乳酸Naとは…成分効果と毒性を解説

保湿
乳酸Na
[化粧品成分表示名称]
・乳酸Na

[医薬部外品表示名称]
・乳酸ナトリウム液

有機酸の一種である乳酸のナトリウム塩であり、分子量は112.06です(文献2:2020)

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア化粧品、シャンプー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、ボディ&ハンドケア製品、洗顔料&洗顔石鹸、シート&マスク製品、クレンジング製品、ボディソープ製品、メイクアップ化粧品など様々な製品に汎用されています。

水分量増加および柔軟持続性向上による保湿作用

水分量増加および柔軟持続性向上による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割および角質細胞における乳酸Naの役割について解説します。

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、

角質層の構造

角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、この構造が保持されることによって、外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています(文献3:1990;文献4:2002)

また、角質細胞中に存在し水分を保持する働きをもつ水溶性物質は、天然保湿因子(NMF:natural Moisturizing Factor)と呼ばれ、以下の表のように、

成分 含量(%)
アミノ酸類 40.0
ピロリドンカルボン酸(PCA) 12.0
乳酸 12.0
尿素 7.0
アンモニア、尿酸、グルコサミン、クレアチン 1.5
ナトリウム(Na⁺) 5.0
カリウム(K⁺) 4.0
カルシウム(Ca²⁺) 1.5
マグネシウム(Mg²⁺) 1.5
リン酸(PO₄³⁻) 0.5
塩化物(Cl⁻) 6.0
クエン酸 0.5
糖、有機酸、ペプチド、未確認物質 8.5

アミノ酸、有機酸、塩などの集合体として存在しています(文献5:1985)

有機酸の一種である乳酸は、単体では角質の柔軟化の役割を担っていますが(文献5:1985)、ナトリウム塩の形である乳酸Naとしては優れた吸湿性・保水性を示し、PCA-Naとともに天然保湿因子の吸湿作用の中心的役割を担っています(文献6:2002)

乳酸単体と乳酸Naの作用が異なる点については、塩(ナトリウム塩:NaCl)は柔軟持続性を有しており(文献5:1985)、塩化処理した場合に保湿剤同様の効果が発揮されるためであると考えられています。

乳酸Naは優れた保水性を有していますが、特徴的なのは、以下の表のように、

分類 保湿成分 結合水量(g)
有機酸塩 乳酸Na 2.5
アミノ酸 プロリン 2.4
アミノ酸代謝物 PCA-Na 2.1
多価アルコール グリセリン 1.9
糖アルコール ソルビトール 1.5

保湿剤の中でも多量の結合水(∗1)を保持する特性があり、温度や湿度の影響をほとんど受けず、高い吸湿性を示すことです(文献7:1993;文献8:2016)

∗1 結合水とは、たんぱく質分子や親液コロイド粒子などの成分物質と強く結合している水分です。純粋な水であれば0℃で凍るところ、角層中の水が-40℃まで冷却しても凍らないのは、角層内に存在する水のうち約33%が結合水であることに由来しています(文献9:1991)。

このような背景から、角質層の水分保持に乳酸Naが重要な役割を果たしていると考えられています。

1989年に慶応義塾大学理工学部と川研ファインケミカルの合同研究によって報告された吸湿性・保湿性試験によると、

ヒアルロン酸Na、PCA-Naおよび乳酸Naの吸湿性・保湿性を検討した。

相対湿度を43%または81%とした20℃の恒温室中にそれぞれの含水試料(乾燥した試料に乾燥重量の10%の水を添加したもの)0.5gを放置し、経時的に吸湿率(水分増加率)を測定したところ、以下のグラフのように、

相対湿度81℃における各保湿剤の吸湿性

相対湿度43℃における各保湿剤の吸湿性

乳酸Naは、どちらの湿度においても経時変化において顕著な吸湿性・保水性を示した。

乳酸NaおよびPCA-Naは低分子であり、高分子のヒアルロン酸Naに比べると即応性は高くないが、徐々に吸水が起こり、40時間後にはどちらもヒアルロン酸Na以上の吸湿性が認められた。

このような検証結果が明らかにされており(文献10:1989)、乳酸Naに水分量増加および柔軟持続性向上による保湿作用が認められています。

ただし、単独配合は理想的ではなく、他の保湿剤の機能との相乗効果を兼ねた組み合わせが重要とされており(文献5:1985)、天然保湿因子であることから、一般的に他の天然保湿因子や保湿剤と一緒に配合されます。

複合保湿原料としての乳酸Na

乳酸Naは、天然保湿因子を模した複合保湿原料があり、乳酸Naと以下の成分が併用されている場合は、複合保湿原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 PRODEW 300
構成成分 乳酸NaPCA-Naソルビトールプロリンメチルパラベンプロピルパラベン
特徴・主な用途 皮膚のNMFをモデルベースとし乳酸Na、PCA-Naとプロリンの相乗効果により優れた湿潤保湿能を有する保湿剤
原料名 PRODEW 500
構成成分 PCA-Na乳酸Naアルギニンアスパラギン酸、PCA、グリシンアラニンセリンバリンプロリントレオニンイソロイシンヒスチジンフェニルアラニン
特徴・主な用途 毛髪のNMFをモデル化した保湿剤
原料名 LACTIL
構成成分 乳酸NaPCA-Naグリシン、フルクトース、尿素ナイアシンアミド、イノシトール、安息香酸Na乳酸
特徴・主な用途 皮膚のNMFをモデル化した保湿剤
原料名 dermofeel quadegra
構成成分 、塩化ヒドロキシプロピルトリモニウムデンプン、尿素乳酸Na乳酸塩化Naグリセリン、レブリン酸
特徴・主な用途 天然で生分解性の毛髪および皮膚コンディショニング剤
原料名 IRAMOIST LGS
構成成分 乳酸NaPCA-Naグリセリン
特徴・主な用途 皮膚コンディショニング剤

