テンチャエキスとは…成分効果と毒性を解説

保湿 消臭
テンチャエキス
[化粧品成分表示名]
・テンチャエキス

[医薬部外品表示名]
・テンチャエキス

バラ科植物テンヨウケンコウシ(学名:Rubus Suavissimus)の葉からエタノールBG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物植物エキスです。

成分名称である「テンチャ(甜茶)」とは、中国茶において植物分類学上の茶とは異なる木の葉から作られた甘いお茶の総称であり、バラ科植物テンヨウケンコウシ(学名:Rubus Suavissimus)も「甜茶」または「バラ甜茶」という一般名で知られています(文献1:2011)

テンヨウケンコウシ(甜葉懸鈎子)は、中国南部広西省チワン族自治区の山地に自生および栽培されており、テンヨウケンコウシの主要甘味成分はショ糖(スクロース)の約75倍の甘味を有するルブソシド(rubusoside)(∗1)であり、このルブソシドにはほとんどカロリーがないことが知られています(文献1:2011)

∗1 一般的には「甜茶糖」と呼ばれています。

テンチャエキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、

分類 成分名称
テルペノイド カウレン型ジテルペン ルブソシド(甘味成分)
タンニン 加水分解型タンニン GOD型エラジタンニン(∗2)

∗2 一般には「甜茶タンニン」と呼ばれています。

これらの成分で構成されていることが報告されています(文献2:2007;文献3:2009)

テンチャの葉(生薬名:甜葉懸鈎子)の化粧品以外の主な用途としては、中国においてとくに広西省チワン族自治区瑶族の人々を中心に中国南部の広域にわたって中国茶として愛飲されており、現在では日本においても茶として広く飲用されています(文献1:2011)

化粧品に配合される場合は、

これらの目的でスキンケア製品、ボディケア製品、リップ化粧品、シート&マスク製品、洗顔料、洗顔石鹸、入浴剤などに使用されています。

皮表柔軟化およびフィラグリン産生促進による保湿作用

皮表柔軟化およびフィラグリン産生促進による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割およびフィラグリンについて解説します。

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、

角質層の構造

天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、この構造が保持されることによって、外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています(文献4:2002;文献5:2001)

また、角層に存在し水分を保持する働きをもつ水溶性物質は、天然保湿因子(NMF:natural Moisturizing Factor)と呼ばれ、以下の表のように、

成分 含量(%)
アミノ酸 40.0
ピロリドンカルボン酸(PCA) 12.0
乳酸 12.0
尿素 7.0
アンモニア、尿酸、グルコサミン、クレアチン 1.5
ナトリウム(Na⁺) 5.0
カリウム(K⁺) 4.0
カルシウム(Ca²⁺) 1.5
マグネシウム(Mg²⁺) 1.5
リン酸(PO₄³⁻) 0.5
塩化物(Cl⁻) 6.0
クエン酸、ギ酸 0.5
糖、有機酸、ペプチド、未確認物質 8.5

アミノ酸、有機酸、塩などの集合体として存在しており(文献6:1985)、これらのアミノ酸およびその代謝物は、以下の図のように、

天然保湿因子の産生メカニズム

表皮顆粒層に存在しているケラトヒアリン(∗3)が角質細胞に変化していく過程でフィラグリンと呼ばれるタンパク質となり、このフィラグリンがブレオマイシン水解酵素によって完全分解されることで産生されることが報告されています(文献7:1983;文献8:2002)

∗3 ケラトヒアリンの主要な構成成分は、分子量300-1,000kDaの巨大な不溶性タンパク質であるプロフィラグリンであり、プロフィラグリンは終末角化の際にフィラグリンに分解されます。

一方で、老人性乾皮症やアトピー性皮膚炎においては、角質細胞中のアミノ酸などの天然保湿因子が顕著に低下していること(文献9:1989;文献10:1991)、また乾皮症発症部位ではフィラグリンの発現が低下していることが報告されており(文献11:1994)、キメの乱れがみられる部位では天然保湿因子の減少により角質層の乾燥が引き起こされている可能性が考えられています。

このような背景から、皮表を柔軟化することやフィラグリンの産生促進によって角質層の天然保湿因子生成を促進することは肌の乾燥の改善、ひいては皮膚の健常性の維持につながると考えられています。

2002年に丸善製薬によって報告されたテンチャエキスのヒト皮膚に対する影響検証によると、

40℃のお湯を浴槽に約200L入れ、5%テンチャエキス配合入浴剤と対照としてテンチャエキス未配合入浴剤をそれぞれ投入し、40名の被検者のうち20名にテンチャエキス配合入浴剤投入浴槽に、別の20名は未配合入浴剤投入浴槽にそれぞれ10分間入浴してもらった。

