天然保湿因子(NMF)とは…成分効果を解説

保湿
天然保湿因子(NMF)
[慣用名]
・天然保湿因子、NMF、Natural Moisturizing Factor

天然保湿因子とは、角質層に遊離状態(∗1)で存在し水分を保持する働きもつ水溶性低分子の総称(∗2)であり、「NMF:natural Moisturizing Factor」とも呼ばれます(∗3)

∗1 化学における遊離とは、なんらかの化学種が結合していないフリーな状態にあること、結合が切れることを指します。

∗2 1959年にJacobiによってはじめて吸湿性のある水溶性物質が角質層中に存在し、これが保湿に関与していると報告されました(文献1:1959)。

∗3 「天然保湿因子」という名称は、角質層に存在し水分を保持する働きもつ水溶性物質の総称であり、化粧品成分表示名称(特定の成分)ではありません。

ここでは化粧品に用いられる天然保湿因子の種類、組成、皮膚における生理機能および化粧品としての作用・効果を解説し、末尾に保湿剤として化粧品に配合される天然保湿因子の一覧を掲載しておきます。

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天然保湿因子の種類および組成

角質層とは、以下の皮表皮構造図(顆粒層より上部のみ)をみてもらうとわかるように、

角質層の構造

角質と細胞間脂質がレンガとモルタルの関係と同様の構造で構成された、0.01-0.02mmの皮膚最外層です。

天然保湿因子の一部は細胞間脂質にも存在しますが、大部分はこの角質層の角質細胞内に存在しており、天然保湿因子の組成は、以下の表のように、

成分 含量(%)
アミノ酸類 40.0
ピロリドンカルボン酸(PCA) 12.0
乳酸 12.0
尿素 7.0
アンモニア、尿酸、グルコサミン、クレアチン 1.5
ナトリウム(Na⁺) 5.0
カリウム(K⁺) 4.0
カルシウム(Ca²⁺) 1.5
マグネシウム(Mg²⁺) 1.5
リン酸(PO₄³⁻) 0.5
塩化物(Cl⁻) 6.0
クエン酸 0.5
糖、有機酸、ペプチド、未確認物質 8.5

これらの成分で構成されており(文献2:1985)、アミノ酸およびアミノ酸代謝産生物(PCAや尿素)が約60%を、多種のミネラル塩類が約18.5%を、有機酸が約12.5%占めています。

また、天然保湿因子の約40%を占めるアミノ酸の組成は、以下の表のように、

アミノ酸の種類 含量(%)
アスパラギン + アスパラギン酸 1.09
トレオニン 0.64
セリン 20.13
グルタミン + グルタミン酸 3.88
プロリン 6.09
グリシン 13.27
アラニン 9.87
バリン 3.61
メチオニン 0.41
イソロイシン 0.83
ロイシン 1.74
フェニルアラニン 0.78
チロシン 0.98
リシン 1.70
ヒスチジン 1.73
アルギニン 9.18

16種類のアミノ酸が含まれていることが知られています(文献3:1983)

これらのアミノ酸は、以下の図をみてもらうとわかるように、

天然保湿因子の産生メカニズム

顆粒層に存在しているケラトヒアリンがフィラグリンと呼ばれるタンパク質となり、角質に近づくとともにブレオマイシン水解酵素によって完全に加水分解され、角質層でアミノ酸となることが明らかにされており(文献3:1983;文献4:2002)、フィラグリンのアミノ酸組成と天然保湿因子を構成するアミノ酸組成は近似しています。

また、これらのアミノ酸の一部はさらに代謝を受け、アミノ酸の一種であるグルタミンはピロリドンカルボン酸(PCA)に、アルギニンは尿素など、より保湿性の高い代謝酸生物へと変換され、天然保湿因子として機能することが知られています(文献4:2002)

ただし、アトピー性皮膚炎などを有する皮膚においては、ブレオマイシン水解酵素の発現は顕著に低下し、その結果としてフィラグリンのアミノ酸変換率の低下が報告されており(文献5:2011)、また老人性乾皮症やアトピー性皮膚炎においては、角質細胞中のアミノ酸類が顕著に低下していることが報告されていることから(文献6:1989;文献7:1991)、アトピー性皮膚炎や加齢と乾燥皮膚(ドライスキン)の間には強い関わりが示唆されています。

天然保湿因子の皮膚における生理機能

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、

角質層の構造

角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、この構造が保持されることによって、外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています(文献8:1990;文献9:2002)

天然保湿因子の大部分は角質細胞内に存在し、その60%をアミノ酸およびその代謝産生物が占めており、このアミノ酸類およびアミノ酸代謝産物が角質層水分保持の要となっています(文献4:2002)

次に、ミネラル塩は生体において極めて重要な恒常性維持の役割を担っており、天然保湿因子においても約18.5%を占め、たとえば夏から冬にかけてナトリウム(Na⁺)、カリウム(K⁺)および塩化物などの有意な減少がみられ、またカリウム(K⁺)は角質層の水和状態(∗4)、柔軟性およびpHと有意に相関することが明らかにされています(文献10:2004)

