ホウケイ酸(Ca/Na)の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ホウケイ酸(Ca/Na) |
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INCI名 | Calcium Sodium Borosilicate |
配合目的 | パール光沢、感触改良 |
1. 基本情報
1.1. 定義
ホウケイ酸のカルシウム塩とナトリウム塩から成る非晶質体(∗1)(ホウケイ酸ガラス)です[1]。
∗1 非晶質体とは、結晶とは異なり、原子や分子が規則正しい空間格子をつくらず、乱れた配列をしている無定形物質です。
1.2. 性状
ホウケイ酸(Ca/Na)の性状は、
状態 | 白色の中空で微細な球体またはフレーク |
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粒径(μm) | 10-450 |
このように報告されています[2a][3a][4a][5a]。
ホウケイ酸ガラスは、メタリックな金属光沢や様々な色のパール光沢を演出するため、その表面に酸化チタンおよび/または金属や他の金属酸化物を被覆して用いられており、その場合は板状固体であるフレークを基材とします[5b]。
フレーク基材として用いられるホウケイ酸ガラスは、尖った部分を丸く加工するなど肌への安全性に配慮した技術が用いられています。
2. 化粧品としての配合目的
- パール光沢付与
- 滑り性およびなめらかさ向上による感触改良
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、ネイル製品などに汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. パール光沢付与
パール光沢付与に関しては、ホウケイ酸(Ca/Na)は表面が非常になめらかで透明度の高い微細なガラスであり、キラキラとした光輝感をもつことから、パール光沢付与目的でメイクアップ製品、ネイル製品などに汎用されています[5c][6]。
ホウケイ酸(Ca/Na)のフレークは、基盤としてその表面に金属や金属酸化物を被覆することにより、メタリックな金属光沢や様々な色のパール光沢を付与することができることから、ホウケイ酸ガラスを基材とした様々なパール光沢を付与する目的でもメイクアップ製品やネイル製品に使用されています[5d]。
2.2. 滑り性およびなめらかさ向上による感触改良
滑り性およびなめらかさ向上による感触改良に関しては、ホウケイ酸(Ca/Na)は中空で微細な球体であり、滑り性を高めて製剤の流動性やなめらかさを向上させることから[3b][4b]、基剤の感触を調整する目的でメイクアップ製品に汎用されています。
3. 混合原料としての配合目的
ホウケイ酸(Ca/Na)は混合原料が開発されており、ホウケイ酸(Ca/Na)と以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | Geodiamond Blue or Geodiamond Green or Geodiamond Red or Geodiamond Violet or Geodiamond Pearl or Geodiamond Gold |
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構成成分 | ホウケイ酸(Ca/Na)、酸化チタン |
特徴 | ガラスフレークをベースとした青色、緑色、赤色、紫色、パールまたはゴールドのパール顔料 |
原料名 | Geodiamond Rose Quartz |
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構成成分 | ホウケイ酸(Ca/Na)、酸化チタン、赤104(1) |
特徴 | ガラスフレークをベースとしたローズクォーツ色のパール顔料 |
原料名 | Geodiamond Citrine |
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構成成分 | ホウケイ酸(Ca/Na)、酸化チタン、黄4 |
特徴 | ガラスフレークをベースとしたシトリン色のパール顔料 |
原料名 | Geodiamond Emerald |
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構成成分 | ホウケイ酸(Ca/Na)、酸化チタン、緑201 |
特徴 | ガラスフレークをベースとしたエメラルド色のパール顔料 |
原料名 | Geodiamond Aragonite |
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構成成分 | ホウケイ酸(Ca/Na)、酸化チタン、赤40 |
特徴 | ガラスフレークをベースとしたアラゴナイト色のパール顔料 |
原料名 | Geodiamond Silver Ag |
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構成成分 | ホウケイ酸(Ca/Na)、酸化チタン、銀 |
特徴 | ガラスフレークをベースとしたシルバーのパール顔料 |
原料名 | Geodiamond Amethyst |
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構成成分 | ホウケイ酸(Ca/Na)、酸化チタン、赤104(1)、青1 |
特徴 | ガラスフレークをベースとしたアメジスト色のパール顔料 |
原料名 | UNISPHERES GOLD |
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構成成分 | マンニトール、結晶セルロース、ホウケイ酸(Ca/Na)、酸化鉄、シリカ、酸化チタン、酸化スズ、金、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、銅 |
特徴 | 24金を配合したゴールドの球状キャリア |
原料名 | Ag-P水 |
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構成成分 | 水、ホウケイ酸(Ca/Na)、酸化銀 |
特徴 | 防腐効果を有する銀をイオン化した液状の抗菌原料 |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2012年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗2)。
∗2 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[2b]によると、
- [ヒト試験] 98名の被検者に53%ホウケイ酸(Ca/Na)を含むアイシャドーを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激および皮膚感作の兆候はみられなかった(Consumer Product Testing Co,2011)
- [ヒト試験] 103名の被検者に53.5%ホウケイ酸(Ca/Na)を含む化粧品を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激および皮膚感作の兆候はみられなかった(Consumer Product Testing Co,2008)
- [ヒト試験] 104名の被検者に60-97%ホウケイ酸(Ca/Na)を含む化粧品を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激および皮膚感作の兆候はみられなかった(Consumer Product Testing Co,2006)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[2c]によると、
- [ヒト試験] 31名の被検者(21名の被検者は眼刺激に敏感であると自己認識していた)に53%ホウケイ酸(Ca/Na)を含むアイシャドーを4週間毎日使用してもらったところ、被検者から有害な影響は報告されず、眼科検査においてすべて正常であった(Consumer Product Testing Co,2011)
- [ヒト試験] 41名の被検者に50-80%,60-97%,74-93%,81-97%および94-99%ホウケイ酸(Ca/Na)を含むいくつかのアイシャドーを対象に4週間使用試験を実施したところ、使用中にいずれの被検者においても有害な影響はみられなかった(BASF,2007)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ホウケイ酸(Ca/Na)」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,888.
- ⌃abcL.C. Becker(2013)「Safety Assessment of Borosilicate Glasses as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(32)(5_Suppl),65S-72S. DOI:10.1177/1091581813507089.
- ⌃abPotters Industries, LLC(2022)「LUXSIL AL FREE」Technical Data Sheet.
- ⌃abSensient Cosmetic Technologies(2017)「Covabead Crystal」Technical Data Sheet.
- ⌃abcdGeotech International B.V.(2022)「Geodiamond」Product Catalog.
- ⌃柴田 雅史(2021)「きらめく光と色-パール顔料」美しさをつくる色材工学,201-207.