ワイルドタイムエキスとは…成分効果と毒性を解説






・ワイルドタイムエキス
[医薬部外品表示名称]
・タイムエキス(1)
シソ科植物ワイルドタイム(学名:Thymus serpyllum 英名:Creeping thyme)の全草から水、エタノール、BG(1,3-ブチレングリコール)またはこれらの混合液で抽出して得られるエキスです。
ワイルドタイムエキスは天然成分であることから、国・地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
- 精油:チモール
- タンニン
- サポノサイド
などで構成されています(文献1:-)。
化粧品に配合される場合は、
- フィラグリン産生促進による保湿作用
- 収れん作用
- メラノソーム輸送抑制による色素沈着抑制作用
- 抗炎症作用
- 抗菌作用
これらの目的で、スキンケア化粧品、メイクアップ化粧品、ボディケア製品、ヘアケア製品、日焼け止め製品、洗顔料、シート&マスク製品、まつ毛美容液など幅広く様々な製品に使用されます(文献1:-;文献2:2018;文献3:2017)。
フィラグリン産生促進による保湿作用
フィラグリン産生促進による保湿作用とは、以下の肌図をみてもらえるとわかりやすいと思うのですが、
皮膚の角層における保湿成分として有名なアミノ酸であるNMF(天然保湿因子)は、同じく表皮顆粒層に存在しているケラトヒアリンが角質細胞に変化していく過程でフィラグリンと呼ばれるタンパク質になり、このフィラグリンが角層に近づくとともに分解されてアミノ酸(NMF)になります(文献6:2002)。
また、フィラグリンを構成しているアミノ酸のうち最も多いグルタミンは、保湿力の高いピロリドンカルボン酸となります。
ワイルドタイムエキスには、フィラグリンの産生を促進する作用およびフィラグリンmRNA(∗1)発現促進作用が明らかにされており(文献1:-)、フィラグリンの産生が増加することで角層のアミノ酸も増加され、結果的に水分量増加による保湿作用を有すると考えられます。
∗1 mRNAとは、メッセンジャー・リボ核酸(messenger RNA)の略で、酵素などのタンパク質を細胞の中で合成するためにDNAの遺伝情報の一部を写し取り、伝達する核酸の一種です。
収れん作用
収れん作用に関しては、ワイルドタイムにはタンニンが含まれており、タンニンにはタンパク質凝集(収縮・凝固)作用があることから、収れん作用が認められています(文献7:2007)。
メラノソーム輸送抑制による色素沈着抑制作用
メラノソーム輸送抑制による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識として黒化メラニンが合成される仕組みと合成された黒化メラニンが表皮ケラチノサイトに輸送される仕組みを解説しておきます。
以下のメラニン合成図をみてもらえるとわかりやすいと思うのですが、
紫外線を浴びるとまず最初に活性酸素が発生し、活性酸素の働きによって様々な遺伝子の発現を誘導するタンパク質(転写因子)であるNF-κB(エヌエフカッパビー)が活性化します。
活性化したNF-κBは、様々な情報伝達物質(メラノサイト活性化因子)をメラノサイトで発現するレセプター(受容体)に届けることでメラノサイト内でメラニンの生合成がはじまり、ユーメラニン(黒化メラニン)へと合成されます。
合成されたメラニン色素は、以下の図のように、
メラノソームという細胞小器官に貯蔵され、デンドライトというメラノサイトの触手を通り、表皮ケラチノサイトへ輸送されますが、デンドライトの先の表皮細胞へ向かってメラノソームを運んでいるのはキネシンと呼ばれるモータータンパク質で、キネシンによって運ばれたメラノソームが表皮細胞へと受け渡され、表皮を黒化することで色素沈着が形成されます。
ワイルドタイムエキスには、このメラノソームを表皮細胞に向かって運ぶタンパク質であるキネシンの発現を抑制する作用が明らかになっており、キネシンを抑制することでメラノソームはデンドライトの先端へ移動することができないため、表皮の黒化も抑制され、結果的に色素沈着も抑制されます。
2015年に一丸ファルコスによって報告されたワイルドタイムエキスのキネシン発現抑制作用検証によると、
ワイルドタイムエキスを添加し、色素細胞のキネシン発現量を調査したところ、以下のグラフのように、
濃度依存的にキネシンの発現が抑制されることが確認され、ワイルドタイムエキスの1%添加ではキネシンの発現は無添加と比べて10%まで抑制された。
ワイルドタイムエキスの0.5%を添加したメラノソームはメラノサイトの先端へと移動せず、中央部分に留まっていることが確認され、一方の無添加はメラノサイトの突起先端への移動が見られた。
また、ヒトモニター試験では、1%ワイルドタイムエキス配合ローションを塗布した部位は、無添加に対して試験前と比べ、有意なメラニンインデックスの低下とシミ個数の減少が確認され、ヒト皮膚における色素沈着を抑制する効果が認められた。
このような検証結果が明らかになっており(文献4:2015)、ワイルドタイムエキスにはメラニン輸送タンパク質であるキネシンの発現を抑制することによってメラニン産生を抑制し、色素沈着の淡色化および改善効果があると考えられます。
ただし、一般的に化粧品配合量は1%未満であるため、試験よりも穏やかな作用であると考えられます。
複合植物エキスとしてのワイルドタイムエキス
プランテージ<モイスト>という複合植物エキスは、以下の成分で構成されており、
- ワイルドタイムエキス
- オタネニンジン根エキス
- マヨラナ葉エキス
効果および配合目的は、
- 角層水分量上昇作用
- 角層のゴワつき改善
- 肌内部の保湿力増強
とされており、それぞれ保湿ポイントの違う植物エキスの相乗効果によって天然保湿因子(NMF)の元となるファラグリン産生促進、みずみずしく整った角層維持に大きな効果を果たす酵素であるカスパーゼ-14の発現向上およびヒアルロン酸産生促進で多角的に角層の潤いを増強維持するもので、化粧品成分一覧にこれらの成分が併用されている場合はプランテージ<モイスト>であると推測することができます(文献5:2016)。
ワイルドタイムエキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 10年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
これらの結果から、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
眼刺激性について
詳細な試験データはみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
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ワイルドタイムエキスは保湿成分、収れん成分、美白成分、抗炎症成分、抗菌成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
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文献一覧:
- 丸善製薬株式会社(-)「ワイルドタイム」技術資料.
- 一丸ファルコス株式会社(2018)「ファルコレックス ワイルドタイム B」技術資料.
- 一丸ファルコス株式会社(2017)「シンデレラケア」技術資料.
- 一丸ファルコス株式会社(2015)「これからの美白はメラニンの歩みをとめる -ワイルドタイムエキスの新たな美白アプローチにアジアから熱視線-」C&T(4),42-43.
- 丸善製薬株式会社(2016)「プランテージ<モイスト>」技術資料.
- 朝田 康夫(2002)「アミノ酸とは何か」美容皮膚科学事典,102-103.
- 小西 正敏, 他(2007)「皮膚収斂剤」特開2007-302620.
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