加水分解コンキオリンとは…成分効果と毒性を解説






・加水分解コンキオリン
[医薬部外品表示名称]
・加水分解コンキオリン液
ウグイスガイ科動物であるアコヤガイ(∗1)(学名:Pinctada fucata martensii 英名:Akoya Pearl Oyster)の真珠層に含まれる不溶性タンパク質であるコンキオリンを酸または酵素で加水分解して得られるコンキオリンペプチドです。
∗1 アコヤガイ(アコヤ貝)は、真珠養殖に利用される真珠母貝のひとつで、真珠貝という呼び名で広く知られています。
真珠は、世界各地で宝石としてのみならず、真珠の真珠層を削って微粒子にした真珠粉は古来より漢方や化粧料として利用されており、16世紀に中国で著された薬学書である「本草綱目」には、肌に潤いを与え、顔色を良くするとして記載されています(文献2:1931)。
また現代においても薬理的に抗ヒスタミン作用などが広く知られており、漢方薬として服用されています(文献1:2011)。
真珠の組成は、炭酸Caを主体とした結晶層(アラゴナイト:無機成分)と結晶層間有機基質が交互に積み重なったレンガ壁状の層状構造(∗2)をしており、結晶と結晶の間には結晶粒間有機基質が分布し、さらに結晶内部にも有機基質が分布し、これら有機基質は総称としてコンキオリン(硬タンパク質の一種)と呼ばれ、アラゴナイトとコンキオリンの組成比は約95:5となっています(文献3:1988)。
∗2 角質層における角質と細胞間脂質と同じ構造です。
真珠層に含まれるコンキオリンのアミノ酸組成(∗3)は一例ですが、
∗3 加水分解していないコンキオリンのアミノ酸組成です。
アミノ酸 | アミノ酸組成 タンパク質100gあたりのアミノ酸残基のグラム数 |
---|---|
ロイシン | 9.2 |
フェニルアラニン | 1.1 |
バリン | 2.1 |
チロシン | 2.7 |
メチオニン | 0.4 |
アラニン | 14.0 |
グルタミン酸 | 3.1 |
トレオニン | 0.6 |
アスパラギン酸 | 6.2 |
セリン | 5.4 |
グリシン | 24.3 |
アルギニン | 7.2 |
リシン | 7.4 |
ヒスチジン | 0.5 |
システイン | 12.2 |
このように報告されており(文献4:1960)、グリシン含有量が高いことから高い保湿性を有していると考えられます。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ化粧品、洗浄製品、ヘアケア製品、リップケア製品、洗顔料&洗顔石鹸、シート&マスク製品など様々な製品に使用されます(文献5:2004;文献8:1995;文献9:2016)。
皮表水分量増加による保湿作用
皮表水分量増加による保湿作用に関しては、加水分解コンキオリンのアミノ酸組成はグリシン含有量が多く、高い保湿性が認められています。
1995年に御木本製薬によって公開された技術情報によると、
加水分解コンキオリンまたはヒアルロン酸Naを24時間シリカゲルを入れたデシケーター中に放置し、125メッシュの網を通した後、さらに24時間シリカゲルを入れたデシケータ中に放置した。
この試料約0.5gを取り、相対湿度75%と33%のデシケーターそれぞれに室温で放置し、数時間ごとに重量を測定し、水分増加率を算出したところ、以下の表のように、
試料 | 相対湿度 | 水分増加率 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
2時間後 | 4時間後 | 6時間後 | 8時間後 | 24時間後 | ||
加水分解コンキオリン | 75% | 9.9 | 13.7 | 16.4 | 18.0 | 28.1 |
ヒアルロン酸Na | 75% | 11.8 | 16.8 | 19.2 | 21.2 | 28.0 |
加水分解コンキオリン | 33% | 3.28 | 4.60 | 5.10 | 5.14 | 3.58 |
ヒアルロン酸Na | 33% | 3.72 | 5.06 | 5.76 | 6.88 | 7.12 |
加水分解コンキオリンは、ヒアルロン酸Naほどではないが、水分吸湿能を有しており、保湿性が高いことがわかった。
このような検証結果が明らかにされており(文献8:1995)、加水分解コンキオリンに皮表水分量増加による保湿作用が認められています。
DNA損傷抑制による細胞賦活作用
DNA損傷抑制による細胞賦活作用に関しては、まず前提知識としてDNA損傷による皮膚への影響について解説します。
皮膚および毛髪におけるDNA損傷は、細胞内に起因するもの(活性酸素)と外界に由来するもの(紫外線、化学物質)が主な原因と考えられており、これらに曝露された皮膚や毛髪は、DNA分子が紫外線などのエネルギーを直接吸収することにより、またはDNA以外の光増感分子がエネルギーを吸収した後、そのエネルギーがDNAへ2次的に傷害を引き起こすことにより引き起こされます。
細胞のDNAに損傷が生じると、アポトーシス(∗4)の誘導や細胞周期の停止が起こり、細胞の正常な分化や増殖が行われなくなります。
