リシンHClとは…成分効果と毒性を解説

保湿 美白
リシンHCl
[化粧品成分表示名称]
・リシンHCl

[医薬部外品表示名称]
・塩酸リジン

[慣用名]
・L-リジン塩酸塩

塩基性アミノ酸(∗1)の一種であるリシン(L-Lysine)の塩酸塩であり、化学構造的に2つのアミノ基(-NH2)と1つのカルボキシル基(-COOH)をもつ分子量182.65の水溶性双性イオン化合物(アミノ酸)(∗2)です(文献2:2020)

∗1 一般にアミノ基(-NH2)とカルボキシル基(-COOH)の両方の官能基をもつ有機化合物をアミノ酸と呼び、分子中に存在するアミノ基とカルボキシル基の割合によって中性アミノ酸、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸に分類されます。リシンは塩基性を示すアミノ基(-NH2)と酸性を示すカルボキシル基をもつアミノ酸ですが、側鎖に塩基性の4-アミノブチル基をもつことから塩基性アミノ酸に分類されます。

∗2 双性イオン化合物とは、両性イオン化合物とも呼び、一つの分子内にプラス電荷とマイナス電荷の両方を持ち、全体としては中性イオンを示す化合物を指します。アミノ酸は酸性を示すカルボキシル基(-COOH)からプロトン(H⁺)を塩基性を示すアミノ基(-NH2)に受け取って分子内塩(イオン結晶に似た性質で水に溶けやすい)を形成する双性イオン化合物であり、リシンは電荷が全体として0となる(中性を示す)ときのpH(等電点)が9.74であることから(文献3:1994)、溶液のpHが9.74以下なら陽イオンに、9.74以上なら陰イオンとなります。

天然のリシン(L-Lysine)は、強い吸湿性を示し、また不快な臭いを有しており、分解する傾向があるため、一般的には純粋なリシンの形での結晶は使用されにくい傾向があり、通常は塩酸塩(HCl)の形にすることで、吸湿性を示さず、不快な臭いも有さず、分解の傾向がなく安定な結晶性の化合物として使用されます(文献4:2000)

また、リシンHCl(L-Lysine HCl)はリシンを安定化させた化合物ですが、天然のリシン(L-Lysine)と同一構造であることから(文献5:2012)、実質的に同様の作用・効果を有していると考えられます。

一般的な用途としては、医療分野においては水分や電解質などを点滴静注により投与するための輸液(点滴)に、食品分野においてアミノ酸バランスを改善した栄養強化食品などに、飼料分野においてはアミノ酸バランスを改善しタンパク効率を高めた畜産飼料・養鶏飼料などに汎用されています(文献6:1967)

化粧品に配合される場合は、

これらの目的でスキンケア化粧品、ボディケア製品、シート&マスク製品、アウトバストリートメント製品、シャンプー製品、ヘアトリートメント製品、ボディソープ製品、クレンジング製品、洗顔料など様々な製品に使用されています。

角質層水分量増加による保湿作用

角質層水分量増加による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割および角質細胞におけるアミノ酸の役割について解説します。

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、

角質層の構造

角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、この構造が保持されることによって、外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています(文献7:1990;文献8:2002)

また、角層に存在し水分を保持する働きをもつ水溶性物質は、天然保湿因子(NMF:natural Moisturizing Factor)と呼ばれており、以下の表のように、

成分 含量(%)
アミノ酸類 40.0
ピロリドンカルボン酸(PCA) 12.0
乳酸 12.0
尿素 7.0
アンモニア、尿酸、グルコサミン、クレアチン 1.5
ナトリウム(Na⁺) 5.0
カリウム(K⁺) 4.0
カルシウム(Ca²⁺) 1.5
マグネシウム(Mg²⁺) 1.5
リン酸(PO₄³⁻) 0.5
塩化物(Cl⁻) 6.0
クエン酸 0.5
糖、有機酸、ペプチド、未確認物質 8.5

