ゼニアオイ花エキスとは…成分効果と毒性を解説




・ゼニアオイ花エキス
[医薬部外品表示名称]
・ゼニアオイエキス
アオイ科植物ゼニアオイまたはウスベニアオイ(学名:Malva mauritiana = Malva sylvestris 英名:common mallow)の花から水、エタノール、BG(1,3-ブチレングリコール)、またはこれらの混合液で抽出して得られるエキスです。
ゼニアオイ花エキスは天然成分であることから、国・地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
- 粘液多糖類
- アントシアニジン
- ビタミン類:ビタミンA,B₁,B₂,C
- タンニン
などで構成されています(文献1:2006;文献2:2016)。
ウスベニアオイは、古代ギリシアやローマ時代から食用・薬草として使用されており、緩和作用のある粘液を豊富に含むハーブとして知られています。
そのため、昔から風邪によるのどの腫れや痛み、胃炎、膀胱炎、尿道炎などに粘膜を守る目的で用いられ、また外傷や皮膚炎などにも湿布剤、ローション剤、パック剤などの剤形で用いられています(文献2:2016)。
ウスベニアオイはハーブティーとして有名ですが、その理由はそうした効能とは別に「青紫色のお茶」が楽しめるという点にあり、ウスベニアオイの青紫色は有効成分であるアントシアニジンによるもので、この青紫色のハーブティーにレモンを浮かべると一瞬で色がピンクに変化するのが楽しめます(文献2:2016;文献3:2018)。
これはレモン汁によって液性が酸性になったためで、反対に重曹などを添加してアルカリ性にすると明るい水色に変化します。
欧米では混合茶剤にアクセントをつける目的でもよく用いられています。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア化粧品をはじめ、洗顔料、洗浄製品、メイクアップ化粧品など幅広く様々な製品に使用されます(文献1:2006;文献4:-;文献6:2002)。
フィラグリン産生促進による保湿作用
フィラグリン産生促進による保湿作用とは、以下の肌図をみてもらえるとわかりやすいと思うのですが、
皮膚の角層における保湿成分として有名なアミノ酸であるNMF(天然保湿因子)は、同じく表皮顆粒層に存在しているケラトヒアリンが角質細胞に変化していく過程でフィラグリンと呼ばれるタンパク質になり、このフィラグリンが角層に近づくとともに分解されてアミノ酸(NMF)になります(文献5:2002)。
また、フィラグリンを構成しているアミノ酸のうち最も多いグルタミンは、保湿力の高いピロリドンカルボン酸となります。
ゼニアオイ花エキスには、フィラグリンの産生を促進する作用が明らかにされており(文献4:-)、フィラグリンの産生が増加することで角層のアミノ酸も増加され、結果的に水分量増加による保湿作用を有すると考えられます。
プロスタグランジンE₂産生抑制による抗炎症作用
プロスタグランジンE₂産生抑制による抗炎症作用に関しては、以下の肌図をみてもらえるとわかりやすいと思うのですが、
紫外線を浴びた皮膚はまず最初に活性酸素が発生し、活性酸素の働きによって様々な遺伝子の発現を誘導するタンパク質(転写因子)であるNF-κB(エヌエフカッパビー)が活性化します。
NF-κBが活性化すると、炎症性サイトカインの産生が誘導され、また活性化した炎症性サイトカインは炎症性物質をつくるホスホリパーゼA2という酵素を活性化し、活性化したホスホリパーゼA2は炎症性物質の産生を促進させて炎症を発生させます。
プロスタグランジンE₂はこの炎症メカニズムにおける炎症性物質のひとつで、直接的に炎症を起こします。
ゼニアオイ花エキスには、この炎症性物質のひとつであるプロスタグランジンE₂の産生を抑制する作用が明らかにされており(文献4:-)、プロスタグランジンE₂を抑制することで結果的に炎症を抑制します。
エラスターゼ活性阻害による抗老化作用
エラスターゼ活性阻害による抗老化作用に関しては、まず前提知識として皮膚の構造とエラスチンおよびエラスターゼについて解説します。
以下の皮膚の構造図をみてもらうとわかるように、
皮膚は大きく表皮と真皮に分かれており、表皮は主に紫外線や細菌・アレルゲン・ウィルスなどの外的刺激から皮膚を守る働きと水分を保持する働きを担っており、真皮はプロテオグリカン(ヒアルロン酸およびコンドロイチン硫酸含む)・コラーゲン・エラスチンで構成された細胞外マトリックスを形成し、水分保持と同時に皮膚のハリ・弾力性に深く関与しています。
エラスチンは、2倍近く引き伸ばしても緩めるとゴムのように元に戻る弾力繊維で、コラーゲンとコラーゲンの間にからみあうように存在し、コラーゲン同士をバネのように支えて皮膚の弾力性を保っています(文献7:2002)。
