ユビキノンとは…成分効果と毒性を解説


・ユビキノン
[医薬部外品表示名称]
・ユビデカレノン
[慣用名]
・ユビキノン-10、コエンザイムQ10、CoQ10
一般的にコエンザイムQ10と呼ばれる、ミトコンドリア内膜に存在する電子伝達系内部の電子伝達体であり、油溶性(脂溶性)のベンゾキノン誘導体(補酵素)です。
医薬品成分であり、2004年に厚生労働省により化粧品への配合が認められています。
ミトコンドリアとは、以下の図のように、
主に細胞内でエネルギー伝達物質であるATP(adenosine tri-phosphate:アデノシン三リン酸)を産生する物質であり、このATPが筋肉の収縮、血液の循環、神経の刺激伝達、物質の吸収や排泄、生体成分の合成など多様な生活活動を支えています(文献6:2005)。
一方でユビキノンは、以下のミトコンドリアのメカニズム図のように、
ミトコンドリア内膜に存在しており、同じくミトコンドリア内膜に存在する複合体Ⅰから複合体Ⅲへ円滑に電子を送達する役割を担っています(文献1:2013)。
また、呼吸鎖複合体ではポンプのようにプロトン(H⁺)を膜間腔に排出し、プロトンをF型ATPアーゼに送達することでATPを産生しています。
ミトコンドリアのATP生成プロセスは十分な酸素の供給が不可欠であり、それによって1-2%の割合で活性酸素であるスーパーオキシド(O₂⁻)が生成されますが、ユビキノンはこのスーパーオキシド(O₂⁻)を消去する抗酸化の役割も担っています(文献2:1999)。
酸化還元反応において、ユビキノンは以下のように、
ユビキノン(酸化型CoQ10) → ユビセミキノン → ユビキノール(還元型CoQ10)
2電子還元を受けるとユビキノールに変換され、また2電子酸化を受けるとユビキノンに変換されるため、ユビキノンの抗酸化作用はユビキノールとして作用しており(文献3:1990)、ユビキノン(酸化型CoQ10)の塗布は生体内でユビキノール(還元型CoQ10)になり、抗酸化作用を発揮します(文献7:2006)。
つまり、ユビキノンの代表的な役割は、
- ミトコンドリア内膜における電子送達によるATP産生促進
- スーパーオキシド(O₂⁻)消去能による抗酸化
この2つになります。
ユビキノンは光に対して不安定であるため、マイクロエマルションやリポソームなどのカプセル化技術を用いて内包し、安定性を高めた上で処方されるのが一般的です。
またユビキノンは分子量が800g/molであり、そのままでは角層以下に浸透しないため、表皮以下に浸透させて効果を発揮させる目的の場合はナノ化したユビキノンが用いられ、安定化と合わせて設計するとナノマイクロエマルションまたはナノリポソームの形で配合されると考えられます(∗1)。
∗1 一般的に、通常のユビキノン(分子量が800g/mol)のエマルション化またはリポソーム化では角層以下にはほとんど浸透しないと考えられます。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア化粧品、ボディケア製品、日焼け止め製品、シート&マスク製品、ヘアケア製品、洗浄製品などに使用されています。
角層水分量増加および経表皮水分蒸散抑制による保湿作用
角層水分量増加および経表皮水分蒸散抑制による保湿作用に関しては、2005年に資生堂によって報告されたユビキノンの角層への保湿効果検証によると、
∗2 コンダクタンスとは、皮膚に電気を流した場合の抵抗を表し、水分量が多いと電気が流れやすくなるため、コンダクタンスが高値になります。
ユビキノン配合クリームは、無塗布群と比較して有意な差が認められ、ユビキノンの保湿効果が確認された。
経表皮水分蒸散量の測定結果については、ユビキノン配合クリーム塗布群は、無塗布群と比較して有意な差は認められなかったものの、良好な保護効果を有することが判明した。
このような検証結果が明らかにされており(文献5:2005)、ユビキノンに角層水分量増加による保湿作用が認められています。
また2011年に日本精化によって報告されたユビキノンの角層への保湿効果検証によると、
0.03%ユビキノン含有リポソーム配合化粧水は、無塗布と比較して角層水分量および角層水分蒸散量のどちらにおいても有意な差が示された。
このような検証結果が明らかにされており(文献8:2011)、ユビキノンに角層水分量増加および経表皮水分蒸散抑制による保湿作用が認められています。
ユビキノンの保湿メカニズムに関しては、ユビキノンは分子量800g/molであり、分子量500以下でない場合はほとんど角質層以下に浸透しないため、ナノ化ユビキノンでない場合は角質層における保湿作用です。
ただし、角質細胞は死細胞であり、ミトコンドリアは存在せず(文献9:2007)、角質層においてユビキノンはミトコンドリアに関与することはないため、角質層における保湿作用メカニズムは不明です。
