サンザシエキスとは…成分効果と毒性を解説



・サンザシエキス
[医薬部外品表示名]
・サンザシエキス
バラ科植物サンザシ(学名:Crataegus cuneata 英名:Chinese hawthorn)の果実から水、エタノール、BG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物(植物エキス)です。
サンザシ(山査子)は中国を原産とし、日本には江戸時代に薬用樹木として伝わり、現在は庭木や盆栽として植栽されています(文献1:2011)。
サンザシエキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
分類 | 成分名称 | |
---|---|---|
フラボノイド | フラボノール | ケルセチン |
テルペノイド | トリテルペン | ウルソール酸、オレアノール酸、クラテゴール酸 |
フェニルプロパノイド | クロロゲン酸 | |
青酸配糖体 | アミグダリン | |
ビタミン | アスコルビン酸 |
これらの成分で構成されていることが報告されています(文献1:2011;文献2:2011)。
サンザシの果実(生薬名:山査子)の化粧品以外の主な用途としては、漢方分野において食積(∗1)を消し瘀血(∗2)を除く効能があることから消化不良、下痢、血便などに用いられます(文献1:2011;文献3:2016)。
∗1 食積とは、消化不十分によって起こる諸症状を指します。
∗2 瘀血(おけつ)とは、血行障害もしくは婦人科系の代謝不全により体内に非生理的血液が残り、それによって起きる様々な症状(月経不順、冷え、のぼせ、こり、痛みなど)や疾病を指します。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的でスキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、シート&マスク製品、洗顔料、クレンジング製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、シャンプー製品などに使用されています。
皮表柔軟化による保湿作用
皮表柔軟化による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割について解説します。
直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように
天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、この構造が保持されることによって、外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています(文献4:2002;文献5:1990)。
一方で、老人性乾皮症やアトピー性皮膚炎においては、角質細胞中のアミノ酸などの天然保湿因子が顕著に低下していることが報告されています(文献6:1989;文献7:1991)。
このような背景から、皮表を柔軟化することは肌の乾燥の改善ひいては皮膚の健常性の維持につながると考えられています。
2000年にラシェル製薬によって報告されたサンザシエキスのヒト肌荒れ皮膚に対する影響検証によると、
1ヶ月後に肌荒れ改善度合いおよびしっとり感について「4:肌荒れの改善、しっとりしている」「3:やや肌荒れの改善、ややしっとりしている」「2:使用前と変化なし」「1:悪化している」の4段階で採点してもらい、それぞれの平均値を算出したところ、以下の表のように、
試料 | 肌荒れ改善効果 | しっとり感 |
---|---|---|
サンザシエキス配合クリーム | 3.5 | 3.4 |
アルブチン配合クリーム | 2.1 | 2.1 |
2%サンザシエキス配合クリーム塗布グループは、皮膚への潤い効果および肌荒れ改善効果を示した。
このような試験結果が明らかにされており(文献8:2000)、サンザシエキスに保湿作用が認められています。
メラニン生成抑制による色素沈着抑制作用
メラニン生成抑制による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン色素生合成のメカニズムおよびチロシナーゼについて解説します。
以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
皮膚が紫外線に曝露されると、細胞や組織内では様々な活性酸素が発生するとともに、様々なメラノサイト活性化因子(情報伝達物質)がケラチノサイトから分泌され、これらが直接またはメラノサイト側で発現するメラノサイト活性化因子受容体を介して、メラノサイトの増殖やメラノサイトでのメラニン生合成を促進させることが知られています(文献9:2002;文献10:2016;文献11:2019)。
また、メラノサイト内でのメラニン生合成は、メラニンを貯蔵する細胞小器官であるメラノソームで行われ、生合成経路としてはアミノ酸の一種かつ出発物質であるチロシンに酸化酵素であるチロシナーゼが働きかけることでドーパに変換され、さらにドーパにも働きかけることでドーパキノンへと変換されます(文献9:2002;文献11:2019)。
ドーパキノンは、システイン存在下の経路では黄色-赤色のフェオメラニン(pheomelanin)へ、それ以外はチロシナーゼ関連タンパク質2(tyrosinaserelated protein-2:TRP-2)やチロシナーゼ関連タンパク質1(tyrosinaserelated protein-1:TRP-1)の働きかけにより茶褐色-黒色のユウメラニン(eumelanin)へと変換(酸化・重合)されることが明らかにされています(文献9:2002;文献11:2019)。
そして、毎日生成されるメラニン色素は、メラノソーム内で増えていき、一定量に達すると樹枝状に伸びているデンドライト(メラノサイトの突起)を通して、周辺の表皮細胞に送り込まれ、ターンオーバーとともに皮膚表面に押し上げられ、最終的には角片とともに垢となって落屑(排泄)されるというサイクルを繰り返します(文献9:2002)。
正常な皮膚においてはメラニンの排泄と生成のバランスが保持される一方で、紫外線の曝露、加齢、ホルモンバランスの乱れ、皮膚の炎症などによりメラニン色素の生成と排泄の代謝サイクルが崩れると、その結果としてメラニン色素が過剰に表皮内に蓄積されてしまい、色素沈着が起こることが知られています(文献9:2002)。
