マドンナリリー根エキスとは…成分効果と毒性を解説

保湿 抗酸化成分
マドンナリリー根エキス
[化粧品成分表示名称]
・マドンナリリー根エキス

[医薬部外品表示名称]
・ユリエキス

ユリ科植物マドンナリリー(学名:Lilium Candidum 和名:ニワシロユリ)の球根からエタノールBG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物植物エキスです。

マドンナリリー(madonna lily)は、バルカン半島および中東を原産とし、鑑賞用だけでなく火傷や炎症などの皮膚疾患を緩和するために原産地ほかヨーロッパ各地、北アフリカ、メキシコなどで古くから民間療法として利用されてきた歴史があり、現在においてもバルカン半島や中東に自生するほか観賞植物としてヨーロッパ、北アフリカ、メキシコなどで栽培されています(文献1:2020;文献2:1999)

日本には江戸時代中期に渡来したと考えられていますが、日本ではマドンナリリーに類似の花を咲かせる近縁種のテッポウユリ(学名:Lilium longiflorum)をはじめ多くの美しいユリが自生し親しまれていたこともあり、マドンナリリーの栽培が普及することなく現在に至っています(文献3:2015)

マドンナリリー根エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、

分類 成分名称
糖質 多糖 グルコマンナン、デンプン
テルペノイド ステロイドサポニン フロスタン型サポニン、スピロスタン型サポニン

これらの成分で構成されていることが報告されています(文献4:2007;文献5:1998;文献6:1999)

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ化粧品、シート&マスク製品、洗顔料、クレンジング製品、ボディソープ製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、頭皮ケア製品など様々な製品に汎用されています

皮表柔軟化による保湿作用

皮表柔軟化による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割について解説します。

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように

角質層の構造

天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、この構造が保持されることによって、外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています(文献7:2002;文献8:2001)

一方で、老人性乾皮症やアトピー性皮膚炎においては、角質細胞中のアミノ酸などの天然保湿因子が顕著に低下していることが報告されています(文献9:1989;文献10:1991)

このような背景から、皮表を柔軟化することは肌の乾燥の改善ひいては皮膚の健常性の維持につながると考えられています。

マドンナリリー根エキスは、デンプンやグルコマンナンなどの多糖類を含むことから(文献4:2007)、皮膚を柔軟化する保湿作用を有しています(文献11:2012;文献12:2014)<

このような背景から、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ化粧品、シート&マスク製品、洗顔料、クレンジング製品、ボディソープ製品、シャンプー製品、コンディショナー製品などに使用されています。

グルタチオンレダクターゼ発現増強による抗酸化作用

グルタチオンレダクターゼ発現増強による抗酸化作用に関しては、まず前提知識として活性酸素種生成メカニズム、細胞内におけるグルタチオンの役割およびグルタチオンレダクターゼについて解説します。

活性酸素種(ROS:Reactive Oxygen Species)とは、酸素(O₂)が他の物質と反応しやすい状態に変化した反応性の高い酸素種の総称であり(文献13:2002;文献14:2019)、酸素から産生される活性酸素種の発生メカニズムは、以下のように、

酸素から産生される活性酸素発生メカニズム

酸化力を有する酸素(O₂)が、比較的容易に電子を受けてスーパーオキシド(superoxide:O₂⁻)を生成し、さらに酸化が進むと過酸化水素(H₂O₂)、ヒドロキシルラジカル(HO)を経て、最終的に水(H₂O)になるというものです(文献15:2019)

この一連の反応を酸化還元反応と呼んでおり、正常な酸化還元反応において発生したスーパーオキシド(superoxide:O₂⁻)は少量であり、通常は抗酸化酵素の一種であるスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)により速やかに分解・消去されます(文献15:2019)

一方で、紫外線の曝露など(∗1)によりスーパーオキシド(superoxide:O₂⁻)を含む活性酸素種の過剰な産生が知られており(文献16:1998)、過剰に産生されたスーパーオキシドはスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)による分解・消去が追いつかず、以下の抗酸化メカニズムをみてもらうとわかるように、

