ヒドロキシプロリンとは…成分効果と毒性を解説






・ヒドロキシプロリン
[医薬部外品表示名称]
・L-オキシプロリン
哺乳類の生体内に存在する細胞外マトリックス構成成分であるコラーゲンに含まれる非必須アミノ酸です(文献1:2016)。
プロリンと同様の構造を持ちますが、ヒドロキシ基(水酸基)を持っているため、プロリンよりも酸化を受けやすいと考えられます。
コラーゲンは、人体のタンパク質総量の25%以上を構成している繊維タンパク質で(文献1:2016)、ヒト皮膚においては以下の画像のように、
真皮層において、細胞外マトリックスの構成成分として皮膚の強度や柔軟性に重要な役割を果たしており、その構造は、以下の図のように、
3種のペプチドからなる三重らせんで構成されており、またそれぞれのペプチド鎖は3種類のアミノ酸で構成されています(文献2:2010)。
この3種のアミノ酸は、
グリシン – アミノ酸X – アミノ酸Y
このようにグリシンが必ず存在するため、配列としては、
グリシン-アミノ酸X-アミノ酸Y-グリシン-アミノ酸X-アミノ酸Y-グリシン-アミノ酸X-アミノ酸Y
となり、人体においてはアミノ酸Xにプロリンが、アミノ酸Yにはヒドロキシプロリンが選択的に現れると報告されています(文献2:2010)。
ただし、この配列はもともと、未熟なコラーゲン(プロトプロコラーゲン)のアミノ酸配列である、
グリシン – プロリン – プロリン
という配列において、2つ目のプロリンにプロリンヒドロキシラーゼ(プロリン水酸化酵素)が触媒となってヒドロキシプロリンに変換されることで成り立ちます。
またプロリンヒドロキシラーゼの活性化にはビタミンC(アスコルビン酸)が必要不可欠であることが明らかになっており、ビタミンC存在下でプロリンヒドロキシラーゼの活性が促進されることでコラーゲンの産生が促進されます。
コラーゲンにおけるヒドロキシプロリンの役割は、三重らせんをファスナーのようにしっかり結びつけ、強固なコラーゲン繊維を形成することにあります。
ヒドロキシプロリンはコラーゲンにしか存在しないこと、またヒドロキシプロリンはコラーゲンのうち約10%を占めることからヒドロキシプロリン量からコラーゲン量を推測することができます(文献1:2016)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ化粧品、洗浄製品など様々な製品に使用されます(文献1:2016;文献3:2002;文献5:2004;文献6:2003)。
表皮水分保持機能向上による保湿作用
表皮水分保持機能向上による保湿作用に関しては、2002年に協和発酵キリンによって公開された技術情報によると、
4人の健常な皮膚を有する女性被検者(23-28歳)の前腕屈曲部にヒドロキシプロリンまたはアセチルヒドロキシプロリンを含む化粧料2μL/c㎡を1日2回(朝夕)3週間にわたって塗布し、経時的に朝の塗布前の水分量を伝導度変化(伝導度が高いほど水分含量が高いことを示す)を指標として測定したところ、以下の表のように、
試料 | 濃度 | 相対伝導度(%) | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
0日後 | 14日後 | 28日後 | 42日後 | 56日後 | ||
精製水 | – | 100.0 | 96.9 | 94.5 | 88.7 | 93.8 |
ヒドロキシプロリン | 0.5 | 100.0 | 125.2 | 119.8 | 111.1 | 109.6 |
ヒドロキシプロリン | 3 | 100.0 | 127.5 | 118.2 | 108.6 | 110.3 |
アセチルヒドロキシプロリン | 3 | 100.0 | 238.2 | 226.9 | 233.5 | 186.3 |
ヒドロキシプロリンは、連用することにより肌の水分含有量が増加し、水分維持機能の改善が認められた。
なお配合量範囲0.01%以上で、好ましくは0.1%-5%、とくに好ましくは0.5%-3%である。
このような検証結果が明らかにされており(文献3:2002)、ヒドロキシプロリンに表皮水分保持機能向上による保湿作用が認められています。
セラミド合成促進によるバリア改善作用
セラミド合成促進によるバリア改善作用に関しては、まず前提知識としてセラミドについて解説します。
以下の角質層の構造および細胞間脂質におけるラメラ構造図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
角質層のバリア機能は、生体内の水分蒸散を防ぎ、外的刺激から皮膚を防御する重要な機能であり、バリア機能には角質と角質の隙間を充たして角質層を安定させる細胞間脂質が重要な役割を果たしています。
細胞間脂質は、主にセラミド、コレステロール、遊離脂肪酸などで構成され、これらの脂質が角質細胞間に層状のラメラ構造を形成することによりバリア機能を有すると考えられています。
セラミドは、細胞間脂質の50%以上を占める主要成分であり、皮膚の水分保持能およびバリア機能に重要な役割を果たしており、バリア機能が低下している皮膚では角質層中のセラミド量が低下していること(文献7:1989)、またアトピー性皮膚炎患者では角質層中のコレステロール量の減少は認められないがセラミド量は有意に低下していることが報告されています(文献8:1991;文献9:1998)。
