乳酸とは…成分効果と毒性を解説

ピーリング成分 収れん成分 緩衝
乳酸
[化粧品成分表示名称]
・乳酸

[医薬部外品表示名称]
・乳酸

デンプン・デンプン質の発酵またはアセトアルデヒドに青酸を作用させて得られる強い吸湿性を有する有機酸であり、水溶性のα-ヒドロキシ酸(AHA:alpha hydroxy acid)です。

配合量により肌への働きが大きく異なる成分で、配合量が少なく乳酸Naと併用している場合はpH緩衝剤として、配合量が多い場合は収れん作用、最も多い場合はピーリング作用として作用します。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、ピーリング化粧品、スキンケア化粧品、洗顔料・洗顔石鹸、ボディ&フットケア製品、洗浄製品、シート&マスク製品などに使用されています(文献1:1998)

ピーリング作用

ピーリング作用に関しては、乳酸は代表的なケミカルピーリング剤のひとつとして、ざ瘡、老人性色素班、小じわなどの治療に用いられ、医療下においてその有効性と安全性は十分に確認されています(文献4:2000;文献5:2006)

国内のピーリング化粧品においては、穏やかな角質剥離作用(ピーリング作用)によって乾燥やターンオーバーの乱れなどで硬くなったりゴワついた皮膚表面を滑らかにする目的でピーリング化粧品、スキンケア化粧品、洗顔料・洗顔石鹸、ボディ&フットケア製品、洗浄製品、シート&マスク製品などに使用されています。

ただし、国内においては安全性が優先される市場文化であるため、安全性との兼ね合いから濃度は以下の調査結果のように、

製品 種類 AHA濃度 pH
製品A 美容液 < 1% 5.0
製品B 美容液 < 1% 6.1
製品C 化粧水 < 1% 4.6

1%以下かつpHは弱酸性に近い状態で処方されているものが多いことから(文献4:2000)、実感できるほどのピーリング作用は有していないことが多いと考えられます。

言い換えれば、ピーリング専用化粧品でない場合にグリコール酸が配合されていても、過剰に皮膚刺激リスクやピーリング効果を意識する必要がないともいえます。

収れん作用

収れん作用に関しては、乳酸は酸性および親水性であり、酸性に寄せることで化学的に収れん作用を起こすことができるため、収れん性化粧水に使用されます(文献6:1989)

pH調整による緩衝

pH調整による緩衝に関しては、まず前提知識として緩衝溶液(Buffer Solution)について解説します。

緩衝溶液とは、外からの作用に対して、その影響を和らげようとする性質をもつ溶液であり、つまりある程度の酸または塩基(アルカリ)の添加あるいは除去または希釈(∗1)にかかわらず、ほぼ一定のpHを維持する作用を有する溶液のことです(文献7:1998-1999)

∗1 溶液を薄めることです。

たとえば人間の皮膚は弱酸性であり、入浴などで中性に傾いたとしてもすぐに弱酸性に保たれますが、これは緩衝作用が働いているためです。

化粧品においては、pHが変動してしまうと効果を発揮しなくなる成分や品質の安定性が保てなくなる成分などが含まれており、化粧品の内容物がpH変動要因である大気中の物質に触れたり、人体の細菌類に触れても品質を保つ(pHを保つ)ために、緩衝剤のひとつとして乳酸(酸性)と乳酸Na(塩基性)との組み合わせが使用されています(文献3:1990)

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1995-1997年および2013-2014年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

乳酸の配合調査結果(1995-1997年および2013-2014年)

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乳酸の安全性(刺激性・アレルギー)について

乳酸の現時点での安全性は、

  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 10年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:濃度およびpHにかかわらず、実質的に非刺激-中程度
  • スティンギング(皮膚炎を有する場合):可能性あり
  • 皮膚累積刺激性:pH4.0以上において実質的にほとんどなし
  • 眼刺激性:濃度にかかわらずpH4.84以上において最小限。pH4.26以下で軽度-中程度
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 光感作性:ほとんどなし

このような結果となっており、また鐘紡記念病院皮膚科および神戸大学医学部皮膚科学教室の調査によると、市販の大手メーカーにおけるAHA化粧品の濃度は1%未満かつpH4.6-6.1であり、非常に安全性が重視された処方となっているため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

ただし、過敏な皮膚を有する場合に濃度やpHに関わらずスティンギングが起こる可能性があるため、注意が必要です。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:1998)によると、