∗1 皮膚において活性酸素種が発生する最大の要因は紫外線ですが、他にも排気ガスなどの環境汚染物質、タバコの副流煙などの有害化学物質なども外的要因となります。

酸素から発生する活性酸素種の抗酸化メカニズム

過酸化水素に変化した場合は、過酸化水素分解酵素であるカタラーゼ(catalase)、グルタチオンの存在下でグルタチオンペルオキシダーゼ(glutathione peroxidase)およびチオレドキシンの存在下でペルオキシレドキシン(peroxiredoxin)により水(H₂O)に分解されますが、紫外線の曝露時間やスーパーオキシドの発生量によっては過酸化水素を経てヒドロキシルラジカル(HO)まで変化することが知られています(文献17:1996;文献18:2019)

発生したヒドロキシルラジカル(HO)は、酸化ストレス障害として過酸化脂質の発生、コラーゲン分解酵素であるMMP(Matrix metalloproteinase:マトリックスメタロプロテアーゼ)の発現増加によるコラーゲン減少、DNA障害や細胞死などを引き起こし、中長期的にこれらの酸化ストレス障害を繰り返すことで光老化を促進します(文献15:2019;文献19:1996)

次に、グルタチオン(還元型グルタチオン)は紫外線などの酸化ストレスによって誘導され、グルタチオンペルオキシダーゼと共に過酸化水素(H₂O₂)を分解する抗酸化物質であり、自らの活性部位を還元することで酸化型グルタチオンに変化しますが、グルタチオンレダクターゼ(GSHレダクターゼ)とNADPH(nicotinamide adenine dinucleotide phosphate:還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)により還元型グルタチオンに再還元され、細胞の抗酸化機構を調整する役割を担っています(文献18:2019)

このような背景から、紫外線の曝露時および曝露後に活性酸素種の産生を抑制することは、皮膚の酸化ストレス障害を抑制し、ひいては光老化、炎症および色素沈着などの抑制において非常に重要であると考えられます。

2006年に日本メナード化粧品によって報告されたマドンナリリー根エキスのグルタチオンレダクターゼおよびヒト皮膚への影響検証によると、

in vitro試験においてヒト表皮角化細胞を播種した培地に1μg/mL濃度の各植物エキスを添加し培養・処理した上澄液に酸化型グルタチオンおよびNADPHを加え、340nmの吸光度の時間変化を測定し試料未添加の細胞のグルタチオンレダクターゼ活性を100としたときの試料溶液のグルタチオンレダクターゼ活性を算出したところ、以下のグラフのように、

マドンナリリー根エキスの細胞内グルタチオンレダクターゼ活性化効果

マドンナリリー根エキス(30%エタノール抽出)は、細胞内グルタチオンレダクターゼの活性化効果を示した。

次に、各植物エキスの細胞内還元型グルタチオンの増加作用を検討するために、in vitro試験においてヒト表皮角化細胞を播種した培地に1μg/mL濃度の各植物エキスを添加し培養・処理した上澄液にグルタチオンレダクターゼとNADPHを加え反応させた後、総グルタチオン量と酸化型グルタチオン量から還元型グルタチオン量を算出した。

試料未添加の還元型グルタチオン(GSH)/酸化型グルタチオン(GSSG)比を100としたときの試料添加のGSH/GSSG比の値を細胞内還元型グルタチオン比として算出したところ、以下のグラフのように、

マドンナリリー根エキスの細胞内還元型グルタチオン比の増加作用

マドンナリリー根エキス(30%エタノール抽出)は、細胞内還元型グルタチオンの増加を示し、細胞の還元型グルタチオン割合を増加させる作用が認められた。

次に、シワやシミに悩む60人の女性被検者(20-45歳)のうち30人に0.5%マドンナリリー根エキス(30%エタノール抽出)配合クリームを、別の30人に対照として未配合クリームをそれぞれ6ヶ月間にわたって使用してもらい、使用終了後に「有効:シワまたはシミが改善した」「やや有効:シワまたはシミがやや改善した」「無効:使用前と変化なし」の3段階で評価してもらったところ、以下の表のように、

