ダマスクバラ花エキスとは…成分効果と毒性を解説





・ダマスクバラ花エキス
バラ科植物ダマスクローズ(学名:Rosa × damascena)の花から水、BG(1,3-ブチレングリコール)またはスクワランで抽出して得られるエキスです。
ダマスクバラ花エキスは天然成分であることから、国・地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
- フェニルエチルアルコール
- ゲラニオール
- ネロール
- ゲラニルアセテート
などで構成されています(文献2:2010)。
ダマスクローズは、ヨーロッパを原産とするロサ・ガリカ(学名:Rosa gallica)とロサ・モスカタ(学名:Rosa moschata)の交雑で得られた雑種で、近年は香料用として品種改良されてブルガリアやトルコなどで商業用に栽培されています。
ダマスクローズの花は、ダマスク香と呼ばれる濃厚な甘い香りが特徴的で、香料づくりには欠かせないバラであり、香水の成分として使用されるローズオイルを抽出するため、またはローズウォーターをつくるために商業的に収穫されています(文献1:2018)。
ダマスクローズは香気成分として主成分にダマスクスィートの香りを有するフェニルエチルアルコールを含み、他にも同じくダマスクスィートの香りを有するゲラニオール、ネロール、シトロネロール、フルーティフローラルの香りを有するゲラニルアセテート、ハーバルグリーンの香りを有するモノテルペン炭化水素類などを含有しています(文献2:2010)。
化粧品に配合される場合は、
- 香料
- 交感神経抑制による鎮静作用
- 皮膚水分量増加による保湿作用
- エストロゲン受容体発現量増加による抗老化作用
これらの目的で、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ化粧品、洗浄製品、洗顔料&洗顔石鹸、シート&マスク製品、香水、入浴剤など様々な製品に使用されます(文献3:2016;文献4:2017)。
交感神経抑制による鎮静作用
交感神経抑制による鎮静作用に関しては、2017年にニッコールグループコスモステクニカルセンターと筑波大学大学院グローバル教育院の共同研究によって報告されたダマスクローズ由来香気成分の体系的かつ定量的な鎮静作用評価によると、
日本人女性14人(20~50歳)に乾燥ダマスクローズ花弁をスクワランに一定期間浸漬して得たオイル抽出物から自然揮発する香気成分を自然呼吸により吸入してもらい、また顔面への1ヶ月連用によるメンタルに対する作用を3種類の問診(ストレスチェック、気分プロフィール、睡眠調査)により評価した。
試験試料の1ヶ月連用の結果、ストレスレベルが有意に減少し、また気分プロフィールの解析結果では連用により気分の落ち込みと混乱が有意に改善するとともに活力が有意に増加した。
さらに、睡眠調査の結果では入眠と睡眠維持および疲労回復の因子に改善傾向が認められた。
一方、皮膚パラメーターに関しては、皮表水分量の有意な増加とともに皮膚色因子の減少傾向が認められた。
これらの結果は、試験試料を吸入することにより自律神経のバランスが副交感神経優位に変化したことを示唆した。
また試料吸入後に抹消血管量が増加したことが確認されており、交感神経が抑制されると末梢血管が拡張し血流量が増加することから、試料の香気成分により交感神経系が抑制されたことで相対的に副交感神経活動が優位になったことが示唆された。
このような検証結果が明らかにされており(文献4:2017)、ダマスクバラ花エキスに交感神経抑制による鎮静作用が認められています。
ただし、この試験結果はスクワラン抽出物におけるものであり、他の成分による抽出で同様の作用が認められるかどうかは不明です。
エストロゲン受容体発現量増加による抗老化作用
エストロゲン受容体発現量増加による抗老化作用に関しては、まず前提知識としてエストロゲンおよびエストロゲン受容体の機構を解説します。
エストロゲンは代表的な女性ホルモンのひとつで、卵巣などでつくられ、皮膚においてはコラーゲンやヒアルロン酸の産生に関与しています。
以下の皮膚細胞におけるエストロゲンの機構図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
エストロゲンは、皮膚細胞においてGPERエストロゲン受容体およびERエストロゲン受容体と結合することで機能が発揮されます。
