ノイバラ果実エキスとは…成分効果と毒性を解説

保湿 抗アレルギー
ノイバラ果実エキス
[化粧品成分表示名]
・ノイバラ果実エキス

[医薬部外品表示名]
・エイジツエキス

バラ科植物ノイバラ(学名:Rosa multiflora 英名:Japanese rose)の果実からエタノールBG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物植物エキスです。

ノイバラ(野茨)は、朝鮮半島および日本各地に分布しており、日本においては最も普通にみられる野生のバラです(文献1:2011)

ノイバラ果実エキスは天然成分であることから、国・地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、

分類 成分名称
フラボノイド フラボノール ムルチフロリンA,B、ムルチノシドA,B、ケルシトリン、アフゼリン
タンニン 加水分解型タンニン メチルガレート
カロテノイド リコペン

これらの成分で構成されていることが報告されています(文献1:2011;文献2:2013;文献3:1993)

ノイバラの偽果(生薬名:営実)の化粧品以外の主な用途としては、通便・利水消腫・活血の効能があることから民間薬・家庭薬分野において古くから便秘薬や浮腫の瀉下・峻下薬に用いられてきた歴史があり、今日でも家庭薬の下剤に配合されていることがあります(文献1:2011)

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、シート&マスク製品、洗顔料、クレンジング製品などに汎用されています。

フィラグリン産生促進による保湿作用

フィラグリン産生促進による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割およびフィラグリンについて解説します。

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、

角質層の構造

角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、この構造が保持されることによって、外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています(文献4:1990;文献5:2002)

また、角層に存在し水分を保持する働きをもつ水溶性物質は、天然保湿因子(NMF:natural Moisturizing Factor)と呼ばれ、以下の表のように、

成分 含量(%)
アミノ酸 40.0
ピロリドンカルボン酸(PCA) 12.0
乳酸 12.0
尿素 7.0
アンモニア、尿酸、グルコサミン、クレアチン 1.5
ナトリウム(Na⁺) 5.0
カリウム(K⁺) 4.0
カルシウム(Ca²⁺) 1.5
マグネシウム(Mg²⁺) 1.5
リン酸(PO₄³⁻) 0.5
塩化物(Cl⁻) 6.0
クエン酸、ギ酸 0.5
糖、有機酸、ペプチド、未確認物質 8.5

アミノ酸、有機酸、塩などの集合体として存在しており(文献6:1985)、これらのアミノ酸およびその代謝物は、以下の図のように、

天然保湿因子の産生メカニズム

表皮顆粒層に存在しているケラトヒアリン(∗1)が角質細胞に変化していく過程でフィラグリンと呼ばれるタンパク質となり、このフィラグリンがブレオマイシン水解酵素によって完全分解されることで産生されることが報告されています(文献7:1983;文献8:2002)

∗1 ケラトヒアリンの主要な構成成分は、分子量300-1,000kDaの巨大な不溶性タンパク質であるプロフィラグリンであり、プロフィラグリンは終末角化の際にフィラグリンに分解されます。

一方で、老人性乾皮症やアトピー性皮膚炎においては、角質細胞中のアミノ酸類が顕著に低下していることが報告されており(文献9:1989;文献10:1991)、また乾皮症発症部位ではフィラグリンの発現が低下していることが報告されていることから(文献11:1994)、キメの乱れがみられる部位では天然保湿因子の減少により角質層の乾燥が引き起こされている可能性が考えられており、フィラグリン産生を促進することは、角質層の天然保湿因子生成の促進し、結果的にキメの乱れの改善につながると考えられています。

このような背景から、フィラグリンの産生を促進することは角質層の水分保持、ひいては皮膚の健常性の維持において重要であると考えられます。

2008年に丸善製薬によって報告されたノイバラ果実エキスのフィラグリンおよびヒト皮膚に対する影響検証によると、

in vitro試験において培養正常ヒト皮膚表皮角化細胞を播種した培地に各濃度のノイバラ果実エキスを添加し、培養後に総タンパクを調製したタンパク10μg中のプロフィラグリンおよびフィラグリンを合算した値を用いてプロフィラグリン産生促進率を算出したところ、以下のグラフのように、