∗4& アポトーシスとは、あらかじめ遺伝子で決められたメカニズムによる細胞の自然死現象のことです。
またDNAの損傷が生じたがアポトーシスを誘導するには十分でない場合は損傷を受けた細胞が未修復のDNAを複製し、エラーを生じた遺伝情報が細胞のDNAに残されるため、細胞老化が促進され、細胞の種々の機能が低下することも知られています。
つまり、DNA損傷が修復されない場合は、皮膚においては色素沈着、炎症、光老化、ターンオーバーの乱れ、皮膚バリア機能の低下など種々の皮膚障害の原因となり、毛髪においては脱毛、薄毛、フケの発生、白髪など毛髪障害の原因となります。
このような背景からDNA損傷を抑制または修復することは、皮膚および毛髪にとって非常に重要であると考えられます。
2004年に御木本製薬によって報告された加水分解コンキオリンのケラチノサイトにおける紫外線損傷抑制検証によると、
加水分解コンキオリンは、0.001%で40%、0.1%では約80%の損傷抑制作用を示した。
このような検証結果が明らかにされており(文献5:2004)、加水分解コンキオリンにDNA損傷抑制による細胞賦活作用が認められています。
エラスターゼ活性抑制による抗老化作用
エラスターゼ活性抑制による抗老化作用に関しては、まず前提知識として真皮の構造および役割とエラスチンおよびエラスターゼについて解説します。
以下の皮膚の構造図をみてもらうとわかるように、
皮膚は大きく表皮と真皮に分かれており、表皮は主に紫外線や細菌・アレルゲン・ウィルスなどの外的刺激から皮膚を守る働きと水分を保持する働きを担っており、真皮はプロテオグリカン(ヒアルロン酸およびコンドロイチン硫酸含む)・コラーゲン・エラスチンで構成された細胞外マトリックスを形成し、水分保持と同時に皮膚のハリ・弾力性に深く関与しています。
エラスチンは、真皮において線維芽細胞から合成され、水分を多量に保持したヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸などのムコ多糖類(グリコサミノグルカン)を維持・保護しながら規則的に配列し皮膚のハリを支える膠原状タンパク質であるコラーゲンの交差上に存在し、コラーゲン同士に絡まり、バネのように支えて皮膚の弾力性を保ちます(文献6:2002)。
エラスターゼは、エラスチンを分解する酵素であり、通常はエラスチンの産生と分解がバランスすることで一定のコラーゲン量を保っていますが、皮膚に炎症や刺激が起こるとエラスターゼが活性化し、エラスチンの分解が促進されることでエラスチンの質的・量的減少が起こり、皮膚老化の一因となると考えられています。
このような背景から皮膚刺激や炎症によるエラスターゼの活性化を抑制することは皮膚に置いて重要であると考えられます。
2004年に御木本製薬によって報告された加水分解コンキオリンのエラスターゼ活性抑制検証によると、
加水分解コンキオリンは、0.00%でわずかに阻害が認められ、0.1%では顕著な阻害作用を示した。
この結果から、加水分解コンキオリンはエラスターゼの活性を阻害することで光老化におけるエラスチンの分解を抑制することがわかった。
このような検証結果が明らかにされており(文献5:2004)、加水分解コンキオリンにエラスターゼ活性抑制による抗老化作用が認められています。
線維芽細胞損傷抑制による抗老化作用
線維芽細胞損傷抑制による抗老化作用に関しては、まず前提知識として真皮の構造および役割と線維芽細胞について解説します。
以下の皮膚の構造図をみてもらうとわかるように、
皮膚は大きく表皮と真皮に分かれており、表皮は主に紫外線や細菌・アレルゲン・ウィルスなどの外的刺激から皮膚を守る働きと水分を保持する働きを担っており、真皮はプロテオグリカン(ヒアルロン酸およびコンドロイチン硫酸含む)・コラーゲン・エラスチンで構成された細胞外マトリックスを形成し、水分保持と同時に皮膚のハリ・弾力性に深く関与しています。
真皮において細胞外マトリックスを構成するコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸は、同じく真皮に点在する線維芽細胞から産生されるため、線維芽細胞が活発に働くことでこれらが正常につくられていることが皮膚のハリ・弾力維持において重要です(文献6:2002)。
このような背景から線維芽細胞の損傷を抑制することは、皮膚において重要であると考えられます。
2004年に御木本製薬によって報告された活性酸素による線維芽細胞の損傷抑制検証によると、
加水分解コンキオリンは、0.1%で約15%の損傷抑制作用を示した。
この結果から、加水分解コンキオリンは活性酸素による線維芽細胞の損傷を抑制することで老化の予防・改善効果が期待できる。
このような検証結果が明らかにされており(文献5:2004)、加水分解コンキオリンに線維芽細胞損傷抑制による抗老化作用が認められています。
Pmel17発現抑制による色素沈着抑制作用
Pmel17発現抑制による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン生合成のメカニズムとPmel17について解説します。
