炭酸Naの基本情報・配合目的・安全性

炭酸Na

化粧品表示名 炭酸Na
医薬部外品表示名 炭酸ナトリウム
部外品表示簡略名 炭酸Na
INCI名 Sodium Carbonate
配合目的 pH調整・pH緩衝洗浄補助(ビルダー) など

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表される、炭酸イオン(CO3²⁻)と2個のナトリウムイオン(2Na⁺)から成る炭酸の二ナトリウム塩です[1a][2a]

炭酸Na

1.2. 化粧品以外の主な用途

炭酸Naの化粧品以外の主な用途としては、

分野 用途
食品 小麦粉のタンパク質に作用して弾力性を付与し淡黄色に発色させることから「かんすい」として中華麺に用いられるほか、pH調整剤、中和剤などに用いられています[3]
医薬品 緩衝、溶解補助目的の医薬品添加剤として各種注射に用いられています[4]

これらの用途が報告されています。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • アルカリ性によるpH調整・pH緩衝
  • アルカリ性による洗浄補助(ビルダー)

主にこれらの目的で、入浴剤、シャンプー製品、ボディソープ製品、ボディ石鹸、洗顔料、洗顔パウダー製品、クレンジング製品、シート&マスク製品、ボディケア製品などに使用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. アルカリ性によるpH調整・pH緩衝

アルカリ性によるpH調整・pH緩衝に関しては、まず前提知識としてpHと皮膚との関係およびpH緩衝について解説します。

pH(ペーハー:ピーエッチ)とは、水素イオン指数ともいい、水溶液中の水素イオン濃度(H⁺の量)を表す指数であり、0-14までの数値で表され、7を中性とし、7より低いとき酸性を示し、数値が低くなるほど強酸性を意味し、また7より大きいときアルカリ性を示し、数値が高くなるほど強アルカリ性を意味します[5][6a]

pH調整図

皮膚のpHとは、皮膚表面を薄く覆っている皮表脂質膜(皮脂膜)のpHのことを指し、皮表脂質膜は皮脂の中に存在する遊離脂肪酸や汗に含まれている乳酸やアミノ酸の影響でpH4.5-6.0の弱酸性を示し、一般にこの範囲であれば正常であると考えられ、一方でpHが4.5-6.0の範囲から離れるほど肌への刺激が強くなっていくことが知られています[6b]

次に、緩衝溶液とは外からの作用に対してその影響を和らげようとする性質をもつ溶液のことをいいますが、pH緩衝溶液とは酸とその塩、あるいは塩基とその塩の混合液を用いることによって、その溶液にある程度の酸または塩基(アルカリ)の添加あるいは除去または希釈にかかわらずほぼ一定のpHを維持する、pH緩衝能を有した溶液のことをいいます[7][8][9]

たとえば人間の皮膚は弱酸性であり、入浴などで中性に傾いたとしてもすぐに弱酸性に保たれますが、これは緩衝作用が働いているためです。

多くの化粧品製剤には、pHが変動してしまうと効果を発揮しなくなる成分や品質の安定性が保てなくなる成分などが含まれており、炭酸Naは強アルカリ性を示す炭酸塩(無機塩)であることから[2b]、水の軟化剤として入浴剤に使用されています[1b][10a]

また、製品の内容物がpH変動要因である大気中の物質に触れたり、人体の細菌類に触れても品質(pH)を一定に保つpH緩衝剤として炭酸Naと炭酸水素Naの組み合わせがアイケア化粧品やシート&マスク製品などに使用されています[10b]

2.2. アルカリ性による洗浄補助(ビルダー)

アルカリ性による洗浄補助(ビルダー)に関しては、前提知識としてアルカリと洗浄の関係について解説します。

汚れは酸性のものが多く、高いpHは洗浄力を促進させるとともに酸化生成物を鹸化(加水分解)して汚れを落としやすくさせることが知られています[11]

