天然保湿因子(NMF)とは…成分効果を解説



1959年にJacobiによって吸湿性のある水溶性物質が角質層中に存在し、これが保湿に関与していると報告されて以来(文献6:1959)、これらの物質に関する研究が注目され、現在では皮膚の角質層に存在し、水分を保持する働きをもつ水溶性物質を天然保湿因子(NMF:natural Moisturizing Factor)と呼んでいます。
角質層とは、以下の皮膚の表皮構造図をみるとわかるように、
角質と細胞間脂質によって構成されたわずか0.01-0.02mmの皮膚の最外部です。
天然保湿因子は以下の成分で構成されており、
成分 | 含量(%) |
---|---|
アミノ酸類 | 40.0 |
ピロリドンカルボン酸 | 12.0 |
乳酸Na | 12.0 |
尿素 | 7.0 |
アンモニア、尿酸、グルコサミン、クレアチン | 1.5 |
ナトリウム | 5.0 |
カリウム | 4.0 |
カルシウム | 1.5 |
マグネシウム | 1.5 |
リン酸Na | 0.5 |
塩化物 | 6.0 |
クエン酸Na | 0.5 |
糖、有機酸、ペプチド、未確認物質 | 8.5 |
アミノ酸が40%を占めており、ピロリドンカルボン酸や尿素などアミノ酸の代謝物を含めると60%にも及びます。
このことからアミノ酸関連物質は角層の水分保持に重要な役割を担っていると考えられています。
また、天然保湿因子の中には多種の塩(えん:Naとついている成分)が存在していますが、塩そのもの(塩化ナトリウム:NaCl)は蒸留水と比較して柔軟持続性が高く、塩化処理した場合は、保湿剤同様の効果を発揮するため、天然保湿においても柔軟化の役割を担っていると考えられています(文献5:1985)。
天然保湿因子内のアミノ酸には、以下の表のように、
アミノ酸の種類 | 含量(%) |
---|---|
アスパラギン + アスパラギン酸 | 1.09 |
トレオニン | 0.64 |
セリン | 20.13 |
グルタミン + グルタミン酸 | 3.88 |
プロリン | 6.09 |
グリシン | 13.27 |
アラニン | 9.87 |
バリン | 3.61 |
メチオニン | 0.41 |
イソロイシン | 0.83 |
ロイシン | 1.74 |
フェニルアラニン | 0.78 |
チロシン | 0.98 |
リシン | 1.70 |
ヒスチジン | 1.73 |
アルギニン | 9.18 |
16種類のアミノ酸が含まれており、中でもセリンが約20%を占めていることが明らかになっています(文献2:1983)。
また天然保湿因子は、以下の天然保湿因子の産生メカニズム図をみてもらうとわかるように、
表皮顆粒層で産生されたフィラグリンがブレオマイシン水解酵素によって完全分解されることによって産生されることが報告されており、これはアミノ酸だけでなくPCAや乳酸NaなどNMF構成成分を包括するものであるとされています(文献4:2011)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア化粧品、ヘアケア製品など様々な製品に使用されます(文献1:2016)。
角質層水分量の増加による保湿・バリア改善作用
角質層水分量の増加による保湿・バリア改善作用に関しては、2005年に味の素によって公開されたアミノ酸補給による肌の保湿能およびバリア能向上検証によると、
皮膚は、加齢、アトピー性皮膚炎などの体質、室内外での急激な温度変化、紫外線などにより角質の水分量が減少し、同時に角質の天然保湿成分であるアミノ酸も減少し、その結果十分な水分を保つことができなくなった肌は正常なターンオーバーができなくなる。
こういった背景から天然保湿成分を構成するアミノ酸液を腕に塗布して肌の角層水分量を測定したところ、
アミノ酸液は角層15層のうち5層目まで達しており、アミノ酸を塗布していない肌と比較して塗布後30分でも水分の増加が観察された。
また22種類の天然保湿因子関連アミノ酸成分を含有したクリームを1日2回2週間にわたって連用したところ、以下のグラフのように、
アミノ酸成分含有クリーム塗布によって角層の水分の蒸散が抑制され、角層のバリア機能を3割り程度向上させた。
これらの結果から、肌に不足したアミノ酸を補うことが、肌の水分保持能やバリア機能向上に有効であることがわかった。
このような検証結果が明らかにされており(文献3:2005)、天然保湿因子のアミノ酸に角質層水分量の増加による保湿・バリア改善作用が認められています。
天然保湿因子の安全性(刺激性・アレルギー)について
- 生体内に存在
- 10年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
これらの結果から、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
安全性試験の詳細は、天然保湿因子における各成分の記事を参照してください。
眼刺激性について
安全性試験の詳細は、天然保湿因子における各成分の記事を参照してください。
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天然保湿因子は保湿成分、バリア改善成分にカテゴライズされています。
それぞれの成分一覧は以下からお読みください。
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文献一覧:
- 日光ケミカルズ(2016)「アミノ酸およびペプチド」パーソナルケアハンドブック,392.
- Horii I, et al(1983)「Histidine-rich protein as a possible origin of free amino acids of stratum corneum.」Journal of Dermatology(10)(1),25-33.
- “味の素株式会社”(2005)「アミノ酸補給による肌の保湿力向上に新知見 -アミノ酸は角層の5層目まで浸透、アミノ酸クリームによるバリア能向上を確認-」, <https://www.ajinomoto.com/jp/presscenter/press/detail/2005_02_16_1.html> 2018年12月16日アクセス.
- “株式会社資生堂”(2011)「肌の天然保湿因子NMF産生メカニズムを解明」, <https://www.shiseidogroup.jp/newsimg/archive/00000000001259/1259_n9q22_jp.pdf> 2018年12月16日アクセス.
- 尾沢 達也, 他(1985)「皮膚保湿における保湿剤の役割」皮膚(27)(2),276-288.
- O.K.Jacobi(1959)「About the mechanism of moisuture regulation in the horney layer of the skin.」Proceedings of the Scientific Section of the Toilet Goods Association(31),22-24.
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