以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
紫外線を浴びるとまず最初に活性酸素が発生し、様々な情報伝達物質(メラノサイト活性化因子)をメラノサイトで発現するレセプター(受容体)に届けることで、メラノサイト内でメラニンの生合成がはじまり、ユーメラニン(黒化メラニン)へと合成されます。
メラノサイト内でのメラニン生合成は、まずアミノ酸の一種であるチロシンに活性酵素であるチロシナーゼが結合することで始まり、次にそれぞれの段階でTRP-1、TRP-2という活性酵素と結合し、またPmel17というメラノソーム構造タンパク質がメラノソームに転送されることで、ドーパ、ドーパキノンへと変化し、最終的に黒化メラニンが合成されます。
このような背景からPmel17の発現を抑制することは、黒化メラニンの生合成抑制にとって重要であると考えられます。
2016年に御木本製薬によって公開された技術情報によると、
培養した正常ヒトメラニン細胞にホルスコリン(Pmel17の発現を増加させる)を100μMとなるように加え、その培地へ加水分解コンキオリン0または5mg/mLを添加し、Pmel17発現量を測定したところ、以下のグラフのように、
加水分解コンキオリンは、ホルスコリンによって発現が増加したPmel17遺伝子発現を5mg/mL添加することで、約80%抑制した。
また加水分解コンキオリンを配合した外用剤を作製し、実際に使用してみた結果、色素沈着抑制に有効であることもわかった。
このような検証結果が明らかにされており(文献9:2016)、加水分解コンキオリンにPmel17発現抑制による色素沈着抑制作用が認められています。
乳化作用
乳化作用に関しては、加水分解コンキオリンを用いて乳化することで、非常に微細なエマルションを形成できることが明らかになっています(文献5:2004)。
加水分解コンキオリンの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 10年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
これらの結果から、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
通常十分に加水分解された(高分子を除去した)成分で皮膚感作を起こすことはほとんどないと報告されていますが、貝類にアレルギーを有する場合は念のため、パッチテストをして安全性を確認してからの使用を推奨します。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
皮膚感作性(アレルギー性)について
御木本製薬の安全性データ(文献7:1987)によると、
- [動物試験] 10匹のモルモットを1群として6群を用いて感作性のある高分子ペプチドを除去した加水分解コンキオリンのMaximization皮膚感作試験を実施したところ、いずれのモルモットにも皮膚感作はみられなかった
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
通常十分に加水分解された(高分子を除去した)成分で皮膚感作を起こすことはほとんどないと報告されていますが、貝類にアレルギーを有する場合は念のため、パッチテストをして安全性を確認してからの使用を推奨します。
∗∗∗
加水分解コンキオリンは保湿成分、細胞賦活成分、抗老化成分、界面活性剤、美白成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:保湿成分 細胞賦活成分 抗老化成分 界面活性剤 美白成分
∗∗∗
文献一覧:
- 鈴木 洋(2011)「真珠(しんじゅ)」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,240-241.
- 李 時珍(1931)「眞珠」新註校定 国訳本草綱目<第11冊>,79-85.
- 三好 正毅, 他(1988)「光学的方法による真珠の母貝鑑別」応用物理(57)(2),235-240.
- S.Tanaka, et al(1960)「Biochemical Studies on Pearl. IX. Amino Acid Composition of Conchiolin in Pearl and Shell.」Bulletin of the Chemical Society of Japan(33)(4),543-545.
- 服部 文弘, 他(2004)「コンキオリンペプチドの化粧品への応用」Fragrance Journal(32)(8),49-54.
- 朝田 康夫(2002)「真皮の構造は」美容皮膚科学事典,30.
- 御木本製薬株式会社(1987)「化粧品原料の製造方法」特開昭62-221612.
- 御木本製薬株式会社(1995)「化粧品原料及びその製造方法」特開平7-165526.
- 御木本製薬株式会社(2016)「Pmel17遺伝子発現抑制剤」特開2016-011288.
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