エラスターゼは、エラスチンを分解する酵素であり、通常はエラスチンの産生と分解がバランスすることで一定のコラーゲン量を保っていますが、皮膚に炎症や刺激が起こるとエラスターゼが活性化し、エラスチンの分解が促進されることでエラスチンの質的・量的減少が起こり、皮膚老化の一因となると考えられています。
このような背景から、皮膚のハリ・弾力を維持するエラスチンの変性を防止をするためにエラスターゼの活性を抑制することは重要であると考えられます。
2002年に一丸ファルコスによって公開された技術情報によると、
エラスターゼ活性阻害作用がある有用な植物の開発をテーマとし、探索したところ、ウコン、セイヨウノコギリソウ、ゼニアオイ、タイム、ヤーコン、ローズヒップにエラスターゼの活性抑制効果を見出した。
invitro試験において膵臓由来エラスターゼおよび合成基質N-succinyl-ala-ala-ala-p-nitroanildeを用いて各植物抽出物を0.01%濃度で添加し、また比較対照としてグリチルリチン酸ジカリウムを用いて評価したところ、以下のグラフのように、
0.01%ゼニアオイ抽出物は、有意にエラスターゼ活性を抑制することが確認された。
このような検証結果が明らかにされており(文献6:2002)、ゼニアオイ花エキスにエラスターゼ活性阻害による抗老化作用が認められています。
複合植物エキスとしてのゼニアオイ花エキス
ファルコレックスBX51という複合植物エキスは、以下の成分で構成されており、
- アルニカ花エキス
- キュウリ果実エキス
- セイヨウキズタ葉/茎エキス
- ゼニアオイ花エキス
- パリエタリアエキス
- セイヨウニワトコ花エキス
効果および配合目的は、
- 角質水分量増加
- 経表皮水分損失抑制
- 抗酸化(SOD様)
とされており、それぞれポイントの違う植物エキスの相乗効果によって角質層の水分保持および活性酸素抑制するもので、化粧品成分一覧にこれらの成分が併用されている場合はファルコレックスBX51であると推測することができます。
ゼニアオイ花エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
一丸ファルコスの安全性試験データ(文献6:2002)によると、
- [動物試験] 3匹のウサギの除毛した背部に0.5%ゼニアオイ抽出物水溶液を塗布し、塗布24、48および72時間後に一次刺激性を紅斑および浮腫を指標として評価したところ、すべてのウサギにおいて紅斑および浮腫を認めず、陰性と判断された
- [動物試験] 3匹のモルモットの除毛した側腹部に0.5%ゼニアオイ抽出物水溶液0.5mLを1日1回週5回、2週間にわたって適用し、各週の最終日の翌日に紅斑および浮腫を指標として刺激性を評価したところ、すべてのウサギにおいて塗布後2週間にわたって紅斑および浮腫を認めず、累積刺激性に関しては問題がないものと判断された
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激がないため、0.5%濃度において皮膚一次刺激性および累積刺激性刺激性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
皮膚感作性(アレルギー性)について
10年以上の使用実績があり、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
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ゼニアオイ花エキスは保湿成分、抗炎症成分、抗老化成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
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文献一覧:
- 日光ケミカルズ(2006)「植物・海藻エキス」新化粧品原料ハンドブックⅠ,375.
- 林 真一郎(2016)「ウスベニアオイ」メディカルハーブの事典 改定新版,20-21.
- ジャパンハーブソサエティー(2018)「コモンマロウ」ハーブのすべてがわかる事典,186.
- 丸善製薬株式会社(-)「ゼニアオイ(ウスベニアオイ)」技術資料.
- 朝田 康夫(2002)「アミノ酸とは何か」美容皮膚科学事典,102-103.
- 一丸ファルコス株式会社(2002)「エラスターゼ活性阻害剤及び化粧料組成物」特開2002-205950.
- 朝田 康夫(2002)「真皮の構造は」美容皮膚科学事典,30.
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