モモ種子エキスとは…成分効果と毒性を解説

保湿
モモ種子エキス
[化粧品成分表示名称]
・モモ種子エキス

[医薬部外品表示名称]
・トウニンエキス

バラ科植物モモ(学名:Prunus persica 英名:Peach)の種子からエタノールBGで抽出して得られる抽出物植物エキスです。

モモ(桃)は中国(四川省、山東省、雲南省などを原産とし、日本においては弥生時代の遺跡からモモの種子が発見された記録や、平安時代に花の観賞用として栽培、果樹としては江戸時代から用いられるなど古くから伝えられています(文献1:2011;文献2:2013)

今日のような栽培品種は明治以後に導入されたものですが、果物用の水蜜種(白桃や黄桃などは種子が小さく、薬用のトウニン(桃仁)としては適さないと報告されています(文献1:2011)

モモ種子エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、

分類 成分名称
青酸配糖体 アミグダリン
酵素 エムルシン(β-グルコシダーゼ)

これらの成分で構成されていることが報告されています(文献2:2013;文献3:2017)

モモの種子(生薬名:桃仁)の化粧品以外の主な用途としては、漢方分野において水可溶性成分であるRbタンパク質に強力な浮腫抑制作用およびSOD様活性酸素除去作用が認められていることから(文献4:1982;文献5:1985;文献6:1985)、血液の停滞部を改善しめぐりをよくする消炎性駆瘀血薬(∗1)として用いられています。

∗1 瘀血(おけつ)とは、血行障害もしくは婦人科系の代謝不全により体内に非生理的血液が残り、それによって起きる様々な症状(月経不順、冷え、のぼせ、こり、痛みなど)や疾病を指します(文献7:1982;文献8:2016)。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア化粧品、ボディケア製品、クレンジング製品、洗顔料、メイクアップ化粧品、シート&マスク製品などに使用されています。

フィラグリン産生促進による保湿作用

フィラグリン産生促進による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割およびフィラグリンについて解説します。

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、

角質層の構造

角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、この構造が保持されることによって、外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています(文献9:1990;文献10:2002)

また、角層に存在し水分を保持する働きをもつ水溶性物質は、天然保湿因子(NMF:natural Moisturizing Factor)と呼ばれ、以下の表のように、

成分 含量(%)
アミノ酸類 40.0
ピロリドンカルボン酸(PCA) 12.0
乳酸 12.0
尿素 7.0
アンモニア、尿酸、グルコサミン、クレアチン 1.5
ナトリウム(Na⁺) 5.0
カリウム(K⁺) 4.0
カルシウム(Ca²⁺) 1.5
マグネシウム(Mg²⁺) 1.5
リン酸(PO₄³⁻) 0.5
塩化物(Cl⁻) 6.0
クエン酸 0.5
糖、有機酸、ペプチド、未確認物質 8.5

アミノ酸、有機酸、塩などの集合体として存在しており(文献11:1985)、これらのアミノ酸およびその代謝物は、以下の図のように、

天然保湿因子の産生メカニズム

表皮顆粒層に存在しているケラトヒアリン(∗2)が角質細胞に変化していく過程でフィラグリンと呼ばれるタンパク質となり、このフィラグリンがブレオマイシン水解酵素によって完全分解されることで産生されることが報告されています(文献12:1983;文献13:2002)

∗2 ケラトヒアリンの主要な構成成分は、分子量300-1,000kDaの巨大な不溶性タンパク質であるプロフィラグリンであり、プロフィラグリンは終末角化の際にフィラグリンに分解されます。

一方で、老人性乾皮症やアトピー性皮膚炎においては、角質細胞中のアミノ酸類が顕著に低下していることが報告されており(文献14:1989;文献15:1991)、また乾皮症発症部位ではフィラグリンの発現が低下していることが報告されていることから(文献16:1994)、キメの乱れがみられる部位では天然保湿因子の減少により角質層の乾燥が引き起こされている可能性が考えられており、フィラグリン産生を促進することは、角質層の天然保湿因子生成の促進し、結果的にキメの乱れの改善につながると考えられています。

このような背景から、フィラグリンの産生を促進することは角質層の水分保持、ひいては皮膚の健常性の維持において重要であると考えられます。

2006年に日本メナード化粧品によって報告されたモモ種子エキスのフィラグリンおよびヒト皮膚への影響検証によると、

in vitro試験においてマウス表皮角化細胞由来Pam212細胞を培養しコンフルエントな状態になった培地に0.01mg/mL濃度のモモ種子エキス(30%エタノール抽出)を添加し、培養後に総プロフィラグリン発現量を測定しモモ種子エキス未添加の場合の総プロフィラグリン発現量に対する割合をNMF産生率(%)として算出したところ、以下のグラフのように、

