セリシンとは…成分効果と毒性を解説




・セリシン
[医薬部外品表示名称]
・加水分解シルク末
カイコガ科カイコガ(学名:Bombyx mori 英名:Silkworm)の繭から得られる絹繊維(シルク)から加熱処理とエタノールで抽出・精製して得られる水溶性の繊維状タンパク質です。
シルクに存在するセリシンとは、以下のシルクの断面図をみるとわかりやすいと思いますが、
蚕の絹糸は、中心部のコアに相当するフィブロインとそのまわりを取り囲んでいるセリシンで構成されており、セリシンは絹糸の約25%を占め、その主要なアミノ酸組成は、
アミノ酸 | 割合 |
---|---|
セリン | 約31% |
グリシン | 約19% |
アスパラギン酸 | 約17% |
トレオニン | 約8% |
グルタミン酸 | 約4% |
アラニン | 約4% |
チロシン | 約3% |
バリン | 約3% |
このような組成比となっており(文献1:1998)、ヒト皮膚のアミノ酸構成比と似ているため付着性に優れ(文献2:1956)、また水酸基を有するアミノ酸含量がセリンとトレオニンで約40%を占めるため、保湿性にも優れていると考えられています(文献3:1993)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ化粧品、洗顔料&洗顔石鹸、洗浄製品、シート&マスク製品など様々な製品に使用されます(文献1:1998;文献4:1998)。
角質層水分量増加およびバリア保護による保湿作用
角質層水分量増加およびバリア保護による保湿作用に関しては、1998年にコスモステクニカルセンターによって報告されたセリシンの皮膚保湿検証によると、
健常な皮膚を有する6人の前腕の内側にセリシン224μLを適用し、単回適用の1,2および3時間後に過度熱移動の測定を行い、加水率の変動を算出したところ、以下のグラフのように、
セリシン適用1時間後に加水率は7%まで増加し、2時間後には6%まで、3時間後は5%であり、有意な保湿作用が認められた。
また上記試験において、経表皮水分蒸散量(TEWL)を、TEWLの%変動を、非処置域と比較して算出したところ、以下のグラフのように、
セリシン適用1時間後にTEWLは7%減少し、2時間後には-14%の最大効果に達し、3時間後は-10%の値を示し、有意な経表皮水分蒸散の抑制効果が確認された。
このような検証結果が明らかにされており(文献4:1998)、セリシンに角質層水分量増加およびバリア保護(経表皮水分蒸散抑制)による保湿作用が認められています。
過酸化脂質抑制による抗酸化作用
過酸化脂質抑制による抗酸化作用に関しては、まず前提知識として過酸化脂質について解説します。
過酸化脂質は、以下の細胞膜の構造図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
皮脂や細胞間脂質、細胞膜を構成しているリン脂質などの酸化が進んだ脂質のことで、皮膚に過酸化脂質が増えると様々な物質の変性・損傷が起こり、肌はくすみ、ハリはなくなり、色素沈着は濃くなり、老化が促進されます(文献5:2002)。
皮膚において過酸化脂質が生成される主な原因のひとつが紫外線であり、紫外線により発生した活性酸素のひとつである一重項酸素が脂質と結合することで過酸化脂質の生成が促進されます(文献6:2002)。
1998年に広島大学生物生産学部とセーレンの共同研究によって報告された技術情報によると、
セリシンの抗酸化性を検討するために、組織ホモジネートにセリシンを添加し、比較として牛血清アルブミンを用いたところ、以下のグラフのように、
セリシンは、顕著な脂質の過酸化抑制効果を示した。
このような検証結果が明らかにされており(文献1:1998)、セリシンに過酸化脂質抑制による抗酸化作用が認められています。
ただし、セリシンの抗酸化能に対する作用メカニズムは明らかになっていません。
チロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用
チロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン生合成のメカニズムとチロシナーゼについて解説します。
以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
紫外線を浴びるとまず最初に活性酸素が発生し、様々な情報伝達物質(メラノサイト活性化因子)をメラノサイトで発現するレセプター(受容体)に届けることで、メラノサイト内でメラニンの生合成がはじまり、ユーメラニン(黒化メラニン)へと合成されます。
メラノサイト内でのメラニン生合成は、まずアミノ酸の一種であるチロシンに活性酵素であるチロシナーゼが結合することでドーパ、ドーパキノンへと変化し、最終的に黒化メラニンが合成されます。
このような背景からチロシナーゼ活性を抑制・阻害することは色素沈着防止という点で重要であると考えられます。
1998年に広島大学生物生産学部とセーレンの共同研究によって報告された技術情報によると、
0.5%および1.0%セリシンのチロシナーゼ活性阻害効果を検討したところ、以下の表のように、
セリシン濃度(%) | チロシナーゼ活性(吸光度/分) 平均値 ± 標準誤差 |
---|---|
0 | 0.0849 ± 0.0003 |
0.5 | 0.0649 ± 0.0026 |
1.0 | 0.0424 ± 0.0004 |
セリシンは、0.5%および1.0%濃度において有意にチロシナーゼ活性の抑制を示した。
このような検証結果が明らかにされており(文献1:1998)、セリシンにチロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用が認められています。
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2015年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
セリシンの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
セーレンの安全性データ(文献7:1998)によると、
- [ヒト試験] 20人の被検者(40-60歳)に5%セリシン配合化粧水を1日2回3ヶ月連続使用してもらったところ、3ヶ月の使用期間において痛みやかゆみなどの皮膚刺激およびアレルギー反応などの皮膚感作を訴えた被検者はいなかった
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚刺激性および皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
ただし、抽出時に均一化していないセリシンは皮膚刺激の要因になるとの報告があります(文献8:-)。
また、皮膚感作(アレルギー)性については、まれに家蚕飼育者や絹繊維業者の中には主にセリシンが吸入性アレルゲンとなり、Ⅰ型アレルギーを起こすことが報告されていますが(文献9:1971;文献10:1972;文献11:1986)、皮膚接触による重大な感作反応はみあたらないため、一般的に皮膚接触においては皮膚感作はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
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セリシンは保湿成分、抗酸化成分、美白成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
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文献一覧:
- N.Kato, et al(1998)「Silk Protein, Sericin, Inhibits Lipid Peroxidation and Tyrosinase Activity.」Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry(62)(1),145-147.
- SPIER HW, et al(1956)「Analytical and functional physiology of the skin surface.」Hautarzt(7)(2),55-60.
- R.Voegeli(1993)「Sericin silk protein:unique structure and properties.」Cosmetics&Toiletries(108),101-108.
- R.Voegeli(1998)「セリシンの皮膚保湿・抗シワ効果」Fragrance Journal(26)(4),70-74.
- 朝田 康夫(2002)「じんま疹の症状は」美容皮膚科学事典,276-279.
- 朝田 康夫(2002)「過酸化脂質の害は」美容皮膚科学事典,163-165.
- セーレン株式会社(1998)「コラーゲン産生促進剤、及びこれを含有して成る老化防止用皮膚外用剤」特開平10-226653.
- “株式会社アデランス”(-)「絹タンパク質〝セリシン〟の育毛効果」, <https://www.aderans.co.jp/corporate/rd/case/hair_restoration08.html> 2019年1月17日アクセス.
- 小林 節雄(1971)「養蚕に関係した喘息」アレルギー(20)(8),616.
- 吉田 俊士(1972)「養蚕に関係した気管支喘息の抗原物質に関する研究(第3報)」アレルギー(21)(10),660-664.
- 松村 高幸, 他(1986)「気管支喘息患者におけるキヌアレルゲンのRASTによる検討」アレルギー(35)(8),828.
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