サイタイエキスの基本情報・配合目的・安全性

化粧品表示名 サイタイエキス
医薬部外品表示名 サイタイ抽出液
INCI名 Umbilical Extract
配合目的 保湿 など

1. 基本情報

1.1. 定義

主にウマ科動物ウマ(学名:Equus caballus 英名:Horse)またはイノシシ科動物ブタ(学名:Sus scrofa domesticus 英名:pig)の臍帯(∗1)から得られる抽出物です[1]

∗1 臍帯(さいたい)とは、胎児と胎盤をつなぐ管状組織であり、母側から胎児に酸素や栄養分を、胎児側から母体側に老廃物を渡すといった運搬機能を担っています。一般的には「へその緒」と呼ばれます。

1.2. 成分組成

サイタイエキスの成分組成は、動物の種類または抽出方法で異なりますが、

種類 成分名称
ムコ多糖 ヒアルロン酸コンドロイチン硫酸プロテオグリカンほか
アミノ酸 グリシンプロリンヒドロキシプロリンほか
ペプチド EGF、FGF
その他 シアル酸

このような成分で構成されていることが報告されており[2][3]、複数のムコ多糖類を主成分とし、抽出動物の種類や抽出方法によってペプチド類やシアル酸などの有効成分が微量含有されていると考えられます。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 皮表水分保持による保湿作用

主にこれらの目的で、スキンケア製品、マスク製品、洗顔料、クレンジング製品などに使用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 皮表水分保持による保湿作用

皮表水分保持による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割について解説します。

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、

角質層の構造

水分を保持する働きもつ天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造になっており、この構造が保持されることによって外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています[4][5]

また、角質層内の主な水分は、天然保湿因子(NMF)の分子に結合している結合水と水(液体)の形態をした自由水の2種類の状態で存在しており、以下の表のように、

角質層内の水の種類 定義
結合水 一次結合水 角質層の構成分子と強固に結合し、硬く乾燥しきった角質層の中にも存在する水です。
二次結合水 角質層の構成分子と非常に速やかに結合するものの、乾燥した状態でゆっくりと解離するような比較的弱い結合をしている水の分子のことをいい、温度や湿度など外部環境によって比較的容易に結合と解離を繰り返す可逆的な水です。
自由水 二次結合水の容量を超えて角質層が水を含んだ場合に液体の形で角質層内に存在する水であり、この量が一定量を超えると過水和となり、浸軟した(ふやけた)状態が観察されます。

それぞれこのような特徴を有しています[6a][7]

角質層の柔軟性は、水分量10-20%の間で自然な柔軟性を示す一方で、水分量が10%以下になると角層のひび割れ、肌荒れが生じると考えられており、種々の原因により角質層の保湿機能が低下することによって水分量が低下すると、皮膚表面が乾燥して亀裂、落屑、鱗屑などを生じるようになることから、角層に含まれる水分量が皮膚表面の性状を決定する大きな要因として知られています[6b]

このような背景から、肌荒れやバリア機能の低下やなどによって角層の水分量が低下している場合に、皮膚表面に水分を含んだ膜を形成し、皮膚の水分蒸散を防止することは、皮膚の乾燥、ひび割れ、肌荒れの予防や改善において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

2002年に一丸ファルコスによって報告されたサイタイエキスの経表皮水分蒸散量への影響検証によると、

– ヒト使用試験 –

5名の被検者の左右前腕屈側に乾燥固形分0.0001%に調整した試料の水溶液1mLを1日3回塗布し、3回目の塗布1時間後に経表皮水分蒸散量を測定し、全被検者の平均値を算出し、同条件で算出した未処置部位と比較したところ、以下のグラフのように、

水溶性サイタイエキスの経表皮水分蒸散量抑制作用

サイタイエキス水溶液は、水溶性コラーゲンと同等以上の経表皮水分蒸散を抑制し、水分保持作用を示すことがわかった。

このような検証結果が明らかにされており[8]、サイタイエキスに皮表水分保持による保湿作用が認められています。

3. 安全性評価

サイタイエキスの現時点での安全性は、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 15年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

3.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

医薬部外品原料規格2021に収載されており、15年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

3.2. 眼刺激性

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。

4. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「サイタイエキス」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,427.
  2. 鈴木 一成(2012)「サイタイ抽出液」化粧品成分用語事典2012,131-132.
  3. 株式会社ホルス(-)「サイタイエキス」Information Sheet.
  4. 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
  5. 田村 健夫・廣田 博(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
  6. ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「水」新化粧品原料ハンドブックⅠ,487-502.
  7. 武村 俊之(1992)「保湿製剤の効用:角層の保湿機構」ファルマシア(28)(1),61-65. DOI:10.14894/faruawpsj.28.1_61.
  8. 一丸ファルコス株式会社(2002)「化粧料組成物」特開2002-205913.

TOPへ