ジステアリン酸グリコールの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ジステアリン酸グリコール |
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医薬部外品表示名 | ジステアリン酸エチレングリコール |
部外品表示簡略名 | ジステアリン酸グリコール |
INCI名 | Glycol Distearate |
配合目的 | パール光沢 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるステアリン酸とグリコールのジエステル(∗1)です[1]。
∗1 モノエステルとは分子内に1基のエステル結合をもつエステルであり、通常はギリシャ語で「1」を意味する「モノ(mono)」が省略され「エステル結合」や「エステル」とだけ記載されます。分子内に2基のエステル結合をもつ場合はギリシャ語で「2」を意味する「ジ(di)」をつけてジエステルと記載されます。
1.2. 物性・性状
ジステアリン酸グリコールの物性・性状は(∗2)、
∗2 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。
状態 | 白-微黄色の粉末、ペレットまたはフレーク |
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融点(℃) | 61-69 |
2. 化粧品としての配合目的
- パール光沢付与
主にこれらの目的で、シャンプー製品、ボディソープ製品、洗顔料、ハンドソープ製品などに汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. パール光沢付与
パール光沢付与に関しては、ジステアリン酸グリコールは層状結晶であり、この結晶の多重層反射によってパール光沢が発現することから[5]、基剤の外観に真珠のようなパール光沢を付与する目的で主にシャンプー製品、ボディソープ製品、洗顔料などに汎用されています[2b][3b][4b]。
3. 混合原料としての配合目的
ジステアリン酸グリコールは混合原料が開発されており、ジステアリン酸グリコールと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | DN-P コンク 25 |
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構成成分 | ジステアリン酸グリコール、コカミドプロピルベタイン、コカミドMEA、フェノキシエタノール、クエン酸、水酸化Na、水 |
特徴 | シャンプーやボディソープにシルキーなパール光沢を付与できる両性界面活性剤系ベースのパール濃縮混合物 |
原料名 | DN-P コンク A |
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構成成分 | ジステアリン酸グリコール、ラウレス硫酸Na、コカミドMEA、クエン酸、デヒドロ酢酸Na、プロピルパラベン、メチルパラベン、水 |
特徴 | シャンプーやボディソープに高級なパール光沢を付与できるラウレス硫酸Naベースのパール濃縮混合物 |
原料名 | DN-P コンク AP-FP |
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構成成分 | ジステアリン酸グリコール、ココイルグルタミン酸TEA、コカミドDEA、クエン酸、フェノキシエタノール、プロピルパラベン、メチルパラベン、水 |
特徴 | シャンプーやボディソープにシルキーなパール光沢を付与できるアミノ酸界面活性剤ベースのパール濃縮混合物 |
原料名 | EMALEX AMIPEARL-SS |
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構成成分 | ジ(パーム油脂肪酸/ナタネ油脂肪酸/ダイズ油脂肪酸)グリコール、ジステアリン酸グリコール、PCAイソステアリン酸PEG-40水添ヒマシ油、パーム核脂肪酸アミドDEA、ココイルグルタミン酸TEA、メチルパラベン、ブチルパラベン、水 |
特徴 | 室温で10%前後配合することで安定なパールヘアシャンプー、パールボディシャンプーを液体洗浄剤用のパール化剤であり、主にシャンプー、ボディソープに配合 |
原料名 | Euperlan PK 1200 |
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構成成分 | ヤシ油アルキルグルコシド、ジステアリン酸グリコール、グリセリン |
特徴 | 濃いパール調の外観を付与するパール化剤 |
原料名 | Euperlan PK 3000 OK |
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構成成分 | ジステアリン酸グリコール、ラウレス-4、グリセリン、コカミドプロピルベタイン |
特徴 | グリコールジステアリン酸エステルを高濃度含有しメタル調の外観を付与するパール化剤 |
原料名 | Euperlan PK 810 JP |
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構成成分 | ジステアリン酸グリコール、ラウレス硫酸Na、コカミドMEA、ラウレス-9 |
特徴 | パール化剤 |
原料名 | Euperlan OP White |
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構成成分 | ジステアリン酸グリコール、ラウレス硫酸Na、コカミドプロピルベタイン、オレイン酸グリセリル |
特徴 | 生分解性成分で構成されたワックスベースの白濁化剤 |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2001年および2016-2017年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗3)。
∗3 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[6a][7a]によると、
- [ヒト試験] 89名の被検者に0.25%ジステアリン酸グリコールを含む製剤0.5mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者においても皮膚反応の兆候はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1979)
- [ヒト試験] 103名の被検者に0.2%ジステアリン酸グリコールを含むシャンプー0.5mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者においても皮膚反応の兆候はなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1979)
- [動物試験] 6匹のウサギの剃毛した皮膚に100%ジステアリン酸グリコール0.5gを25時間閉塞パッチ適用し、Draize法に基づいてパッチ除去後すぐおよび72時間後にPII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)0-4のスケールで皮膚刺激性を評価したところ、PIIは0であり、この試験物質は皮膚刺激剤ではなかった(European Chemicals Agency,2015)
- [動物試験] 20匹のモルモットに100%ジステアリン酸グリコールを対象に皮膚感作性試験を実施したところ、この試験物質は皮膚感作剤ではなかった(European Chemicals Agency,2015)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[6b][7b]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に未希釈のジステアリン酸グリコールを点眼し、Draize法に基づいて眼刺激性を評価したところ、実質的に非刺激であった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1979)
- [動物試験] 9匹のウサギの片眼に未希釈のジステアリン酸グリコールを点眼し、Draize法に基づいて眼刺激性を評価したところ、非刺激であった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1979)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に100%ジステアリン酸グリコール0.1mLを点眼し、点眼24,48および72時間で眼刺激性を評価したところ、24時間では4匹に軽度の発赤が、2匹に中程度の発赤が観察された。48時間では2匹の発赤は消失し、4匹に軽度の発赤が観察され、72時間では2匹に軽度の発赤が観察された。これらの結果から眼刺激性ではないと結論付けられた(European Chemicals Agency,2015)
このように記載されており、試験データをみるかぎり非刺激-最小限の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-最小限の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ジステアリン酸グリコール」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,484-485.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2021)「ポリエチレングリコール脂肪酸エステル(1)」製品カタログ,41-42.
- ⌃abエボニックジャパン株式会社(2019)「パール化剤」Catalog of Products,8-9.
- ⌃abミヨシ油脂株式会社(2019)「パルナー」製品カタログ.
- ⌃阿部 秀一, 他(2010)「パール化剤結晶の機能強化を目的とした乳化晶析操作」化学工学会 第75年会,M121.
- ⌃abR.L. Elder(1990)「Final Report on the Safety Assessment of Glycol Stearate, Glycol Stearate SE, and Glycol Distearate」Journal of the American College of Toxicology(1)(2),1-11. DOI:10.3109/10915818209013144.
- ⌃abW.F. Bergfeld, et al(2017)「Safety Assessment of Monoalkylglycol Dialkyl Acid Esters as Used in Cosmetics(∗4)」, 2022年11月1日アクセス.
∗4 PCPCのアカウントをもっていない場合はCIRをクリックし、表示されたページ中のアルファベットをどれかひとつクリックすれば、あとはアカウントなしでも上記レポートをクリックしてダウンロードが可能になります。