乳酸Naとは…成分効果と毒性を解説

保湿
乳酸Na
[化粧品成分表示名称]
・乳酸Na

[医薬部外品表示名称]
・乳酸ナトリウム液

角質層の保湿成分であるNMF(天然保湿因子)の約12%を占める乳酸のナトリウム塩です。

以下の角質層の構造図をみるとわかるように、天然保湿因子とは角質層に存在する角質の保水成分であり、

角質層の構造

また天然保湿因子の成分組成は、

成分 含量(%)
アミノ酸類 40.0
PCA(ピロリドンカルボン酸) 12.0
乳酸Na 12.0
尿素 7.0
アンモニア、尿酸、グルコサミン、クレアチン 1.5
ナトリウム 5.0
カリウム 4.0
カルシウム 1.5
マグネシウム 1.5
リン酸Na 0.5
塩化物 6.0
クエン酸Na 0.5
糖、有機酸、ペプチド、未確認物質 8.5

このように構成されています。

乳酸Naは、一般的には生体内では以下のように、

グルコース → ピルビン酸 → 乳酸 → 乳酸Na

グルコースに含まれる高い結合エネルギーをATPなど生物が使いやすい形のエネルギーに変換していくための解糖系という代謝過程において、グルコース(ブドウ糖)をピルビン酸などの有機酸に分解し、ピルビン酸が還元されて乳酸が産生され、その乳酸にナトリウム塩が結合することで乳酸Naになります(文献3:2013)

筋肉トレーニングなどで糖を消費すると乳酸が貯まるという記載を目にしたことがあるかもしれませんが、このメカニズムが生体における解糖系です。

ただし、皮膚角層における乳酸Naはこのメカニズムではなく、以下の図のように、

天然保湿因子の産生メカニズム

表皮顆粒層で産生されたフィラグリンがブレオマイシン水解酵素によって完全分解されることによって産生されることが報告されており、これはアミノ酸だけでなくPCAや乳酸Naなども含まれるとされています(文献4:2011)

乳酸と乳酸Naは性質がまったく異なっており、乳酸は酸性であることからピーリング作用を有しており、乳酸が塩化処理され乳酸Naに変換されることで、酸性が中和されてピーリング作用を失い、保水性が向上します。

乳酸Naに変換されると保水性が向上される理由は、塩(ナトリウム塩:NaCl)が柔軟持続性を有しており(文献4:1985)、塩化処理した場合に保湿剤同様の効果が発揮されるためであると考えられます。

また乳酸Naは高い吸湿性・保水性を有していますが、特徴的なのは、以下の表のように、

保湿成分 結合水量(g)
乳酸Na 2.5
プロリン 2.4
PCA-Na 2.1
グリセリン 1.9
ソルビトール 1.5

NMF成分を含む保湿剤の中でも多量の結合水(∗1)を保持する特性があり、温度や湿度の影響にほとんど関係なく水分を保持できることです(文献6:1993)

∗1 結合水とは、たんぱく質分子や親液コロイド粒子などの成分物質と強く結合している水分であり、純粋な水であれば0℃で凍るところ、角層中の水のうち33%は-40℃まで冷却しても凍らないのは、角層内に存在する水のうち約⅓が結合水であることに由来しています(文献7:1991)。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア化粧品、洗浄製品、ボディケア製品、洗顔料&洗顔石鹸、シート&マスク製品などに使用されます(文献1:2016;文献5:1989;文献6:1993)

水分量増加および柔軟持続性向上による保湿作用

水分量増加および柔軟持続性向上による保湿作用に関しては、1989年に慶応義塾大学理工学部と川研ファインケミカルの合同研究によって報告された吸湿性・保湿性試験によると、

ヒアルロン酸NaPCA-Naおよび乳酸Naの吸湿性・保湿性を検討した。

相対湿度を43%または81%とした20℃の恒温室中にそれぞれの含水試料(乾燥した試料に乾燥重量の10%の水を添加したもの)0.5gを放置し、経時的に吸湿率(水分増加率)を測定したところ、以下のグラフのように、

相対湿度81℃における各保湿剤の吸湿性

相対湿度43℃における各保湿剤の吸湿性

乳酸Naは、どちらの湿度においても経時変化において顕著な吸湿性・保水性を示した。

乳酸NaおよびPCA-Naは低分子であり、高分子のヒアルロン酸Naに比べると即応性は高くないが、徐々に吸水が起こり、40時間後にはどちらもヒアルロン酸Na以上の吸湿性が認められた。

このような検証結果が明らかにされており(文献5:1989)、乳酸Naに水分量増加および柔軟持続性向上による保湿作用が認められています。

ただし、単独での配合は効果は得られるものの理想的ではなく、他の保湿剤の機能との相乗効果を兼ねた組み合わせが重要とされており(文献4:1985)、天然保湿因子の構成成分であることから、他の天然保湿因子構成成分と一緒に配合されます。

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1995-1996年と2014年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

ちなみに表の中の製品タイプのリーブオン製品というのは付けっ放し製品という意味で、主にスキンケア化粧品やメイクアップ化粧品などを指し、リンスオフ製品というのは洗浄系製品を指します。

乳酸Naの配合製品数と配合量の調査結果(1995-1997年および2013年)