  • [ヒト試験] 19人および20人の被検者に4%-8%乳酸を含むローション(pH3.8-5.0)を対象に4日間連続閉塞パッチ試験を実施し、PII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)を0.0-4.0のスケールで評価したところ、以下の表のように、
    製品の種類 濃度(%) pH 被検者数 PII 評価
    化粧水 4.0 4.3 20 0.93 中程度の刺激性
    化粧水 6.0 3.8 19 0.66 軽度の刺激性
    化粧水 6.0 3.8 19 0.76 軽度の刺激性
    化粧水 6.0 3.8 19 1.08 中程度の刺激性
    化粧水 6.0 3.9 20 0.25 実質的に非刺激性
    化粧水 6.0 4.2 20 0.25 実質的に非刺激性
    化粧水 6.0 4.2 19 0.28 実質的に非刺激性
    化粧水 6.0 4.2 20 0.40 わずかな刺激性
    化粧水 6.0 4.2 19 0.68 軽度の刺激性
    化粧水 6.0 4.2 20 0.73 軽度の刺激性
    化粧水 6.0 4.2 19 0.87 中程度の刺激性
    化粧水 6.0 4.2 20 0.95 中程度の刺激性
    化粧水 6.0 4.2 20 1.13 中程度の刺激性
    化粧水 6.0 4.2 20 1.88 重度の刺激性
    化粧水 6.0 4.3 20 0.65 軽度の刺激性
    化粧水 6.0 4.3 19 1.24 中程度の刺激性
    化粧水 6.0 5.0 20 0.25 実質的に非刺激性
    化粧水 8.0 4.1 20 0.74 軽度の刺激性
    化粧水 8.0 4.3 20 0.70 軽度の刺激性

    濃度の増加またはpHの減少によってPIIが大きくなる傾向はあるが、必ずしもそうとは限らないと結論付けられた(CTFA,1995)

  • [ヒト試験] 23人の被検者に10%,15%および20%濃度の乳酸を含む3つの製剤(pH3.5-4.5)と市販の入手可能な3つの製剤(濃度5-12%,pH4.2-4.6)を対象とした14日間累積刺激性試験を半閉塞パッチ下で実施したところ、以下の表のように、
    濃度(%) pH 被検者数 累積刺激指数
    10.0 3.0 23 590/966
    10.0 3.5 23 124/966
    15.0 3.5 23 78/966
    10.0 4.0 23 1/966
    15.0 4.0 23 4/966
    20.0 4.0 23 10/966
    8.0 4.2 23 7/966
    5.0 4.3 23 8/966
    15.0 4.5 23 16/966
    20.0 4.5 23 9/966
    12.0 4.6 23 2/966

    濃度にかかわらず、pH4.0以上の製剤ではほとんど累積刺激は示されなかった(Essex Testing Clinic,1996)

  • [ヒト試験] 乳酸を含む製剤の顔に対するスティンギング(刺すような刺激)を評価するために試験を実施した。これまでの試験の結論としてpHまたは濃度に対する効果の明確な関係は明らかではなかった。30人の被検者(男性15人、女性15人)にスティンギングテストを実施し、0-4のスケールで10秒、2.5分および5分後にスコアリングしたところ、5人の被検者がスティンギングが示された。この5人の被検者はいずれも過去に石けんや化粧品の刺激に悩まされた経験があり、敏感な皮膚に該当すると報告されている(CTFA,1995)
  • [ヒト試験] 剥離した皮膚への影響を調べるため、3人の被検者の片頬にスコッチテープをつけ、それを剥がして肌バリアを壊し、15分後に5%乳酸溶液を両頬に塗布したところ、皮膚を剥がした側で重度の刺すような刺激が示されたが、皮膚を剥がした側で刺すような刺激を感じなかった被検者は反対側の頬でかなりの刺すような刺激を示した。剥がした皮膚に対するスティンギングは敏感肌のものよりも反応が早く、一般的に2.5分以内に急速に低下していった(Green and Bluth,1995)
  • [ヒト試験] 41人の女性被検者にpH4.2および6%乳酸を含むローションを6ヶ月使用してもらう臨床試験が行われた。1週間のプレコンディニング期間の後、最初の2週間は毎日1回、それ以降は毎日2回顔にローションを塗布し続けたところ、刺激は報告されず、敏感肌の方でも十分に許容されると結論付けられた(CTFA,1994)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、皮膚一次刺激性に関しては濃度とpHの相関関係は見いだせませんが、累積刺激性においては濃度にかかわらず、pH4.0以上でほとんど累積刺激性なしと報告されているため、濃度にかかわらずpH4.0以上においては一次刺激が起こる可能性はありますが、累積刺激性はほとんどないとと考えられます。

また過敏な皮膚を有する場合に濃度やpHに関わらずスティンギングが報告されているため、過敏な皮膚を有する場合はスティンギングが起こる可能性があると考えられます。

眼刺激性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:1998)によると、

  • [動物試験] 3匹のウサギの片眼に85%乳酸の0.6%スキンクリーム0.1mLを適用し、眼はすすがず、眼刺激性を評価したところ、2日目までは刺激反応が観察されたが3日目に消失したため、最小限の刺激性と結論づけられた(Avon Products Inc,1995)
  • [in vitro試験] pH3.0-7.52および濃度0.12-8.0%までの乳酸を含む製剤をEytexシステムを用いてin vitro試験にて評価したところ、濃度に関わらず、pH4.26以下で軽度-中程度の眼刺激が示され、pH4.84以上では最小限の眼刺激性であった(Avon Products Inc,1995)