またヒト皮膚には7系統のセラミドが存在することが確認されており、全種類のセラミドが角質層に存在する比率で補われることが理想的ですが、セラミドを適正な比率で補充することは技術的に困難であるため、生体内におけるセラミド合成を促進することが重要であると考えられています。
2003年に協和発酵キリンによって公開された技術情報によると、
ヒドロキシプロリンのin vivoにおける表皮バリア機能を確認するために、ヘアレスマウスの背部全面に200μLの3%ヒドロキシプロリン配合の30%エタノール溶液を1日1回4週間にわたって連続塗布し、4週間後に表皮セラミド含量の変化を調べたところ、以下の表のように、
試料 | 表皮1mgあたりのセラミド含量(μg) |
---|---|
無添加 | 230 |
ヒドロキシプロリン | 250 |
ヒドロキシプロリンは、セラミド含量を増加させることが示された。
このような検証結果が明らかにされており(文献6:2003)、ヒドロキシプロリンにセラミド合成促進によるバリア改善作用が認められています。
表皮細胞増殖促進による細胞賦活作用
表皮細胞増殖促進による細胞賦活作用に関しては、2002年に協和発酵キリンによって公開された技術情報によると、
in vitro試験においてヒト新生児由来線維芽細胞を用いた培地にヒドロキシプロリンまたはアセチルヒドロキシプロリン(各1nmol/L)を添加し、様々な処理の後に細胞増殖活性を、無添加と比較して測定したところ、以下の表のように、
試料 | 表皮細胞増殖活性(%) | ||
---|---|---|---|
0mM | 10mM | 100mM | |
ヒドロキシプロリン | 100.0 | 111.6 | 135.1 |
アセチルヒドロキシプロリン | 100.0 | 108.7 | 85.9 |
ヒドロキシプロリンに表皮細胞増殖活性が認められた。
またマウス表皮細胞を用いた培地にヒドロキシプロリンまたはアセチルヒドロキシプロリンを添加し、様々な処理の後に細胞増殖活性を、無添加と比較して測定したところ、以下の表のように、
試料 | 表皮細胞増殖活性(%) | |||
---|---|---|---|---|
0mM | 1mM | 3mM | 10mM | |
ヒドロキシプロリン | 100.0 | 88.6 | 107.5 | 126.0 |
アセチルヒドロキシプロリン | 100.0 | 110.7 | 118.2 | 121.9 |
ヒドロキシプロリンに表皮細胞増殖活性が認められた。
なお配合量範囲0.01%以上で、好ましくは0.1%-5%、とくに好ましくは0.5%-3%である。
このような検証結果が明らかにされており(文献3:2002)、ヒドロキシプロリンに表皮細胞増殖促進による細胞賦活作用が認められています。
線維芽細胞のコラーゲン合成促進による抗老化作用
線維芽細胞のコラーゲン合成促進による抗老化作用に関しては、まず前提知識として皮膚の構造における線維芽細胞の役割について解説します。
以下の皮膚の構造図をみてもらうとわかるように、
皮膚は大きく表皮と真皮に分かれており、表皮は主に紫外線や細菌・アレルゲン・ウィルスなどの外的刺激から皮膚を守る働きと水分を保持する働きを担っており、真皮はプロテオグリカン(ヒアルロン酸およびコンドロイチン硫酸含む)・コラーゲン・エラスチンで構成された細胞外マトリックスを形成し、水分保持と同時に皮膚のハリ・弾力性に深く関与しています。
真皮において細胞外マトリックスを構成するコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸は、同じく真皮に点在する線維芽細胞から産生されるため、線維芽細胞が活発に働くことでこれらが正常につくられていることが皮膚のハリ・弾力維持において重要です(文献4:2002)
2002年に協和発酵キリンによって公開された技術情報によると、
in vitro試験においてヒト新生児由来線維芽細胞を用いた培地に様々な処理を加え、ヒドロキシプロリンまたはアセチルヒドロキシプロリン(各1nmol/L)のコラーゲン合成率を無添加製剤と比較して測定したところ、以下の表のように、
試料 | コラーゲン合成促進活性(%) | ||
---|---|---|---|
0mM | 0.1mM | 1mM | |
ヒドロキシプロリン | 100.0 | 108.3 | 117.1 |
アセチルヒドロキシプロリン | 100.0 | 121.1 | 119.7 |
ヒドロキシプロリンにコラーゲン合成促進活性が認められた。
なお配合量範囲0.01%以上で、好ましくは0.1%-5%、とくに好ましくは0.5%-3%である。
このような検証結果が明らかにされており(文献3:2002)、ヒドロキシプロリンに線維芽細胞のコラーゲン合成促進による抗老化作用が認められています。
メラニン生成抑制による色素沈着抑制作用
メラニン生成抑制による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン生合成のメカニズムについて解説します。
以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
紫外線を浴びるとまず最初に活性酸素が発生し、様々な情報伝達物質(メラノサイト活性化因子)をメラノサイトで発現するレセプター(受容体)に届けることで、メラノサイト内でメラニンの生合成がはじまり、ユーメラニン(黒化メラニン)へと合成されます。