ノイバラ果実エキスのプロフィラグリン産生促進作用

ノイバラ果実エキスは、濃度依存的に優れたプロフィラグリン産生促進作用を有することが確認された。

次に、8名の被検者の左右頬に1%ノイバラ果実エキス配合化粧水と未配合化粧水をそれぞれ1日2回30日間塗布し、試験開始前と試験終了時に毛穴体積率を測定し、毛穴目立ち抑制作用を評価したところ、以下の表のように、

試料 毛穴体積率(μ㎥/m㎡)
試験開始前 試験終了時
ノイバラ果実エキス配合化粧水 166.7 138.6
化粧水のみ(対照) 119.0 150.9

ノイバラ果実エキス配合化粧水の塗布により、毛穴の体積を減少させることが確認され、これにより毛穴を目立たなくさせることができることが確認された。

このような試験結果が明らかにされており(文献12:2008)、ノイバラ果実エキスにフィラグリン産生促進による保湿作用が認められています。

試験データではプロフィラグリンを指標としていますが、フィラグリンは生体内でプロフィラグリンの加水分解により産生されるため、ノイバラ果実エキスはプロフィラグリンの産生を促進し、細胞内におけるプロフィラグリン量を増加させることで、結果的にフィラグリン量をも増加させることができることから、フィラグリン産生促進作用としています。

また、ヒト使用試験においては毛穴目立ちの抑制を効果の指標としていますが、毛穴開きの主要因のひとつは皮膚の乾燥であり、ノイバラエキスの塗布によってヒト皮膚における毛穴の目立ちが抑制されたことから、ヒト皮膚においてフィラグリン産生促進による保湿による効果も発揮されたと考えられます。

ヒスタミン遊離抑制による抗アレルギー作用

ヒスタミン遊離抑制による抗アレルギー作用に関しては、まず前提知識として皮膚におけるアレルギーの種類およびⅠ型アレルギー性皮膚炎のメカニズムについて解説します。

皮膚におけるアレルギー反応は、

種類 名称 抗体 抗原 皮膚反応 考えられる主な疾患
Ⅰ型 即時型
アナフィラキシー型
IgE 化粧品、薬剤、洗剤、ダニ、カビ、ハウスダスト、金属、花粉、ほか 15-20分で最大の発赤と膨疹 アナフィラキシーショック、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、結膜炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、ほか
Ⅳ型 遅延型
細胞性免疫
感作T細胞 細菌、真菌、自己抗原 24-72時間で最大の紅斑と硬結 アレルギー性接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、ほか

主にこの2種類に分類されています(∗2)(文献13:2010;文献14:1968;文献15:1999)

∗2 アレルギーの分類としてはⅠ型-Ⅳ型まで4種類が存在し、Ⅰ型-Ⅲ型までの3種類が即時型に分類されていますが、皮膚に関連するものはⅠ型とⅣ型であることから、ここではⅠ型とⅣ型のみで構成しています。

Ⅰ型アレルギーは、即時型アレルギーまたはアナフィラキシー型とも呼ばれ、皮膚反応としては15-20分で最大に達する発赤・膨疹を特徴とする即時型皮膚反応を示しますが、このⅠ型アレルギー性炎症反応が起こるメカニズムは、以下のアレルギー性皮膚炎のメカニズム図をみてもらうとわかるように、

Ⅰ型アレルギー性皮膚炎のメカニズム

まず、アレルギーを起こす原因物質(抗原)が皮膚や粘膜から体内に侵入すると、抗原提示細胞(ランゲルハンス細胞や真皮樹状細胞)がその抗原の一部を自らの細胞表面に提示し、次にヘルパーT細胞の一種であるTh2細胞が抗原提示細胞の提示した抗原情報を認識し、抗原と結合して抗炎症性サイトカインの一種であるIL-4(Interleukin-4)を分泌します(文献15:1999)

次に、Th2細胞から分泌されたIL-4によりB細胞が刺激を受けIgE抗体を産生し、このIgE抗体が肥満細胞の表面にある受容体に結合することによりIgE抗体と抗原が反応し、肥満細胞に貯蔵されていたケミカルメディエーターであるヒスタミンが放出(脱顆粒)され、同時に細胞膜からはアラキドン酸が遊離し、ケミカルメディエーターであるロイコトリエンやプロスタグランジンに代謝されます(文献15:1999)