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1995-1997年と2013年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

ちなみに表の中の製品タイプのリーブオン製品というのは付けっ放し製品という意味で、主にスキンケア化粧品やメイクアップ化粧品などを指し、リンスオフ製品というのは洗浄系製品を指します。

乳酸Naの配合製品数と配合量の調査結果(1995-1997年および2013年)

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乳酸Naの安全性(刺激性・アレルギー)について

乳酸Naの現時点での安全性は、

  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 1980年代からの使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし-最小
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献1:1998)によると、

  • [動物試験]ウサギを用いて60%乳酸Na水溶液0.2%を含むフェイスクリーム(pH不明)を適用したところ、一次刺激スコアは2時間および24時間で0.11と0.06で、無視できるほどの刺激であった(Avon Products Inc,1995)
  • [動物試験] ウサギを用いて60%乳酸Na水溶液0.2%を含むヘアコンディショナー(pH3.4)を適用したところ、一次刺激スコアは2時間および24時間で0.67と0.78で、最小の刺激であった(Avon Products Inc,1995)
  • [動物試験] ウサギを用いて60%乳酸Na水溶液0.4%を含むナイトクリーム(pH5.25)を適用したところ、一次刺激スコアは2時間および24時間で0.22と0.11で、無視できるほどの刺激であった(Avon Products Inc,1995)
  • [動物試験] ウサギを用いて60%乳酸Na水溶液を適用したところ、無視できるほどの刺激であった(Avon Products Inc,1995)
  • [動物試験] ウサギを用いて50%および70%乳酸Na水溶液を閉塞パッチ下で適用したところ、一次刺激スコアはそれぞれ0.00と0.17で、無視できるほどの刺激であった(Guillot et al,1982)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、大部分において共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献1:1998)によると、

  • [動物試験] ウサギを用いて50%および70%濃度の乳酸Naを適用し、適用1および24時間後、および2,3,4および7日後に眼刺激スコアを0-110のスケールで評価したところ、50%で11.67、70%で13.00であり、観察できる刺激はなかった(Guillot et al,1982)
  • [動物試験] ウサギを用いて0.2%乳酸Naを含むナイトクリーム(pH不明)を適用したところ、2日間で陽性反応および角膜混濁はみられず、最小の眼刺激であった(Avon Products Inc,1995)
  • [動物試験] ウサギを用いて0.2%乳酸Naを含むヘアコンディショナー(pH3.4)を適用し、7日間観察したところ、1日目で3匹に、2-4日目で1匹に刺激反応が観察され、7日目にはすべての刺激が消失した。この製品は軽度の眼刺激に分類された(Avon Products Inc,1995)
  • [動物試験] ウサギを用いて0.2%乳酸Naを含むヘアコンディショナー(pH3.455)を適用し、3日間観察したところ、1-2日目で1匹に刺激反応がみられたが3日目には反応は消失しており、この製品は最小の眼刺激剤に分類された(Avon Products Inc,1995)
  • [動物試験] ウサギを用いて0.2%乳酸Naを含むヘアコンディショナー(pH4.9)を適用したところ、24時間で反応はみられず、非刺激性であった(Avon Products Inc,1995)
  • [動物試験] ウサギを用いて0.2%乳酸Naを含むヘアコンディショナー(pH5.0)を適用したところ、24時間で反応はみられず、非刺激性であった(Avon Products Inc,1995)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、非刺激-最小の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-最小の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

皮膚感作性(アレルギー性)について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献1:1998)によると、

  • [ヒト試験] 101人の被検者に1%乳酸Naを含む完全に中和したクリーム20μLを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を閉塞パッチにて実施したところ、試験期間を通じて有害な臨床反応は観察されなかった(Stephens and Associates,1992)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

∗∗∗

乳酸Naは保湿成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:保湿成分

∗∗∗

文献一覧:

  1. Cosmetic Ingredient Review(1998)「Final Report On the Safety Assessment of Glycolic Acid, Ammonium, Calcium, Potassium, and Sodium Glycolates, Methyl, Ethyl, Propyl, and Butyl Glycolates, and Lactic Acid, Ammonium, Calcium, Potassium, Sodium, and Tea-Lactates, Methyl, Ethyl, Isopropyl, and Butyl Lactates, and Lauryl, Myristyl, and Cetyl Lactates」International Journal of Toxicology(17)(1_Suppl),1-241.
  2. “Pubchem”(2020)「Sodium lactate」, <https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Sodium-lactate> 2020年4月12日アクセス.
  3. 田村 健夫, 他(1990)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
  4. 朝田 康夫(2002)「角質層のメカニズム」美容皮膚科学事典,22-28.
  5. 尾沢 達也, 他(1985)「皮膚保湿における保湿剤の役割」皮膚(27)(2),276-288.
  6. 朝田 康夫(2002)「皮膚と水分の関係」美容皮膚科学事典,90-103.
  7. 井形 幸代, 他(1993)「湿潤剤の差別化 吸湿性試験を用いた方法」日本化粧品技術者会誌(27)(3),450-458.
  8. 日光ケミカルズ(2016)「肌荒れ防止剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,513.
  9. G Imokawa, et al(1991)「Stratum corneum lipids serve as a bound-water modulator.」Journal of Investigate Dermatology(96)(6),845-851.
  10. 松村 秀一, 他(1989)「キチン及びキトサン誘導体の合成と吸・保湿性」油化学(38)(6),492-500.

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