加水分解ケラチン(羊毛)とは…成分効果と毒性を解説




・加水分解ケラチン(羊毛)
[医薬部外品表示名称]
・加水分解ケラチン液
羊毛由来ケラチンタンパク質のシスチン結合(S-S結合)を切断したものを加水分解して得られるケラチンペプチドです。
ケラチンとは、表皮の角質層や毛髪、爪など最外層を覆う組織を構成する線維性たんぱく質のことで、ケラチンにはメチオニンやシスチンなど硫黄を含む含硫アミノ酸が多量に含まれているのが特徴です(文献2:2002)。
羊毛由来加水分解ケラチンのアミノ酸組成は、
アミノ酸 | アミノ酸組成 |
---|---|
システイン酸 | 1.0 |
シスチン | 2.8 |
メチオニン | 0.7 |
アスパラギン酸 | 7.0 |
グルタミン酸 | 12.9 |
アルギニン | 7.2 |
リシン | 2.1 |
セリン | 11.7 |
トレオニン | 6.7 |
グリシン | 10.6 |
アラニン | 6.3 |
バリン | 5.6 |
イソロイシン | 3.2 |
ロイシン | 7.1 |
チロシン | 4.2 |
フェニルアラニン | 3.0 |
ヒスチジン | 0.9 |
プロリン | 4.1 |
このように報告されており(文献3:1987)、シスチンを含有している点で他の加水分解物とは異なる構造で、毛髪と非常に類似したアミノ酸組成となっています。
また加水分解ケラチンは、pH6以上で反応が顕著に増加することが示されており、1987年に花王によって報告された加水分解ケラチンの分子量と毛髪浸透性の影響検証によると、
分子量760,1300および1800の加水分解ケラチンを含むpH8の緩衝液および還元処理日本人毛髪を用いて浸透性をシステイン残基の浸透度を指標として検討したところ、以下のグラフのように、
分子量1300および1800の加水分解ケラチンを用いた場合は反応量は10分で一定に達したが、分子量760の加水分解ケラチンを用いた場合は、10分以後も反応量は増加した。
このような検証結果が明らかにされており(文献3:1987)、加水分解ケラチンは1,000以下の低分子量においてより高い毛髪浸透性が明らかにされています。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、アイメイクアップ化粧品、洗浄製品、ヘアケア製品、ネイル製品、まつ毛ケア製品など様々な製品に使用されます(文献4:2000)。
毛髪柔軟化による保湿作用
毛髪柔軟化による保湿作用に関しては、加水分解ケラチンはヒト毛髪アミノ酸組成と類似しており、また毛髪への浸透性も認められているため(文献3:1987)、毛髪水分量増加による保湿作用が認められています。
ただし、毛髪への浸透性は分子量によって変化し、前述した浸透性試験の結果を考慮すると、分子量1000以下において浸透性がより高くなるため、保湿性も高くなると考えられます。
2000年に花王によって公開された技術情報によると、
パーマ処理を行ったことのない20人の日本人女性の頭髪を洗髪、すすぎ、タオルドライ後にドライヤーにより乾燥させ、「髪の滑らかさ」および「髪のツヤ」について各濃度の加水分解ケラチン(分子量400)水溶液と比較として加水分解コラーゲン水溶液を用いてハーフヘッド法にて評価した。
評価基準として20人のうち◎:非常に良い、○:やや良い、△:あまり良くない、☓:悪い、としたところ、以下の表のように、
試料 | 濃度 | 髪の滑らかさ | 髪のツヤ |
---|---|---|---|
加水分解ケラチン | 0.001 | ◎ | ◎ |
加水分解ケラチン | 0.004 | ◎ | ◎ |
加水分解ケラチン | 0.04 | ◎ | ◎ |
加水分解ケラチン | 0.4 | ◎ | ◎ |
加水分解ケラチン | 4.0 | ◎ | ◎ |
加水分解コラーゲン | 0.2 | △ | ○ |
加水分解ケラチン(分子量400)は、いずれの濃度でも優れた保湿性を示した。
このような検証結果が明らかにされており(文献4:2000)、加水分解ケラチンに毛髪柔軟化による保湿作用が認められています。
毛髪保護作用
毛髪保護作用に関しては、2000年に花王によって公開された技術情報によると、
評価基準として20人のうち◎枝毛増加なし、○:枝毛増加がほとんどなし、△:やや枝毛の増加あり、☓:枝毛の増加が多い、としたところ、以下の表のように、
試料 | 濃度 | 枝毛発生率 |
---|---|---|
加水分解ケラチン | 0.001 | ○ |
加水分解ケラチン | 0.004 | ◎ |
加水分解ケラチン | 0.04 | ◎ |
加水分解ケラチン | 0.4 | ◎ |
加水分解ケラチン | 4.0 | ◎ |
加水分解コラーゲン | 0.2 | ○ |
加水分解ケラチン(分子量400)は、いずれの濃度でも優れた毛髪保護効果を示した。
このような検証結果が明らかにされており(文献4:2000)、加水分解ケラチンに毛髪保護作用が認められています。
毛髪修復作用
毛髪修復作用に関しては、2000年に花王によって公開された技術情報によると、
評価基準として20人のうち◎:18人以上が良いと回答、○:14-17人が良いと回答、△:8-13人が良いと回答、☓:7人以下が良いと回答としたところ、以下の表のように、
試料 | 濃度 | 髪の滑らかさ | 髪のツヤ |
---|---|---|---|
加水分解ケラチン | 0.001 | ◎ | ◎ |
加水分解ケラチン | 0.004 | ◎ | ◎ |
加水分解ケラチン | 0.04 | ◎ | ◎ |
加水分解ケラチン | 0.4 | ◎ | ◎ |
加水分解ケラチン | 4.0 | ◎ | ◎ |
加水分解コラーゲン | 0.2 | ☓ | △ |
加水分解ケラチン(分子量400)は、いずれの濃度でも優れた毛髪修復効果を示した。
このような検証結果が明らかにされており(文献4:2000)、加水分解ケラチンに毛髪修復作用が認められています。
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2015-2016年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
加水分解ケラチンの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 10年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし-最小限
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
