マルチトールとは…成分効果と毒性を解説



・マルチトール
[医薬部外品表示名称]
・マルチトール、マルチトール液
化学構造的に単糖の一種であるグルコースと糖アルコールかつ多価アルコールの一種であるソルビトールがグリコシド結合した糖アルコール(二糖類アルコール)であり、工業的にグルコースが2個グリコシド結合したマルトースのカルボニル基に水素添加(接触還元)して得られる水溶性の多価アルコール(∗1)です。
∗1 多価アルコールとは、2個以上のヒドロキシ基(水酸基:-OH)をもつアルコールを指し、水酸基の影響で非常に高い吸湿性と保水性をもっているため化粧品に最も汎用されている保湿剤です。名称に「アルコール」がついているので勘違いしやすいですが、一般的なアルコール(エタノール)は1個の水酸基をもつ一価アルコールで、多価アルコールと一価アルコール(エタノール)は別の物質です。
糖アルコールの甘味度およびエネルギー(kal/g)については、以下の表のように、
糖アルコール | 砂糖を100としたときの甘味度 | エネルギー換算係数(kal/g) |
---|---|---|
エリスリトール | 80 | 0 |
キシリトール | 100 | 3 |
ソルビトール | 60 | 3 |
マンニトール | 40 | 2 |
マルチトール | 75 | 2 |
ラクチトール | 30 | 2 |
パラチニット | 50 | 2 |
このように報告されており(文献2:1998)、マルチトールはまろやかな甘味を有しています。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア化粧品、洗顔料&洗顔石鹸、ボディ&ハンドケア製品、洗浄製品、ヘアケア製品、シート&マスク製品などに使用されています(文献1:2008)。
角質層柔軟化による保湿作用
角質層柔軟化による保湿作用に関しては、糖アルコールは化学構造的にヒドロキシ基(水酸基)をもつため、糖アルコールの中でもソルビトールほどではありませんが吸湿性および保湿性に優れています(文献2:1998;文献3:1972)。
また、ソルビトールは湿度の変化が水分の吸収・放出に影響を与えますが、マルチトールは湿度の変化に影響されることが少なく、たとえば一定の水分を保持した上で乾燥したところに放置しても水分はあまり蒸発せず、一方で湿度が高いところに放置しても水分を吸収しにくく、水分をほぼ一定に保つことができる優れた湿潤剤・保湿剤であり、スキンケア化粧品をはじめとする様々な製品に使用されています(文献4:2012;文献5:2007)。
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2006-2007年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
マルチトールの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 10年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性:ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
- [ヒト試験] 54人の被検者に69.09%マルチトールを対象に24時間閉塞パッチ適用し、24時間後に皮膚刺激反応を評価したところ、いずれの被検者も皮膚反応は観察されなかった(Shiseido Research Center,2008)
- [ヒト試験] 51人の被検者に64.5%マルチトールを対象に24時間閉塞パッチ適用し、24時間後に皮膚刺激反応を評価したところ、いずれの被検者も皮膚反応は観察されなかった(Shiseido Research Center,2008)
- [ヒト試験] 55人の被検者に53.2%マルチトールを対象に24時間閉塞パッチ適用し、24時間後に皮膚刺激反応を評価したところ、いずれの被検者も皮膚反応は観察されなかった(Shiseido Research Center,2008)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚刺激性なしと報告されているため、皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
- [動物試験] 3匹のウサギの片眼に69.09%マルチトールを点眼し、Draize法に基づいて眼刺激性を評価したところ、この試験条件下において試験物質は非刺激性であった(Shiseido Research Center,2008)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、眼刺激性なしと報告されているため、眼刺激性はほとんどないと考えられます。
皮膚感作性(アレルギー性)について
医薬部外品原料規格2006に収載されており、食品として長い使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
∗∗∗
マルチトールは保湿成分、ベース成分にカテゴライズされています。
それぞれの成分一覧は以下からお読みください。
∗∗∗
文献一覧:
- Cosmetic Ingredient Review(2008)「Final Report on the Safety Assessment of Maltitol and Maltitol Laurate」Final Report.
- 田中 潔, 他(1998)「糖アルコールの機能と応用」Fragrance Journal(26)(7),33-38.
- 小田 恒郎, 他(1972)「マルチトールの構造と利用」澱粉科学(19)(3),139-150.
- 鈴木 一成(2012)「マルチトール液」化粧品成分用語事典2012,86.
- 霜川 忠正(2007)「マルチトール」化粧品有効成分ハンドブック,62-64.
スポンサーリンク