ブクリョウエキスとは…成分効果と毒性を解説


・ブクリョウエキス
[医薬部外品表示名]
・ブクリョウエキス
マツ科植物アカマツ(学名:Pinus densiflora)やクロマツ(学名:Pinus thunbergii)などの根に寄生するサルノコシカケ科担子菌マツホド(学名:Wolfiporia extensa = Poria cocos)の外層(黒色部分)をほとんど取り除いた菌核(∗1)から水、エタノール、BG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物(植物エキス)です。
∗1 菌核とは、菌類の体を構成する菌糸が集まってできる硬い塊のことです。大きさは大小様々であり中には重さ1kg以上でヒトの頭ぐらいの大きさのものもあります。
マツホド(松塊)は、日本、中国、北米に分布する、伐採後4-5年経ったマツなどの切り株の根の地下10-30cm地点の根に形成される木材腐朽菌の一種であり、日本はほぼ全量を中国などからの栽培品に頼っていましたが(文献1:2011;文献2:2013)、北海道石狩市の茯苓栽培国産化プロジェクトにより2017年に菌床栽培施設が完成し、栽培化が始まっています(文献3:2017)。
ブクリョウエキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
分類 | 成分名称 | |
---|---|---|
糖類 | 多糖 | パキマン |
テルペノイド | トリテルペン | エブリコ酸、パキマ酸、ツムロース酸 |
これらの成分で構成されていることが報告されています(文献1:2011;文献2:2013;文献4:2011)。
マツホドの外層を除いた菌核(生薬名:茯苓)の化粧品以外の主な用途としては、漢方分野において湿を除き水分代謝を促進する効能や脾胃を補い胃腸の働きを促進し精神を安定させる効能があることから水腫(∗2)や痰飲(∗2)の治療には必ず用いられる要薬です(文献1:2011;文献5:2016)。
∗2 津液(体液)が活性を失って体内に貯留した水液を水滞といい、水滞のうち腹水や足の浮腫(むくみ)や関節の浮腫(むくみ)など貯留が明らかなものを水種といいます。痰飲とは広義の意味としてはすべての水滞の病の総称であり、狭義の意味としては体内の部分的な水滞のことをいい、その水滞の部位および状態により種々の名称がつけられています。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的でスキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、シート&マスク製品、化粧下地製品、洗顔料、クレンジング製品などに使用されています。
角質水分量増加による保湿作用
角質水分量増加による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割について解説します。
直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、
天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、この構造が保持されることによって、外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています(文献6:2002;文献7:2001)。
一方で、老人性乾皮症やアトピー性皮膚炎においては、角質細胞中のアミノ酸などの天然保湿因子が顕著に低下していることが報告されていることから(文献8:1989;文献9:1991)、角質層の水分量を増加することは、肌の乾燥の改善、ひいては皮膚の健常性の維持につながると考えられています。
1985年にトリニティ・インベストメントによって報告されたブクリョウエキスのヒト乾燥皮膚に対する影響検証によると、
∗3 コンダクタンスとは、皮膚に電気を流した場合の抵抗(電気伝導度:電気の流れやすさ)を表し、角層水分量が多いと電気が流れやすくなり、コンダクタンス値が高値になることから、角層水分量を調べる方法として角層コンダクタンスを経時的に測定する方法が定着しています。
評価として、「有効:短期効果および連用効果がともに+効果」「やや有効:どちらか一方のみが+効果」「無効:両者ともに-効果」を基準に判定したところ、以下の表にように、
試料 | 乾燥固形分濃度(%) | 被検者数 | 有効(人数) |
---|---|---|---|
ブクリョウエキス配合クリーム | 0.0001 | 20 | 2 |
0.001 | 20 | 11 | |
0.01 | 20 | 12 | |
0.5 | 20 | 15 | |
1 | 20 | 12 | |
クリームのみ(対照) | – | 20 | 2 |
0.001%濃度以上のブクリョウエキス配合クリーム塗布グループは、未配合クリーム塗布グループと比較して優れた角層水分量改善効果を示した。
このような試験結果が明らかにされており(文献10:1985)、ブクリョウエキスに角質水分量増加による保湿作用が認められています。
ブクリョウエキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚一次刺激性:ほとんどなし
- 皮膚累積刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
- [動物試験] 3匹のウサギの剪毛した背部に固形分濃度0.5%ブクリョウエキス水溶液を塗布し、塗布24,48および72時間後に紅斑および浮腫を指標として一次刺激性を評価したところ、いずれのウサギも紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚一次刺激性に関して問題がないものと判断された
- [動物試験] 3匹のモルモットの剪毛した側腹部に固形分濃度0.5%ブクリョウエキス水溶液0.5mLを1日1回週5回、2週にわたって塗布し、各塗布日および最終塗布日の翌日に紅斑および浮腫を指標として皮膚刺激性を評価したところ、いずれのモルモットも2週間にわたって紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚累積刺激性に関して問題がないものと判断された
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
皮膚感作性(アレルギー性)について
日本薬局方および医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
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ブクリョウエキスは保湿成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:保湿成分
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参考文献:
- 鈴木 洋(2011)「茯苓(ぶくりょう)」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,414-415.
- 御影 雅幸(2013)「ブクリョウ」伝統医薬学・生薬学,251-252.
- 日刊薬業(2017)「漢方の原料生薬「茯苓」、国内初の菌床栽培施設が完成 ツムラが技術協力」, <https://nk.jiho.jp/article/p-1226587763673> 2021年1月23日アクセス.
- 竹田 忠紘, 他(2011)「ブクリョウ」天然医薬資源学 第5版,237.
- 根本 幸夫(2016)「茯苓(ブクリョウ)」漢方294処方生薬解説 その基礎から運用まで,191-193.
- 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
- 田村 健夫, 他(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
- I Horii, et al(1989)「Stratum corneum hydration and amino acid content in xerotic skin」British Journal of Dermatology(121)(5),587-592.
- M. Watanabe, et al(1991)「Functional analyses of the superficial stratum corneum in atopic xerosis」Archives of Dermatology(127)(11),1689-1692.
- トリニティ・インベストメント株式会社(1985)「皮膚化粧料」特開昭60-078910.
- 一丸ファルコス株式会社(1999)「植物抽出物配合養毛・育毛剤」特開平11-193219.