入浴直後の皮膚へのしっとり感および2週間後の肌のつやとかさつきについての評価として「スコア5:非常に良い」「スコア4:良い」「スコア3:普通」「スコア2:悪い」「スコア1:非常に悪い」の5段階スコアを合計し平均値を算出したところ、以下の表にように、

試料 被検者数 入浴直後(平均点) 2週間後(平均点)
しっとり感 肌のツヤ 肌のかさつき
テンチャエキス配合入浴剤 20 4.2 4.5 3.9
入浴剤のみ(対照) 20 3.1 2.9 2.5

5%テンチャエキス配合入浴剤投入グループは、未配合入浴剤投入グループと比較して優れた保湿効果を示した。

このような試験結果が明らかにされており(文献12:2002)、テンチャエキスに皮表柔軟化による保湿作用が認められています。

次に、2006年に日本メナード化粧品によって報告されたテンチャエキスのフィラグリンおよびヒト皮膚への影響検証によると、

in vitro試験においてマウス表皮角化細胞由来Pam212細胞を培養しコンフルエントな状態になった培地に0.01mg/mL濃度のテンチャエキス(30%エタノール抽出)を添加し、培養後に総プロフィラグリン発現量を測定しテンチャエキス未添加の場合の総プロフィラグリン発現量に対する割合をNMF産生率(%)として算出したところ、以下のグラフのように、

テンチャエキスのNMF産生促進作用

テンチャエキスは、優れたNMF産生促進作用(フィラグリン産生促進作用)を有することが確認された。

次に、肌の乾燥やかゆみに悩む60名の女性被検者(30-45歳)のうち30名に0.5%テンチャエキス配合クリームを2ヶ月間連用し、対照として別の30名にテンチャエキス未配合クリームを同様に用いた。

評価方法として「優:肌の乾燥が改善された」「良:肌の乾燥がやや改善された」「可:肌の乾燥がわずかに改善された」「不可:使用前と変化なし」の基準で2ヶ月後に評価したところ、以下の表のように、

試料 被検者数 不可
テンチャエキス配合クリーム 30 15 8 7 0
クリームのみ(対照) 30 0 2 7 21

0.5%テンチャエキス配合クリーム塗布グループは、未配合クリーム塗布グループと比較して優れた肌の乾燥改善効果を示した。

このような試験結果が明らかにされており(文献13:2006)、テンチャエキスにフィラグリン産生促進による保湿作用が認められています。

ノネナール産生抑制による加齢臭抑制作用

ノネナール産生抑制による加齢臭抑制作用に関しては、まず前提知識として加齢臭とノネナールの関係について解説します。

中高年者に特有のにおいである加齢臭は、体幹部とくに胸や背中部分から臭ってくる脂臭くて少し青臭い、梅雨時の黴びた古本や古いポマードを連想させる嫌なにおいとして知られており、40代以降になると揮発性アルデヒドの一種である2-ノネナールの検出頻度や検出量が増加する傾向がみられることから、2-ノネナールの増加が加齢臭の主な原因であると考えられています(文献14:1999;文献15:2001)

このような背景から、ノネナールを減少させることは、加齢臭の抑制に非常に重要であると考えられます。

2012年にサントリー健康科学研究所によって報告されたノネナールに対するテンチャエキスの影響検証によると、

甜茶抽出物(100mg/mL)またはウーロン茶抽出物(100mg/mL)に調整したエタノール溶液と、対照として精製水のみおよび25%エタノール溶液のみをそれぞれ袋に入れ、初期ガス濃度20ppmに調整した2-ノネナールを添加し、30分おきに150分まで袋内の2-ノネナール濃度を算出したところ、以下の表のように、

甜茶抽出物による2-ノネナールの消臭効果

甜茶抽出物およびウーロン茶抽出物は、精製水と比較してより高い消臭効果が確認された。

次に抗ノネナール剤としてウーロン茶エキス、甜茶エキス、緑茶エキスおよび柿渋エキスの混合物を調整し、初期ガス濃度20ppmに調整した2-ノネナールを添加して、30分おきに150分まで袋内の2-ノネナール濃度を算出したところ、以下の表のように、