そのため、ユビキノンの保湿メカニズムはわかり次第追補します。
効果・作用についての補足
すでに解説したように、ユビキノンはミトコンドリア内膜における電子送達によるATP産生促進およびスーパーオキシド(O₂⁻)消去能による抗酸化などの働きがあります。
また、in vitro試験においては、活性酸素処理した角化細胞のグルタチオン量減少の抑制、培養ヒト角化細胞のUVA照射によるDNA損傷の抑制および培養ヒト線維芽細胞のUVA照射によるコラゲナーゼ活性の抑制などの抗老化作用・抗酸化作用が認められています(文献10:1999)。
ただし、ユビキノンは分子量が皮膚より大きいため角層より深部に浸透しにくく、様々な浸透促進剤との併用やカプセル化技術が用いられていますが、基本的には角層までの浸透であるため、ヒト皮膚においてこれらの塗布による有意な抗老化・抗酸化作用は認められないと考えられます。
加えて、国内においてユビキノンの化粧品配合上限濃度は0.03%であり、また0.03%以下濃度におけるヒト皮膚での抗老化・抗酸化における有用性試験がみつからない(存在しないあるいは探しきれていない)ことから、現時点では抗老化・抗酸化作用に関する記載は保留とし、確度の高い情報がみつかり次第追補します。
ユビキノンは医薬品成分であり、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。
種類 | 最大配合量(g/100g) |
---|---|
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの | 0.03 |
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの | 0.03 |
粘膜に使用されることがある化粧品 | 配合不可 |
ユビキノンの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 10年以上の使用実績
- 生体内に存在する成分
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
試験・安全性データはみあたりませんが、医薬品成分であり、厚生労働省によって化粧品配合上限が定められており、また10年以上の使用実績の中で皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)の重大な報告がないことから、一般的に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
∗∗∗
ユビキノンは保湿成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:保湿成分
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文献一覧:
- 三谷 芙美子(2013)「呼吸鎖と酸化的リン酸化」イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書29版,137-149.
- 今田 伊助, 他(1999)「生体における活性酸素・フリーラジカルの産生と消去」化学と生物(37)(6),411-419.
- R Beyer, et al(1990)「The participation of coenzyme Q in free radical production and antioxidation.」Free Radical Biology & Medicine(8)(6),545-565.
- 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
- 渡部 一夫(2005)「美容成分としてのコエンザイムQ10」Fragrance Journal(33)(8),46-51.
- 紀氏 健雄(2005)「生化学からみたCoenzyme Qの作用メカニズム」Fragrance Journal(33)(8),21-27.
- 川崎 大輔, 他(2006)「白金ナノコロイド,コエンザイムQ10およびビタミンEの併用による抗酸化作用の増強」Fragrance Journal(34)(11),90-94.
- 日本精化株式会社(2011)技術資料.
- 北島 康雄(2007)「皮膚バリア機能とその制御」Drug Delivery System(22)(4),424-432.
- U Hoppe, et al(1999)「Coenzyme Q10, a cutaneous antioxidant and energizer.」Bio Factors(9)(2-4),371-378.
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