海水の基本情報・配合目的・安全性

海水

化粧品表示名 海水
INCI名 Sea Water
配合目的 保湿 など

1. 基本情報

1.1. 定義

海水または塩湖水から得られる水です[1a]

1.2. 成分組成

海水には一般的に塩分が3.4%ほど含まれていますが、塩分の成分構成は、

塩分構成成分 濃度(%)
塩化ナトリウム 77.9
塩化マグネシウム 9.6
硫酸マグネシウム 6.1
硫酸カルシウム 4.0
塩化カリウム 2.1
その他 微量

このような構成となっています[2]

海水の塩化化合物含有量は3.4-3.8%ですが、ミネラルが豊富に含まれている死海の水では28-33%と約10倍の塩化化合物含有量が知られており、化粧品において用いられる海水は主に死海やフランスのブルターニュ地方の海水などミネラルを豊富に含むものが用いられています[3a][4a]

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 保湿作用

主にこれらの目的で、スキンケア製品、メイクアップ製品、ボディケア製品、ハンドケア製品、洗顔料、マスク製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、ボディソープ製品など様々な製品に汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 保湿作用

保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割について解説します。

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、

角質層の構造

水分を保持する働きもつ天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造になっており、この構造が保持されることによって外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています[5][6]

角質層において水分を保持する働きをもつ天然保湿因子(NMF:natural Moisturizing Factor)は低分子の水溶性物質であり、以下の表のように、

成分 含量(%)
アミノ酸 40.0
ピロリドンカルボン酸(PCA) 12.0
乳酸 12.0
尿素 7.0
アンモニア、尿酸、グルコサミン、クレアチン 1.5
ナトリウム(Na⁺) 5.0
カリウム(K⁺) 4.0
カルシウム(Ca²⁺) 1.5
マグネシウム(Mg²⁺) 1.5
リン酸(PO₄³⁻) 0.5
塩化物(Cl⁻) 6.0
クエン酸、ギ酸 0.5
糖、有機酸、ペプチド、未確認物質 8.5

アミノ酸、有機酸、塩などの集合体として存在しています[7a]

また、角質層内の主な水分は、天然保湿因子(NMF)の分子に結合している結合水と水(液体)の形態をした自由水の2種類の状態で存在しており、以下の表のように、

角質層内の水の種類 定義
結合水 一次結合水 角質層の構成分子と強固に結合し、硬く乾燥しきった角質層の中にも存在する水です。
二次結合水 角質層の構成分子と非常に速やかに結合するものの、乾燥した状態でゆっくりと解離するような比較的弱い結合をしている水の分子のことをいい、温度や湿度など外部環境によって比較的容易に結合と解離を繰り返す可逆的な水です。
自由水 二次結合水の容量を超えて角質層が水を含んだ場合に液体の形で角質層内に存在する水であり、この量が一定量を超えると過水和となり、浸軟した(ふやけた)状態が観察されます。

それぞれこのような特徴を有しています[8a][7b]

角質層の柔軟性は、水分量10-20%の間で自然な柔軟性を示す一方で、水分量が10%以下になると角層のひび割れ、肌荒れが生じると考えられており、種々の原因により角質層の保湿機能が低下することによって水分量が低下すると、皮膚表面が乾燥して亀裂、落屑、鱗屑などを生じるようになることから、角層に含まれる水分量が皮膚表面の性状を決定する大きな要因として知られています[8b]

このような背景から、角層の水分量が低下している場合に角層水分量を増加することは、皮膚の乾燥、ひび割れ、肌荒れの予防や改善において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

化粧品に用いられる海水は、タラソテラピー(海洋療法)で用いられる死海やフランスのブルターニュ地方の海水などミネラルを豊富に含むものが用いられており[3b][4b]、天然保湿因子の構成成分である各種塩類(ミネラル)を皮膚に補給することで保湿性が向上することから[9][10]、保湿・湿潤目的でスキンケア製品などに使用されています[1b]

3. 安全性評価

海水の現時点での安全性は、

  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

3.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

3.2. 眼刺激性

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。

4. 参考文献

  1. ab日本化粧品工業連合会(2013)「海水」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,288.
  2. たばこと塩の博物館(-)「世界の塩:世界の塩資源(海水の成分、世界の塩資源の分布)」, 2020年1月24日アクセス.
  3. ab中根 俊彦(1999)「タラソテラピーを起源とした海洋由来成分の開発動向と化粧品への活用」Fragrance Journal(27)(4),58-68.
  4. ab関 邦博・山崎 昌廣(1999)「死海の水のタラソテラピー効果」Fragrance Journal(27)(4),42-51.
  5. 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
  6. 田村 健夫・廣田 博(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
  7. ab武村 俊之(1992)「保湿製剤の効用:角層の保湿機構」ファルマシア(28)(1),61-65. DOI:10.14894/faruawpsj.28.1_61.
  8. ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「水」新化粧品原料ハンドブックⅠ,487-502.
  9. 鈴木 一成(2012)「海水乾燥物」化粧品成分用語事典2012,202.
  10. 株式会社資生堂(2000)「皮膚外用剤」特開2000-229832.

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