抗ノネナール剤による2-ノネナールの消臭効果

4種のポリフェノールを含む抗ノネナール剤は、精製水と比較して2-ノネナールに対する消臭効果が確認された。

さらに加齢臭が気になるあるいは加齢臭を指摘されたことがある20名の男性被検者(43-75歳,平均60歳)にウーロン茶エキス、甜茶エキス、緑茶エキスおよび柿渋エキスの4種のポリフェノールを組み合わせた固形石鹸を用いて毎日身体全体を洗浄してもらい、使用前、使用14日および28日後に3日間就寝時に着用したTシャツから抽出したノネナール量を測定したところ、以下の表のように、

加齢臭に対する4種のポリフェノールの2-ノネナールへの消臭効果

4種のポリフェノール配合石鹸を使用した場合、使用前と比較して2-ノネナール量の低減を確認した。

このような試験結果が明らかにされており(文献16:2012)、テンチャエキスにノネナール減少による加齢臭抑制作用が認められています。

ノネナールは、皮脂中に存在するパルミトレイン酸が酸化あるいは皮膚常在菌によって分解されることにより発生することが明らかになっていますが(文献14:1999)、テンチャエキスのノネナール抑制メカニズムは、皮脂の酸化を防ぐことでノネナールへの分解を抑制することによるものであると考えられています(文献16:2012)

テンチャエキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

テンチャエキスの現時点での安全性は、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚一次刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚累積刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

一丸ファルコスの安全性試験データ(文献17:1999)によると、

  • [動物試験] 3匹のウサギの剪毛した背部に乾燥固形分濃度0.5%テンチャエキス水溶液を塗布し、塗布24,48および72時間後に紅斑および浮腫を指標として一次刺激性を評価したところ、いずれのウサギも紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚一次刺激性に関して問題がないものと判断された
  • [動物試験] 3匹のモルモットの剪毛した側腹部に乾燥固形分濃度0.5%テンチャエキス水溶液0.5mLを1日1回週5回、2週にわたって塗布し、各塗布日および最終塗布日の翌日に紅斑および浮腫を指標として皮膚刺激性を評価したところ、いずれのモルモットも2週間にわたって紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚累積刺激性に関して問題がないものと判断された

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

皮膚感作性(アレルギー性)について

医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

∗∗∗

テンチャエキスは保湿成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:保湿成分

∗∗∗

参考文献:

  1. 鈴木 洋(2011)「甜茶」カラー版健康食品・サプリメントの事典,115.
  2. H. Li, et al(2007)「Rubusuaviins A-F, Monomeric and Oligomeric Ellagitannins from Chinese Sweet Tea and Their α-Amylase Inhibitory Activity」Chemical and Pharmaceutical Bulletin(55)(9),1325-1331.
  3. G. Chou, et al(2009)「Quantitative and Fingerprint Analyses of Chinese Sweet Tea Plant (Rubus suavissimus S. Lee)」Journal of Agricultural and Food Chemistry(57)(3),1076-1083.
  4. 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
  5. 田村 健夫, 他(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
  6. 尾沢 達也, 他(1985)「皮膚保湿における保湿剤の役割」皮膚(27)(2),276-288.
  7. I Horii, et al(1983)「Histidine-rich protein as a possible origin of free amino acids of stratum corneum」Normal and Abnormal Epidermal Differentiation: Current Problems in Dermatology(11),301-315.
  8. 朝田 康夫(2002)「皮膚と水分の関係」美容皮膚科学事典,90-103.
  9. I Horii, et al(1989)「Stratum corneum hydration and amino acid content in xerotic skin」British Journal of Dermatology(121)(5),587-592.
  10. M. Watanabe, et al(1991)「Functional analyses of the superficial stratum corneum in atopic xerosis」Archives of Dermatology(127)(11),1689-1692.
  11. Tezuka T, et al(1994)「Terminal differentiation of facial epidermis of the aged: immunohistochemical studies.」Dermatology(188)(1),21-24.
  12. 丸善製薬株式会社(2002)「浴用剤組成物」特開2002-226357.
  13. 日本メナード化粧品株式会社(2006)「NMF産生促進剤」特開2006-124350.
  14. 土師 信一郎・合津 陽子(1999)「中高年齢層のための体臭ケア製品の開発」Fragrance Journal(27)(9),42-46.
  15. S. Haze, et al(2001)「2-Nonenal Newly Found in Human Body Odor Tends to Increase with Aging」Journal of Investigative Dermatology(116)(4),520-524.
  16. 龍口 巌, 他(2012)「ポリフェノール配合石鹸による中高年男性の加齢臭低減効果」におい・かおり環境学会誌(43)(5),362-366.
  17. 一丸ファルコス株式会社(1999)「活性酸素消去剤」特開平11-279069.

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