と記載されています。

試験結果では、濃度にかかわらずpH4.26以下で軽度-中程度の眼刺激性が報告され、pH4.84以上では最小限の眼刺激性が報告されているため、濃度にかかわらずpH4.84以上において最小限の眼刺激性が起こると考えられます。

皮膚感作性(アレルギー性)について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:1998)によると、

  • [ヒト試験] 99人の被検者に2%,3%,4%および5%乳酸を含む無水エマルションを対象にHRIPT(皮膚累積刺激&感作試験)を実施したところ、1人の被検者は2%乳酸製剤を適用して48時間後に最初の試験部位で軽度の紅斑反応を示し、別の1人の被検者は3%製剤で48時間後に軽度の紅斑反応を示した。さらに別の1人の被検者はチャレンパッチの未処置部位で3%,4%および5%乳酸製剤に対して軽度の紅斑反応を示した。これら3人の被検者に再度チャレンジパッチを適用したところ、2%製剤に反応した被検者の未処置部位で24時間後に軽度の紅斑反応が観察されたが48時間後には消失した。反応は弱く一時的かつ臨床的に重要ではないと判断された。3%製剤に反応した被検者の再チャレンジ適用は反応が観察されなかった。3%,4%および5%製剤に反応した被検者の再チャレンジパッチ適用は、24および48時間後に未処置部位で軽度の紅斑反応が観察された。この反応は過敏症によるものであり、おそらく臨床的に重要ではないと判断された。これらの結果から2%,3%,4%および5%乳酸を含む無水エマルションは皮膚刺激および皮膚感作を示すものではないと結論づけた(Consumer Product Testing Co,1993)
  • [ヒト試験] pH3.9および6%乳酸を含む化粧水、pH4.2および6%乳酸を含む化粧水、pH3.7および10%乳酸を含むクリームの3つの製剤を各27人の被検者を用いてMaximization皮膚感作試験にて感作性を評価したところ、いずれも皮膚感作剤ではないと結論付けられた(CTFA,1995)

ダイセル、横浜国立大学大学院工学府および薬物安全性試験センターの皮膚感作性試験(文献2:2016)によると、

  • [動物試験] LLNA:DAE(誘発相を含み、境界線陽性化学物質を識別する局所リンパ節試験)において、試験群マウスの右耳に乳酸溶液を1,2および3日目に塗布し、10日目に両耳に塗布、またコントロール群には10日目のみ左耳に乳酸溶液を塗布した。どちらも12日目にリンパ節を摘出し、リンパ節重量を測定したところ、皮膚感作性は陰性と判定された

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して皮膚感作の報告はないため、皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられます。

光感作性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:1998)によると、

  • [ヒト試験] 25人の被検者に6%乳酸(pH4.2)を含む化粧水を対象とした光感作性試験を実施したところ、照射部位または非照射部位で増感反応は生じなかった(CTFA,1994)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、光感作性なしと報告されているため、光感作性はほとんどないと考えられます。

∗∗∗

乳酸はピーリング成分、収れん成分、安定化成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:ピーリング成分 収れん成分 安定化成分

∗∗∗

文献一覧:

  1. Cosmetic Ingredient Review(1998)「Final Report on the Safety Assessment of Glycolic Acid,Ammonium,Calcium,Potassium,and Sodium Glycolates,Methyl,Ethyl,Propyl,and Butyl Glycolates,and Lactic Acid,Ammonium,Calcium,Potassium,Sodium,and Tea-Lactates,Methyl,Ethyl,Isopropyl,and Butyl-Lactates,and Luryl,Myristyl,and Cetyl Lactates」International Journal of Toxicology(17)(1),1-241.
  2. 山下 邦彦(2016)「惹起相を含む皮膚感作性試験 LLNA:DAE 法の開発」, <https://ynu.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=7668&item_no=1&attribute_id=20&file_no=1> 2019年3月5日アクセス.
  3. 田村 健夫, 他(1990)「皮膚収れん剤」香粧品科学 理論と実際 第4版,246-247.
  4. 長濱 通子, 他(2000)「日本人に適すると考えられたグリコール酸を用いたケミカルピーリング」皮膚(42)(5),503-508.
  5. KE Sharquie, et al(2006)「Lactic acid chemical peels as a new therapeutic modality in melasma in comparison to Jessner’s solution chemical peels.」Dermatologic Surgery(32)(12),1429-1436.
  6. 西山 聖二, 他(1989)「基礎化粧品と皮膚 (Ⅱ)」色材協会誌(62)(8),487-496.
  7. 西山 成二, 他(1998-1999)「緩衝溶液についての一考察 -緩衝溶液および混合緩衝溶液の緩衝作用-」順天堂医学(44),S1-S6.

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