トロメタミンの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | トロメタミン |
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医薬部外品表示名 | 2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、アミノヒドロキシメチルプロパンジオール |
INCI名 | Tromethamine |
慣用名 | トリス(∗1) |
配合目的 | 中和 など |
∗1 生化学分野においては「トリスヒドロキシメチルアミノメタン(tris(hydroxymethyl)aminomethane)」といい、各種の緩衝剤として最も使用されていることから「トリス(tris)」の略称で知られており、トリスを用いた緩衝液は「トリス緩衝液」とよばれます。
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表される脂肪族アミン(∗2)です[1a][2a]。
∗2 アミンとは、アンモニアの水素原子を炭化水素基または芳香族原子団で置換した化合物の総称であり、アミンの炭化水素基が脂肪族のものだけであれば脂肪族アミンに分類されます。
1.2. 化粧品以外の主な用途
トロメタミンの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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医薬品 | 安定・安定化、緩衝、溶解補助目的の医薬品添加剤として各種注射に用いられています[3]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 酸性機能成分の中和
主にこれらの目的で、スキンケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、シート&マスク製品、ボディ&ハンドケア製品、クレンジング製品などに使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 酸性機能成分の中和
酸性機能成分の中和に関しては、まず前提知識としてpHについて解説します。
pH(ペーハー:ピーエッチ)とは、水素イオン指数ともいい、水溶液中の水素イオン濃度(H⁺の量)を表す指数であり、0-14までの数値で表され、7を中性とし、7より低いとき酸性を示し、数値が低くなるほど強酸性を意味し、また7より大きいときアルカリ性を示し、数値が高くなるほど強アルカリ性を意味します[4][5]。
酸性成分の中にはアルカリで中和することによって機能を発揮する成分が存在し、トロメタミンは水中でアルカリ性(pH7.2-9.1)を示す低毒性の脂肪族アミンであることから、酸性機能成分の中和剤として使用されています[1b][2b][6]。
代表的な酸性機能成分としてアクリル酸系ポリマー(∗3)があり、アクリル酸系ポリマーは中和することで増粘効果を発揮することから、トロメタミンと組み合わせて透明ゲル化やクリームの粘度調整に使用されています。
∗3 アクリル酸系ポリマーの多くは、化粧品成分表示名称の最後に「コポリマー」「クロスポリマー」などがつくため、名称にこれらの表示があればアクリル酸系ポリマーの可能性が考えられます。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2013年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗4)。
∗4 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 局外規2002規格の基準を満たした成分が収載される日本薬局方外医薬品規格2002に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 経皮吸収性:ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ[7a]によると、
- [ヒト試験] 11名の被検者に3.1%トロメタミンを含む化粧品を48時間パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、この化粧品は皮膚刺激剤ではなかった(Anonymous,2012)
- [ヒト試験] 101名の被検者に1.8%トロメタミンを含むマスカラ製品を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、この試験期間および条件下においてこの試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Consumer Product Testing Co,2011)
- [ヒト試験] 102名の被検者に2%トロメタミンを含むウォーターベースアイライナー製品を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、この試験期間および条件下においてこの試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Product Investigations Inc,2010)
- [ヒト試験] 85名の被検者に1.8%トロメタミンを含むフレグランスボディローション製品を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、この試験期間および条件下においてこの試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Consumer Product Testing Co,2007)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ[7b]によると、
- [動物試験] 3匹のウサギの片眼に100%トロメタミン0.1gを点眼し、点眼1,24,48および72時間後に眼刺激性を評価したところ、1時間で軽度-中程度の発赤およびケモーシスがみられたが、これらは24および72時間で解消し、ほかの刺激は観察されなかった。この試験物質はウサギに対して眼刺激剤ではなかった(Dow Chemical Company,2013)
このように記載されており、試験データをみるかぎり眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
4.3. 経皮吸収性
経皮吸収性に関しては、トロメタミンは皮膚に浸透しないと報告されています[7c]。
5. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「トロメタミン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,718.
- ⌃ab大木 道則, 他(1989)「トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン」化学大辞典,1605.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「トロメタモール」医薬品添加物事典2021,430.
- ⌃大木 道則, 他(1989)「pH」化学大辞典,1834.
- ⌃朝田 康夫(2002)「皮膚とpHの関係」美容皮膚科学事典,54-56.
- ⌃Angus Chemical Company(2017)「TRIS AMINO ULTRA PC」Technical Data Sheet.
- ⌃abcL.C. Becker(2018)「Safety Assessment of Tromethamine, Aminomethyl Propanediol, and Aminoethyl Propanediol as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(37)(1_suppl),5S-18S. DOI:10.1177/1091581817738242.