そして、放出されたヒスタミンはヒアルロニダーゼを活性化し、アラキドン酸から代謝されたロイコトリエンやプロスタグランジンとともに血管透過性を亢進させて浮腫を起こし、好酸球など炎症細胞の遊走を誘導し、炎症を引き起こします(文献15:1999;文献16:2009)

このような背景から、アレルギー性皮膚炎や肌荒れなどバリア機能が低下している場合に、ヒスタミン遊離を抑制することはアレルギー性炎症の抑制において重要であると考えられています。

1998年にノエビアによって報告されたノイバラ果実エキスのヒスタミンおよびヒト皮膚に対する影響検証によると、

ラット由来好塩基球白血病細胞液に各植物抽出物を加えて培養し、ヒスタミンの遊離阻害率を算出したところ、以下のグラフのように、

植物エキスのヒスタミン遊離抑制作用

ノイバラ果実エキス(50%エタノール抽出)は、90%以上のヒスタミン遊離抑制作用を示した。

次に、アトピー性皮膚炎を有する女性患者17名(17-30歳)の顔に0.5%ノイバラ果実エキス配合W/O型(油中水型)軟膏を、また比較対照としてノイバラ果実エキス未配合の軟膏をそれぞれ1日2回(朝夕)2週間にわたって塗布し、2週間後に評価したところ、以下の表のように、

試料 症例数 顕著 有効 やや有効 無効 悪化
ノイバラ果実エキス配合軟膏 20 5 9 5 1 0
軟膏のみ(比較対照) 15 0 1 3 7 4

0.5%ノイバラ果実エキス配合軟膏の塗布は、アトピー性皮膚炎の症状改善に有効であることがわかった。

このような試験結果が明らかにされており(文献17:1998)、ノイバラ果実エキスにヒスタミン遊離抑制による抗アレルギー作用が認められています。

ノイバラ果実エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

ノイバラ果実エキスの現時点での安全性は、

  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

日本薬局方および医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

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ノイバラ果実エキスは保湿成分、抗アレルギー成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:保湿成分 抗アレルギー成分

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参考文献:

  1. 鈴木 洋(2011)「営実(えいじつ)」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,31.
  2. 御影 雅幸(2013)「エイジツ」伝統医薬学・生薬学,178-179.
  3. 竹田 忠紘, 他(2011)「エイジツ」天然医薬資源学 第5版,149.
  4. 田村 健夫, 他(1990)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
  5. 朝田 康夫(2002)「角質層のメカニズム」美容皮膚科学事典,22-28.
  6. 尾沢 達也, 他(1985)「皮膚保湿における保湿剤の役割」皮膚(27)(2),276-288.
  7. I Horii, et al(1983)「Histidine-rich protein as a possible origin of free amino acids of stratum corneum」Normal and Abnormal Epidermal Differentiation: Current Problems in Dermatology(11),301-315.
  8. 朝田 康夫(2002)「皮膚と水分の関係」美容皮膚科学事典,90-103.
  9. I Horii, et al(1989)「Stratum corneum hydration and amino acid content in xerotic skin」British Journal of Dermatology(121)(5),587-592.
  10. M. Watanabe, et al(1991)「Functional analyses of the superficial stratum corneum in atopic xerosis」Archives of Dermatology(127)(11),1689-1692.
  11. Tezuka T, et al(1994)「Terminal differentiation of facial epidermis of the aged: immunohistochemical studies.」Dermatology(188)(1),21-24.
  12. 丸善製薬株式会社(2008)「プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤及び毛穴目立ち抑制剤」特開2008-285423.
  13. 厚生労働省(2010)「アレルギー総論」リウマチ・アレルギー相談員養成研修会テキスト5-14.
  14. R.R.A. Coombs, et al(1968)「Classification of Allergic Reactions Responsible for Clinical Hypersensitivity and Disease」Clinical Aspects of Immunology Second Edition,575-596.
  15. 西部 幸修, 他(1999)「植物抽出物の抗アレルギー作用」Fragrance Journal臨時増刊(16),109-115.
  16. 椛島 健治(2009)「皮膚のスーパー免疫」美容皮膚科学 改定2版,46-51.
  17. 株式会社ノエビア(1998)「抗アレルギー剤及びこれを含有する抗アレルギー性化粧料並びに食品」特開平10-36276.

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