激性を比較したところ、クエン酸は最もスティンギングが高く、また一次刺激性はかなり低いスコアを示した(Laden K,1973)
  • [ヒト試験] 20名の被検者(男性6名、女性14名)に5%クエン酸水溶液(pH2)50μLを朝晩1日2回4日間連続で閉塞パッチ適用し、水分蒸散量や皮膚の色を観察したところ、皮膚刺激は観察されなかった(chlicmann-VVillers S, et al,2005)
  • [ヒト試験] 20名の被検者(男性6名、女性14名)に5%クエン酸水溶液(pH4)50μLを朝晩1日2回4日間連続で閉塞パッチ適用し、水分蒸散量や皮膚の色を観察したところ、皮膚刺激は観察されなかった(chlicmann-VVillers S, et al,2005)
  • [ヒト試験] 133名の被検者に1%クエン酸水溶液を48時間閉塞パッチ適用したところ、陽性反応は示されなかった(Torgcrson RR, et al,2007)
  • [ヒト試験] 10名の患者にほぼ16%クエン酸のスティンギング(チクチク感のある刺すような痛み)をpH3,5および7で最大スコアを60として測定したところ、pH3,5および7のスティンギングスコアはそれぞれ38,35.4および23.6であった(Smith WP,1996)
  • [ヒト試験] 10名の患者にほぼ5%クエン酸のスティンギング(チクチク感のある刺すような痛み)をpH3,5および7でスティンギングスコアを1-5のスケールで測定したところ、pH3,5および7のスティンギングスコアはそれぞれ2.3,2.1および1.1であった(Smith WP,1994)

– 皮膚炎を有する場合 –

  • [ヒト試験] アトピー性皮膚炎を有した49名の被検者に2.5%クエン酸を含む水溶液を20分間閉塞パッチ適用したところ、即時反応(非免疫学的接触性蕁麻疹)はなかった(Lahti A,1980)
  • [ヒト試験] 702名の接触性皮膚炎患者にほぼ100%クエン酸を48時間パッチ適用したところ、皮膚反応は観察されなかった(Rcider N,2005)

このように記載されており、試験データをみるかぎり5%濃度以下およびpH2.0以上において皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚状態にかかわらず皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

ただし、一般に濃度が高くなるほど、またpHが低くなるほどスティンギング(チクチク感のある刺すような痛み)を引き起こす可能性が高くなると考えられます。

5.2. 眼刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ[15b]によると、

  • [動物試験] 3匹のウサギの眼に10%および30%クエン酸水溶液0.1mLを滴下し、Draize法に従って眼刺激性を評価したところ、10%濃度において眼刺激スコアは9.3で最小限の眼刺激性、30%濃度において眼刺激スコアは16.0で軽度-中程度の眼刺激性であった(F. Hoffmann-LaRoche Ltd,2001)
  • [動物試験] ウサギの眼にクエン酸(濃度および用量不明)を適用し、眼刺激性を評価したところ、24時間から72時間で角膜刺激スコアは2.8、虹彩刺激スコアは0.0、結膜刺激スコアは1.7であった(Kowalski RL,1991)

このように記載されており、試験データをみるかぎり10%濃度で最小限、30%濃度で軽度-中程度の眼刺激が報告されていることから、一般に眼刺激性は10%濃度以下において非刺激-最小限の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

5.3. 皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ[15c]によると、

– 健常皮膚を有する場合 –

  • [ヒト試験] 56名の被検者に4%クエン酸を含むキューティクルクリームを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、皮膚刺激および皮膚感作の兆候は示されなかった(linical Research Laboratories Inc,2007)

– 皮膚炎を有する場合 –

  • [ヒト試験] 慢性蕁麻疹または血管浮腫患者を含む91名の被検者に2.5%クエン酸水溶液を皮膚に1滴たらし、検査用の針を皮膚の表面に押し当てて15分後に反応を観察するプリックテストを実施したところ、3名の被検者に陽性反応が観察され、このうち1名は安息香酸およびプロピオン酸でも陽性反応を示した(Malanin G, et al,1989)

このように記載されており、試験データをみるかぎり健常皮膚においては皮膚感作性なしと報告されていることから、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

また、皮膚炎を有する場合は91名のうち3名に皮膚反応が報告されていることから、まれに皮膚感作反応を引き起こす可能性があると考えられます。

6. 参考文献

  1. ab日本化粧品工業連合会(2013)「クエン酸」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,346-347.
  2. abc大木 道則, 他(1989)「クエン酸」化学大辞典,614.
  3. 有機合成化学協会(1985)「クエン酸」有機化合物辞典,240.
  4. abc二井 將光(2017)「植物から動物へ。糖を変換してATPエネルギー生産」生命を支えるATPエネルギー メカニズムから医療への応用まで,31-68.
  5. 樋口 彰, 他(2019)「クエン酸」食品添加物事典 新訂第二版,100.
  6. 日本医薬品添加剤協会(2021)「無水クエン酸」医薬品添加物事典2021,637-638.
  7. 大木 道則, 他(1989)「pH」化学大辞典,1834.
  8. ab朝田 康夫(2002)「皮膚とpHの関係」美容皮膚科学事典,54-56.
  9. 霜川 忠正(2001)「緩衝能」BEAUTY WORD 製品科学用語編,134.
  10. 大木 道則, 他(1989)「緩衝液」化学大辞典,503-504.
  11. 西山 成二・塚田 雅夫(1999)「緩衝溶液についての一考察」順天堂医学(44)(Supplement),S1-S6. DOI:10.14789/pjmj.44.S1.
  12. 日光ケミカルズ株式会社(2016)「脂肪酸および有機酸」パーソナルケアハンドブックⅠ,32-43.
  13. 田村 健夫・廣田 博(2001)「皮膚収れん剤」香粧品科学 理論と実際 第4版,246-247.
  14. 西山 聖二・熊野 可丸(1989)「基礎化粧品と皮膚(Ⅱ)」色材協会誌(62)(8),487-496. DOI:10.4011/shikizai1937.62.487.
  15. abcM.M. Fiume, et al(2014)「Safety Assessment of Citric Acid, Inorganic Citrate Salts, and Alkyl Citrate Esters as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(33)(2_Suppl),16S-46S. DOI:10.1177/1091581814526891.

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