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乳酸Naの安全性(刺激性・アレルギー)について

乳酸Naの現時点での安全性は、

  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 10年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

これらの結果から、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献2:1998)によると、

  • [動物試験]ウサギを用いて60%乳酸Na水溶液0.2%を含むフェイスクリーム(pH不明)を適用したところ、一次刺激スコアは2時間および24時間で0.11と0.06で、無視できるほどの刺激であった(Avon Products, Inc.,1995a)
  • [動物試験] ウサギを用いて60%乳酸Na水溶液0.2%を含むヘアコンディショナー(pH3.4)を適用したところ、一次刺激スコアは2時間および24時間で0.67と0.78で、最小の刺激であった(Avon Products, Inc.,1995b)
  • [動物試験] ウサギを用いて60%乳酸Na水溶液0.4%を含むナイトクリーム(pH5.25)を適用したところ、一次刺激スコアは2時間および24時間で0.22と0.11で、無視できるほどの刺激であった(Avon Products, Inc.,1995c)
  • [動物試験] ウサギを用いて60%乳酸Na水溶液を適用したところ、無視できるほどの刺激であった(Avon Products, Inc.,1995d)
  • [動物試験] ウサギを用いて50%および70%乳酸Na水溶液を閉塞パッチ下で適用したところ、一次刺激スコアはそれぞれ0.00と0.17で、無視できるほどの刺激であった(Guillot et al.,1982)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、大部分において共通して皮膚刺激なしと報告されているため、皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献2:1998)によると、

  • [動物試験] ウサギを用いて50%および70%濃度の乳酸Naを適用し、1および24時間後、および2,3,4および7日後に評価したところ、眼刺激性スコア(最大110)は50%で11.67、70%で13.00であり、観察できる刺激はなかった(Guillot et al.,1982)
  • [動物試験] ウサギを用いて0.2%乳酸Naを含むナイトクリーム(pH不明)を適用したところ、2日間で陽性反応および角膜混濁はみられず、最小の眼刺激であった(Avon Products, Inc.,1995a)
  • [動物試験] ウサギを用いて0.2%乳酸Naを含むヘアコンディショナー(pH3.4)を適用し、7日間観察したところ、1日目で3匹に陽性反応がみられ、2~4日目で1匹、7日目にはすべてのウサギで反応はなく、軽度の眼刺激であった(Avon Products, Inc.,1995b)
  • [動物試験] ウサギを用いて0.2%乳酸Naを含むヘアコンディショナー(pH3.455)を適用し、3日間観察したところ、1~2日目で1匹に反応がみられたが3日目には反応は消失しており、最小の眼刺激であった(Avon Products, Inc.,1995c)
  • [動物試験] ウサギを用いて0.2%乳酸Naを含むヘアコンディショナー(pH4.9)を適用したところ、24時間で反応はみられず、非刺激性であった(Avon Products, Inc.,1995d)
  • [動物試験] ウサギを用いて0.2%乳酸Naを含むヘアコンディショナー(pH5.0)を適用したところ、24時間で反応はみられず、非刺激性であった(Avon Products, Inc.,1995e)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、一過性の最小の炎症や結膜炎の報告もみられますが、結論としては共通して眼刺激性なしと報告されているため、眼刺激性はほとんどないと考えられます。

皮膚感作性(アレルギー性)について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献2:1998)によると、

  • [ヒト試験] 101人の被検者の背中に誘導期間として1%乳酸Naを含む完全に中和したクリーム20μLを48時間週3回3週間にわたって反復パッチ試験(RIPT)として閉塞パッチ適用し、17~23日後に48時間チャレンジパッチを未処置部位に適用し、その部位を適用48および96時間後に評価したところ、有害または予期しない臨床反応は観察されなかった。クリームに対する反応は誘導期間に0~+0.5の範囲であり、チャレンジ期間には観察されなかった(Stephens and Associates, 1992)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

∗∗∗

乳酸Naは保湿成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:保湿成分

∗∗∗

文献一覧:

  1. 日光ケミカルズ(2016)「肌荒れ防止剤」パーソナルケアハンドブック,513.
  2. Cosmetic Ingredient Review(1998)「Final Report On the Safety Assessment of Glycolic Acid, Ammonium, Calcium, Potassium, and Sodium Glycolates, Methyl, Ethyl, Propyl, and Butyl Glycolates, and Lactic Acid, Ammonium, Calcium, Potassium, Sodium, and Tea-Lactates, Methyl, Ethyl, Isopropyl, and Butyl Lactates, and Lauryl, Myristyl, and Cetyl Lactates」International Journal of Toxicology(17)(1),1-241.
  3. 清水 孝雄(2013)「解糖とピルビン酸酸化」イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書29版,194-203.
  4. 尾沢 達也, 他(1985)「皮膚保湿における保湿剤の役割」皮膚(27)(2),276-288.
  5. 松村 秀一, 他(1989)「キチン及びキトサン誘導体の合成と吸・保湿性」油化学(38)(6),492-500.
  6. 井形 幸代, 他(1993)「湿潤剤の差別化 吸湿性試験を用いた方法」日本化粧品技術者会誌(27)(3),450-458.
  7. Imokawa G, et al(1991)「Stratum corneum lipids serve as a bound-water modulator.」Journal of Investigate Dermatology(96)(6),845-851.

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