スイゼンジノリ多糖体とは…成分効果と毒性を解説

保湿 増粘
スイゼンジノリ多糖体
[化粧品成分表示名称]
・スイゼンジノリ多糖体

[慣用名]
・サクラン

クロオコッカス科藍藻(∗1)の一種であるスイゼンジノリ(学名:Aphanothece Sacrum)(∗2)から単離した、化学構造的にアミド基、カルボキシル基および硫酸基を有した(∗3)グリコサミノグリカン様構造をもつ平均分子量1,000万以上の硫酸化多糖体(微生物系高分子)です(文献1:2009;文献2:2015;文献3:2018)

∗1 藍藻(ラン藻)は、地球上で初めて光合成を行い大気中に莫大な量の酸素をもたらした、酸素発生を伴う光合成(酸素発生型光合成)を行う細菌の一群またはそれに属する生物であり、藍色細菌(シアノバクテリア:cyanobacteria)とも呼ばれます。細菌の中には他にも光合成を行うグループが存在しますが、酸素発生型光合成を行う細菌は藍藻のみです。

∗2 水前寺海苔(スイゼンジノリ)は、九州の一部地域のみに存在する日本固有種の寒天性藍藻です。天然種は絶滅したとされており、現在は熊本県と福岡県で養殖されています(文献1:2009)。

∗3 化学構造的にカルボキシル基の量は各糖残基当たり27mol%、硫酸基の含有率は各糖残基当たり12mol%であり、スイゼンジノリ多糖体中の負電荷の量は39mol%、つまり2-3個の糖残基中に1個の負電荷が存在するため、スイゼンジノリ多糖体は極めて多くの負電荷が密集しているアニオン性の高い酸性糖です(文献8:2019)。

このスイゼンジノリから単離した多糖体は2006年に発見された新規物質であり(文献3:2018)、sacrum由来の多糖類という意味で「サクラン(sacran)」と名付けられています。

スイゼンジノリ多糖体の成分組成は、

種類 成分名称
単糖類 中性糖 グルコースマンノース、ガラクトース、キシロース、フコース、ラムノース
アミノ糖 ガラクトサミン、N-アセチルムラミン酸
ウロン酸 2種類(未同定糖)
不明 硫酸化ムラミン酸

このような成分で構成されていることが報告されており(文献1:2009;文献2:2015;文献4:2018)、6種類の中性糖を主構成糖とし、新規糖として硫酸化ムラミン酸が含まれることが判明しています。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア化粧品、メイクアップ化粧品、ボディ&ハンドケア製品、シート&マスク製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、クレンジング製品、洗顔料など様々な製品に使用されています。

皮表柔軟化および経表皮水分蒸散抑制による保湿作用

皮表柔軟化および経表皮水分蒸散抑制による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割について解説します。

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、

角質層の構造

角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、この構造が保持されることによってバリア機能を発揮すると考えられています。

このバリア機能は、皮膚内の過剰な水分蒸散の抑制および一定の水分を保持し、物理的あるいは化学的外的刺激から皮膚を防御するといった重要な役割を担っています(文献5:2002;文献6:1990)

一般的にバリア機能は肌荒れや皮膚炎、または年齢を重ねることでも低下傾向にあり、その結果として角層水分蒸散量が増え、角層水分蒸散量が増えることで最終的に角質細胞が規則的に並ばなくなり、そこに生じた隙間からさらに水分が蒸散し、バリア機能・保湿機能が低下することが知られています(文献5:2002)

このような背景から、角質と細胞間脂質が適切に保持されることは皮膚の恒常性において重要であると考えられます。

スイゼンジノリ多糖体は同じ高分子多糖類であり保湿剤として広く知られているヒアルロン酸Naと比較して、

多糖類 分子量 純水に対する保水力
(mL/g)
生理食塩水に対する保水力
(mL/g)
スイゼンジノリ多糖体 1000万-2290万 6100 2400
ヒアルロン酸 数10万-800万 1200 240

このように報告されており(文献2:2015;文献7:2014)、保水力は自重の約6,100倍(ヒアルロン酸の約5倍)という値を示し、非常に優れた保水力が認められています。

また、皮膚表面においては様々な塩やイオンの存在を考える必要がありますが、スイゼンジノリ多糖体は生理食塩水に対する保水力として自重の2,400倍(ヒアルロン酸の10倍)という値を示し、塩やイオンに対しても優れた保水力が認められています。