メラノサイト内でのメラニン生合成は、まずアミノ酸の一種であるチロシンに活性酵素であるチロシナーゼが結合することでドーパ、ドーパキノン、ドーパクロムへと変化し、最終的に黒化メラニンが合成されます。
2004年に協和発酵キリンによって公開された技術情報によると、
グリシン、トレオニン、ヒドロキシプロリンおよびアスパラギン酸のメラニン生成抑制作用を検討するために、メラノサイト・ケラチノサイト培養系を用いたin vitro試験において、メラニンを誘発させた培地に各アミノ酸を添加し、4日後にメラニン生成度を測定したところ、以下の表のように、
アミノ酸 | 濃度 | 相対メラニン生成度 |
---|---|---|
グリシン | 0.1mmol/l | 74 |
グリシン | 1mmol/l | 66 |
グリシン | 10mmol/l | 35 |
L-トレオニン | 0.1mmol/l | 26 |
L-トレオニン | 1mmol/l | 36 |
L-トレオニン | 10mmol/l | 26 |
L-ヒドロキシプロリン | 0.1mmol/l | 82 |
L-ヒドロキシプロリン | 1mmol/l | 80 |
L-ヒドロキシプロリン | 10mmol/l | 60 |
L-アスパラギン酸 | 0.1mmol/l | 87 |
L-アスパラギン酸 | 1mmol/l | 86 |
L-アスパラギン酸 | 10mmol/l | 70 |
ヒドロキシプロリンを添加した場合には、顕著にメラニンの生成を抑制することが確認された。
なお配合量は0.01%-10%の範囲内で、好ましくは0.1%-5%、より好ましくは0.3%-3%である。
このような検証結果が明らかにされており(文献5:2004)、ヒドロキシプロリンにメラニン生成抑制による色素沈着抑制作用が認められています。
ヒドロキシプロリンの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 生体内に存在するアミノ酸の一種
- 10年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光毒性:ほとんどなし
これらの結果から、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
協和発酵キリンの安全性試験データ(文献6:2003)によると、
- [ヒト試験] ヒト累積刺激性試験において陰性
- [ヒト試験] ヒト感作性試験において陰性
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚刺激および皮膚感作の報告がないため、皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
協和発酵キリンの安全性試験データ(文献6:2003)によると、
- [動物試験] ウサギを用いた眼刺激性試験において刺激物ではないと結論付けられた
と記載されています。
試験データをみるかぎり、刺激物ではないと報告されているため、眼刺激性はほとんどないと考えられます。
光毒性について
協和発酵キリンの安全性試験データ(文献6:2003)によると、
- [ヒト試験] ヒト光毒性試験において陰性
と記載されています。
試験データをみるかぎり、光毒性なしと報告されているため、光毒性はほとんどないと考えられます。
∗∗∗
ヒドロキシプロリンは保湿成分、バリア改善成分、細胞賦活成分、抗老化成分、美白成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:保湿成分 バリア改善成分 細胞賦活成分 抗老化成分 美白成分
∗∗∗
文献一覧:
- 日光ケミカルズ(2016)「アミノ酸およびペプチド」パーソナルケアハンドブック,398.
- 奥山 健二, 他(2010)「コラーゲンの分子構造・高次構造」高分子論文集(67)(4),229-247.
- 協和発酵キリン株式会社(2002)「化粧料」WO0051561.
- 朝田 康夫(2002)「真皮の構造は」美容皮膚科学事典,30-31.
- 協和発酵キリン株式会社(2004)「美白剤」特開2004-315384.
- 小林 麻子(2003)「ヒドロキシプロリンの製造と生理活性」Fragrance Journal(31)(3),37-43.
- G Grubauer, et al(1989)「Transepidermal water loss:the signal for recovery of barrier structure and function.」The Journal of Lipid Research(30),323-333.
- G Imokawa, et al(1991)「Decreased level of ceramides in stratum corneum of atopic dermatitis: an etiologic factor in atopic dry skin?」J Invest Dermatol.(96)(4),523-526.
- Di Nardo A, et al(1998)「Ceramide and cholesterol composition of the skin of patients with atopic dermatitis.」Acta Derm Venereol.(78)(1),27-30.
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