2016年にファンケルによって報告されたエストロゲン受容体が減少する要因と女性ホルモンを高める抽出エキスの検証によると、
コラーゲンやヒアルロン酸をつくりだす真皮を構成する線維芽細胞を用いてエストロゲン受容体が減少する要因を調査したところ、紫外線をあてることにより以下のグラフのように、
2種類のエストロゲン(ERエストロゲン、GPERエストロゲン)の発現量がともに低下することがわかった。
それにより、皮膚が紫外線などの外敵ストレスを受けるとエストロゲン受容体は減少するため、エストロゲンが豊富に分泌されても受容体が足りず活用されにくい状態になっていることが示唆された。
この結果をうけてエストロゲン受容体を増やす成分を探索するために、動物の胎盤に女性ホルモンと近い働きがあることから植物でも同じような働きがあるのではないかと考え、動物の胎盤にあたる植物の胎座に着目し、さらにエストロゲン受容体が紫外線により減少することから、紫外線から胎座を含む子房部を保護する働きのある花びらにも着目したところ、以下のグラフのように、
植物の中でも胎座部が大きいという特徴があるダマスクバラの花びらと胎座の両方から抽出したエキスはエストロゲン受容体の発現量が多いことが確認された。
さらに、ダマスクバラから抽出したエキスは、以下の真皮のコラーゲン構造図およびグラフをみるとわかるように、
真皮におけるコラーゲンの大部分を占め、皮膚の弾力性に大きく関わるⅠ型コラーゲン合成を高めることが確認され、エストロゲン受容体の発現量を増やすことが、皮膚のハリ・弾力を増加させることが示唆された。
また、エストロゲン受容体の量を豊富に保つことは、老化により減少するエストロゲンの機能を最大に活用することができ、コラーゲンやヒアルロン酸の維持につながると考えられます。
このような検証結果が明らかにされており(文献3:2016)、ダマスクバラ花エキスにエストロゲン受容体発現量増加による抗老化作用が認められています。
試験元であるファンケルでは、ダマスクバラの花びらおよび胎座から独自抽出したダマスクバラ花エキス(ローズリッチプラセンタ)が使用されていますが、試験をみるとわかるように花びらのみでもエストロゲン発現量の有意な増加が確認できるため、ほかのダマスクバラ花エキスでも同様の作用があると考えられます。
ダマスクバラ花エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
日光ケミカルズの安全性データシート(文献5:2018)によると、
- [ヒト試験] 20人の被検者にダマスクバラ花エキスのスクワラン抽出物の原液を24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激スコアを測定したところ、皮膚刺激スコアは0.0であった
- [ヒト試験] 56人の被検者にダマスクバラ花エキスのスクワラン抽出物の原液を誘導期間およびチャレンジ期間にパッチ適用し、各パッチ除去後に皮膚反応を観察したところ、皮膚感作性なしと結論付けられた
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
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ダマスクバラ花エキスは香料、保湿成分、抗老化成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
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文献一覧:
- ジャパンハーブソサエティー(2018)「ダマスクローズ」ハーブのすべてがわかる事典,219.
- 蓬田 勝之, 他(2010)「現代バラとその香り」におい・かおり環境学会誌(41)(3),164-174.
- 株式会社ファンケル(2016)「ファンケル_女性ホルモンの働きを高める抽出エキスを発見」, <https://www.fancl.jp/news/pdf/20161213_roserichplacenta.pdf> 2018年9月15日アクセス.
- 藤代 美有紀, 他(2017)「統合生理学的解析を用いたダマスクローズ由来香気成分の体系的かつ定量的な鎮静作用評価」日本健康心理学会大会発表論文集(30),41.
- 日光ケミカルズ(2018)「NIKKOL アロマスクワラン ローズ 安全性データシート」技術資料.
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