このような背景から、紫外線照射などによって過剰に生成されるメラニンを抑制することは、色素沈着の抑制において重要なアプローチであると考えられています。
2006年に一丸ファルコスによって報告されたサンザシエキスのメラニンおよびヒト皮膚色素沈着に対する影響検証によると、
∗3 ブランクとは、評価する対象物を抜いた状態を指し、ここではサンザシエキスを除いた30%エタノール溶液のみのものを指します。
サンザシエキスは、メラニン生成抑制作用を有することが確認された。
次に、シミ、ソバカス、色黒で悩む20名のうち10名に5%サンザシエキス配合乳液を、別の10名に対照としてサンザシエキス未配合乳液を1日2回(朝晩)3ヶ月にわたって塗布してもらった。
評価方法として肌の色素沈着改善効果を「有効:肌の色素沈着が改善された」「やや有効:肌の色素沈着がやや改善された」「無効:使用前と変化なし」の基準で評価したところ、以下の表にように、
試料 | 被検者数 | 肌の色素沈着改善効果(人数) | ||
---|---|---|---|---|
有効 | やや有効 | 無効 | ||
サンザシエキス配合乳液 | 10 | 6 | 4 | 0 |
乳液のみ(対照) | 10 | 0 | 2 | 8 |
5%サンザシエキス配合乳液塗布グループは、未配合乳液塗布グループと比較して有意にシミ・ソバカスや色素沈着した肌を改善することが確認された。
このような試験結果が明らかにされており(文献12:2006)、サンザシエキスにメラニン生成抑制による色素沈着抑制作用が認められています。
複合植物エキスとしてのサンザシエキス
サンザシエキスは、他の植物エキスとあらかじめ混合された複合原料があり、サンザシエキスと以下の成分が併用されている場合は、複合植物エキス原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | フルーツリンクルプロテクトエッセンス |
---|---|
構成成分 | サンザシエキス、ナツメ果実エキス、グレープフルーツ果実エキス、リンゴ果実エキス、オレンジ果汁、レモン果汁、ライム果汁 |
特徴 | よどみのないフレッシュな肌への生まれ変わりをコンセプトとし、表皮角化細胞の増殖促進による表皮ターンオーバーの向上、CE強化因子産生促進によるバリア機能の向上、メラノサイト活性化因子の発現抑制による色素沈着抑制、h-BD3発現促進によるニキビの防止といった異なる作用で新鮮な肌(健常な皮膚)への生まれ変わりに総合的にアプローチする7種類の植物抽出液 |
サンザシエキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚一次刺激性:ほとんどなし
- 皮膚累積刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
- [動物試験] 3匹のモルモットの剪毛した背部に固形分濃度1%サンザシエキス水溶液0.03mLを塗布し、塗布24,48および72時間後に紅斑および浮腫を指標として一次刺激性を評価したところ、いずれのモルモットも紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚一次刺激性に関して問題がないものと判断された
- [動物試験] 3匹のモルモットの剪毛した側腹部に固形分濃度2%サンザシエキス水溶液0.03mLを1日1回週5回、2週にわたって塗布し、各塗布日および最終塗布日の翌日に紅斑および浮腫を指標として皮膚刺激性を評価したところ、いずれのモルモットも2週間にわたって紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚累積刺激性に関して問題がないものと判断された
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
皮膚感作性(アレルギー性)について
日本薬局方および医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
∗∗∗
サンザシエキスは保湿成分、美白成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
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参考文献:
- 鈴木 洋(2011)「山査子(さんざし・さんさし)」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,178-179.
- 竹田 忠紘, 他(2011)「サンザシ」天然医薬資源学 第5版,161.
- 根本 幸夫(2016)「山査子(サンザシ)」漢方294処方生薬解説 その基礎から運用まで,71-72.
- 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
- 田村 健夫, 他(1990)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
- I Horii, et al(1989)「Stratum corneum hydration and amino acid content in xerotic skin」British Journal of Dermatology(121)(5),587-592.
- M. Watanabe, et al(1991)「Functional analyses of the superficial stratum corneum in atopic xerosis」Archives of Dermatology(127)(11),1689-1692.
- ラシェル製薬株式会社(2000)「化粧料組成物」特開2000-256175.
- 朝田 康夫(2002)「メラニンができるメカニズム」美容皮膚科学事典,170-175.
- 日光ケミカルズ株式会社(2016)「美白剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,534-550.
- 田中 浩(2019)「美白製品とその作用」日本香粧品学会誌(43)(1),39-43.
- 一丸ファルコス株式会社(2006)「メラニン生成抑制剤」特開2006-117613.