このような背景から、洗浄剤にアルカリ剤を添加することで結果として洗浄力の向上につながり、アルカリ剤としては一般に無機塩である炭酸Naが粉末シャンプーやバスソルトなどに使用されています[10c]

3. 配合製品数および配合量範囲

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2002-2004年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

炭酸Naの配合製品数と配合量の調査結果(2002-2004年)

4. 安全性評価

炭酸Naの現時点での安全性は、

  • 食品添加物の指定添加物リストに収載
  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 40年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし-軽度
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ[12]によると、

  • [ヒト試験] 109名の被検者に0.0025%%炭酸Naを含む固形石鹸水溶液0.2mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、誘導期間において2名にわずかな紅斑が、別の2名に明瞭な紅斑が観察され、チャレンジ期間において4名に最小限の紅斑が、1名に明瞭な紅斑が観察された。2回目のチャレンジパッチにおいて3名に最小限の紅斑が、1名に明瞭な紅斑が観察された。これらの刺激は非特異的な刺激であるとみなされ、この固形石鹸製品は強い皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではないと結論付けられた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
  • [ヒト試験] 109名の被検者に0.0025%炭酸Naを含む固形石鹸水溶液0.2mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、誘導期間において4名にわずかな紅斑が、別の3名に明瞭な紅斑が観察され、チャレンジ期間において1名に最小限の紅斑が、1名に明瞭な紅斑が観察された。2回目のチャレンジパッチにおいて1名に最小限の紅斑が、2名に明瞭な紅斑が観察された。これらの刺激は非特異的な刺激であるとみなされ、この固形石鹸製品は強い皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではないと結論付けられた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
  • [ヒト試験] 107名の被検者に0.0025%炭酸Naを含む固形石鹸水溶液0.2mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、誘導期間において1名に軽度の紅斑が、別の1名に明瞭な紅斑が観察され、チャレンジ期間において1名に軽度の紅斑が、1名に明瞭な紅斑が観察された。2回目のチャレンジパッチにおいて2名に軽度の紅斑が、1名に明瞭な紅斑が観察された。これらの刺激は非特異的な刺激であるとみなされ、この固形石鹸製品は強い皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではないと結論付けられた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1981)

このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激は非刺激-軽度および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性は非刺激-軽度の皮膚刺激を引き起こす可能性があり、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

4.2. 眼刺激性

実際の国内の配合量およびpHで使用されている試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。

5. 参考文献

  1. ab日本化粧品工業連合会(2013)「炭酸Na」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,638.
  2. ab大木 道則, 他(1989)「炭酸ナトリウム」化学大辞典,1371.
  3. 樋口 彰, 他(2019)「炭酸ナトリウム」食品添加物事典 新訂第二版,219.
  4. 日本医薬品添加剤協会(2021)「無水炭酸ナトリウム」医薬品添加物事典2021,640.
  5. 大木 道則, 他(1989)「pH」化学大辞典,1834.
  6. ab朝田 康夫(2002)「皮膚とpHの関係」美容皮膚科学事典,54-56.
  7. 霜川 忠正(2001)「緩衝能」BEAUTY WORD 製品科学用語編,134.
  8. 大木 道則, 他(1989)「緩衝液」化学大辞典,503-504.
  9. 西山 成二・塚田 雅夫(1999)「緩衝溶液についての一考察」順天堂医学(44)(Supplement),S1-S6. DOI:10.14789/pjmj.44.S1.
  10. abc日光ケミカルズ株式会社(1977)「無機薬品」ハンドブック – 化粧品・製剤原料 – 改訂版,809-818.
  11. 日光ケミカルズ株式会社(2006)「洗浄剤の構成成分の役割」新化粧品原料ハンドブックⅡ,635-641.
  12. R.L. Elder(1987)「Final Report on the Safety Assessment of Sodium Sesquicarbonate, Sodium Bicarbonate, and Sodium Carbonate」Journal of the American College of Toxicology(6)(1),121-138. DOI:10.3109/10915818709095491.

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