試料 被検者数 シワに対する評価
有効 やや有効 無効
マドンナリリー根エキス配合クリーム 30 13 16 1
クリームのみ(対照) 30 0 9 21
試料 被検者数 シミに対する評価
有効 やや有効 無効
マドンナリリー根エキス配合クリーム 30 11 17 2
クリームのみ(対照) 30 0 11 19

0.5%マドンナリリー根エキス配合クリームの塗布により、シワおよびシミにおいて改善効果を確認した。

このような試験結果が明らかにされており(文献20:2006)、マドンナリリー根エキスにグルタチオンレダクターゼ発現増強による抗酸化作用が認められています。

ヒト試験はシワまたはシミを改善の指標としていますが、シワとシミは紫外線の曝露が主な原因であり、紫外線の曝露によってシワやシミが形成されるメカニズムはいずれも活性酸素種の発現増加を起点とするため、シワおよびシミの改善効果は抗酸化作用によるものといえます。

ただし、ヒト試験においては被検者の主観的評価のみで効果を認めているため、その点は留意する必要があります。

マドンナリリー根エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

マドンナリリー根エキスの現時点での安全性は、

  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

医薬部外品原料規格2006に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

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マドンナリリー根エキスは保湿作用、抗酸化成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:保湿成分 抗酸化成分

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参考文献:

  1. M. Zaccai, et al(2020)「Medicinal Properties of Lilium candidum L. and Its Phytochemicals」plants(9)(8),959.
  2. 山谷 吉蔵(1999)「マドンナリリー(ニワシロユリ)」北方山草(16),118-119.
  3. 河原林 和一郎(2015)「マドンナリリー(Lilium candidum L.)における種子発芽と実生球根の肥大に及ぼす温度の影響と球根の生育過程」園芸学研究(14)(2),179-189.
  4. C.P. Khare(2007)「Lilium candidum Linn.」Indian Medicinal Plants: An Illustrated Dictionary,373.
  5. Y. Mimaki, et al(1998)「New steroidal constituents from the bulbs of Lilium candidum」Chemical and Pharmaceutical Bulletin(46)(11),1829-1832.
  6. Y. Mimaki, et al(1999)「Steroidal saponins from the bulbs of Lilium candidum」Phytochemistry(51)(4),567-573.
  7. 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
  8. 田村 健夫, 他(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
  9. I Horii, et al(1989)「Stratum corneum hydration and amino acid content in xerotic skin」British Journal of Dermatology(121)(5),587-592.
  10. M. Watanabe, et al(1991)「Functional analyses of the superficial stratum corneum in atopic xerosis」Archives of Dermatology(127)(11),1689-1692.
  11. 鈴木 一成(2012)「ユリエキス」化粧品成分用語事典2012,347-348.
  12. 株式会社資生堂(2014)「しわを防止または改善するための経口、注射、皮膚外用剤および美容方法」特開2014-208720.
  13. 朝田 康夫(2002)「活性酸素とは何か」美容皮膚科学事典,153-154.
  14. 河野 雅弘, 他(2019)「活性酸素種とは」抗酸化の科学,XⅢ-XⅣ.
  15. 小澤 俊彦(2019)「活性酸素種および活性窒素種の発生系」抗酸化の科学,123-138.
  16. 荒金 久美(1998)「光と皮膚」ファルマシア(34)(1),30-33.
  17. 岡田 富雄(1996)「天然抗酸化剤」皮膚の老化と活性酸素・フリーラジカル,106-125.
  18. 小澤 俊彦(2019)「酸化ストレス障害を制御する抗酸化酵素の性質と機能」抗酸化の科学,173-183.
  19. 花田 勝美(1996)「活性酸素・フリーラジカルは皮膚でどのようにつくられるか」皮膚の老化と活性酸素・フリーラジカル,15-35.
  20. 日本メナード化粧品株式会社(2006)「グルタチオンレダクターゼ活性増強剤」特開2006-111545.

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