アミノ酸、有機酸、塩などの集合体として存在していますが、天然保湿因子の約40%はアミノ酸類で構成されており(文献9:1985)、ピロリドンカルボン酸(PCA)や尿素などアミノ酸の代謝物を含めると約60%を占めることから、角層の水分保持にアミノ酸およびその関連物質が重要な役割を担っていると考えられています。

さらに、この天然保湿因子において約40%を占めるアミノ酸の組成は、以下の表のように、

アミノ酸の種類 含量(%)
プロリン 5.6
アスパラギン + アスパラギン酸 0.8
トレオニン 0.4
セリン 19.7
グルタミン + グルタミン酸 2.3
グリシン 14.7
アラニン 10.4
バリン 3.4
メチオニン 0.2
イソロイシン 0.5
ロイシン 1.5
チロシン 0.8
フェニルアラニン 0.7
リシン 1.1
ヒスチジン 1.4
アルギニン 10.3

16種類で構成されており(文献10:1983)、中でもセリン、グリシン、アラニンおよびアルギニンが大部分を占めています。

このような背景から、角質層の水分保持にアミノ酸が重要であると考えられています。

アミノ酸は天然保湿因子(NMF)の主要成分であることから皮膚の潤いを保つ目的でスキンケア化粧品に使用されていますが、一方で水溶性低分子の両性イオン化合物であり、一般的に電荷を有した物質は皮膚や生体膜を透過しにくく、その透過率は電荷を持たない物質と比較して1/1000といわれています(文献11:1984)

1996年に味の素とカリフォルニア大学医学部皮膚科によって報告されたアミノ酸のヒト皮膚での経皮吸収挙動の検証によると、

ヒト皮膚(角質層、表皮および真皮の一部を含む)上に1%濃度生理食塩水(pH7.4)となるように調製した5種類の水溶性アミノ酸(リシンHCl、グリシン、グルタミン酸Na、プロリンおよびトレオニン)溶液をのせ、2-4時間ごとに皮膚透過挙動を評価したところ、以下のグラフのように、

ヒト皮膚角質層に対するアミノ酸の透過性比較

いずれのアミノ酸も経皮吸収にタイムラグがみられ、またアミノ酸によって透過量が異なることがわかった。

次に、ヒト皮膚の角質層を擦って剥いだ肌荒れモデル上に同様のアミノ酸溶液をのせ、2-4時間ごとに皮膚透過挙動を評価したところ、以下のグラフのように、

ヒト擦過皮膚(荒れ肌モデル)に対するアミノ酸の透過性比較

いずれのアミノ酸も経皮吸収のラグタイムが短縮され、また蓄積量も増大した。

この試験結果から、角質層はアミノ酸の経皮吸収に対して最大のバリアとなっていることが明らかとなった。

このような検証結果が明らかにされており(文献12:1996)、リシンは健常皮膚においては経時的に穏やかな経皮吸収性が、バリア機能が低下した皮膚においては健常な皮膚と比較して優れた経皮吸収性が認められています。

健常な皮膚においては、角質層がバリアの役割を果たしているため、リシンは経皮吸収されにくく、また経皮吸収に時間がかかることから即時的な保湿効果はほとんどないと考えられますが、その一方でこの試験データは40時間ジワジワと少しずつ経皮吸収されることが明らかにされていることから、持続性のある穏やかな保湿剤として機能すると考えられます。

また、肌荒れや皮膚炎などを有するバリア機能が低下した皮膚においては、角質層を有した健常な皮膚と比較して格段に高い経皮吸収性を示したことから、優れた水分保持剤になり得ると考えられます。

アミノ酸が角質層に経皮吸収されにくいメカニズムは、アミノ酸がイオン性物質であることによる角質層の水和(∗3)が重要な要因であり(文献13:1993)、経皮吸収のラグタイムが長い理由は、アミノ酸と表皮との間の水素結合や静電気的相互作用によるものであると考えられています(文献14:1990)