これらの結果から、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
化粧品におけるケラチンは羊毛(ウール)由来のものが多く、通常十分に加水分解された(高分子を除去した)成分で皮膚感作を起こすことはほとんどないと報告されていますが、羊毛アレルギーの場合は念のため、パッチテストをして安全性を確認してからの使用を推奨します。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2016)によると、
- [ヒト試験] 16人の女性被検者に1日1回2.5週にわたって合計12回3%加水分解ケラチン(平均分子量<1,000Da)を含むハンドクリームを使用してもらったところ、有害な影響の報告はなかった(Barba C,2007)
- [ヒト試験] 40人の健康な被検者と10人のアレルギーを有する被検者に25%加水分解ケラチン(平均分子量310Da)水溶液0.5mLを24時間閉塞パッチ(Finn Chamber)適用したところ、皮膚刺激はなかった(Personal Care Products Council,2016)
- [ヒト試験] 24人の健康な被検者に25%加水分解ケラチン(平均分子量320Da)水溶液0.2mLを24時間閉塞パッチ適用したところ、皮膚刺激はなかった(Personal Care Products Council,2016)
- [ヒト試験] 23人の被検者に20%加水分解ケラチン(平均分子量11,000Da)水溶液0.03gを24時間閉塞パッチ(Finn Chamber)適用したところ、パッチ除去30~40分後に1人の被検者で軽度の紅斑が観察されたが、24時間後には紅斑はなくなっており、非刺激性だと結論づけられた(Personal Care Products Council,2016)
- [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養表皮モデル(EpiDerm)を用いて、角層表面に羊毛由来加水分解ケラチンを処理し反応を評価したところ、非刺激性であった(Active Concepts,2012)
- [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養表皮モデル(EpiDerm)を用いて、角層表面に羊毛由来加水分解ケラチン25,50,75,100または125μLを処理し反応を評価したところ、非刺激性であった(Active Concepts,2015)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激なしと報告されているため、皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2016)によると、
- [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養角膜モデルを用いて、モデル角膜表面に羊毛由来加水分解ケラチン25,50,75,100または125μLを処理し反応を評価したところ、最小限の刺激性であった(Active Concepts,2015)
- [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養角膜モデル(EpiOcular)を用いて、モデル角膜表面に羊毛由来加水分解ケラチンを処理し反応を評価したところ、非刺激性であった(Active Concepts,2012)
- [in vitro試験] 鶏卵の漿尿膜を用いて、1%,5%および10%加水分解ケラチン(分子量3000)を処理(HET-CAM法)し、反応を評価したところ、1%および5%濃度においては実質的に非刺激性、10%濃度においてはわずかな刺激性が予測された(Consumer Product Testing Co,2004)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、非刺激性または最小限の眼刺激性が報告されているため、眼刺激性はほとんどなし-最小限の眼刺激性が起こる可能性があると考えられます。
皮膚感作性(アレルギー性)について
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2016)によると、
- [ヒト試験] 51人の被検者に加水分解ケラチン(平均分子量3,000Da、濃度不明)を半閉塞パッチで繰り返し適用(HRIPT)したところ、皮膚刺激および皮膚感作性はなかった(Consumer Product Testing Co,2004)
- [ヒト試験] 頭皮皮膚炎25人を含む500人の患者に加水分解ケラチン0.1%をプリックテスト、5%を反復パッチテスト(HRIPT)したところ、プリックテストおよびパッチテストにおいて陽性反応はみられなかった(McFadden JP,2000)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
化粧品におけるケラチンは羊毛(ウール)由来のものが多く、通常十分に加水分解された(高分子を除去した)成分で皮膚感作を起こすことはほとんどないと報告されていますが、羊毛アレルギーの場合は念のため、パッチテストをして安全性を確認してからの使用を推奨します。
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加水分解ケラチンは保湿成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:保湿成分
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文献一覧:
- Cosmetic Ingredient Review(2016)「Safety Assessment of Keratin and Keratin-Derived Ingredients as Used in Cosmetics」Final Report.
- 朝田 康夫(2002)「角質層の防壁機能とは」美容皮膚科学事典,23-25.
- 内藤 幸雄, 他(1987)「毛髪へのケラチン加水分解物の吸着とその効果」日本化粧品技術者会誌(21)(2),146-155.
- 花王株式会社(2000)「毛髪用組成物」特開2000-219612.
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