次に、2018年に北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科環境・エネルギー領域によって報告されたスイゼンジノリ多糖体の経表皮水分蒸散量(transepidermal water loss;TEWL)への影響検証によると、

乾燥肌を自覚する10人の女性被検者(35-60歳)の皮膚に0.2%スイゼンジノリ多糖体溶液を塗布し、0.2%ヒアルロン酸溶液を塗布した場合と経表皮水分蒸散量(transepidermal water loss;TEWL)を比較した。

その結果、0.2%スイゼンジノリ多糖体溶液は約20%の水分蒸散抑制が認められた。

このような検証結果が明らかにされており(文献4:2018)、スイゼンジノリ多糖体に経表皮水分蒸散量の抑制効果が認められています。

これらの物理学的特性およびヒト皮膚への検証結果から、スイゼンジノリ多糖体の保湿効果のメカニズムは、角質層の表面において含水ゲル状保護膜を形成することによって、角質層表面を柔軟化するとともに皮膚内部からの水分蒸散を抑制すると考えられます。

増粘

増粘に関しては、スイゼンジノリ多糖体は高粘性であり、チキソトロピー性(∗4)を示すことから(文献4:2018)、保水性を兼ね備えた親水性の増粘目的で様々な製品に使用されています。

∗4 チキソトロピー性とは、混ぜたり振ったり、力を加えることで粘度が下がり、また時間の経過とともに元の粘度に戻る現象をいいます。よく例に出されるのはペンキで、ペンキは塗る前によくかき混ぜることで粘度が下がり、はけなどで塗りやすくなります。そしてペンキは塗られた直後に粘度が上がり(元に戻り)、垂れずに乾燥します。

スポンサーリンク

スイゼンジノリ多糖体の安全性(刺激性・アレルギー)について

スイゼンジノリ多糖体の現時点での安全性は、

  • 2012年からの使用実績
  • 皮膚刺激性:0.25%濃度以下においてほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

熊本大学大学院薬学研究科の安全性試験データ(文献9:2016)によると、

  • [in vitro試験] ヒト角化細胞(HaCaT細胞)を用いて0.001%,0.01%,0.1%および0.25%の各濃度のスイゼンジノリ多糖体溶液の細胞毒性を評価したところ、0.25%濃度までは無視できる程度であった

と記載されています。

試験データをみるかぎり、0.25%濃度以下において皮膚刺激(細胞毒性)なしと報告されているため、0.25%濃度以下において皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

皮膚感作性(アレルギー性)について

高研の安全性データ(文献10:-)によると、

  • [ヒト試験] 被検者にスイゼンジノリ多糖体を対象にパッチテストを実施したところ、この試験物質は陰性であった

と記載されています。

試験データをみるかぎり、皮膚感作なしと報告されているため、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

∗∗∗

スイゼンジノリ多糖体は保湿成分、安定化成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:保湿成分 安定化成分

∗∗∗

文献一覧:

  1. 岡島 麻衣子(2009)「日本固有種ラン藻由来「超巨大分子」の構造物性」化学と生物(47)(5),309-311.
  2. 岡島 麻衣子, 他(2015)「スイゼンジノリ由来新規多糖類”サクラン”の材料化と今後の応用」化学と生物(53)(8),553-558.
  3. 有馬 英俊, 他(2018)「スイゼンジノリ由来多糖体サクランの魅力」YAKUGAKU ZASSHI(138)(4),487-488.
  4. 金子 達雄, 他(2018)「究極のエコマイクロリアクタが生産する超液晶性多糖類」YAKUGAKU ZASSHI(138)(4),489-496.
  5. 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
  6. 田村 健夫, 他(1990)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
  7. 岡島 麻衣子(2014)「化粧品原料としてのサクランの機能性」第一回サクラン勉強会.
  8. 岡島 麻衣子, 他(2019)「らん藻由来巨大多糖の導く工業・医療材料の展望」YAKUGAKU ZASSHI(139)(3),363-369.
  9. K Motoyama, et al(2016)「Anti-inflammatory Effects of Novel Polysaccharide Sacran Extracted from Cyanobacterium Aphanothece sacrum in Various Inflammatory Animal Models」Biological and Pharmaceutical Bulletin(39)(7),1172-1178.
  10. 株式会社高研(-)「サクラン」技術資料.

スポンサーリンク

TOPへ