∗3 水和(hydration)とは、ある化学種へ水分子が付加する現象であり、イオン性化合物や水素結合性化合物が水に溶解し、静電相互作用や水素結合することによって起こります。

角質層ケラチンのカルボニル化抑制による角質層透明度保持作用

角質層ケラチンのカルボニル化抑制による角質層透明度保持作用に関しては、まず前提知識として角層における透明感の定義および構造と角質層ケラチンのカルボニル化の関係について解説します。

肌の透明感とは、日本化粧品工業連合会の効能効果専門委員会によると、

 透明感とは視覚的な表現であり、皮膚がくもりなく透き通ったように見える状態をいう. 肌の透明感には角質層の光透過性が大きく影響している. 角質層の光透過性,すなわち入射光に対する透過光の比率が高いほど透明感が高いと考えられ,角質層の水分量や肌表面のきめの整い具合などの要素より左右される. 

このように定義されています(文献15:2000)

透明感において重要な要因は、

  • 角層水分量
  • キメの深さ
  • キメの間隔
  • メラニン量
  • ヘモグロビン量

これらの5つとされており、角層水分量およびキメの深さは正の寄与率を示し、キメの間隔、メラニン量およびヘモグロビン量は負の寄与率を示します(文献16:2010)

つまり、透明感の高い肌とは、角層水分量が多く、キメが深く、細かく、メラニン量およびヘモグロビン量が少ないことを意味しています。

また、日本化粧品工業連合会の定義案にあるように、透明感のある肌では入射光に対する透過光の比率が高いとした場合に、知覚的には皮膚内部から光が多く戻ってくる肌であると考えられます。

以下の皮膚における光の伝播に対する光学モデルをみてもらうとわかりやすいと思いますが、

皮膚における光の伝播に対する光学モデル

健常な皮膚に入射にした光は、

  • 表面反射光:約5%
  • 内部反射光(表皮散乱光および真皮散乱光):約55%
  • メラニンや血液中ヘモグロビンによる吸収:約40%

約5%が表面反射光として表面で反射され、残りの約95%が皮膚内に入り、そのうち、約40%は表皮領域に分布するメラニンや血液中のヘモグロビンなどで吸収され、残りの約55%は内部反射光として表皮や真皮で散乱されて戻ってきます(文献17:1981)

この光学モデルに基づき、肌の透明感は、光が皮膚の内部へ透過して皮膚内部から反射されて戻ってくる約55%の内部反射光に起因すると考えられており、皮膚内部反射率が大きいほど肌の透明度は高くなります。

一方で、皮膚内に入る光の量は角質層の状態に大きく依存し、角質細胞が変性(カルボニル化)して角質細胞の配列に乱れがある(キメが悪くなる)と、皮膚表面での散乱反射が増え、皮膚内に入る光の量が低下するため、肌の透明度が低下します。

角質細胞の変性は、紫外線などの外的要因などによって角質細胞がカルボニル化することで起きることが明らかになっており(文献18:2008)、角層のカルボニル化が透明感低下の一因であると考えられています。

カルボニル化については、以下の真皮タンパク質の変性メカニズムみてもらうとわかりやすいと思いますが、

真皮タンパク質の変性メカニズム

過酸化脂質の分解物であるアルデヒド類が、タンパク質に付加してタンパク質をカルボニル化し、カルボニル化によってタンパク質は本来の機能を失うのですが、このカルボニル化が角質層のケラチンでも起こっていることが明らかになっています(文献19:2001)

このような背景から、角質ケラチンのカルボニル化を抑制し、角質の配列を整えることは、皮膚内に入る光の量を増やすことにつながるため、肌の透明感向上において重要であると考えられます。