モモ種子エキスのNMF産生促進作用

モモ種子エキスは、優れたNMF産生促進作用(フィラグリン産生促進作用)を有することが確認された。

次に、肌の乾燥やかゆみに悩む60人の女性被検者(30-45歳)のうち30人に0.5%モモ種子エキス配合クリームを2ヶ月間連用し、対照として別の30人にモモ種子エキス未配合クリームを同様に用いた。

評価方法として「優:肌の乾燥が改善された」「良:肌の乾燥がやや改善された」「可:肌の乾燥がわずかに改善された」「不可:使用前と変化なし」の基準で2ヶ月後に評価したところ、以下の表のように、

試料 被検者数 不可
モモ種子エキス配合クリーム 30 13 13 3 1
クリームのみ(対照) 30 0 2 7 21

0.5%モモ種子エキス配合クリーム塗布グループは、未配合クリーム塗布グループと比較して優れた肌の乾燥改善効果を示した。

このような試験結果が明らかにされており(文献17:2006)、モモ種子エキスにフィラグリン産生促進による保湿作用が認められています。

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モモ種子エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

モモ種子エキスの現時点での安全性は、

  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 10年以上の使用実績
  • 皮膚一次刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚累積刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

一丸ファルコスの安全性試験データ(文献18:2003)によると、

  • [動物試験] 3匹のウサギの除毛した背部に0.5%濃度に調整したモモ種子エキス水溶液を24時間適用し、draize法に基づいて適用24,48および72時間後に紅斑および浮腫を指標として一次刺激性を評価したところ、いずれのウサギも紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚一次刺激性に関して問題がないものと判断された
  • [動物試験] 3匹のモルモットの除毛した背部に0.5%濃度に調整したモモ種子エキス水溶液を1日1回週5回、2週にわたって塗布し、draize法に基づいて各塗布日および最終塗布日の翌日に紅斑および浮腫を指標として皮膚刺激性を評価したところ、いずれのモルモットも2週間にわたって紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚累積刺激性に関して問題がないものと判断された

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

皮膚感作性(アレルギー性)について

医薬部外品原料規格2006に収載されており、10年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

∗∗∗

モモ種子エキスは保湿成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:保湿成分

∗∗∗

文献一覧:

  1. 鈴木 洋(2011)「桃仁(とうにん)」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,342.
  2. 御影 雅幸(2013)「トウニン」伝統医薬学・生薬学,181-182.
  3. 原島 広至(2017)「トウニン(桃仁)」生薬単 改訂第3版,244-245.
  4. 高木 敬次郎, 他(1982)「桃仁(とうにん)」和漢薬物学,297-299.
  5. 有地 滋(1985)「桃仁の研究(第2報)桃仁の水抽出成分の薬理作用」YAKUGAKU ZASSHI(105)(9),886-894.
  6. 有地 滋(1985)「桃仁の研究(第3報)桃仁の抗炎症性蛋白成分PR-Bの抗活性酸素作用」YAKUGAKU ZASSHI(105)(9),895-901.
  7. 高木 敬次郎, 他(1982)「漢方の基礎理論」和漢薬物学,39-41.
  8. 根本 幸夫(2016)「気血水論」漢方294処方生薬解説 その基礎から運用まで,258-262.
  9. 田村 健夫, 他(1990)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
  10. 朝田 康夫(2002)「角質層のメカニズム」美容皮膚科学事典,22-28.
  11. 尾沢 達也, 他(1985)「皮膚保湿における保湿剤の役割」皮膚(27)(2),276-288.
  12. I Horii, et al(1983)「Histidine-rich protein as a possible origin of free amino acids of stratum corneum」Normal and Abnormal Epidermal Differentiation: Current Problems in Dermatology(11),301-315.
  13. 朝田 康夫(2002)「皮膚と水分の関係」美容皮膚科学事典,90-103.
  14. I Horii, et al(1989)「Stratum corneum hydration and amino acid content in xerotic skin」British Journal of Dermatology(121)(5),587-592.
  15. M Watanabe, et al(1991)「Functional analyses of the superficial stratum corneum in atopic xerosis」Archives of Dermatology(127)(11),1689-1692.
  16. Tezuka T, et al(1994)「Terminal differentiation of facial epidermis of the aged: immunohistochemical studies.」Dermatology(188)(1),21-24.
  17. 日本メナード化粧品株式会社(2006)「NMF産生促進剤」特開2006-124350.
  18. 一丸ファルコス株式会社(2003)「化粧料組成物」特開2003-104835.

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