∗4 水和(hydration)とは、ある化学種へ水分子が付加する現象であり、イオン性化合物や水素結合性化合物が水に溶解し、静電相互作用や水素結合することによって起こります。

最後に有機酸については、天然保湿因子において乳酸が12%、クエン酸が0.5%を占めており(∗5)、主に塩の形で角質柔軟化の役割を担っています(文献2:1985)

∗5 厳密には、天然保湿因子において有機酸は乳酸およびクエン酸で存在しますが、一般的に保湿という観点からは天然保湿因子の有機酸は塩の形になってはじめてその機能を発揮します。

とくに乳酸NaおよびPCA-Na(∗6)は、分子そのものの水分保持力が高いため、水分保持にともなう角質層の柔軟持続性を有していると考えられています(文献2:1985)

∗6 ピロリドンカルボン酸(PCA)はアミノ酸の代謝物質であるため、アミノ酸関連物質に分類されますが、有機酸でもあり、塩の形をとることで有機酸塩の特徴をもちます。

このような背景から、現時点では主に天然保湿因子はアミノ酸類およびアミノ酸代謝産生物が水分保持を、ミネラル塩であるカリウムおよび有機酸塩である乳酸塩が角質層の柔軟化を担うことで角質層を健常に保っていると考えられます(天然保湿因子の他の成分についてもわかりしだい追補します)。

化粧品における天然保湿因子の作用・効果

化粧品における天然保湿因子の作用・効果は、主に、

  • 角質水分量増加による保湿作用

これらの目的で、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ化粧品、シャンプー製品、ヘアトリートメント製品、ボディソープ製品、アウトバストリートメント製品、クレンジング製品、洗顔料など様々な製品に汎用されています。

アミノ酸類は水溶性低分子の両性イオン化合物であり、一般的に電荷を有した物質は角質層の水和などが大きな要因となり経皮吸収されにくく(文献11:1993)、その透過率は電荷を持たない物質と比較して1/1000といわれています(文献12:1984)

ただし、数時間ではほとんど経皮吸収しませんが、24時間以降に経皮吸収量が増大していく試験データがあり(文献13:1996)、保湿即効性はほとんどありませんが、保湿持続性は高いと考えられます(∗7)

∗7 アミノ酸の種類によって経皮吸収挙動が異なるため、詳細は各アミノ酸記事を参考にしてください。

また、このアミノ酸の経皮吸収挙動は、角質層が健常である場合のものであり、皮膚炎などを有している場合やバリア機能が低下している場合はアミノ酸の経皮吸収時間は大幅に短縮されることが明らかになっています(文献13:1996)

∗∗∗

文献一覧:

  1. O Jacobi(1959)「About the mechanism of moisuture regulation in the horney layer of the skin」Proceedings of the Scientific Section of the Toilet Goods Association(31),22-24.
  2. 尾沢 達也, 他(1985)「皮膚保湿における保湿剤の役割」皮膚(27)(2),276-288.
  3. I Horii, et al(1983)「Histidine-rich protein as a possible origin of free amino acids of stratum corneum」Normal and Abnormal Epidermal Differentiation: Current Problems in Dermatology(11),301-315.
  4. 朝田 康夫(2002)「皮膚と水分の関係」美容皮膚科学事典,90-103.
  5. Y Kamata, et al(2011)「Bleomycin hydrolase is regulated biphasically in a differentiation- and cytokine-dependent manner: Relevance to atopic dermatitis」Journal Biological Chemistry(286),8204-8212.
  6. I Horii, et al(1989)「Stratum corneum hydration and amino acid content in xerotic skin」British Journal of Dermatology(121)(5),587-592.
  7. M Watanabe, et al(1991)「Functional analyses of the superficial stratum corneum in atopic xerosis」Archives of Dermatology(127)(11),1689-1692.
  8. 田村 健夫, 他(1990)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
  9. 朝田 康夫(2002)「角質層のメカニズム」美容皮膚科学事典,22-28.
  10. N Nakagawa, et al(2004)「Relationship Between NMF (Lactate and Potassium) Content and the Physical Properties of the Stratum Corneum in Healthy Subjects」Journal of Investigative Dermatology(122)(3),755–763.
  11. M Sznitowska, et al(1993)「In vitro permeation of human skin by multipolar ions」International Journal of Pharmaceutics(99)(1),43-49.
  12. J Swarbrick, et al(1984)「Drug Permeation Through Human Skin Ⅱ: Permeability of Ionizable Compounds」Journal of Pharmaceutical Sciences(73)(10),1352–1355.
  13. 川崎 由明, 他(1996)「In vitroによるアミノ酸のヒト皮膚での経皮吸収挙動の解析」日本化粧品技術者会誌(30)(1),55-61.

保湿剤として化粧品に配合される天然保湿因子一覧

天然保湿因子の組成の解説では有機酸に関して塩になっていない状態で記載していますが、有機酸が角層柔軟化として機能するのは、塩の形となってからであるため、天然保湿因子一覧では、有機酸は塩の形で掲載しています。

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