2008年に資生堂によって報告された角層カルボニル化に対するアミノ酸類の影響検証によると、

ex vivo試験においてヒト角層から採取した角層を実験的にカルボニル化処理し、様々なアミノ酸(50μmol/L)を共存させ、その抑制効果をカルボニル化レベルで評価したところ、以下のグラフのように、

各種アミノ酸添加による角層カルボニル化抑制効果

リシンを添加した場合に、顕著な角層カルボニル化抑制効果が認められた。

またin vivoヒト肌を次亜塩素酸処理し、角層のカルボニル化タンパク質を増加させると透明感は低下することがわかったが、次亜塩素酸処理後に1%L-リジンを添加した場合は、以下のグラフのように、

角層タンパク質カルボニル化におけるリシンのカルボニル化抑制効果

角層タンパク質カルボニル化におけるリシンの透明度低下抑制効果

角層タンパク質のカルボニル化および透明感低下ともに抑制効果を示した。

このような検証結果が明らかにされており(文献18:2008)、リシンに角質層ケラチンのカルボニル化抑制による角質層透明度保持作用が認められています。

複合アミノ酸原料としてのリシンHCl

リシンHClは、他のアミノ酸やアミノ酸関連物質とあらかじめ混合された複合原料があり、リシンHClと以下の成分が併用されている場合は、複合アミノ酸原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 P.P.A.A.-C
構成成分 タウリンリシンHClアラニンヒスチジンHClアルギニンセリンプロリングルタミン酸トレオニンバリンロイシングリシンアラントインイソロイシンフェニルアラニン
特徴・主な用途 プラセンタに含まれるアミノ酸組成を模して構成されたアミノ酸混合物

実際の配合製品の種類や配合濃度範囲は、海外の2012年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

リシンHClの配合製品数と配合量の調査(2012年)

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リシンHClの安全性(刺激性・アレルギー)について

リシンHClの現時点での安全性は、

  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 1980年代からの使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下にこの結論にいたった根拠を記載していますが、リシンHClはリシンと同じ化学構造であることからリシンの根拠を記載しています。

皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献1:2013)によると、

  • [ヒト試験] 104人の被検者に0.01%リシン、0.13%セリン、0.04%アラニン、0.15%アルギニン、0.01%グルタミン酸、0.05%ヒスチジンを含むフェイス&ネック製品を対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、この試験条件下においてこの製品は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Personal Care Products Council,2012)
  • [ヒト試験] 106人の被検者に0.65%リシンを含むフェイスハイライターを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、この試験条件下においてこの製品は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Product Investigations Inc,2010)
  • [ヒト試験] 213人の被検者に0.65%リシンを含むメイクアップ化粧品を対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、この試験条件下においてこの製品は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Clinical Research Laboratories Inc,2011)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、皮膚刺激および皮膚感作の報告がないため、皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

∗∗∗

リシンHClは保湿成分、美白成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:保湿成分 美白成分

∗∗∗

文献一覧:

  1. Cosmetic Ingredient Review(2013)「Safety Assessment of α-Amino Acids as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(32)(6_suppl),41S-64S.
  2. “Pubchem”(2020)「L-Lysine hydrochloride」, <https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/L-Lysine-hydrochloride> 2020年2月28日アクセス.
  3. 大木 道則, 他(1994)「リシン」化学辞典,1501.
  4. 味の素株式会社(2000)「安定化リジン水溶液」特開2000-256290.
  5. 鈴木 一成(2012)「塩酸リジン」化粧品成分用語事典2012,92-93.
  6. 日野 哲雄, 他(1967)「アミノ酸類の用途および製造の展望」有機合成化学協会誌(25)(4),349-354.
  7. 田村 健夫, 他(1990)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
  8. 朝田 康夫(2002)「角質層のメカニズム」美容皮膚科学事典,22-28.
  9. 尾沢 達也, 他(1985)「皮膚保湿における保湿剤の役割」皮膚(27)(2),276-288.
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